Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #162
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#162



「ところでな、小まめ」

 京都祇園の置き屋の女将、辰巳としは、所属の舞妓、小まめの志摩子に声を掛けた。

「へえ、おかあ(母)はん」
「こんばん(今晩)のお座敷やけんど」
「へえ。そこの鏑屋(かぶらや)はんの……濱田の旦さんのお座敷どしたなあ」
「いや、それやねんけどな。急に別のお座敷、入ってな。嵯峨野まで行(い)てもらうことん(に)なった」

 道代の方が先に声を上げた。

「嵯峨野て……ほないな遠くまでどすか、おかあ(母)はん」
「せや。遠いゆ(言)うても、去年の、あんときの貴船よりゃ、まだ近いがな」

 志摩子が話を引き取った。

「ほらほうどすやろけんど……今夜の、濱田の旦さんはどないしはりますのん」
「ほ(そ)れはうちから連絡しとくがね。あんお人のこっちゃ。『急に都合、悪なりまして』ゆうても、なんぼでも堪忍してくらはりますがね」

 道代と志摩子は、同時に同じ言葉を返した。

「ほら、ほうどすやろけんど……」

 志摩子が言葉を継いだ。

「うち……あんお方のお座敷、ゆっくりでけますよって、ほんまにありがたいお座敷なんどすけどなあ」

 道代が同調した。

「そないですなあ、姐さん。なあんも気づかいしはらんでよろしおますからなあ」

 辰巳としは、二人をたしなめるように、少し言葉を強くした。

「何、ゆ(言)うといやすな。芸妓・舞妓にとって、お座敷は仕事場。男はんでゆうたらいわば戦場どっせ。そないお気楽なことゆうとって、どないしはりますのん」
「そらあ、そうどすけんど……」

 志摩子は、それ以上の言葉が出ない。
 道代が問いかけた。

「ほれでおかあ(母)はん。ほの、嵯峨野て……どなたはんのお座敷ですのん」

 としは、一呼吸おいて答えた。

「西陣の……相馬の旦さんや」
「えええー」

 道代と志摩子は、同時に声を上げた。志摩子のそれは、半ば悲鳴のようであった。

「なんやいな。二人そろて、ほないな大声……」
「せやかて、おかあ(母)はん……」

 志摩子の言葉は、今度もはっきりしない。
 道代が抗議した。

「おかあ(母)はん。ずっと前、ほれ、貴船に呼ばれたとき。あの、遭難しかけたときですがね。あんときが相馬の旦さんのお座敷でしたやろ。あん(あの)あと、お願いしましたやん。もう、あの旦さんのお座敷は堪忍しとくれやす、て」
「道。あないな遭難騒ぎ、そないたんびに(度々、毎回)あるかいな。ほれに嵯峨野は山ん中ゆ(云)うわけやなし」

 道代は珍しく頑強だった。

「いや、せやのうて(そうではなくて)おかあ(母)はん。小まめ姐さんは、相馬の旦さんそのものを堪忍しとくれやす、ゆ(言)うてはるんどす」
「相馬はんの何があかんの。別に、お座敷でてんご(悪戯、悪さ)しはったとかゆ(云)うわけやないんやろ」
「それはそうですけど……」

 道代は、一年前の冬の貴船山中でのことを鮮明に思い出していた。その直前の相馬禮次郎の座敷のことも。そして、あの折に志摩子が漏らした言葉……。


「あのお方の目つきはそないな可愛いもんやなかった。何ちゅうか、裸に剥く、通り越して、腸(はらわた)の奥まで覗かれてるような……」
「ほんまに気色(きしょく)の悪い。いっそはっきり、押し倒されでもした方がまだましやわ」

 「あのお方」とは、相馬禮次郎のことである。続けて志摩子はこうも言った。

「もう、あん(あの)お方の座敷は、金輪際ごめん(御免)や。覚えときや、道」

 それに対し、道代は、

「へえ……」

 と返すだけであった。


 志摩子の、相馬禮次郎への感覚は、単に好き嫌いとか、虫が好かないとかを通り越して、どこか生理的に受け付けないものがあるようであった。
 道代は、志摩子のその感覚を自らのもののように感じ取っていた。道代は、全く珍しいことに、なおも頑強に言い募った。

