Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ: 八十八十郎劇場
「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(最終章)


 葉月(旧暦八月)の初め、江戸。
 焼けつくような日差しが照り付けている。
「紀伊の国~っと……」
 元禄の世も一昔前となったある日、日除けに手拭いを被った男が長屋の門をくぐる。
「あ!」
 途端に水色の輝きが地べたに広がって、すり減った草履が左右二三間も離れ離れに散らばった。
「へえ……、よく避けやがったね、このおやじ」
 柄杓片手に、お美代が悔しそうに八十を見やる。
「えっへへへ、菊さんの書き物を掛けたあとだぜ。ばばあの打ち水なんかに後れを取ってたまるかい」
「はあ、そうかねえ。じゃあ達人、もう一度自分の足元をよく見てみな」
「なんだと……、ああ!!」
 足元に目を落とした八十は慌てて右足を上げた。
「犬の糞なんか踏んだ奴はこの長屋にゃあ入れないよ! さっさと向こうの川で洗って出直しな!」
「ちくしょう! すぐ坊主の頭みてえに磨いてくるからな。しまった! またぞうりを履いちまった!」
「馬鹿だね、ついでに新しい草履も買ってきな! まったく、なにやってんだか……。
 苦笑いで八十の背中を見送ると、お美代は長屋の中を菊の家へと向かった。

 位牌に手を合わせたお美代は、ゆっくりと顔を上げてため息をつく。
「お蝶さんの初盆に手を合わせてるなんて、あたしゃ今も信じられませんよ。こうやってる間も、“お美代、またぞろ何しに来てんだい”、なんてその辺から出てきそうな気がして……」
 寂しげな笑みを浮かべて菊も頷く。
「本当に……。あの人がいなくなってからというもの、毎日の張り合いもなく、いっそのこと私も早くお蝶さんの傍へ行きたいと思っていたところ……、思いがけずこの上も無い幸せをいただきました」
 お美代は急いで仏壇の前から菊へ膝を寄せる。
「ほんとによかった。驚きもしたけど、あたしも嬉しくって……」
 お美代と菊が両手を握り合わせたところに、入り口で派手に心張棒の倒れる音が響いた。

「まあ、八十さん……」
 顔をしかめて心張棒を立てかける八十は、菊の顔を見て照れ笑いを浮かべた。
「いってえ……、うっかり泣き所でこいつを蹴っ飛ばしちまいやしてね。あはは……」
「どうしたのですか、そのような裸足で?」
 不思議そうに覗き込む菊の後ろからお美代も身を乗り出す。
「あ、来やがった。こんだどうした? 急所で心張棒を蹴ったのかい、あははは……」
「ばかやろう、急所で心張棒蹴る奴がどこにいるんだ」
「ちゃんとここにいるじゃないか。だって、泣き所で心張棒蹴ったって……」
「何言ってやがんだ。泣き所ったらこっちに決まってるじゃないか」
 八十は案山子のように片足を上げて向う脛をぱちぱちと叩いた。
「それに、急所は相手を泣かすとこだ。自分が泣いてどうするんでえ」
「へん、分かるもんか。お粗末なもんで自分が泣いてんじゃないかい?」
「なんだとう!」
「も、もう、おやめなさい!」
 睨み合った二人にとうとう菊が割って入る。
「いったい裸足でどうしたのですか? 八十さん……」
「い、いえね、お蝶さんの初盆にせめて線香の一本もと飛び出したんですが……、いやもっとも、家を出た時きゃ裸足じゃありませんよ、なのにこいつが柄杓で水撒きやがって」
 後ろで舌を出すお美代を睨むと、菊は八十に笑顔を向けた。
「よく分かりませんが、八十さん、ありがとう……。何もお構いできませんが、さあお上がりください」
「お上がりくださいって、こいつの足汚い……」
 お美代が上がり段の前に立ち塞がった時、
「どうぞ、おみ足をお洗いください」
 一人の女性が勝手場から姿を現した。

