み「これは、石を落とす係だな」
ハ「また立候補かいな」
み「まあな。
でも、条件がある」
ハ「なんや?」
み「石をここまで運びあげる係とバーターなら……。
断る」
ハ「つくずく、わがままなやっちゃ」
み「顔ハメがあった。
でも……。
すっごく安易な感じ」
ハ「やってみたらどうや。
記念やろ」
み「パカタレ。
誰がシャッター押すんだよ」
ハ「セルフタイマーにしたらええがな」
み「そこまでするほどのものか!」
み「こんなの被る人、いるの?
極めて不潔じゃん」
ハ「消毒液、置いたるがな」
み「被った後、頭にかける気か?」
ハ「そんでも、子供はやるやろな」
み「なんか、高校時代の体育の授業、思い出した。
女子はなかったから良かったけど……。
男子は、剣道があったんだよ。
教室で、防具の面がいかに臭いか嘆いてた。
その剣道の授業、チラ見したことがあったけど……。
情けなかったね」
ハ「なにがや?」
み「格好だよ。
面と胴、小手は着けてるんだけど……。
悲しいかな、袴は無し。
ジャージズボンのままなの。
思いっきり足軽ですよ」
ハ「わはは」
み「なんで上れないんだ?
しっかりしてそうな階段じゃないの」
ハ「確かにな。
そんでも、手すりがなかったら危ないがな」
み「手すりが必要な人が上るわけないじゃん」
ハ「わからんで。
観光で来とると、普段とテンションちゃうからな」
み「確かに、酔っ払ったジサマとか、上りそうだね」
ハ「上から転げたら、ただじゃ済まんて」
み「まさしく、階段落ちだ」
み「でもさ、この立て札だけど……。
階段に、昇降の“昇る”なんて使う?
エレベーターじゃないんだから。
普通、上下(うえした)の“上る”でしょ」
ハ「ほんま、イチャモンの多い客やで」
み「ご指摘と言いなさい」
み「これは、持ってみるかな。
兜よりは、バッチくないだろ。
アルコール消毒もできるし」
ハ「どないや?」
み「長さは、同じくらいなんだね。
どーれ。
あ、どっちも重いわ。
でも、なんで重さが書いてないわけ。
わたしだったら、脇に計りを置いとくけど」
ハ「子供がいたずらして壊すで」
み「あ、そうか。
自分が乗ったりしてね。
但し書きを付けておけばいいじゃん。
『計りを壊した者は、打首にして天守から吊るします』とか」
ハ「炎上やがな」
み「城だけに」
ハ「落としよったな」
み「さーて。
さっきの梁に戻った。
でも、下りるときはぶつけないね。
ずっと、梁が見えてるから」
ハ「ウケ狙いでやるやつがおるかも知れんで」
み「釘、打っておけば」
ハ「なんの施設やねん」
み「ちょっと待って。
この階段って、非常口なんじゃないの?
塞いでていいのか」
ハ「非常口やったら、下に向かうやろ」
み「これも罠の一環か」
ハ「どういう施設や」
み「いずれにしろ、手作業だから大変だよな。
石を加工してるとこ想像したら……。
佐渡金山の人形を思い出した。
“早く外に出て酒を飲みてぇ。馴染みの女にも会いてぇなぁ。”って言ってるんだよ」
↑1:50くらいからセリフがあります。
ハ「連想が不謹慎すぎやわ」
み「しかし、あの人形……。
世界遺産になっても、置いとくつもりかね」
ハ「知らんがな」
み「新撰組の旗って、赤なの?
浅葱色じゃなかった?」
ハ「今、調べたるわ」
み「“気が利いてよな”。
今の、わかる?」
ハ「何がや?」
み「ペヤングソース焼きそばの昔のCM」
ハ「知らんがな。
いらんこと言わいでええわ。
えーっとな。
赤で正解やな。
“赤心(せきしん)”ちゅう言葉があってな。
“まごころ”“まこと”の意味や。
“誠”の文字には、赤が相応しいっちゅうこっちゃ」
み「ふーん。
でも、この赤い旗に浅葱色の隊服。
格好良かったろうね。
特に、土方歳三」
ハ「かなりの洒落もんやったらしいで」
み「あの隊服の袖のギザギザ模様って……。
土方の考案らしいよ。
確か、歌舞伎の衣装のデザインから採ったんじゃなかったかな」
ハ「ほー、どれどれ。
なるほど。
『仮名手本忠臣蔵』の衣装やな。
歌舞伎は黒やったが……。
それを浅黄色にしたわけや」
み「爽やかな色だよね。
センスいいわ」
ハ「爽やかやから選んだわけやないみたいやで」
み「どういうこと?」
ハ「武士が切腹するときに……。
浅葱色の裃を着けたんや。
忠臣蔵の四十七士も……。
それを着けて切腹した。
つまり、常に死ぬ覚悟を持ってるちゅう意味の……。
浅葱色や」
み「あー、やだやだ。
幕末に生まれなくて、ほんとに良かったよ」
み「鉄砲伝来は、以後四散(いごしさ)するだから……。
1543年でしょ。
江戸時代前にあったわけだ。
でも、どうして江戸時代の武士は……。
鉄砲じゃなくて、剣術の稽古ばっかりしてたのかね?」
ハ「調べればわかるんやろうけどな。
いちいち、こないに時間食ってて大丈夫なんか?」
み「そうだった!
番組を進めねば」
み「弓か。
弓道部、格好よかったよね。
それに、相手のいない武術だから……。
怖い思いをしなくて済むし」
ハ「入れば良かったやないか?」
み「弓って、組み立て式じゃないんでしょ?
あの弓を持って、満員電車に乗れって言うわけ?」
ハ「弓は、部の備え付けやないんか?」
み「そうなの?
マイ弓じゃないんだ。
そんなら、運ばなくていいよね。
でも、弓道部は無理でした」
ハ「何でや?」
み「うちの高校に、弓道部がなかったから」
ハ「なんやそれ!」
み「これは、槍か?」
ハ「なかったんか、槍部?」
み「あるかい、そんな部!」
み「これは、一番いい役なんじゃない?
危険も少ないし。
当たれば面白いし。
ぜったい、この係に立候補したい」
ハ「立候補制のわけあるかい」
み「あの梁!
ははは。
階段の上のところが黒ずんでる!」
ハ「そうとうな人数、頭ぶつけとるな」
み「『頭上注意』の貼り紙見て……。
頭上げたときぶつけるんじゃない」
ハ「罠やがな」
み「やっぱ……。
人間、肉食べないとダメだよ。
しかし、千利休って、180㎝だったんでしょ。
今の時代だったら、194㎝くらいに相当するんじゃない?
侘び寂びとはほど遠い体型。
たぶん、自分の巨躯にコンプレックスがあったはず。
だから、茶室の躙り口なんて考案したんだよ。
しゃがんだまま入って、ずーっと座ってれば……。
立たなくていいから」
ハ「座っとっても……。
デカいんは隠せへんと思うがな」
み「ひょっとしたら、異常に脚が長かったのかも。
座高なら、ほかの人と変わらなかったんじゃない?」
ハ「そないな長い脚、畳んだら……。
キャタピラーやがな」