Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ: 八十八十郎劇場
「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(二十七)


 厚く雲が垂れこめた下に、強い風が船の舳を上下三尺も揺らしていた。
 汗みどろで揺れ止めの綱を締め直す人足の横を、いくつもの白い袋が船に担ぎ込まれていく。
 いらついた様子で振り返った鷹は、岸壁の上で辺りを見張っている春花に叫ぶ。
「あとどれくらいだ!?」
 春花は蔵の前で見張っている秋花に手で合図を送る。
「もう半時もすれば終わりそうだよ!」
 春花の返事を聞くと、鷹は船上の春蘭に目を向けた。
「ここは頼んだよ」
 頷く春蘭と載寧を残して、鷹は足早に蔵へと向かう。
 “早く小浜に運ばないと、ここでは丹後のどんな邪魔が入るとも限らない……”
 しかしそんな荷積みの様子を物陰から窺う影があることを、気の急いた鷹ばかりか見張りの春花でさえ気づいてはいなかった。

 鷹は再び静寂の戻った蔵の中を注意深く見回した。
 念のため土間の土埃まで掃き上げた後には、小さな葉っぱ一つも残っていない様である。
 “よし、引き上げだ”
 仲間を追って自分も船に向かおうと振り返った時、鷹は思わず息を呑んでその足を止めた。
 入り口脇の薄暗がりに、ぼんやりと影が見える。
「うふふふ……」
 女の含み笑いと共にその影が動くと、鳥追い傘の旅芸人姿が外の光に照らし出される。
「だいぶてこずってるようだねえ……」
 鷹は大きく息を吐いてその肩の力を抜いた。
「ああ、思いがけず甲賀に手を焼いてしまった」
「そこらの腕自慢の集まりとは違って、甘く見ると大けがをするよ。それは長い付き合いのあたしたちがようく知ってる」
 少し上向いた傘の奥で切れ長の目が光った。
「いったん丹後から出るのは悪くない。外ではあいつらも動きがとりにくくなるからね」
 その言葉に鷹も大きく頷く。
「しかし今回は腕の立つ奴が若狭からここまで嗅ぎ付けて来た。それも丹波の二刀流とくっついてね……」
 旅芸人風の女は、分かっていると言わんばかりに胸の前にその白い手を掲げた。
「とにかく今回は仕事の道を作るのが先決だよ。また後のことは仕切り直して考えようじゃないか」
 その仕草に頷くと、鷹は再び鋭い眼差しで口を開く。
「お前の方は大丈夫か? 仲間を裏切っていることが知れて、伊賀まで動き出すことはなかろうな」
 女は鼻の先で小さく笑った。
「ふふ、大丈夫だよう。あたしは隠居仕事でお床の技を教えるなんざ、もう飽き飽き……。一仕事当てたら、後生は面白おかしく暮らしたいんだ」
「美津……」
 鷹のつぶやきを横顔で聞きながら、女はその冷たい眼差しを蔵の中から外の日差しに向けた。

 何故か鷹の前に姿を現したのは、お蝶に今回の一件を伝えた伊賀の美津であった。
「それに今日は手土産代わりに、身内から助っ人も連れて来てる。あんた達が船で小浜に品物を運んでる間、あたし達は街道の動きを見張ることにするよ」
 慌てて鷹は周囲を見回した。
「あっははは……、あんたの方に怪我人も出たようだから、身内を抱き込んで連れて来たんだよ。でもただの間に合わせじゃあない。地獄谷育ちの刺客だ」
「ほう、使える仲間は有り難いが……」
 鷹は珍しくその表情を明るくした。
「ふふ、まだ顔のご披露は控えとくけど……。もたもたしてて、甲賀が“猿”でも呼び戻したら厄介だからね。そんな時は役に立つ奴さ」
「猿……?」
 美津はその細面を不愉快に歪めた。
「人とは思えない、面倒な奴でね……。でも今は東の方へ出張ってると聞いてる」
 じっと話に聞き入っている鷹に美津は続ける。
「それから念のため……、江戸ではお蝶の身体に聞いてみたんだけど、あいつもまだまだ枯れちゃあいない」
 にんまりと口元を緩めた美津は、訝し気な顔の鷹に再び口を開く。
「うふふ…、あんたにも分かるだろう? 命がけで惚れてる女は強いってことさ。死んでも化けて出るのは女ばかり……。なかなか頭も良くて油断できないやつだけど、仲間に引き込めば役に立つよ」
「うむ……」
 一瞬目線を落として考えた鷹だったが、思い出したようにその顔を上げる。
「考えておこう。では次は小浜で……」
「気を付けて……」
 笠の下でほころんだ美津の口元に白い歯がこぼれた。

