Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ: 八十八十郎劇場
「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(四十八)


 夜具の中で初音は十年前のある出来事を思い出していた。
 江戸からまだ赤子の鶴千代を迎え入れた二三日後のことである。

「初音、初音!」
 羅紗の呼び声で隣室に控えていた初音は腰を上げた。
 急いで座敷に入った初音の目の前に、床に座してその胸に赤子を抱いた羅紗の姿があった。
 大きくはだけられた胸元から輝く様に白い乳房がこぼれ出て、その膨らみの先を赤子が無心で吸い含んでいた。
「ら、羅紗様……」
「お乳が、お乳が出たのじゃ!」
「ま、まさか、羅紗様……」
 初音は横に身を沈めて羅紗の胸元を凝視した。
「この子が江戸から国元に近付くにつれ、私は胸が疼いて、きっとこうなる気がしておったのじゃ。ほれ、初音……」
 羅紗は脇から乳房に手を添えて、その桃色を強めた乳首をそっと赤子の口から外した。
 とたんに乳白のしずくが豊かな膨らみを次々と伝い降りる。
 思わず初音は右手に受けた雫を口元へと運んだ。
「ら、羅紗様!」
 閉じた瞼が熱くなるのを覚えて、初音は夢中で赤子と羅紗を両手で包んだ。
「おめでとうございます……」
 誰が教えた訳でもないのに、再び触れた乳首を赤子は吸い含む。
「この子は二人の実の母親から乳を飲むことが出来た。不思議なことじゃ……」
 十年前の羅紗の笑顔がおぼろげに暗闇に浮かんだ。

 その時、微かな廊下のきしみに初音は目を開いた。
 誰かが羅紗の寝所に上がる階段へと廊下を歩いている。
 身を起こした初音は、戸襖を開けて外を窺った。
「誰じゃ」
 燭台を背にした影が止まった。
「はい……春蘭にございます。少し落ち着きましたので、羅紗様にお話をと……」
 きつく頭上に髪を結い上げた八頭身が小さな声で答える。
「うむ、そうか。では私も一緒に……」
「いえ、畏れながら私は余人を交えず羅紗様にだけお話ししとうございます。そうでなければ、このままお城を出るしかございません」
 毅然とした口調にいささか不信を覚えたが、初音はようやく若の話をしようとするこの女に従うしかなかった。
「よし、ではお前の身は改めさせてもらうぞ」
 薄い襦袢一枚の春蘭の身体を初音は両手で確かめる。
「私も階段に控えておることを忘れるでないぞ」
 それを聞くと、春蘭はその整った顔を微かにほころばせた。
「わかりました。初音様も私と羅紗様の話が終わるまで、しばらくご辛抱を……」
 何故かその時初音は、春蘭の上品な顔にどことなく妖しい輝きを感じたのである。

「羅紗様……、羅紗様……」
「春蘭か……」
 蝋燭の灯りを背にした影が夜具から起き上がる。
「このような夜更けに申し訳ございませんが、少し落ち着きましたので早く小浜の話をお伝えせねばと……」
「そうか、よくぞ参った」
 夜具の上に居住まいを正した羅紗は、髷を解いた長い黒髪を右肩から前へ垂らした。
「して、お前が小浜で見聞きした事とは、地下牢、怖い女たち、子供……それから? 知っていることを話してみよ」
「はい……」
 片手を口元に添えた春蘭は、上目遣いに羅紗を見た。
「畏れながら、もっとお傍に参ってもよろしいでしょうか……?」
「傍に……?」
 羅紗は怪訝な表情を春蘭に向ける。
 階段に身を潜めた初音も、思わず廊下の上に両目を上げた。
「思い出すとまた取り乱しそうで、お傍にいた方が話せるような気がするのです」
「う……む、分かった。苦しゅうない、近こう参れ」
 若い女の可憐な羞恥の表情を浮かべると、春蘭はおずおずと羅紗と同じ夜具の上に上がった。

