2016.3.8(火)
(遅いなあ、あやめ)
(何してんねやろ〔しているのだろう〕)
(まあ、今日はおそ〔遅く〕なるとはゆ〔言〕うとったけど……)
(今日は野田さんの四十九日や、て)
(ほんで〔それで〕)
(ほんで、供養の料理、作る、て)
(ほんで、野田さんを送る、て)
(しやから〔だから〕、今日は久しぶりにちゃんと〔きちんと〕した料理つくる、て)
(ほんで、何日も前から下準備してる、て)
(ゆ〔言〕うとったけど……)
(ほ〔そ〕れにしても遅いなあ)
(しやけど〔だけど〕……)
(大丈夫かいな)
(そないな〔そんな〕ことして)
(もし狂犬にばれたら)
(どないな〔どんな〕ことになるか)
(心配やなあ)
(なんや〔なんか〕ちょっと)
(さぶ〔寒く〕なってきたなあ)
(布団、かぶ〔被〕ろ)
(しやけど〔だけど〕)
(まだ十月やで)
(こないだ〔この間〕まであつい暑いゆ〔言〕うてたのに)
(しやけど)
(あやめとの付き合いもなご〔長く〕なったなあ)
(ゆうても〔と言っても〕まだそないに〔そんなに〕はならんか)
(えーと、去年の暮やろ、初めておうたん〔会ったのは〕)
(で、いま十月やさかい〔だから〕……)
(あ、なんや〔なんだ〕十か月か)
(はは、けーさん〔計算〕は、し易いな)
(ほんでも、とつき〔十月〕ゆうたら)
(まだ、一年足らず、か)
(まだ、そないなもんかいな)
(長いようで短い、ゆ〔云〕うやつやな)
(しやけど〔だけど〕あやめ)
(大丈夫かいな)
(まいばん毎晩)
(厨房つこて〔使って〕)
(料理作って)
(いつかばれるんやないやろか〔発覚するのではないか〕)
(なんせ、あいつは狂犬や)
(犬や)
(犬やったら、鼻はき〔利〕くやろ)
(見つかったら、ただやすめへん〔ただでは済まない〕)
(なんせ〔とにかく〕あいつは狂犬や)
(なにしよるか〔するか〕わからんわ〔わからない〕)
(ほんでも〔だけど〕なあ)
(あやめに料理すな、ゆ〔言〕うてもなあ)
(ふん)
(子供の前に、お菓子お〔置〕いて)
(おもろ〔面白〕そうなおもちゃ〔玩具〕おいて)
(手ぇ出すな)
(ゆ〔言〕うのんと、おんなじ〔同じ〕やもんなあ)
(止〔と〕められんわなあ)
(ほんでも〔だけど〕)
(天才やな)
(あやめは料理の天才や)
(そらまあ)
(うち〔私〕もそないに〔そんなに〕いろんなもん〔色々なものを〕食べたわけやない)
(ゆうたら〔云ってみれば〕料理は素人やけど)
(ほんでも〔それでも〕)
(ほんでもわかるわ)
(あの子は天才や)
(絵ぇでゆうたら……)
(せやなあ)
(モナリザの)
(えーと、ダビンチ、やったかいな)
(彫刻やったらロダンや)
(これはすぐ出るわ)
(教科書に写真載ってるやん)
(かんがえるひと、やな)
(そういや〔そう言えば〕)
(かんがえるひとが顎のせてん〔顎を載せている〕のは)
(右手か左手か、なんちゅうクイズあったなあ)
(あれ? どっちやったかいな〔どちらだったろうか〕)
(音楽やったらベートーベン)
(これしかないやろ)
(音楽室にようけ〔沢山〕)
(へんちくりんな〔変な〕かっこ〔恰好〕の人の絵ぇ)
(掛けたぁった〔掛けてあった〕けど)
(ベートーベンは一発で覚えたわ)
(あれが天才の顔、ゆ〔云〕うんやろなあ)
(センセは努力の人やぁ〔人だ〕とかゆわはった〔などと仰った〕けど)
(小説やったら……)
(はは、これはあかんわ)
(本なんかいっこも読んでへんもん)
(ほんま〔本当〕は、あやめに勉強し、やなんて)
(ゆ〔言〕われへんねんけどなあ、うち〔私〕)
(おっそい〔遅い〕なあ、あやめ)
(なにしとんねやろ〔何をしているのだろう〕)
(そら、料理しとるんやろ〔しているのだろう〕けど)
(だいじょうぶかいな)
(ほんでも〔それでも〕あの子は掛け値なし、天才や)
(何べん〔幾度〕か)
(クズ野菜とかで作ったもん〔物;料理〕食べぇゆうて〔食べなさいと言って〕)
(もてきて〔持って来て〕くれた)
(ゴミ、食わすんか〔食べさせるのか〕て)
(ゆ〔言〕うたら、笑いよったけど)
(こっちも笑いながら食べたけど)
(一口食べて、こけそう〔転倒しそう〕になったわ)
(もう、ほかす〔捨てる〕ような材料やで)
(ほ〔そ〕れであの味や)
(今のあやめ)
(あれで、まともなもん〔真正の材料〕つこたら〔使えば〕)
(どないな〔どのような〕料理でけるんか〔出来るのか〕おも〔思〕たら)
(なんや、ゾクってなったわ)
(うま〔美味〕い、なんちゅうもんや〔などというものでは〕なかった)
(えーと)
(鬼気迫る、ゆ〔云〕うたかいな)
(そないな感じやった)
(あの子)
(なんでこないなとこ〔このような所;「花よ志」〕におるんやろ〔いるのだろう〕)