「ん……?」
 蔵を出ようとした鷹の動きが止まる。
 鷹の右手を後ろから美津の手が掴んでいた。
 振り返った鷹の目の前で、美津はゆっくりと鳥追い傘をとる。
「あんた、冷たいのねえ……」
 いつもは冷徹な美津の瞳にうっすらと人の心が宿る。
 音もなく身を寄せた美津は、そのまま端正な唇を鷹の唇に重ねた。
 ほっそりとした右手の指が、着物の上から鷹の左の乳房を掴む。
「ん……」
 眉を寄せた鷹の胸にもたれたまま、美津はゆっくりと唇を離した。
「ね、唾を頂戴……」
 与えようと緩んだ唇に下から美津の唇が吸い付く。
 静まり返った蔵の中に生々しい息が漏れた。
 両手で強く抱きしめられたまま、頤を上げた美津の白い喉が何度か小さく波打つ。
 やがてゆっくりと女同士の唇が離れて、鷹の両手が美津の身体を押し戻した。
 鷹は踵を返すと黙って蔵から出ていく。
 それを見送る美津の頬に微かな笑みが浮かんだ。
「うふふ……、あたし冷たいのは嫌いじゃないよ……」
 すっかりもぬけの空になった蔵の中を見回しながら、再び美津はゆっくりと鳥追い傘を被った。


 若狭の国、小浜の町外れ。
 もうすっかり街並みを宵闇が包んでいる。
 提灯に浮かんだ笠を軒下に見つけて、伊織は一軒の旅籠の暖簾をくぐった。
 通された部屋にお蝶と紫乃の姿はなかった。
 背袋を外して大小を抜くと、二階の窓から海辺の街並みを眺める。
 月もない闇の向こうから微かに波音が聞こえてくる。
 “この町のどこかに若様が……”
 忘れもしない赤子の面影を思い浮かべた時、音もなく背後の襖が開いた。

「お疲れさまでした」
 背中にお蝶の声を聞いた伊織は、静かに窓を閉めて振り返る。
「気配を覚えなかった。だいぶ取り戻したようだな……」
「ふふ……」
 お蝶は片頬を緩めると、着物の裾を押さえて伊織の前に座る。
「まだまだこれからで……。昔お通姉さんと一緒の時も、根来は一筋縄ではいきませんでしたからねえ」
 頷いた伊織もお蝶と向かい合わせに腰を下ろした。
「何か掴めたか?」
「ええ……」
 お蝶が茣蓙に両手をついて二三度膝を進めると、伊織もつられて前かがみに身を乗り出した。
「港を仕切ってる竜神一家という口入屋に、近頃変わった動きがあるようで……」
「竜神一家……?」
 お蝶は長いまつげを瞬かせた。
「元々港近くで荷捌きや女郎屋で渡世してきた連中なんですが、このところ見知らぬ顔の出入りが増えて、どうやらよその港にまで出張ってる様子なんです」
「ふむ……」
 伊織はお蝶の顔から茣蓙に目を落とす。
「怪しい連中であることは確かだが、いずれにせよ若様のかどわかしと何か繋がりがあることを確かめねば、軽はずみに思い切った手は打てんな……」
 忍び入るにしろ押し入るにしろ、一度騒ぎを起こせばもうこの小浜では動きにくくなることは明らかだった。
「ええあたしもそう思いながら、しばらく表の様子を見てますとね……」
 お蝶は一旦言葉を区切って伊織の顔を見た。
「およそ一家にゃ似合わないお女中が中に入って行ったんでさ」
 伊織はその眉を訝し気に寄せてお蝶の顔を見つめた。
「一刻半ほどでその女は出て来たんですが、どうやら中で帯を解いた様子で……」
「帯を解いた……?」
 お蝶はゆっくりと頷く。
「着物の着付け具合でそう察しました。気になって女の後をつけていくと、その女、案の定貧乏長屋に住む浪人のお内儀だったんですが……」
「うん……?」
 再びもったいを付けたお蝶に、伊織は頤を上げて続きを催促する。
「帰り着いたお内儀は、抱えた行李(こうり)から皿や茶碗を取り出して洗い始めたんです……」
 暫時目をさ迷わせた伊織だったが、次の瞬間伊織は目を見開いた。
「も、もしかして……、仲間内では難しい若のお世話をその内儀に……」
 それには答えぬまま、お蝶はさらに話を続ける。
「すぐあちこちを聞き回ったところ、お竜という三十半ばの女親分がその一家を束ねてるってことでした」
「ほう……」
 少々驚いた体の伊織は、再び茣蓙からお蝶に目を向けた。
「女だてらに無法者を束ねていくたあ相当なやり手のようで、金貸しや荷役の口利き、女郎勤めの斡旋、食い詰めた人間相手に相当あこぎな稼業でのし上がってきたようです」
 伊織は茣蓙の上に視線を落としたままじっとお蝶の話に耳を傾けた。
「でもその裏返しと言っちゃあなんですが、それなりの好みがあるようで……」
「好み……?」
 茣蓙から目を上げた伊織に、お蝶はゆっくりと頷いた。