 羅紗の左脇に膝を進めた春蘭は、危うくその腰の膨らみが触れ合いそうに身を寄せる。
 未だ嗅いだことのないような香の匂いの中に甘い体臭が漂ってくる。
「私は商いで大陸より若狭へと渡って参りましたが、上納金の諍いで潮影の地回りに囚われの身となってしまったのです」
「ほう、それは……」
 気の毒気に覗き込む羅紗の顔に、春蘭は小さく頷いた。
「やがて地回りの小遣い稼ぎに売られた私は、小浜の竜神一家の預かりとなって遊郭で身を売ることになったのです」
 羅紗は言葉もなく春蘭の顔を見つめる。
「でも初見せから地元の大店の主人に抗って怪我をさせた私は、竜神一家の地下牢で……こ、こわい……。羅紗様……」
 羅紗は急いで春蘭の肩を抱いた。
「怖い目にあったのじゃな? しかし安心せよ、ここには誰もお前に危害を加える者はおらぬ」
 春蘭は羅紗の緩んだ襦袢の襟元に顔を埋める。
「怖い女たちがその牢屋を牛耳っておりました……。そこで否応もなく遊女のしつけをされ、数日後にはまた遊郭に戻されたのですが、隙を見て私はそこを逃げ出したのでございます」
「なるほど。して子供というのは何処に?」
「子供……」
 春蘭は一層隙間なく羅紗の胸にその身を預けた。
「何故か別の牢に子供がいて三度のご飯も与えられておりましたが、そのうち別の場所に移されていきました」
「別の場所? そ、それは何処か検討が付くか?」
 尋ねられた春蘭は、襦袢の中で乳房が揺れるほど羅紗の胸元に小顔を擦りつけた。
 逆に緩んだ春蘭の胸元から形の良い胸の膨らみが垣間見え、甘酸っぱい体臭が羅紗の鼻先に立ち登って来る。
「どうした? また怖くなったのか……?」
 胸に顔を埋めたままの春蘭に羅紗は尋ねた。
「いえ怖くなったのではありませんが……、お答えする前に私の方から羅紗様にお聞きしたいことが」
「な、なんじゃ、申してみよ」
 羅紗を見上げた春蘭は、その顔に妖しい笑みを浮かべていた。

「私はその怖い場所で、羅紗様の秘密を知ってしまいました……」
 じっと羅紗を見つめながら、春蘭は白い歯で艶やかな下唇を噛んだ。
 自分の胸を押し付けるようにして羅紗の耳元に顔を寄せる。
 お香の上品な香りに混じって悩ましい体臭が鼻先に漂い、羅紗は目眩にも似た感覚とともに微かな震えが身の内に走るのを覚えた。
 近頃でこそ初音との情交で気を晴らしたものの、元来羅紗はこのように若く美しい女と身を接した事はなかったのである。
 自然と伊織と肌を合わせた時の事を思い出していた。
 春蘭の行いを不審に思いながらも、胸の内奥深くに切ない煩悩が渦を巻き始める。
「う……」
 襦袢越しに春蘭の胸の膨らみが乳首をなぞって、羅紗は胸の奥から短い息を吐いた。
「お、お前何を……」
「うふふ……」
 湿った熱い吐息が羅紗の耳をくすぐった。
「少し固くなられましたか……?」
 春蘭の右手が羅紗の下腹を探った。

「ひ……!!」
 短い悲鳴を上げて羅紗は身を仰け反らせた。
 やっと後ろに両手をついて、二三尺その身を春蘭から遠ざける。
「お、お前何者じゃ!」
「うふふ……、少し当りがありましたわよ」
 春蘭は両手を前につくと、まるで猫のように身を乗り出した。
「曲者の一味か!」
「まあ……、曲者だなんて……」
 そう言いながら片手を前に出して上体を羅紗に近づける。
「牢の中にいる時、怖い女達の話で羅紗様の事を知ったのです。それを聞いてから、私は羅紗様に会いたくてたまらなくなってしまいました。そして、私の夢を叶えていただこうと……」
「夢……?」
 訝し気な眼差しを向ける羅紗に、春蘭は白い歯を見せて頷く。
「私は羅紗様のようにきれいな女が好き。そして、そんな女に力づくで犯されたい。その……熱く固いもので……私を羅紗様のものにして……」
 春蘭はさらに片手を出して羅紗の前に顔を近付ける。
「女の一人から聞きました。すごく熱くて逞しいものをお持ちだと……」
 羅紗は目の前の春蘭をじっと見つめた。
「身がのけ反る様に熱いもので貫かれたと、その女は申しておりました」
 “あの女……、鷹か……”
 羅紗が辻褄を合わせかかった時には、もう目の前に春蘭の顔が迫っていた。
「こんなに気高くお奇麗な羅紗様が、そんないやらしいものをお持ちだなんて……」
 みるみる身を乗り出した春蘭は、まるで猫のように両手を羅紗の身体にかけた。
「あ、な、なにを……!」
 そのまま後ろに押し倒した羅紗の上に春蘭は覆いかぶさる。
「こ、これ!」
 あっという間に顔を左右に振って羅紗の襟元を押し開いた。
「あひ!!」
 羅紗が裏返った悲鳴を上げた時には、もう弾む乳房の先に春蘭の唇が吸い付いていた。
「んふう!!」
 胸元の肌に荒い鼻息を吹きつけながら、春蘭は乳首に吸い付いたまま首を振って羅紗の乳房を揺るがせる。
「や、やめて……」
 羅紗は春蘭の襦袢を両手で掴んで、自分から遠ざけようとした。
 しかし春蘭のしなやかで柔軟な身体は、易々とその抵抗をやり過ごして羅紗に絡み付くのだ。
「あ、いやああ……」
 そして悲しいことに、春蘭の挑発に羅紗のものは半ば頭をもたげ始めていたのである。