(いつまでおるんやろ)
(料理人ゆうたら〔といえば〕)
(狂犬だけになってしもた〔しまった〕し)
(若いのん、えーと、なんちゅうたかいな〔なんという名前だったか〕)
(ほ〔そ〕れはおるけど)
(客、どんどん減っとるしなあ)
(いま来とる客、あらぁ〔あれは〕半分病気やな)
(狂犬に誑かされとるんや)
(はは、狂犬病や)
(犬の作ったもん)
(うまい美味い、ゆ(言)うて食べに来とるんや)
(ほらぁ〔それは〕)
(美味いか不味いかゆ〔言〕うたら)
(美味いんやろ)
(食べたことないけど)
(食べとうもない〔食べたくは無い〕けど)
(志摩子のやつ)
(何考えとるんやろ)
(この店、潰す気ぃや〔潰す気だ〕としか思えんわ〔思えない〕)
(ほんまに〔本当に〕遅いなあ、あやめ)
(ほんまに、なんでこないな〔このような〕店に、いつまいでも〔いつまでも〕おるんやろ〔いるのだろう〕)
(料理させてもらえんて)
(おっても〔いても〕しゃあないやん〔いても仕方がないだろう〕)
(や〔辞〕めて、どっかよそ〔何処か他に〕いきゃええやん〔行けばいいじゃないか〕)
(あやめやったら、どこい〔行〕ても務まるやん)
(なんやったら〔なんなら〕自分の店、出したらええやん〔いいじゃないか〕)
(ほ〔そ〕らあの子、金持ってへんやろけど)
(給金は、みいんな〔全て〕料理の練習につことった〔使っていた〕し)
(ほんでも〔それでも〕うち〔私〕、多少のたくわえ、ある)
(ここにおったら〔いれば〕金、使うことないもんなあ)
(ほ〔そ〕れで、うち〔私〕とあの子で店やるんや)
(はじめは、ちっこい〔小さい〕とこ〔店舗〕でええやん〔いいじゃないか〕)
(バラックみたいなとこでええやん)
(大阪の※千日前〔せんにちまえ〕に)
※大阪市中央区の繁華街。いわゆるミナミの一角。道頓堀に隣接。
(そんな店あんの〔あるのを〕うち〔私〕知ってる)
(天丼しか出せへん〔天丼だけの〕店や)
(屋台に毛の生えたような店や)
(カウンターだけ、椅子は……みっつよっつ〔三つ四つ〕しかない)
(そんな、ちっこい〔小さい〕店や)
(ほんでも〔それでも〕朝はよう〔早く〕から無茶苦茶はやっとる〔繁盛している〕)
(そんなんでええやん〔そういう店でいいじゃないか〕)
(あやめが料理で、うち〔私〕がお運びや)
(あっちゅうまに〔たちまち〕客、付くがな)
(ほ〔そ〕れで儲けて、店おっき〔大きく〕するんや)
(そのうち、若い子も入れて)
(いや、そらあかん〔それは駄目だ〕)
(二人や)
(二人の店や)
(二人だけや)
(二人だけでやるんや〔やるのだ〕)
(いつまいでも〔ずっと〕二人でやるんや)
(あやめは料理だけしとったらええんや〔していればいい〕)
(ほかの事はみいんな〔全て〕うちが引き受けたる)
(わあ、なんやわくわくしてきたわ)
(よおし、すぐあやめと相談や)
(ほんで、こないなとこ〔処;「花よ志」〕出て行くんや)
(何やかんや〔何も〕言わせへん〔言わせない〕)
(志摩子や狂犬がぐじゃぐじゃ言いよったら)
(それこそあとあし〔後足〕で砂かけておん出りゃ〔飛び出せば〕ええんや〔いいのだ〕)
(ほれにしても、あれ)
(あの、宝田のおっさん怒らし〔せ〕た、あれ)
(あら〔あれは〕絶対、志摩子の企みや)
(志摩子が……せやなあ)
(お花あたりをつこ〔使〕て)
(小細工しよったんや)
(お道のおばはんも噛んどる〔加わっている〕かもしれん)
(ほ〔そ〕れに宝田のおっさん、あっさり乗せられよって)
(あやめがそないな〔そのような〕料理、作るかい)
(おひさん〔太陽〕が西から出たって)
(そないな〔そのような〕こと、あるわけないやないか)
(考えんでも、わかるこっちゃ〔ことでは〕ないか)
(ほ〔そ〕れを宝田のおっさん……)
(あっさり、は〔嵌〕められよって)
(だらない〔だらしない;情けない;頼りにならない〕やっちゃ〔奴だ〕)
(しやけど〔だけど〕わからんのは)
(志摩子の腹のうち〔内〕や)
(なんでや)
(なんで〔なぜ〕そないな〔そのような〕こと)
(せなならんねん〔しなければならないのだ〕)
(あやめの評判、落として)
(なんの、ええことあんねん〔いいことがあるのだ〕)
(まさか、評判上がったあやめへの)
(客にちやほやされるあやめへの)
(ただの妬み、ゆうことやないやろ〔と云うことではないだろう〕)
(志摩子のおばはん、そない〔そのような〕単純な人間やない)
(ほれとも狂犬の妬み……いや、それも無いな)
(わからん〔わからない〕)
(わかん〔わかる〕のは、あやめを潰す企みや、ゆう〔という〕ことだけや)
