Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ: ハーレクイン・エロマンス
お星さまになったハーレクインさんへ



 あなたからの衝撃のメールが届いたのは、2018年2月9日午後3:09分のことでした。
 『骨髄腫』。
 想像してもいなかった病名でした。
 そのときのメールでは、入院は数日先とのことでした。
 しかし、その日の夜、再度メールが届き……。
 入院が翌日の午前になったことを告げられました。
 メールの末尾にあった「まことに残念無念です」という言葉が胸に刺さり、わたしの方が動転してしまいました。
 「明日、白山神社に参って、お札とお守りを受けてくるから大丈夫」と返信するのがやっとでした。

 翌日の2月10日は、雪深かったですが、不思議と良いお天気でした。
 ↓そのときの写真です。
白山神社

 最初のメールでは、モバイル環境を持たず、PCもデスクトップなので、入院後はスマホを契約するというお話をされてました。
 ↓なので、受けてきたお守りは、『Mikiko's Room』のスマホ用トップ画面に掲示しました。
お守り

 スマホから『Mikiko's Room』にコメントが入れられることを確認し、あなたからのコメントを待ちました。
 しかし、コメントは入りませんでした。
 最後のメールで、わたしのメールアドレスも改めて記載し、紙ベースでメモして欲しい由、お願いしました。
 しかし、メールも届きません。

 最初のメールでは、入院治療は1ヶ月かかるとのことでした。
 入院直前、2月10日の朝8:37分には、気丈にもコメントを入れてくださいました。
 ↓そのときのコメント全文です。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++
休場届
 しばらく入院することになりました。
 春場所が始まる頃には戻って来られると思います。
 ということで『アイリスの匣』も、次週より休載させていただきます。
 すんまへん。よろしゅうに。
    〔♪しばし別れの涙がにじむ~HQ〕
++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 春場所は3月11日に始まりましたが、退院の連絡は届きませんでした。
 メールもありません。
 春場所が終わり、サクラが咲いて、散って……。
 夏日のニュースが流れ、そして、田んぼに水が張られる季節になりました。
 もうすぐ、夏場所が始まります。
 最後のメールから、3ヶ月が経ってしまいました。
 やはり、もう諦めるしかないのでしょうか。
 『骨髄腫』という病気。
 最初は怖くて、調べることも出来ませんでした。
 でも、何らかの救いを求めて、調べてみました。
 結果……。
 やはり、厳しい病気であるという現実を突きつけられてしまいました。
 あなたの病名は、『多発性骨髄腫』だったのでしょう。
 様々な症状が出る病気のようです。
 思えば、あなたが最初の入院をされたのが、2013年の4月。
 5年前です。
 今から思えば、このとき入院することになった症状の原因も、『多発性骨髄腫』だったんじゃないでしょうか?
 でもわたしは、まったく深刻には捉えられませんでした。
 わたしの求めに応じ、『潜入突撃レポート「大病院の闇を探る!」』の連載もしてくださいました。
 どうしてこのとき、もっと真剣に考え、全身の精密検査を勧めてあげられなかったのか、無念でなりません。

 唯一の望みは、あなたへのメールが、まだ宛先不明にならないということです。
 返事はありませんが。
 メールが届くと云うことは、インターネットの契約が維持されているというです。
 でも、インターネットは、ケーブルテレビの契約とセットだと伺ってました。
 ということは、ケーブルテレビが解約されない限り、ネットも解約されないということです。
 ご家族が、そのままテレビの契約を続けられていれば、ネット環境も維持されているわけですね。

 とにかく、わたしとしては待つしかないのですが……。
 『アイリス』の愛読者に何も公表せず、ずっとこのままにしておくことは出来ません。
 どこかで、区切りを付ける必要があると思いました。
 ということで、この一文をしたためることにしました。
 これを書こうと決意した日の夜……。
 鴨居に載せてあったイタコのフィギュアが、わたしの布団に落ちてました。
 あなたからの、何かのメッセージだったのでしょうか。