 年の頃は三十半ばだろうか、水桶を抱えて優しく微笑むその女性に八十の視線が固まった。
 庶民の身なりはしていたが、その品のある美しさと立ち居振る舞いに、八十はのろま人形のようにぎこちなく頭を下げる。
「あ、あ、ありがとうございやす。菊さん、こ、こちらは……?」
 土間に桶を置くその女性に、菊は優しい笑みを浮かべた。
「私の娘です。二日前に国元から出て参りました」
「鶴と申します。どうぞよろしくお願い致します」
 菊と鶴は顔を見合わせて嬉しそうに微笑みを交わす。
 八十は左手をぽんと叩いた。
「あはは……なるほど娘さん、鶴……? ええ!! 娘、鶴~!!」
 思わず菊は笑いをこらえて、片手で口元を抑えた。
「菊さん、またですかい~!?」
 呆気にとられた八十の足元にお美代は腰をかがめる。
「あっははは……、まあそういうことだよ。とにかく話は一本線香を上げてからだ。さあ洗ってあげるから汚い足を出しな」
「ちぇ、ここはお前んちじゃねえぞ……」
 まだぶつぶつ言い合いながら、お美代と八十は菊と鶴に続いて長屋の六畳一間に上がった。

「お蝶さんが亡くなった知らせを聞いて、お城の母上が江戸のお母様のお世話をしなさいと送り出してくれました」
 鶴の笑顔に、今度は息を合わせたように八十とお美代が頷く。
「それは有難いことですが、じゃあ今お城の方は……?」
「弟が二十半ばを過ぎ、私に代わって城主に就きました」
「弟……?」
 八十は腑に落ちないつぶやきを漏らした。
「義理のお母様は未だ剣の衰えを知らず、時折藩の指南役さえ教えを乞うほどです」
「なるほど、じゃあ義理の母上様は芝居本で拝見した桔梗様……そういうことですかい」
「ええ」
 鶴が菊譲りの涼やかな笑みを浮かべると、八十はその顔にじっと見入った。
「いやあこんな美しい娘さんがいらっしゃるとは。菊さんによく似ていらっしゃるが……」
「羅紗様の面影も……」
 菊のつぶやきに八十は大きく頷く。
「羅紗様の面影も相まって、はあ………この美しさは鬼に金棒ですぜ」
「なんて言い草だい……。でもほんと、遠く離れた二人のお母様の宝物だね……」
 それまで赤い顔でうつ向いていた鶴が顔を上げた。
「いえ……、私には四人の母がおります」
「四人?」
 鶴は訝し気なお美代と八十に口を開く。
「ええ。私に命を与え育ててくれた丹波の母上、そして我が身の分身として私を生んでくれた江戸のお母様、身を賭して私を守ってくれた義理の母上、最後に私をこの世に取り出してくださった、そしてとうとうお会いすることのなかった江戸のお母様……」
 鶴はじっとお蝶の位牌を見つめた。
「いや、よく言いなさった!」
「お蝶さんも、きっとあっちで喜んでますよ……」
 喧嘩友達が肩を並べて目頭を押さえる。
「いいえ、今日は一緒にここで喜んでいるのが私には分かります。そしてお蝶さんの他に、もう一人……」
「そうか、今日は盆の中日。しかし菊さん、もう一人って……」
 菊は位牌の横に置かれていた朱色の房をかざした。

「それは、まさか紫乃さんという人の……」
 菊は再び房をお蝶の脇に供える。
「若狭から江戸に帰った二年後。路銀を貯めた私とお蝶さんはやっと会津を尋ねました」
「まさかその店が……、あったんですかい?」
 目を丸くした八十に菊は頷いた。
「私は紫乃さんの脇差をその方に預けて、そして紫乃さんの代わりに大願成就したその方から朱色の房をいただいて帰りました」
 お美代と八十は言葉もなく菊の顔を見つめた。
「でも帰り際にその主人が突然泣き伏して、やっぱりあの時、私が通るのを紫乃さんに教えなければよかったと……」
 とうとう耐え切れぬ様に菊は目頭を押さえる。
 慌ててお美代と八十は茣蓙から腰を浮かせた。
「どうか、どうかお泣きにならないで……」
「そ、そうですとも。きっとその成り行きゃあ、はなっから……、もうはなっから決まってたんで……」
「決まってた……?」
 問いかける菊の眼差しから、八十は目を伏せた。
「日向があるから日陰もある、紫乃さんは何か喜びが生まれるのを感じてたのかもしれやせん。もう自分が推し量れねえ、ずっと先の世に……」
 長屋の一室に座った四人を沈黙が包み込んだ。