「ほれでも。ほれでもおかあ(母)はん。小まめ姐さんはあきまへんねん、相馬の旦さんのこと」
「道。あんたなあ」

 辰巳としの言葉には、苛立ちが加わった。たかが付き人風情が何を……という思いであったろうか。しかし、普段、言葉を返す事など全くない道代の、このしぶとい反発には、少したじろぐ色も見えた。
 普段は、大人しく従順な子犬。どこにいるのかわからないような日陰の子ネズミ。
 そのような道代に、ふいに引っかかれたような、手を噛まれたような……。
 窮鼠猫を噛む。
 そのような思いに、よけいに苛立ちを助長されたのだろうか。辰巳としの声が少し大きく、甲高くなった。

「ええかげんにしいや。相馬の旦さんのお座敷を断れるわけないんやで。ええか、小まめ。道もよう聞き(よく聞きなさい)。相馬の旦さんはなあ、小まめ。あんたにとってはほんまの旦さんなんやで」
「ホンマの……旦さん……」

 つぶやきのような、問いかけのような小まめの言葉には、すべてが呑み込めた、という含みが見られた。そこには、自分の人生のこれまでと、今後の行く末がすべて見通せた、という達観めいた色合いもあった。
 旦那である、ということは祇園の舞妓、小まめに必要なすべての掛かり(費用)の面倒を見る、ということである。またそれは、小まめの志摩子の人生はすべて相馬禮次郎のものである、ということも意味していた。
 そういうことへの感慨をすべて飲み込み、かろうじて押し出した志摩子の言葉であった
 道代には、そのような小まめの志摩子の心中が、手に取るように、我が事のように感じられた。

「姐さん……」

 志摩子と道代は、共にそれぞれの一言を最後に、固く口を噤んだ。それ以上、何の言葉も出ない二人であった。
 辰巳としも押し黙る。
 部屋は静まり返ったが、戸外からの物音も聞こえてこなかった。


「ほな、支度しよし(しなさい)。でけたら声掛け(掛けなさい)。車、呼ぶよってな」

 しばらくして辰巳としが声を掛けた。ことさら声を上げることもなく、いつもの、淡々とした声音だった。
 志摩子が返答した。

「おかあ(母)はん。車は結構どすえ。電車で行きますよってに」
「なに、ゆ(言)うといやすの。あんた、舞妓姿で電車てなこと……」
「たまにはよろしいやん、電車も。ちょっとした息抜きになりますやろ」
「せやかてあんた……。目立ちまっせ。じろじろ見られまっせ」
「よろしいやん。人様に見られんのん、うちらの仕事みたいなもんですやん」
「そないなことゆ(言)うて、あんた……」

 辰巳としは、助けを求めるように、道代に目を遣った。
 道代は、いつものように目を伏せ、志摩子の傍らにひっそりと控えているだけであった。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #161】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #163】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. 電車が好きっHQ
    • 2016/08/23 08:56
    • 前回(#161)では……
       随分と和やかな雰囲気だった、道代・小まめコンビと、おかあ(母)はんの辰巳とし。今回は一転、何やら不穏な状況になってきました。
       その原因は、これまでちらほら話題に上っていた「相馬の旦さん」。西陣の織物商、相馬禮次郎その人です。
       この人物が「志摩子の恨み」につながるわけですが、そのあたりが明かされるのは、もう少し先になります。
       
       それにしても、祇園から嵯峨野へ、電車で行こうという小まめの志摩子。一般人?ならいざ知らず、舞妓はんが電車て……大丈夫かなあ。
       まあ、このあたりの志摩子の心中は、次回で語らせていただきます。どの電車に乗せるかも、現在検討中(まだ考えとらんのかい!)。

       いずれにしましても、にわかに緊迫する“志摩子昔語り”。次回以降を乞う、ご期待。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2016/08/23 19:43
    • 祇園から嵯峨野
       関西以外の人には、距離感がわかりにくいですよね。
       けっこう乗り換えは多そうですが、時間的にはさほどではないのでは、
       でも、舞妓の格好で電車の乗り換えは難儀でしょう。
       今だったら、行く先々で観光客に記念撮影をせがまれて大変ですよね。
       チャリってのは、どうでしょう?