 あなたが、初めてコメントを入れて下さったのは……。
 2010年9月11日19時32分。
 『由美と美弥子 537回』。
 7年半前のことでした。
 その後、あなたとほかの読者との間で齟齬が生じ、それについての謝罪メールをいただいたことから、メールのやりとりも始まりました。
 そして、初投稿となる原稿をいただき……。
 『読者の部屋』に掲載させていただいたのが、『日本酒を飲もう!(Ⅰ)
 2010年11月14日でした。
 こちらは、エッセイでしたが……。
 その1年後、2011年11月8日からは、小説『風楡の季節』の連載が始まります。
 読者の方が小説を書き始め、それを連載して下さるというのは、ほんとうに嬉しい出来事でした。
 楽しい日々が続きました。
 2018年の2月8日までは。
 あっという間の7年半でした。

 あなたは、矢沢永吉と同い年ということでしたから……。
 お別れのときが、いつか必ず来ることは、頭の隅ではわかってはいました。
 でも、こんなに早く、突然なことだとは思ってもいませんでした。
 わたしの覚悟も出来ないうちに、遠いところへ旅立ってしまわれました。

 『Mikiko's Room』に、大切な時間をたくさん使わせてしまいましたね。
 もっとほかにやりたいことがあったんじゃないかと思うと、胸が裂かれる気がします。
 わたしもいつか、そちらに参ります。
 そのときまでには、わたしの手で『アイリス』を完結させたいと思っています。
 先の展開は、まったく聞いておりませんので、ずいぶん見当違いのストーリーになってしまうかも知れませんが。
 わたしがそちらに行ったら、ぜひ感想を聞かせてほしいです。
 わたしはビビリで方向音痴なので、そのときは必ず迎えに出てくださいね。
 お願いします。

 仏像を、1体購入しました。
 チベットの仏像です。
 お顔を存じませんが、イメージの中のお顔に似てました。
 ヒゲがお茶目な地蔵菩薩さまです。
 早くに父を亡くしたわたしにとって、あなたは父のイメージに重なる存在でした。
 仏像は、わたしの枕元に鎮座いただいています。
 どうか、見守って下さい。

 ゴールデンウィークには、花壇に大輪のヒマワリの種を撒きました。
 真夏、あなたの大きな笑顔に出会えますように。

 この文章を書くのは、ほんとに辛いことでした。
 最期に、この一文をしたためることにした、一番の理由で締めくくりたいと思います。
 それは、あなたへのお礼が、一度も言えていなかったことです。
 これだけが、今でもほんとうに残念でなりません。
 だから……。
 遅きに失してしまいましたが、改めて言わせていただきます。

 ハーレクインさん!
 一緒に笑ってくれて、ありがとう!
 一緒に走ってくれて、ありがとう!
 ときには怒ってくれて、ありがとう!
 いっぱい遊んでくれて、ありがとう!

 あなたと出会えたことは、わたしの人生の最大の喜びでした。
 わたしがそちらに行くまで、しばしのお別れです。
 待っていてください。
 また、たくさん楽しい話をしましょう。

 ありがとう!
 ほんとうにありがとう!

 涙が止まらないよ……。

  Mikiko
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #231】目次【八十八十郎劇場】初孫(上)
戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#231



 納得できぬこと、理不尽な振る舞い。そのようなことどもには一歩も引かぬ。そのような風情の志摩子だった。
 その志摩子と、東中 昂(ひがしなかこう)は、立ったまま正面から睨み合った。
 相馬禮次郎は一歩下がり、様子見の体勢である。