「賭場に出入りしてる連中に少々色目を使って聞き出したんですが、あのお竜という女親分……」
 お蝶のふくよかな唇が微かに緩んだ。
「上品な女がお好みらしいんです」
「上品な女?」
 伊織は一瞬その意味が分からずお蝶の顔をじっと見つめた。
「ええ……生まれ育ちのせいかわかりませんが、良家の娘や奥様、それからその……お武家の内儀なんかを自分のものにするのが生き甲斐だとか……」
「自分のものにするというと……」
「自分の色にしちまうってことでさ」
 さすがに伊織はお蝶の顔から茣蓙に目を落として、その端正な顔を曇らせた。
「普通はお竜がそんな人間とかかわりを持つことは少ないんですが、食い詰めた浪人のお内儀なんかに餌を巻いて、その挙句に否応もなく自分のものにしてしまうらしいんです」
 両膝の上で伊織はその両こぶしを握り締めた。
「ゆ、許せん……」
 思いがけず気を高ぶらせた伊織に気を使って、お蝶は静かに口を開く。
「たぶん先達ての長屋のお内儀も、お竜に抱き込まれた一人ではないかと……」
 黙り込んだ伊織とお蝶を夜の静寂が包み込んだ。

 いつの間に時が経ったのか、遠くから夜回りの拍子木の音が聞こえる
「伊織様……。あたし若様の居所を探りに、壺振りかなんかで一家に入り込んでみようかと……」
 伊織は畳に落としたその顔を上げた。
「お蝶、もう路銀も残り少なくなったと思うが、お前、飯炊きなどで旅籠代を工面出来るか?」
「え、ええ……そりゃあ伊織様のおっしゃることなら何だって……」
 お蝶は伊織の顔をじっと見つめた。
「すまぬが、少し上等の着物を仕入れてくれぬか? なに、古着でかまわぬ」
「え……?」
 お蝶は黒目勝ちの瞳を大きく見開いた。
「い、いけません伊織様!!」
「お蝶!」
 伊織の鋭い眼差しに射すくめられて、お蝶は後の言葉を飲み込んだ。
「お竜とやらの好みは上品な武家の内儀であったな。頼むお蝶、この度は私の言うことを聞いてくれ」
 もうお蝶は二の句を継げずに、眦を決した伊織の顔をじっと見つめるばかりであった。
元禄江戸異聞 根来(二十六)目次【マッチロック・ショー】フェアリーズ・パーティ(Ⅰ)
「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(二十六)


 街道に女従者を見つけた大石桔梗は、右手の茶碗を置いて立ち上がった。
「ご苦労、用は済んだか?」
「ええ、先ずは歩きながら……」
「すまぬ、ここに置くぞ」
 茶店の縁台に小銭を置くと、編み笠を被りながら桔梗はおもむろに歩き始める。
 葛はそれとなく周囲に目配せをしてその背中に続いた。