「申し訳ありやせん、妙なこと言いだしちまって。でも人の世にゃあ色んなことがあって、馬鹿なあっしなんかそうでも思わなきゃあ、生きちゃいけないんで……」
「八十さん……」
 涙で赤くなった菊の目が微かにほころぶ。
「じゃ、じゃあ、菊さんと鶴ちゃんが江戸で一緒に暮らすことになるのも、もう決まってたっていうのかい?」
「お、おうともよ。まだ乳飲み子の鶴ちゃんがこの長屋を出てって、こんなに別嬪になって帰ってくるのも決まってたんだよう」
 四人の顔にようやく笑みが浮かんだ。
「ようし、じゃあ今夜は鶴ちゃんと四人のお母様の……」
 そういってお美代が目を輝かすと、八十はその場に立ち上がる。
「鶴ちゃんと四人のお母ちゃんのお祝いだ!」
「あいよ、そうこなくっちゃ!」
「まあ……」
 腕まくりしたお美代に菊と鶴は目を丸くする。
「さあ忙しくなってきたぞ。お美代、おめえは肴を用意してくれ。俺あ一足先に場所を取っとくからな。遅れんなよ!」
 片袖を引っ張り上げて斜に構えた八十に、慌ててお美代は声を上げる。
「ああもう! いったいどこ行くんだい!」
「川沿いに永大の方に追ってきな。途中に陣取ってるから。さあ、よっとっと!!」
「ああ、八十のおじちゃん、危ない!!」
 勢いよくたたらを踏んで出ていく八十に慌てて鶴が叫ぶ。
 途端にけたたましい音がして、
「い、いて~!!」
 急いで菊が表に目を向けると、両目を手で覆った鶴の向こうで、再び心張棒を蹴飛ばした八十が褌もあらわに往来にひっくり返っていた。
「あっははは、馬鹿だねえ。向う脛だけに弁慶のつもりか、そのまま心張棒掴んで行っちまったよ。あはははは……」
 お美代につられて、つい菊も隣で小さな笑い声を漏らした。
 そして同時に、菊は後ろから背中を叩いて笑い転げるお蝶を感じたのである。

「ちょいと兄さん……」
 長屋の門から川端に出た八十に、市女笠を被った一人の女が声をかけた。
「あの家のお身内かい?」
「ああ、身内同然に出入りしてるもんだが、お前さんは?」
「お蝶さんの初盆と聞いたもんでね。兄さん悪いけど、このお酒をあげちゃあくれまいか?」
「いや、そいつは有難てえ。これからちょうど……、そうだ、よかったらあんたも一緒にどうだい?」
「そりゃあ嬉しいけど……」
 女の市女笠の前が上がると、年の頃は四十半ばだろうか、思いがけず色気のある年増の顔が覘いた。
 八十の喉が小さく波打つ。
「もう随分ご無沙汰したんでねえ。今更顔を出しにくいんだよ。それに商売柄、反目になったこともあるしね」
「ねえさん、何もそんなこと気にしなくても……。世の中にゃよくあることでさあ」
 片手で傘を上げたまま、女は八十の顔をじっと見つめた。
 若いころの浮名も不思議ではない、殺気さえ覚える色気が自ずと漂ってくる。
「兄さん、今日はほんとに嬉しい日だよ。ねえ、このお兄さんにお酒とそれから干物もあげておくれ」
「あいよ」
 それまで気が付かなかったが、川に向かって荷物を広げていたもう一人の女が立ち上がる。
 八十は一合枡の付いた酒の甕と、縄に連ねた数匹の干物を受け取った。
 珍しい川魚の干物は、まるで泳いでいるかのように鋭い金串で貫かれている。
「おねえさんがた、ありがとうよ。間違いなく渡すからな。そうだ、せめて名前だけでも教えちゃくれめえか」
「いいや、あたしたちゃ名乗るほどのものじゃないんでね。それじゃ、兄さん……」
 傘を上げて笑みを浮かべた女たちは、二人とも寸分たがわぬ顔をしていた。