 五秒か、六秒か……。
 寸刻の間の後、東中は破顔した。軽く仰のき、実際に笑い声をあげる。笑いながら志摩子に声を掛けた。

「なんと、元気のええこっちゃのう」

 志摩子は無言。
 東中 昂(こう)は笑いながら、志摩子を宥めるような口調で言葉を続けた。

「まあ、いきなり手ぇ出したんは確かに大人げなかった。許せ」

 まさかこの男が詫びを入れるとは……志摩子は意外な成り行きに軽く目を見開いた。

「どないや。このままではせっかくの場ぁが興ざめや。おまんもこないな形で座敷しまいにしとない(終わりにしたくない)やろ」
「へえ……」

 ようやく東中から視線を外し、少し俯き加減になった志摩子は軽く呟いた。
 東中 昂(こう)が畳み掛ける。

「でや、仲直りの手打ちといこやないか」

 相馬禮次郎がようやく割って入った。

「ああ、ほれがええ、ほれがよろし、ほな……」

 相馬は、先ほど跨ぎ越した膳を今度は回り込み、元の席に座した。東中に声を掛ける。

「さあ、昂(こう)はん、あんたも座んなはれ、小まめ、おまん(お前)もや」

 座を仕切る相馬禮次郎の示すまま、東中 昂(こう)は相馬の左側、やはり先程自らが座していた席に戻った。
 志摩子は少しためらった後、相馬と東中に向かい合う形で、膳を挟んで座した。志摩子の背には、金屏風。その脇には道代と野田太郎が座していた。
 志摩子は、相馬と東中よりも、背後の二人を強く意識した。

(野田はん……あない酷い目に会わはって、大丈夫やろか)
(道……あんた、なんや変やで、どないしたんや、大丈夫かぁ)

「ほれ」

 顔を上げた志摩子は、東中 昂が鷲掴みにし、此方に突き出した徳利を見た。

「さあ、小まめ」

 東中に習うように、相馬禮次郎が杯を突き出してきた。

「へえ」

 両手で受け取った志摩子の杯に、東中 昂(こう)が無造作に酌をした。

「おおきに、頂戴しますぅ」

 杯を両手で支え、軽く頭を下げた志摩子は、一息で飲み乾した。乾した杯を、志摩子は相馬ではなく東中に差し出した。

「どうぞ、東中の旦さん」
「む」

 志摩子は、相馬が膳に置いた徳利を取り上げ酌をする。
 こちらも一息で飲み乾した東中は、空の杯を相馬に突き出した。

「ほれ、れいじろ(禮次郎)はん」
「ほい」

 志摩子は手にしたままの徳利を、今度は相馬禮次郎に差し出し、酌をする。
 相馬が空けた杯は、志摩子に戻って来た。

「ほれ、小まめ」

 志摩子の手から取り上げた徳利で、相馬は志摩子の杯を酒で満たした。

「おおきにー」

 志摩子、東中、相馬。三人の間を杯が一巡した。





 道代は霧の中にいた。
 時折、何か、姿形(すがたかたち)すら判然とせぬものが行き過ぎる。

(どなたやろか……)

 とりあえず人であろう、と考える道代であった。

(何して、おいやすんか〔おいでになるのか〕)

 その人影が、立っているのか座っているのか、それすら判然とは見て取れぬ道代であった。
 いや……。
 それどころか、自分自身が今座っているのか立っているのか……まさか寝ているはずは、とまで思う道代であった。

(だいたいが〔そもそも〕……)
(どこなんやろ、ここ)
(何してんねやろ、うち)
(なんや……)

 とりとめもなく思いを巡らせるうち、自分はいったい何者なのだろう、そんなことまで判然としなくなる道代であった。しかし、それでいてさほど不安も無い、まるで水か空気にでもなったような思いの道代であった。

(けど、なんや……)

 何か一つ大事なことを忘れているような、もどかしいというほどでもないが、どこか落ち着かない気分もする道代であった。

(なんやろ)
(一体……何が気に掛かるんやろ)

「……♪かぁす(霞)むよぉごぉと(夜毎)の~」

 霧の彼方から聞こえて来たものを、道代の耳が捉えた。

(あれ?)
(唄、や)
(何やろ)