「前を向いたままお聞きください」
 つい振り返りそうになる桔梗に後ろから蔓は囁く。
「阿片の件は仲間に伝えました。昼間の目立つ捕り物にはならないでしょうが、近いうちにあの港は丹後から抑えられるはずです」
「なるほど……。では我々もそれに乗じて若をお救いすることが出来るかもしれぬな」
 桔梗は笠の中で顔を輝かせた。
「ええ……しかし私は、あの潮影に若はいらっしゃらないのではないかと」
「どういうことだ?」
 とうとう振り返った桔梗に、仕方なく蔓は足を止める。
「賊が要の仕事場に人質を一緒にしているとは思えません。おそらく若様は小浜のどこか……、そう、仲間の息のかかった場所ではないかと……」
「うむ……」
 桔梗はその凛々しい眉を上げて唇を噛んだ。
「よし小浜に帰ろう。お役を積んだお前の言うことに間違いはあるまい……ん?」
 同意を求めて顔を上げた桔梗であったが、編み笠を通して見た蔓の眼差しは、桔梗の脇を抜けて後方に固まっていたのである。
「桔梗様……、ゆっくりと振り返ってそのまま歩きましょう……」
 桔梗が振り返った先に、いそいそと街道を歩み寄ってくる商人の姿が見えた。
 “あの女……”
 細く引き締まった肢体に、頬かむりの前から前髪を垂らした陰鬱な女が近づいてくる。
 何気なく二人はまた歩き始めた。
「二度目です。この度はいつでも抜く用意を……」
 背後の囁きに、桔梗は息を吐いて肩の力を抜いた。
 みるみる女との距離が詰まっていく。
 その間合いが二間余りに縮まった時、女の冷たい眼差しと桔梗の目が合った。
 桔梗は一瞬息を止めて手の振りを女と刀の間合いに合わせる。
 しかし音もなくすれ違ったその女は、そのまま後方に歩み去って行った。

 しばらく黙って歩き続けた桔梗はようやく体の緊張を解く。
 蔓は後ろを振り返りながら口を開いた。
「あいつ、阿片を守るために呼び戻されたに違いありません」
「ふうう……」
 桔梗はもう米粒ほどに小さくなった女を振り返ってゆっくりと息を吐いた。
「おそらくあの女……、化身したり忍んで調べなどするより、狙った相手を殺めたり邪魔者を消す刺客と思われます。同じ忍び同士とはいえ、あの女には生臭い血の臭いがします」
「あの漁具小屋であった女と同じ類か……」
 蔓は険しい表情のまま静かに頷いた。
「よし、ではあやつが戻って来ぬうちに早く若をお助け申さねば。蔓、私に手を貸してくれるか?」
「はい。我が身を顧みず私をお助けいただいた桔梗様を、このまま一人で行かせるわけには参りません」
 頼もしい葛の返事に、桔梗はその少年の様な顔を輝かせた。
「よし、急ごう!」
 二人は小さく頷き合うと、再び急ぎ足で小浜に向けて歩き始めたのである。


 もうすっかり夕闇に包まれた海小屋。
 外の波音を聞きながら茣蓙に座した鷹の目が薄っすらと開いた。
「帰ったか……」
 音もなく入り口の引き戸が動いて、細身の女が蝋燭の灯に浮かび上がる。
「ご苦労だったね、飛燕」
 待ちわびた仲間の到着に、鷹は目を輝かせて立ち上がった。
 小屋の隅から黒衣装を持ってくると飛燕に差し出す。
「これは……?」
 問いかけた飛燕の目をじっと見ながら鷹は口を開く。
「どうやらこの度の相手は甲賀だ。薄い油紙を挟んで薄絹の裏打ちをさせた。動きも落ちて音もするが仕方あるまい」
「甲賀……」
 鷹は飛燕のつぶやきに静かに頷く。
「顔もこれで巻いて……。お前なら心配あるまいが、目には気を付けるんだ。もう春花と秋花はこれで蔵を見張っている」
 飛燕は鷹を見つめ返しながら黙って装束を受け取った。
「明日は人足が集まり船で品物を運び出す段取りがついた。その後は小分けで京に運び込む」
 鷹の話を聞きながら、もう飛燕は商人服の帯を解き始める。
「取り逃がした奴から知らせが回ったとすれば、今夜にでも丹波がここを抑えに来るかもしれん」
 音もなく飛燕の着物が足元に落ちた時、鷹の視線がその身体に注がれる。
 飛燕は商人服の下に何も身に着けてはいなかった。
 カモシカの様に引き締まった、見事な裸身が蝋燭の明かりに照らし出される。
 身を捩って衣装を纏う身体に、鍛え上げられた筋肉の動きとともに影がうつろう。
「春蘭は地下を見張っている。春花秋花、あたし、そしてお前と交代で見張りを続けるんだ」
「わかった」
 やがて黒装束に背袋を負った飛燕は、そのままの格好で壁を背にして腰を降ろした。
 再び自分も茣蓙に座った鷹は、つい苦笑いを浮かべて口を開く。
「ふふ……。あたしもあまり無駄口は叩かない方だが、いつもお前が敵方ではなくて良かったと思うよ……」
 返事もせず目を閉じて腕を組んだ飛燕を、鷹は頼もし気に見つめた。