 慌てて階段を上がろうとした初音は夜具の上の景色に動きを止めた。
 薄暗い蝋燭の灯りに照らされて、二つの女体が絡み合っていた。
 はだけた襦袢の狭間から、もうほとんど立ち上がった羅紗のものが弾み出ている。
 その光景はもう、若い二人の情欲の戯れにしか見えなかった。
 “羅紗様……”
 常々羅紗に対し自分の様な年増が閨のご奉公をすることに、初音は後ろめたさを覚えていたのである。
「ああ、や……めて……」
 とうとう羅紗の帯が解けて襦袢の前が大きく開いた。
「羅紗様……すごい……」
「い、いや……」
「うふふ、本当にいやなんですか……?」
 その言葉に反して、輝く様に白くふくよかな女体の中に、羅紗のものは猛々しく反り上がっていた。
 “羅紗様……”
 初音はその光景から目を伏せた。
 益々熱を帯びていく二人の様子に、初音は身を切られるような思いで廊下の隅に身を沈めたのである。
元禄江戸異聞 根来(四十七)目次【マッチロック・ショー】フェアリーズ・パーティ(Ⅰ)
「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(四十七)


 蔓は丹後に続く峠へと目を向けた。
 鶴千代の手を引いて走る桔梗の姿がその向こうに消えて行く。
 “追い付かれた時は、一人が若と共に国元を目指し、もう一人は追っ手をくい止める”
 それは若狭の山中で野宿した時二人で決めた事だった。
 “こうも早く追い付かれるとは……”
 蔓は悲壮な眼差しで桔梗の後ろ姿を見送る。
 “早く! 桔梗様、早く逃げて!”
 唇を噛んで再び下を見た時、大きく錫杖を振り上げる大女の姿が見えた。
 とっさに蔓は一間ほど離れた隣の木に飛び移る。
 背中で激しく空気を揺るがす振動が巻き起こり、幹をへし折られた中木がめりめりと音を立てて倒れた。
「逃げたか。すばしこいやつだね」
 そう呟いた蓬莱が再び近付いてくる。
 蔓を見上げながら、その後ろで妖しい笑みを浮かべた沙月女が右手を懐に忍ばせた。

 蓬莱が再び錫杖を構えるや否や、蔓は思い切って二間ほども離れた別の木へ飛んだ。
 その瞬間、沙月女の右手が空中の蔓に向かって光を放つ。
 日差しに輝く一文字手裏剣が蔓の肩先に消えた。
「く!!」
 危うく姿勢を保ちながら蔓は何とか木にしがみついた。
 気丈に肩先から手裏剣を抜き放つと、近づいてきた蓬莱の頭上に投げおろす。
 きな臭い音を立てて蓬莱が右腕の鉄輪でそれを弾き返した時には、二三本立ち木伝いに逃げた蔓は地上へ飛び降りていた。
 そのまま峠とは逆方向に山を走り下りて行く。
「追うんだ、蓬莱!」
 言うが早いか走り出した沙月女を、慌てて錫杖を担いだ蓬莱が追う。
「毒を仕込んでたから、必ず動きが悪くなるはず」
「なるほど、そうか」
 沙月女の言葉に片頬を緩めた蓬莱は、木立を縫って走りゆく蔓の背中を追っていく。