「♪かがぁりぃびぃ(篝火)にぃ~」

(これ……)
(何べんも)
(何べんも聞いたと思うけど……)

「♪ゆぅめぇ(夢)も~ いざぁよう~」

(あ、あれあれ)

 水か空気のようだった道代の意識に、生々しい感情が生じた。忘れることなど考えられぬものを、どうしても思い出せない。道代の意識は踠(もが)いた。もどかしさに泣きそうになった。泣く、という生の感情が意識の底から這い出て来た。もう少しだ。

「♪べにぃざぁくぅらぁ~あぁ(紅桜)~」

(何してんのん、はよ早(は)よ)

「♪しぃのぉ(偲)ぶぅ~おもぉ(思)いぃを~ ふりぃそぉでぇ(振袖)にぃ~」

(も、ちょいや!)

「♪ぎお~ぉおん こい(恋)し~ぃやぁ」

(せや、祇園!)

「♪だあらありぃのぉ おぉびぃ(帯)よぉ~」

(姐さん!)

 霧が晴れた。
 道代の視界がようやく鮮明になった。
 小まめの志摩子の後ろ姿、立ち姿が道代の眼前にあった。

(小まめ姐さん!)
(うちは……)
(せや、うちは)
(姐さんをお守り……)

 京の五花街。
 芸妓・舞妓の舞踊は、花街によりそれぞれ流派が異なる。小まめの属する祇園の流派は井上流、家元は4代井上万寿子である。
 井上流の舞踊は、歌舞伎の動きを取り入れた独特のもので、その最大の特徴は常に軽く、時に深く腰を落とし、直立することはほとんど無いという点にある。これを井上流では「おいど(尻、腰)を落とす」と表現し、体全体に極度の緊張を強いるものである。
 そもそも、井上流では舞踊を踊り、とは云わず、舞いと称している。

 唄の合間に瞬時静止した志摩子の姿勢を、道代は背後からではあるがしっかりと見て取った。
 志摩子はかなり深く腰を落とした中腰で静止していたが、その上体は直ぐと立ち、小首を傾げたその顔は俯くことなく、正面の相馬禮次郎と東中 昂(こう)を見据えていた。
 いや、志摩子の背後にいる道代に、志摩子の視線の先が見えるはずはない。しかし、長年志摩子の舞いを見てきた道代の脳裡には、視線の先どころか志摩子の表情まで、鮮やかに浮かんでいた。

(せや)
(ああ、せやった)
(ここは姐さんのお座敷)
(嵯峨野の……)
(なんちゅうたてもん〔建物〕やったかいな)
(まあ、そないなことはどうでもええ)
(なんでや)
(なんでやろ)
(姐さんの事)
(姐さんのこと、ちょとでも忘れるやなんて……)
(今まで)
(今までうち、どないしてたんやろ)

「♪夏は河原の夕涼み~ 白い襟あしぼんぼりに~」

 唄声は続いた。
 道代にとって、耳に馴染んだというも愚かな、その身の隅々にまで染み込んだ『祇園小唄』の旋律であった。
 いつもなら、この旋律に乗って舞う志摩子の姿を見ると、抑えても動きそうになる我が身を押さえるのに苦労する道代であった。だが、今の道代にその苦労は不要であった。逆に……。

(動〔いご〕けへん)
(体が……)
(動〔いご〕けへんがな)
(何や)
(何やこれ)
(どないしたんや、うち……)

 霧は晴れ、視界は戻った。
 だが、それだけだった。
 端座して志摩子の舞いを見ている。
 その自分にようやく気付いた道代であったが、それだけであった。
 目は動く。耳は聞こえる。
 それだけだった。
 それ以上の体の動きは、何としても自由にならない道代であった。
 知らず、叫びそうになる道代だったが、それも叶わぬことであった。ただ……。

(え?)
(何や)
(何や、これ……)

 自らの下腹部からぬるりと湧き出、閉じた両腿の間を伝う液の流れを道代は感じた。
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