 突然小屋梁にぶら下がった鈴が鳴った。
 いち早く立ち上がった飛燕が引き戸から飛び出していく。
 鷹も黒頭巾を覆いながらその背中を追う。
 二人が走り寄っていく先に、蔵の入口の庇の上で篝火に浮かんだ春花秋花の姿が見えた。
 何ということか、その下には二十人を超えるほどの黒装束の一団が取り巻いている。

「うふふふ、大勢でお出ましだね。面白くなりそうだ」
 春花がそう見栄を切った途端、四五本の十方手裏剣が飛んだ。
 耳を突く音で秋花が一本を跳ね返した後は、器用に二人はその飛び道具を交わした。
 身をひるがえして大屋根に飛び上がった二人を、さらに何本もの手裏剣が襲う。
 その得物を交わしざまに春花は一本の金串を放つ。
 きらめく輝きに喉元を深く差し込まれた一人の黒装束が、もんどりうって仰向けに昏倒する。
「あっははは、遅い遅い。それじゃあ虫が止まっちまうよ。さすがに虫を使う連中だね。あっははは……」
 上向きに飛び道具を使うことが不利と承知の上で、秋花は相手を煽り立てる。
 しかしむきになって攻めを重ねると思いきや、世話役の指図で三四人が蔵の扉をこじ開けに庇の下に走り込んだ。
 後の十数人は遠巻きに春秋花の二人を挑発する。
「ちくしょう、臆病者! 尋常にかかってこい!」
 取り巻いた黒装束に秋花が罵声を浴びせると、春花がため息交じり呟く。
「なんだそりゃあ、こないだの坊やの受け売りかい?」
 春花をにらみ返すかと思われた秋花だったが、下を見たままのその顔に笑みが浮かぶ。
「あっははは、やっぱり尋常は取り消しだ。あたしたちゃあ、こっから相手してあげるよ」
「ん……?」
 秋花の視線の先をたどった春花に、一軍の背後から走りくる二つの黒影が目に入った。

 一軍の最後尾から風の様に飛燕が舞い込むと、二三人の刺客の首筋から血しぶきが上がった。
 逆手に握られた短めの刀が篝火に輝く。
 一斉に一団の陣形が崩れると、その上から幾筋もの金串の輝きが線を描いた。
 首や肩に金串を受けた数名の悲鳴が上がる。
 慌てて体制を立て直そうとする中を、鷹は蔵の入口へ走り込む。
 錠を引き切ろうとしていた一人の背中を袈裟懸けに切りつけた。
 しかし肉を切る手ごたえがなく、何故か滑った刃は布を切り裂いたに過ぎなかった。
 “鎖かたびら”
 さすがに各地でお庭番を務める甲賀は、小屋を開ける役目の物を決めてそれなりの備えをしていたのだ。
 振り返った相手の二人が鷹に切りかかる。
 “いかん、このままでは……”
 一人の刀を受けつつ身をかわした鷹は、心の中でそう呟いた。
 防具ごと叩き殺すことのできる蓬莱は今ここにいない。
 そう思いつつ渾身の力で相手の身体を蹴り返した時、
「ぐあ!」
 春秋花の金串による敵の混乱に乗じて、入り口に忍び寄った飛燕の刀が解錠役の喉を貫いていた。
 続けざまに鷹も切り込んで来たもう一人の敵の刀を受け返す。
 しかし振り返った二人の前には、やっと態勢を戻した十数人の敵が迫っていた。

 後列の数人が屋根の上に向かって何やら白い塊を投げ上げた。
 それを見た鷹が叫びをあげる。
「受けるな! 離れろ!!」
 頭上から落ちて来る白い玉を見上げた春花秋花は慌てて後方へ逃げる。
 白い塊は屋根の上に落ちて次々と小さく破裂した。
 飛び跳ねたかけらが瓦の上を焦がすようにじりじりと煙をあげる。
 立ち上がる刺激臭に春花と秋花は、顔を覆った黒装束の上からさらに鼻を袖口で覆う。
「煙を吸い込むな!」
 そう鷹が叫んだ途端、手裏剣と白い球が下の二人にも襲い掛かる。
 鷹は身を飛ばして蔵の角から奥に転がり込む。
 甲賀の一団は五六人ずつに分かれて鷹と飛燕を取り囲む。
 さらに残りの三四人が屋根の上を窺い、もうもうと白煙の立ち上る屋根の上で春花と秋花は動きを封じられた。