 二人に背を向けた八十は、何となく温かい気持ちで川の右岸を永大橋へと下り始める。
「へえ珍しいな、美人双子か……。……ん? ……双子!!」
 八十が慌てて振り返った先に、もう双子の姿はどこかへ消えていた。
 “そんな、たった今までそこにいたのに……”
 呆然と立ち尽くす八十の耳に、どこからか賑やかな三味と太鼓のお囃子が聞こえてくる。
 ふと見ると、穏やかな隅田川を大きな屋形船が下っていく。
 “元禄の世じゃあるまいし、どこのお大尽だい。豪勢なこった”

 並木駒形 花川戸
 山谷堀からちょいとあがり
 長い土手をば通わんせ
 花魁がお待ちかね
 お客だよ お客だよ
 (あいあい~ あいあい~)

 花の吉原 仲の町
 太鼓まっしゃでおとりまき
 浮いた浮いたであがりゃんせ
 お二階でお手がなる
 お酒だよ お酒だよ
(あいあい~ あいあい~)
               江戸端唄より

 そろそろ日も傾いて、中の灯りに障子が白く浮かび上がる。
 その時ふと障子が引き開けられたかと思うと、中から双子の顔が覘いた。
「お、おい……」
 酒甕と干物を抱えて、つい八十の足の運びが早くなる。
「おい、その船、ちょっと待ってくれ!」
 小走りになった八十に向かって、双子の笑みが向けられる。
「ああ、危ない。そんなに急いじゃだめ」
「うふふ、大丈夫。もっとゆっくりお出でなさい」
 手を振る双子を八十は必死で追う。
 しかしゆっくりとした川の流れにも関わらず、一向に八十は船に近づくことが出来なかったのである。

 永代橋のたもとまで来たところで、八十はとうとうそのふらつく足を止めた。
 荒い息を吐きながら欄干に身を持たれる。
 徐々に上がった息が治まって来て、目の前では茜雲が川面に揺れている。
 八十は甕から小さな枡に酒を注いだ。

 枡酒と 元禄偲び 夕涼み

 緩やかな川の流れも、いつの間にか追う八十から遠くへ船を運んでいく。
 次第に華やかなお囃子も聞こえなくなり、町の雑踏も静けさに沈む。
 香しい甘露が何故か切なく胸に沁みて、八十はゆっくりと目を閉じた。

「まあきれい! あれは何でしょう?」
 隣の声にふと目を開くと、延々と続く提灯の下で対岸を彩る朱色の帯が目に入った。
「ああ、あれですかい? あれは露店のほおづきでさあ」
 並んで欄干に両肘を乗せた鶴に八十は答える。
「やっぱりこんなとこで油売ってやがった」
 野太い女の声に八十は振り返った。
 小脇に折りを抱えて睨むお美代の隣で、菊が笑っている。
「あはは、めっかっちまったか」
 再び八十の顔に笑みが浮かんだ。
「さあ参りましょうか、八十さん」
「ええ、今思い付きやしたが、あのほおづき市の下に陣取りやしょう。きれいどころとお酒とほおづき、これ以上の趣向はありやせんぜ、あっははは……」
「まあ、おっほほほ……」
 急に勢いづいた八十に、菊と鶴も笑い声を上げる。
「ようし、なんだか元気がなくて心配したけど、今夜はあたしがお酌して、とことん付き合ってあげるからね。さあ、行こうか!」
 折りを持たない方の手で腕を抱き込むと、お美代は八十を引っ張って橋を登っていく。
「ああ! いや、何もお前に面倒かけなくったって……。それに俺あ綺麗どころって……」
「なんだって!」
「い、いや、なんでもないんだけどね……。き、菊さん、助けて!」
「あははは、お母様」
 先行く二人を笑いながら鶴は後ろを振り返る。
「おほほは、では………参りましょうか」
 お蝶の温かみが身の内に蘇るとともに、菊は数十年を遡った物語の終わりを感じた。

 日向にそして日陰に、時を超えて女たちは咲き、そして散っていった。
 しかしいつの世も変わらず、悲喜こもごもの思いを浮かべて川は流れていく。
 そろそろ提灯の灯が川面に輝きを映すなか、菊たちの姿はいつしか江戸の人混みの中に消えていった。

(完)