「はあはあ……お、おかしい……はあ……」
 走りながら荒い息遣いで沙月女がつぶやく。
 時折地面に落ちた血を見ても、相手が手裏剣で傷を負っているのは明らかだった。
 しかしいくら必死に逃げていると言っても、毒を受けたはずの獲物が一向に衰えを見せないのだ。
「はあ……もしや……はあはあ……」
 そのつぶやきに、傍らを走る蓬莱も沙月女の顔を窺う。
「間違いない……はあはあ……この女、甲賀の薬使いだ。だからこんな毒では効かないんだ。ちくしょう、このままでは若との差が広がるばかり……はあはあ……」
「なんだって!」
 声を上げると蓬莱は十間ほど先を逃げる蔓を睨みつける。
 獲物を追って木立が開けた辺りに走り出た時、突然蓬莱はその足を止めた。
「はあはあ……。沙月女、離れて!」
 叫びを上げて沙月女を遠ざけると、肩の錫杖を右手で掴む。
 円を描く様に大きくそれを振り回すと、勢いをつけて前方の蔓に投げた。
 不気味な風切り音と共に、激しく回転しながら重い錫杖が獲物を追っていく。
「ひゃあああ!!」
 悲鳴と共に蔓の身体が空中に舞い上がった。
 蔓の後ろ一間ほどで地面から跳ね上がった錫杖が、その身体をなぎ払ったのである。
 空中で血反吐を吐いた蔓の身体が、まるで木の葉のように舞いながら再び地面に落ちた。
「よし!」
 沙月女が獲物に向かって走る。
 よろめきながら立ち上がって逃げる蔓に、沙月女は再び右手の一文字手裏剣を放った。
 無情にもその輝きが背中を捉えて、ゆっくりと蔓は前のめりに地面へ倒れ込んだ。

 落ち葉の上で動かなくなった蔓に、沙月女と蓬莱は用心深く歩み寄っていく。
 追っ手が近づいたことを感じた蔓は、もう力の入らぬ右手を廻して背中の手裏剣を抜き放った。
 そのままゆっくりと身体を回して仰向けになる。
 一瞬足を止めた沙月女たちの用心に反して、血の付いた一文字手裏剣は蔓の右手から地面に零れ落ちた。
 もう生気を失くした蔓の眼差しが青空に向けられる。
 “桔梗様……、どうかご無事で……”
 おびただしい血が蔓の口から流れ出ていた。
「どうやらもう、臓の腑が破れてしまったようだねえ」
 沙月女と蓬莱は横に立ち止まると、薄笑いを浮かべて蔓の顔を覗き込んだ。
「この……化け物……」
「え……何だって……? 今、何と言った!?」
 蔓のつぶやきに蓬莱は身を乗り出す。
「ふふ……化け物と言ったんだよ、お前に……」
「な、なんだって!!」
 蓬莱が目を怒らせて顔を近付けた時、
「蓬莱! 危ない!!」
 沙月女の叫びと共に、蔓は渾身の力を込めて血を吹いた。
 蔓の血しぶきを目に受けた蓬莱は身をのけ反らせて後ろに尻もちをつく。
「こいつ!!!」
 慌てて沙月女が小刀を抜いた時には、もう蔓の視線は虚ろに中空を見つめたまま動かなかった。

 木々の隙間から見える空も紺色に沈み始めて、薄暗くなった森の中で桔梗は足を止めた。
 山道から外れて目立たぬように木立の中を進んできたが、もう丹後への国境も間近に迫っていると思われた。
 山肌が奥まった辺りに小さな洞窟が見える。
 じっと周囲の物音に耳を澄ました後、ようやく笑みを浮かべて桔梗は鶴千代の顔を覗き込んだ。
「お疲れでございました。直に暗くなりますが故、今日はもうあの祠で一夜を過ごすと致しましょう」
「うん、わかった」
 額に汗を浮かべたまま、鶴千代は桔梗に大きく頷いた。

