Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #146
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#146



 京都最大の花街、祇園。京の都の顔とも云える女の街はまた、最も格式の高い花街とされている。
 京都には、祇園甲部、祇園東、上七軒、宮川町、先斗町の五つの花街があり「五花街」と呼ばれている。かつては嶋原を加えて六花街であったが、嶋原はその衰退に伴って脱退し、五花街とは一線を画している。
 祇園甲部を筆頭とする五花街は、春と秋にそれぞれ舞踊の公演会を行う。花街により京おどり、鴨川をどりなど呼称は異なるが、普段のお座敷とは異なる大きな催しであることはどの花街でも同様であった。

 道代と、小まめの志摩子が属する祇園甲部では、春の公演を「都をどり」と称している。年間最大の一般行事であり、祇園の只中にある祇園甲部歌舞練場を会場として開催される。
 花街・祇園が総力を挙げて取り組む公演であり、多くの芸・舞妓が出演するが、それでもやはり、志摩子のような若手が起用されるのは珍しいことであった。
 公演当日まで、さほど日数はなかった。志摩子の舞いの師匠、井上万寿子の稽古は厳しさを増したが、小まめの志摩子は音を上げなかった。日々のお座敷や、置屋の雑用が軽減されるわけでもなかったが、志摩子には、いつぞやの様に逃げ出す気配は、全くなかった。


 都をどりの当日になった。
 出たての舞妓には、会場でも雑用は山ほどあった。その一つに、上客に茶をふるまう接待がある。開演前に行われるこの茶会は“急須に茶わん”ではもちろんない。釜をはじめ茶道具一式を用意して行う、いわゆるお点前である。客が多人数のため、会場は座敷ではなく椅子席、点前も椅子に座り卓上で行われる。
 茶を点てるのは芸妓、茶を客席まで運ぶのは舞妓である。小まめの志摩子は、このお茶運び役を仰せつかった。華やかな舞妓衣装に身を包み、釜前と客席を幾度も往復する志摩子を、道代は、会場の隅で見守った。

(大丈夫かなあ、小まめちゃん)

 そう心配したのは始めのうちだけで、しばらくたつと何の心配もいらないことが道代にはわかった。志摩子の立ち居振る舞い、その挙措の一つ一つは見事に形になっていた。それでいながら、流れるような優雅さには何の無理もない。余裕さえ感じさせる志摩子の動きであった。
 この一年の鍛錬が凝縮されたような、そんな志摩子の動きであった。

(きれえ〔奇麗〕やなあ、小まめちゃん)

 いつしか、道代は志摩子の動きに見惚れていた。魂を抜かれる。そのような道代の感慨であった。

(小まめちゃん……)
(いいや、もう……)
(姐さん、ゆ〔言〕わなあかんなあ)
(小まめ、姐さん……)

 道代はその時、一年前の家出騒ぎの直後、置屋の女将、辰巳としに叱られたことを思い出した。


 小まめの志摩子は、今夜だけは、と雑用を免除され、さっさと寝に付いていた。としの部屋に呼ばれたのは道代だけであった。部屋に入るなり、道代は敷居際に縮こまり、両手を畳に突いて深く頭を下げた。ほとんど土下座の姿勢であった。

「すんまへんどした、おかあ(母)はん」

 一呼吸おいて、としは道代に声を掛けた

「なあ、お道」
「へえ、おかあ(母)はん
「まあ……顔上げ」

 道代は両の肘を張り、力を込めて持ち上げるように上体を起こした。しかし顔は上がらず、視線は伏せたままであった。

「へえ、おかあはん」
「秀はんから、大体のとこは聞いたけどな」

 秀は、道代と志摩子を探し出し、連れ帰ってくれた下働きの秀男である。

「まあ、鴨の河原てなとこ……さぶ〔寒〕かったやろに」
「へえ……いえ」
「まあ、小まめも風邪とかひいとらんようやし、よかったと思とこか」
「へえ」
「しやけどな、道」