    • ––––––
      3. 京都市交通局HQ
    • 2016/08/23 21:55
    • 祇園から嵯峨野まで
       直線距離で10㎞ほどです。
       歩いて3時間。
       自転車だと……まあ、各種データはあるようですが、時速15㎞としますと、40分程度。
       わたしなら電車ですね。
       電車でのルートは色々考えられますが、これは次回のお楽しみ。

       まあしかし、電車に乗る舞妓は……テレビのロケでもない限り、無いでしょうね。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2016/08/24 07:24
    • お座敷
       舞妓が出向くのは、祇園あたりの料亭だけかと思ってましたが……。
       遠出することもあるわけですね。
       置屋は、送迎しないんですね。
       それじゃ、デリヘルだわな。
       やっぱり、ハイヤーですか。
       でも、あの帯では、背中をシートに預けるわけにもいかないですから、大変でしょうね。

    • ––––––
      5. 思い付きハーレクイン
    • 2016/08/24 12:30
    • >遠出することもある
      と、思います。

       ……さうでござるかしかとはぞんぜぬ(何を言っておる)

       そんなこともあるかなあ、で書かせていただいております(テキトーな奴)。
       まあ、お話ですから。
       いいじゃないの、楽しければ。
                (佐良直美『いいじゃないの幸せならば)


      >あの帯では、背中をシートに預けるわけにもいかない

       ああ、これは気付きませんでした。
       確かに……。
       ですがそうなると、電車の座席も同じですよね。
       大変だなあ、舞妓はん。
       ですがですが、よく考えたら、和装の女性って皆、同じですよね。

       ご苦労様です。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2016/08/24 19:46
    • 川床へは……
       呼ばれたでしょうね。
       鴨川ならすぐ近くですが……。
       貴船は、どうですかね?
       でも舞妓なら、鴨川より貴船の方に行きたがったと思います。
       鴨川は、暑すぎるでしょうから。

       電車なら、立って行けばいいだけです。

    • ––––––
      7. ♪夏は河原のHQ
    • 2016/08/24 23:13
    •  ↑夕涼み(『祇園小唄』)

      >鴨川は、暑すぎる
       お、ようお分かりで。
       舞妓はんが最も嫌うお座敷が、夏の鴨川の床だそうです。
       鬘、被ってんのにクーラーはない、扇風機もない。蚊はわんさと来る。
       風は、そよとも吹けへん。
       「もう、堪忍しとくれやす、旦さん」 


      >鴨川より貴船

       ほのとおりどすえ。
       貴船は夏。
       貴船にも川床がおますけんど、ここの涼しさは鴨川の比やおへん。ぜひいっぺん、おこしやす。
       ほのかわり、冬の貴船はほんまにさぶうおす。堪忍しとくなはれ。
       ほないなとこに呼ばはる相馬の旦さん。
       ほんまに、いけずなお方どすわ。

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2016/08/25 07:24
    • 舞妓さんに川床が不評だと云うのは……
       わたしが伝えた情報ではなかったけ?

       クーラーのない昔だったら、屋内の座敷はもっと暑くて……。
       川床の方が、まだマシだったんでしょうね。

       貴船は、嵯峨野と違うんでないの?

    • ––––––
      9. 京都市観光課HQ
    • 2016/08/25 08:48
    •  ↑これ、以前にやったかなあ

      不評川床
       お、そうでしたかいな。
       近頃、どうも物忘れが……。

      貴船と嵯峨野
       もちろん、ぜんぜんちゃうとこです。
       ははあ、また読み飛ばしおったな。

       嵯峨野は今回、貴船は一年前のお座敷どすう(小まめ)。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2016/08/25 20:04
    • ははぁ
       あのハイヤーの場面は、相馬の旦さんのお座敷どしたか。

       でも、何でぜんぜん違うところで、席を設けるんですかね。
       舞妓を呼ぶということは、もてなす側ですよね。
       当然、馴染みの料亭になります。
       貴船にも嵯峨野にも、ホームグラウンドがあるということですか。

    • ––––––
      11. ハーレクインの旦さん
    • 2016/08/25 21:22
    • 嵯峨野にも、ホームグラウンド
       そのあたり、次回以降で明らかになります。
       貴船は、馴染みの料亭ですが、嵯峨野は……。
       乞う、ご期待!


      >ハイヤーの場面は、相馬の旦さんのお座敷どしたか

       そのあたり、ちゃんと書いておるぞ(『アイリス』#149)。
       きちんと読むように。
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