元禄江戸異聞 根来(六十四)目次【マッチロック・ショー】フェアリーズ・パーティ(Ⅰ)
「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(六十四)


「あれは……」
 色付いた山景色に揺らめくものを見つけて、二の丸の欄干で羅紗は目を瞬かせた。
 やがて揺らめくものは茶色の鳥に姿を変え、鷹匠小屋の軒先に留り付く。
 羅紗は欄干から身を乗り出して、鷹匠が鳥の足から何かを外す様子を見つめた。
「何か知らせが参ったのか……」
 そのつぶやきを聞いた桔梗も欄干ににじり寄る。
「昨夜、伊織様に何か動きがあったやもしれませぬ」
 口元を引き締めた羅紗は、桔梗の見守る前をいそいそと上座へと向かった。

 御前まで膝を擦ってにじり寄ると、初音は小さな紙きれを羅紗に捧げる。
 待ち兼ねた様に紙を広げた羅紗は、再び初音に向かって顔を上げた。
「これは?」
「おしどりが二羽、東に向け飛び立っております。おそらく陣内様はお蝶と共に江戸への帰路に就かれたものと……」
 羅紗の顔が輝いた。
 なるほど飛び立った二羽の渡り鳥の行く手には、雪を頂く冨士の山が小さく描かれている。
「やはりそうか、それは何より。しかしこの飛び立った鳥の下に描かれておる、盛り土の上に立った長刀は……?」
「さあ、それでございます……」
 首を傾げた初音の横で、大石桔梗が顔を上げる。
「羅紗様、御免!」
 受け取った紙に目を落とすなり、桔梗は眉を寄せて両目を閉じた
「帯刀殿……」
「き、桔梗、如何いかがした?」
 羅紗の問いかけに桔梗はゆっくりと目を開ける。
「ふとしたご縁から此度の一件にご加勢をいただいた方。おそらく最後の一戦で一命を落とされたものと………」
「な、なんと……」
 羅紗は目を潤ませた桔梗を見つめた。
「若く一途なご気性で、囚われの身になったお蝶さんを……、そのまま捨て置けなかったのでございましょう……」
 絞り出すような桔梗の声を聞きながら、羅紗は膝の上のこぶしを握り締めた。
「なんということ……。い、今となっては詮無いことじゃが、直ちに由縁の品を丹波へお迎えし、長刀の塚を供してお祭り申し上げるのじゃ」
「は……」
「しばし、お待ちを……」
 立ち上がろうとする桔梗を制して、両手を付いた初音が口を開く。
「恐れながらそのお役目、最後のご奉公としてこの初音にお任せください」
「初音………」
 羅紗と桔梗が見守る中、初音は穏やかな口調で話を続ける。
「この度の一件を通じて、私は己が新たな旅立ちを悟りました。最後のお勤めを終え、お城をおいとまさせていただこうと存じます」
「初音!」
 顔色を変えて腰を浮かせた羅紗に、初音は優しい笑みを浮かべた。
「まあ何でございますか、まるで子供のように……。若のためにご尽力いただいた方のお弔い、最後のお勤めとして丁重に取り仕切らせていただきます。そして………」
 羅紗を見つめるまなざしを、ふと初音は欄干の外へ向けた。
「私、構えて宴や見送りをいただくに及びませぬ。これまで羅紗様や鶴千代様のお菓子を城下へ買いに出た時のように門を出て参ります。もしその姿を見つけても、羅紗様、どうかその時のように黙ってお見送りくださいませ」
「は、初音……」
 思いがけず抱きすがった羅紗に、一瞬初音は驚きの表情を浮かべた。
「そうしていただければ、私も泣かずにお暇出来まする」
「物心ついてより今日まで、ずっと一緒であったのに……」
 羅紗の頬を伝う涙が、次々と初音の着物の襟に吸い込まれていく。
「上州は高崎より川沿いに榛名へ上る途中の、唐松という小さな村に帰ります。あなたや鶴千代様が遊びに来られるのを、楽しみに待っていますよ」
 そのまま震える肩を胸に抱いた初音は、羅紗の御髪に頬を寄せて微笑んだのである。