 としの口調が、少し硬くなった。

「へえ」
「一歩まちごうたら、えらいことになっとったかもしれん」
「へえ」
「ええか、道」
「へえ」
「あんたも、うちに来てだいぶになる」
「へえ」
「まだようわからんこともあるやろけど、なんとのうはわかってきてるやろ」
「あ、へえ……」

 としが何を言いたいのか道代にはよくわからない。とりあえず返事をするしかなかった。

「あの子はなあ、普通の舞妓やないんや。そのあたりは、あんたにもなんとのう、わかるやろ」
「へえ……」

 言われてみて、道代は腑に落ちた。としの言いたいことがなんとなくわかったような気がした。

(小まめちゃんは……なんや特別扱いみたいなとこ、ある)

 舞妓の役目の一つに、先輩芸妓の世話、手伝いがある。
 舞妓と芸妓とは、面倒を見、見られ、世話をやき、やかれ、頼り頼られ、時に親しく、時に反発し合いながら、いわば義姉妹のように縺(もつ)れあいながら花街で生きていくのだ。
 しかし、小まめの志摩子には、そのような関係の先輩芸妓は全くいなかった。これは、花街の仕来たりとしてあり得ないことであった。

「あの子はなあ、道」
「へえ」
「預かりもんなんや」
「あずかり、もん……」
「せや、大事なあずかりもんなんやで」
「大事な、あずかり……もん」
「せや、その時がくるまではな、傷一つつけたらあかんのや」
「とき、が……」

 としの声が、さらに厳しくなった。

「せや。あんたをあの子につけてんのはそのためや。普通やったら、舞妓に付き人なんぞおるわけないがな。そのあたりはもう、あんたにもようわかるやろ」
「へ、へえ」

 としの目が、射貫くように道代を見据えた。
 合わせるように、道代はとしの目を見返した。

「あの子を好き放題させとったら、あのたち(性質)や。いつかえらいことんなる。しやけど、好きにさせるしかないんや」
「……へえ……」
「まあ、あんたが小まめを止められるわけないんも、ようわかっとる」
「へえ」
「しやから、あんたの役目はあの子に手綱をつけることやない。あの子を傷つけん、それだけや」
「へえ」
「ええか、道」
「へえ」
「あんたの役目は、何があってもあの子を守る。それだけや」
「へえ」
「今後、たとえば今日みたいなことあったら、あんたは自分の着てるもん、みいんな脱いであの子に着せるんや」
「へえ」
「そういうこっちゃ。ええか、わかったか」

 この時道代は、自分の運命と出会ったのかもしれない。竹田志摩子という運命に。
 道代は、背筋を伸ばし、両腿に両の手を突き、改めてとしの目を見た。

「へえ。よう、わかりました」

 床の間で小さな音が立った。
 道代ととしは、同時に床の間を見やった。
 一輪挿しから落ちた椿の花が転がっていた。深紅の花弁が一枚、少し離れて落ちていた。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #145】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #147】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. ベートーベン5番HQ
    • 2016/05/03 09:43
    • 運命と出会う
       大仰な、で、どこかで聞いたような言い回しをしてしまいましたが、お道の道代と、小まめの志摩子の深い結びつき。切っても切れない(これも手垢のついた……)間柄、というのを汲み取っていただければ、と思います。
       この先、料理屋「花よ志」の仲居頭と女将に収まる二人ですが、それまでにどのような出来事、紆余曲折があるのでしょうか。実はまだなーんにも考えていないんですね。
      「どうしたもんじゃろのう」

       今回のラストシーンは、椿の落花です。
       物語の進行とは何の関係も無い、ちょっとしたエピソードです。例えば、志摩子の転落を暗示している、てなことでは全くありません。単に作者の趣味、一度書いてみたかっただけでおま。

       ご存じのように、桜などとは異なり、椿は花弁に分かれてはらはらと舞う、という風情のある散り方はしません。花ごと丸ごと、「どてっ」とか「ぼてっ」とかいう落ち方をします。まあ、豪快、とも云えますが、いわゆる「風に舞う無数の花びら」「落花狼藉」なあんて風情はありませんわな。