 その時びゅうと風を切る音がして、数人の黒装束が飛び道具片手に身をのけ反らせた。
 左手に鎌の輝きを握って、飛燕の右手が三間にも余ろうかという鎖で円を描いている。
 突然鎖が直線に動きを変えると、その先の鉄の分銅が敵の一人を襲う。
 鈍い音を立てて頭を割られた相手が、二間も後方に飛ばされて地面に倒れ込んだ。
 引き戻した鎖を振ってなおも相手を追うと、相手はたじたじと後足を使う。
 思わず別の一団がその様子に目を向けた隙に、鷹は飛燕に向かって走った。
「飛燕、気を付けろ!」
 鎖鎌は両手を使う上に、自分はほぼ同じ位置にとどまって戦う。
 相手が少なければ交わされた後に刀で応じることも出来る。
 ただ相手が大勢の場合、敵との距離が取れる代わりに、鎖を巻き付けるなどの特性は次の動作を遅くするため使いにくいのも確かだった。
 鷹が叫んだのは、大勢相手に鎖鎌は言わば自滅覚悟の策だったからである。
 さらに風を切った分銅が二人の足を払ったところに、鷹の放った一文字手裏剣が襲う。
 相手は立ち上がりざまの首筋に深手を負って地面に転がった。
 しかし飛燕が鎖を振り戻すと同時に、敵の一人が飛燕の顔めがけて何やら小さな袋を放つ。
 鎖を引いたまま動けぬ飛燕がそれを払いのけると、破けた袋から飛び散った液体が頭から降りかかった。
 頭巾の上からその液体が伝い降りた時、
「ぐ……!」
 右目に激痛を覚えた飛燕は両目を閉じてうなりを上げた。
「飛燕、目を開けるな!!」
 さらに飛び来る手裏剣を飛燕の前で防ぎながら鷹は叫ぶ。
「ぎゃ!!」
 その時何故か、襲い来る黒装束の後方から別の叫びが聞こえた。

 鎖とは違った、鋭く風を切る音が聞こえる。
 騒動を聞きつけて地下から駆け上がった春蘭が、両手の鞭を振るい始めたのである。
 それを見た鷹は叫んだ。
「よし! 飛燕、敵味方構わず、気配があれば思い切り鎖を振るんだ!!」
 飛燕は両目を閉じたまま鎖を振るい始める。
 鋭く風を切って分銅が飛んだ先で、飛び上がってそれを避けた鷹の大刀がそのまま相手の頭上から振り下ろされた。
 脳天を砕かれた相手がその場に崩れ落ちる。
 敵味方関係なく突き進んでくる飛燕の攻撃に、再び敵の陣形が崩れた。
「あははは、こりゃあ面白くなった」
「さあ、こうなったらもう下に降りるか」
 懐から取り出した金串の束を口に咥えると、春花秋花も屋根から下に飛び降りる。
 うなりを上げる飛燕の鎖鎌を飛び交わしながら、鷹たちの姿が躍動する。
 体術に秀でた鷹たちの動きに、甲賀一団の叫びは徐々に小さくなっていった。


 そこここに篝火に照らし出された黒装束が転がる中で、片膝を落とした飛燕の顔を鷹が覗き込んでいる。
 傍らに立った春秋花姉妹をすり抜けて春蘭が近づく。
「ほら、もう一杯水を持ってきました」
 再び飛燕が水で目を洗うと、鷹はその顔に両手を添えて火の方へ向けた。
「目を開けて……」
 じっと見つめる鷹の顔がみるみる曇る。
「飛燕……。すまん……」
 顔を伏せた鷹の廻りで、春蘭と春花秋花姉妹も神妙な面持ちでたたずむ。
 毒で焼けた飛燕の右目は白く濁っていた。
「かまわない……」
 ぽつりと漏れ聞こえた呟きに鷹は顔を上げる。
「左は見える。まだ仕事は出来る」
 飛燕は立ち上がって懐から一本の一文字手裏剣を取り出す。
「飛燕……」
 何事かと見つめる三人の前で、突然飛燕はその手裏剣を蔵の入口に向けて放った。
 鋭く宙を飛んだ手裏剣は入口の柱の右一寸ほどに深々と刺さる。
「ふうん、少しまた稽古しなければならないね……」
 ちらと鷹に視線を送った飛燕はそのまま海小屋へと歩き去っていく。
 “敵ではなくてよかったか……”
 鷹はその背中を見送りながらそう心の中で呟いていた。
元禄江戸異聞 根来(二十五)目次元禄江戸異聞 根来(二十七)
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