 熊川を目前にした山間の集落、宵闇の中にひなびた宿の明かりが瞬いている。
 低いうなり声を上げるお蝶の手を、枕元に身を乗り出した伊織がしっかりと握り締めた。
「お蝶、つらいだろうが我慢してくれ。もう一杯飲むか? あまり飲んでは体に障るだろうが、幾日かかってもよい。この苦しみから抜けて、お前が一緒に江戸に戻れたら……」
 宿の煎餅布団に身を横たえたお蝶は、額に脂汗を浮かべて身を戦慄かせた。
 お蝶の動きが伊織の手を揺るがして、湯飲みの酒が茣蓙に零れ落ちる。
 全身に骨が軋む様な痛みが走り、茹だるような暑さと身も凍る寒さが交錯するのだ。
「はあはあ……伊織様、もうあたしなんかほっといて江戸に帰って。どの道あたしと一緒にいたら、うぐう……ろくなことにゃなりゃしない……」
「ば、馬鹿なことを言うな。お前の苦しみは私の苦しみ、そうではなかったのか」
「そ、それは………、はあはあ……正気の時の話……。もう餓鬼に堕ちたあたしは、自分で自分を操ることさえ出来ないんだ」
「いいやお蝶、お前は私が知っているお蝶だ。今は薬のせいで地獄しか見えないだけ。そんなことで、一命を賭してお前を救った紫乃殿に申し訳が立つと思うのか。一日に一丁でも半丁でもいい、一緒に江戸に向かおう。いいな、お蝶!」
 ふとお蝶は怯えた眼差しを伊織に向ける。
「はあ………、薬で地獄に落ちた人間は親の首でも掻き切るといいます。い、伊織様、あたし怖い………。あ、あたしなんかほっといて、早く江戸に帰って!!」
 お蝶の訴えを聞いた伊織は、やおら浪人の髪の元締めに両手を添える

 艶のある黒髪が肩先に揺れ落ちて、菊となった伊織はお蝶に優しい笑みを向けた。
「お蝶さん、あなたがすることなら私は甘んじて受け入れます。その代わり互いの命が費えるまで、私をあなたの傍に居させて」
「き、菊様………」
「江戸に帰ったら、お美代さんたち長屋の身内だけで祝言を上げましょう」
「し、祝言……?」
「ええ、私とあなたの祝言を……」
「き、菊様!」
 お蝶は身を苛む苦しみも忘れて、夢中で菊に抱き付いた。
 静寂がすべてを包み込む山間の夜。
 二人の女は胸を締め付ける思いと共に、溢れんばかりの愛情を抱き締め合ったのである。


「桔梗……」
 薄暗い二の丸の天守で、羅紗は小さくつぶやいた。
「はい」
「まだ眠れぬのか……?」
「はい……」
 羅紗はゆっくりと夜具の上に身を起こす。
「無事鶴千代の一軒は落着したものの、それは多くの犠牲の上に成し得たことであった。それを思うと目が冴えてしもうて……」
 それを聞いた桔梗も三畳ほどの控えの間で起き上がる。
「桔梗、お前もこちらで近う休まぬか」
「そのような畏れ多い……」
「構わぬ……、いや、その方が心安く眠れそうな気がするのじゃ」
「羅紗様………」
 閨の重い静けさが燭台の灯に揺れる。
「お前が城内で春蘭を打ち取った時、私は曲者の術から醒め、そしてお前の心に触れた。お前はその時、私のことを思い浮かべたと……」
 桔梗は夜具の上で居住まいを正すと、そっと襦袢の襟元を整えた。
「江戸住まいの幼き頃より親しんだ仲で気付かなんだが、左内亡き後、武術で頭角を現したお前を私は心のどこかで眩しく見つめておった」
「羅紗様……」
 桔梗は身の内に小さく震えるものを感じた。
 そしてその小さな鳥のような震えは、次第に甘く温かく胸の内に広がっていく。
「私は互いの気持が分かったような気がした。桔梗、これからは私と共に日々を送ってくれまいか。そしてそれは役目としてではなく、私の伴侶として……」
 隣室からの返事はなく、寝所に夜の静寂が流れる。
 羅紗は静かに立ち上がると、桔梗の休む控えの間へと足を進めた。
 寝所へと手を引かれた桔梗は、黙って自分の夜具に手を伸ばす。
「よい桔梗。今宵は私と同じ夜具で………、いやか……?」
 桔梗は固い表情のまま自分の夜具から手を離した。
 いざなう羅紗の前で桔梗は再び足を止める。
「お待ちください。これを……」
 枕元に置いた大小の刀を掴むと、桔梗は羅紗に続いて寝所の敷居をまたいだ。