       その落ち様が「首が落ちるようだ」ということで、入院患者の見舞いには持っていくものではない、とされています。
       また、侍は同じ理由で椿を嫌った、という話もあるようですが、これはどうもデマのようです。だって椿三十郎なんて有名人もいますからねえ、架空の人物でござるが。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2016/05/03 12:34
    • 椿と山茶花
       花の散り方で、簡単に見分けられます。
       椿は丸ごと落ちますが……。
       山茶花は、花びらがバラバラに散ります。

       新潟の椿は、今もまだ咲いてます。
       ソメイヨシノの前から咲いて、ヤエザクラが散ってもまだ咲いてる。
       ここまで花期が長いと、ちょっと有り難みが無いですね。

       新潟の椿では、雪椿が有名です。
       雪に潰されるので、地べたを這うような樹形をしてます。
       寒さに耐える花という印象を持たれるかも知れませんが……。
       真逆です。
       雪の布団にくるまって、ぬくぬくと冬を越すのです。
       寒風にはことのほか弱いです。
       北関東などに植えたら、まず育ちません。

    • ––––––
      3. 花の街ハーレクイン
    • 2016/05/03 14:32
    • ↑♪美しい海を見たよ あふれていた花の街よ
        輪になって輪になって 踊っていたよ
        春よ春よと 踊っていたよ    (唱歌『花の街』)

      山茶花
       “ヤマチャバナ”と読むガキが、いたようないなかったような……。
       とりあえず、↓これですね。

      ♪さざんか さざんか さいたみち
       たきびだ たきびだ おちばたき
                  (童謡『たきび』)

       ↓こんなのもあります。

      ♪赤く咲いても冬の花
       咲いてさびしい さざんかの宿
                  (大川栄策『さざんかの宿』)

       椿なら↓これ。

      ♪アンコ椿は アンコ椿は
       ああ すすり泣き
                 (都はるみ『アンコ椿は恋の花』)

       雪椿ときますと↓これ。

      ♪花は越後の 花は越後の 雪椿
                  (小林幸子『雪椿』)

       裏の空き地のシロツメクサの花が盛りです
       人はなぜ、花に憧れるんでしょうね。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2016/05/03 18:25
    • 本日は暑かった
       新潟市の最高気温は、29.1度。
       三条市は32.7度で、全国最高だったそうです。
       強烈な南風が吹き荒れました。
       木々の新芽がチリチリになるほどです。
       ほとんどの田んぼに、水が張られてました。
       明日から週末までが、田植えのピークでしょうね。

    • ––––––
      5. ♪玉苗植うるHQ
    • 2016/05/03 19:54
    • 田植え
       こちらはまだ田起こしも終わってません。
       毎年思いますが、こちらの方が早くてええと思うのですがどうでしょう。
       品種の違いかなあ。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2016/05/04 07:39
    • こちらでは……
       ゴールデンウィークが、田植えのピークです。
       理由は2つ。
       ひとつは、コシヒカリが早稲であること。
       もうひとつは、労働力が確保出来ることです。
       田植機に乗る人は一人ですが……。
       大量の苗を苗代から田んぼまで運ぶ積み下ろしは、一人じゃ無理です。
       ゴールデンウィークは、子供夫婦が、都会から孫を連れて帰って来るのです。

    • ––––––
      7. ♪早乙女が……HQ
    • 2016/05/04 10:39
    • ↑裳裾濡らして

      早稲に労働力
       で、田植えが早い、と。
       納得です。

       しかし、農家の婿(または嫁)をもらうと大変ですねえ。あとを継がなくても、労働力に勘定されるわけですか。

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2016/05/04 12:37
    • 本日、車で走ってたら……
       もう、田植えの始まってる田んぼがありました。
       まさに、“夏は来ぬ”です。

       のちのち、田地田畑は子供夫婦のものになるのですから……。
       手伝いを嫌がったりしたら、バチが当たります。
       都会で生まれた孫には、良い体験学習にもなるでしょう。

    • ––––––
      9. 取り越し苦労HQ
    • 2016/05/04 15:10
    • >のちのち
      >田地田畑は子供夫婦のもの
       なるほど。
       先行投資というやつですね(ちょっと違うぞ)。
       アテ外れにならなければいいですが。
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