 大人が身を縮めて入る程な祠の中で、二人はなるべく乾いた岩床に腰を降ろす。
 大石桔梗はその顔に優しい笑みを浮かべて口を開いた。
「若、おみ足は如何ですか?」
「なに、今はもう大事ない。大石……その……すまぬ……」
 言葉尻が小さなつぶやきに変わり、鶴千代は申し訳なさそうにその顔を俯かせた。
「え? 何が……でございますか?」
「このように大変な世話になり……」
「若……」
 笑みを浮かべて桔梗は小さく首を横に振った。
 普段の少年の様な顔が、珍しくまるで優しい姉のように見える。
「そうだ。忘れておりました」
 桔梗は脇に置いた背袋を開いて小さな竹包みを取り出す。
「おなかが空かれたでしょう? 少しですが餅を用意しておりましたのでお召し上がりください」
「うん。そう言えば、私もおなかが空いたのを忘れておった」
「あははは……」
 桔梗は夢中で餅をほおばる鶴千代を嬉しそうに見つめた。
 しかしふと餅を食べる手を止めて鶴千代がつぶやく。
「あの者は大丈夫であろうか……?」
「え……? その……蔓ですか……?」
 思わず真顔に戻った桔梗だったが、せっかく元気を取り戻した若を思って再び笑みを浮かべる。
「なに、ああ見えて蔓は相当手練れの忍びでございます。今頃はもうどこかで若のように夕餉を食べておりますよ」
「そうか。いや、そうだな」
 再び餅にかぶりつく鶴千代から、桔梗は夕闇の迫る外の森へ目を向けた。
 “蔓……”
 胸の内でそうつぶやいた桔梗の顔からもう笑みは消えていた。


 薄暗くなった山あいの河原に二つの影が寄り添っている。
「ほら蓬莱、もう一度洗って」
 蓬莱は両手で冷たい谷川の水を掬いあげて目を洗う。
「大丈夫だよ。目は見えるから」
 しかしそう言いながら立ち上がった蓬莱の身体が危うく揺らいだ。
「蓬莱、さあこっちへ」
 沙月女は蓬莱の身体を両手で抱きかかえるようにして岩場へと運ぶ。
 大きな岩に背中を持たれかけて、蓬莱は力なくその場に座り込んだ。
「何だか力が抜けていくようだ……」
「ほ、蓬莱……!」
 目を見開いて沙月女が見守る中、蓬莱の隆々とした身体が少しずつ細くなっていく。
 蓬莱は二の腕を見つめていた目を虚しく宙に向けた。
「あいつ、蜂のように最後にあたしを刺しやがった……」
「ほ、蓬莱!」
 徐々に細く伸びやかに変化してゆく身体が、夜目にもほの白く岩陰に浮かんだ。
 心なしか白衣のような肌から血の気が引いていくようにさえ見える。
「どうやらあたしは、もうだめらしいよ……」
「何を言うんだ蓬莱、少し休めば元気になるさ。そうだ、寒いんだろ? 今、火を燃やしてやるからね」
 薪を拾いに立ち上がろうとした沙月女の手を蓬莱の手が掴んだ。
 蓬莱は力なくその目を沙月女に向ける。
「沙月女……、あんたはあたしのことどう思う?」
「どう思うって……?」
 怪訝な表情の沙月女の顔を蓬莱はじっと見上げた。
「あたしは……、あたしは化け物かい……?」
「蓬莱!!」
 思わず沙月女は細い蓬莱の身体をかき抱いた。
 忘れたはずの涙がその目から溢れ出る。
「何を言うんだ! あんたは、あんたは……天女みたいにきれいだよ……」
 沙月女の胸に抱かれたまま、仰向けの蓬莱の顔に微かな笑みが浮かんだ。
「あ……ありがとう……」
 そのままゆっくりと目を閉じて、蓬莱はその顔を沙月女の胸にあずけた。
「蓬莱……? 蓬莱! しっかりして!! あんたがいなくなったら、誰があたしを守ってくれるんだよう!」
 しかし沙月女の胸で力なく揺れる蓬莱の口は、もう再び開くことはなかった。
「蓬莱! 蓬莱! わああ~~!」
 せせらぎの音に混じって、蓬莱をきつく抱きしめた沙月女の泣き声が暗い谷間に響いた。

 どれくらいの時が経ったのだろう。
 沙月女は蓬莱の身体をそっと横たえると暗闇に立ち上がった。
 思い錫杖を引きずってその横に添わせる。
「じゃあ蓬莱、先に向こうで待ってておくれ」
 月を見上げて方角を確かめる沙月女の目は、もうその鋭い輝きを取り戻していた。
「蓬莱、見てておくれ。このままじゃ済まさないよ」
 そう呟くと、沙月女の姿は月明かりから森の暗闇の中へと消えていった。
元禄江戸異聞 根来(四十六)目次元禄江戸異聞 根来(四十八)
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