 夜具の脇に大小を置いたとたん、桔梗は背中から羅紗に抱かれた。
「桔梗……、互いにこの世の身が朽ちるまで共に暮らしてくれ……」
 前に回った羅紗の両手に右手を添わすと、返事の代わりに己が身の重さをそっと羅紗に預ける。
 そのままゆっくりと夜具に抱き下ろされながら、思わず桔梗は乙女の切ない吐息を漏らした。
 羅紗の豊かな胸のふくらみが自分の乳房に押し付けられ、もどかし気な手に襦袢の帯を解かれる。
 汗ばんだ肌に夜の冷気を感じた時、ふと桔梗は目を開けた。
「このまま女になって羅紗様に抱かれますと、その間私はあなたをお守り出来ませぬ。
 そのような時、もし曲者に襲われましたら如何なさいます?」
 思わず顔を起こした羅紗が、鼻先三寸に目を合わせて口を開く。
「お前と一緒に串刺しになれば本望じゃ。その時は手を取り合うてあの世に参ろうぞ……」
「まあ……!」
 何故か共に遊んだ幼いころを思い出して、桔梗の顔に笑みが浮かんだ。
「冗談でございますよ。女になっておりましても、きっと羅紗様をお守り申し上げます」
「こやつ……」
 悪戯っぽい笑みを返したかと思うと、羅紗は突然桔梗の唇を奪った。
「ふぐ!!」
「んぐう……」
 初めて唇を吸われる感触に、桔梗は細かく身を震わせた。
 そしてその若い情愛で羅紗に挑まれながら、桔梗も夢中でその身体に抱き付いていった。

「あ………、あううう~~」
 もうしとど濡れそぼったものを指で遊ばれて、はしたなくも桔梗は切ない女の呻き声を漏らした。
「桔梗、可愛い………んむむ……」
 再びねっとりと唇を合わされて、濡れた襞を一枚一枚めくり返すように股間を愛撫される。
 やるせなく身をくねらせると、たった今まで羅紗の口に吸い含まれていた乳首が、キラキラと蝋燭の灯を照り返して弾んだ。
 一度は亡き蔓の指で女の喜びを教えられた桔梗である。
 しかし羅紗が同じようにこのような喜びを与えてくるとは、桔梗自身想像もしていないことだった。
 そしてそれ以上に、抱き合う合間にふと感じる羅紗のものは桔梗の考えていたものとは違っていた。
 幼いころ、用を足すとき垣間見た羅紗のもの。
 自分にないものに不思議な感慨を覚え、また時には羨ましく感じたことさえあった。
 ただ、江戸家老である父左内に諭されて以来、再び羅紗のものに言及することはなかった。
 自分の女のものから想像しても、当時の羅紗の一物の延長が行為にふさわしく思われる。
 しかるに今太ももや尻に触れる羅紗のものは、太く熱く節くれだって、もっと猛々しいものに感じるのである。
 しかし羅紗の一物の大きさはさて置き、まだ乙女の桔梗が交尾の対象に不安を覚えるのも仕方のないことではあった。
 そしてそんな不安も薄らぐほど、初音や春蘭を通じて経験を積んだ羅紗の行為は、桔梗のうぶな五体を燃え上がらせていたのである。

 夜具の上で上向きにされた桔梗は、熱っぽい眼差しで羅紗を見上げた。
 柔らかい女の体が蝋燭の灯に浮かび上がり、自分より一回りも豊かな乳房が優しく揺れている。
 少し視線を下に向けると、白い下腹の肌に黒々とした茂みの中から殺気立ったものが突き立っていた。
 桔梗はゆっくりと目を閉じ、これから羅紗とひとつになるのを覚悟した。
「桔梗……」
 優しいつぶやきと共に、桔梗は柔らかい女の体に包まれた。
 互いの乳房が重なり合って、慎ましやかな弾力が羅紗の女らしい膨らみに抱かれる。
 目の前に羅紗のつぶらな瞳が迫った。
「は……!」
 その時桔梗の身体が小さく弾んだ。
 太股の肌に熱く固い塊が押し付けられ、肛門脇の柔らかみにふぐりの感触を覚えたからである。
 そのまま濡れそぼったものに訳も無く怒張の先が覗き込んで、思わず桔梗は羅紗の腰のくびれを両手で掴む。
「う……!」
 音を立てるように羅紗の鎌首を桔梗は咥え込んだ。
 思いがけず窮屈な感触に,慌てて羅紗は桔梗の頬に両手を添える。
「桔梗……」
 薄っすらと目を開けた桔梗は、腰のくびれから背中に回した両手で羅紗に抱きすがった。
 煙るように瞬く瞳を見つめながら、二つの女の唇がゆっくりと重なり合っていく。
「ふんん~~~」
 締め付けるように二人は互いの体を抱き合った。
 熱い吐息とともに、すべての垣根を越えて二つの女体がひとつに交わっていく。
 羅紗の熱い思いは桔梗の身体の奥の門まで抉り込んだ。
「んぐうう………」
 切ない痛みと共に桔梗は羅紗を受け入れた。
 もうそれからは身の内から吹き上がる情念のままに、獣のように抱き合いながら腰を振るい合う。
 桔梗と交わる喜びの前には、初音や春蘭と交わした肉欲の経験など何の役にも立たなかった。
「ふんぐうう!!!」
 泣きたいような快感に背筋を貫かれて、ふぐりから掴みだされるように精が怒張を駆け上る。
 深く唇を重ね合ったまま、他愛もなく羅紗は桔梗の奥深くに精を放った。
 熱い情欲の塊を幾度も桔梗の奥底に注ぎながら、桔梗の両手にきつく抱き寄せられる。
「はあ……はあ……」
 やがて荒い息を吐きながら羅紗が目を開けると、桔梗の澄んだ瞳がじっと見つめていた。
 何故かその瞳に優しい笑みを湛えている。
「うふふ、羅紗様……」
 桔梗の右手が優しく羅紗の額の汗を拭う。
「桔梗……」
 再び羅紗は桔梗の身体を抱き寄せると、その温かい潤みの奥まで身を埋めたのだった。


 琵琶湖を過ぎてようやく峠を上り詰めた。
「ほら、お蝶さん!」
 振り返った菊が呼びかける。
 後ろから追いついたお蝶は目の前の眺望に片手をかざした。
「東海道………。またやってきましたね」
 緩やかに大地が下るその先には、見渡す限りの大海原が広がっていた。
 伊織が女物の衣装に着替えた今は、もう誰が見ても仲の良い女同士の旅姿である。
「十年ぶりにまたこの景色を見ることになるなど、思いもしませんでした」
「ええ、ほんとに…………う………」
 菊に答えるなり、お蝶は眉を寄せてその場に座り込む。
「お蝶さん、大丈夫!?」
 駆け寄った菊に、お蝶は青白い顔を向けた。
「いやだ菊様ったら、十年前と同じ芝居ですよう。ほんとにあなたは人がいいんだから」
「いいえ、私には分かります。まだ無理をしてはなりません」
 懐から取り出した手拭いで、菊はお蝶の顔に浮かんだ汗を拭う。
「菊様、じゃあ早いとこお山を降りて、また岡崎で御馳走を食べましょうよ」
 それを聞いた菊も顔を輝かせた。
「お通さんや羅紗姫様も一緒に、あれは楽しい一夜でしたね」
「あっははは、そうと決まりゃあ、さあ参りましょう」
 菊の手を握って勢いよくお蝶は立ち上がる。
「御馳走食べてちと元気を付けなくっちゃあ、お美代と取っ組み合ってもやられっちまいますからね。あっははは………」
「まあ………ふふ……、あははは……」

 肩を並べて歩き出す二人を、折からの山おろしの風が後押しする。
「ああ! っと……」
「もう、だから危ないと言うのに……」
 まるで何事も無かったかのように、昼下がりの街道が二人を迎える。
 手に手を取って坂を下る二人の向こうに、普段は恥ずかし気な冨士のお山も遥かにその悠久の景色を披露していた。

(次回最終章)

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