(こらあ〔これは〕店おん出る〔出て行く〕前に、探っといた〔探っておいた〕方がええかな)
(なんせ、志摩子狂犬のコンビや)
(悪だくみコンビや)
(あと後、あやめのためにならん〔為にならない〕かもしれん)
(あいつらの弱み、何とか掴んで)
(保険にしといたほうがええやろ)
(ようし)
(やったる)
(名探偵久美、や)
(あれ?)
(これ、いつかどっか〔どこか〕で)
(ゆ〔言〕うたなあ)
(あやめにゆうたんやったか)
(なにしとんねん〔何をしているのだ〕あやめ)
(なんぼなんでも〔いくらなんでも〕遅い)
(もう、夜ぉ明けてまうで〔夜が明けてしまう〕)
(あ)
(帰ってきよった〔帰って来た〕)
コメント一覧
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1. 独り芝居ハーレクイン- 2016/03/08 12:03
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アイリス初
久美が主役、と云いますか、久美の視点での巻です。
しかもすべて独白、地の文は1行もありません。
(何考えてんねん、おっさん)
いえ、何も考えてはおりません、ただの思い付きです。ただ、久美を書き込みたかった、という動機はあったんですが、全編独白、といいますのは当初考えもしていませんでした。まさに「ただの思いつき」なんですね。
問題は、独白は( )で括り、さらに京都語→標準語への翻訳が加わりましたので、まあうっとうしいこと。管理人さんには「読みづらい」、と一刀両断にされちゃいました。
ただ、(独白)も“翻訳”も、以前から行っていたことでありまして、今さらやめるわけにもいかなかったという事情をお汲み取り頂き、辛抱強くお付き合い賜りますよう、伏して御願い奉ります。
(おのれは読者を小バカにしとんのかい)
とんでもございません、そのような、ああた。
今後、同様の企画で明子あたりを考えております。
(もうやめとけ)
ともあれ、ようやくあやめが戻ってきました。
久美の独白、次回ももう少し続きます。
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2. Mikiko- 2016/03/08 19:46
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誤植が無いか確かめるため……
最後まで読みましたが、途中から腹が立ってきました。
京都弁は、そのままで通じるフレーズまで翻訳してあるので、鬱陶しさが募ります。
半分以下に出来ると思うんですがね。
今回、最後まで読み通したのは、わたしだけではないのか?
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3. 誤訳誤植誤答誤解HQ- 2016/03/08 21:00
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“翻訳”
どこまでが全国区なのかよくわかりませんのでね、ついつい丁寧につけてしまったようです。こういうのを「アホほど多い」と云いますが、←これは大阪語でしょうか。
読み方にコツがあるんですよ。「あ、これぁわかるわ」と思ったら、翻訳部分はすかさず飛ばし読みする、これですね。
関西弁もずいぶんと広まったようですが、問題はそのイントネーションです。
もちろん、文章にしてしまうと関係ないわけですが、よそ者!?!の発音を想像しますと、「いーっとなります」。(←は「イラッとくる」ですね)。
実際にはテレビなんかでよく聞くわけですが、関西土着民ならともかく、関東系の芸人さんなんかのを聞いてますと「やめてくれや」と思うこともしばしばです。現在のNHKの朝ドラでも、はっきり言って無茶苦茶ですね。方言指導のスタッフがいるはずなんだけどなあ。
ともあれ、今回の「久美独白」。
えらく不評のようですが、わたしは楽しく書かせていただきました。典型的な「独善」「自己満足」「思い込み」「勘違い」ということでしょうか。
しつこいようですが、次回ももう少し続きます。
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4. Mikiko- 2016/03/09 07:35
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飛ばし読み
そういう選択を読者に強いる文章を、“読みづらい”と云うのです。
↓いっそのこと、アクセント記号も付けますか。
http://www.akenotsuki.com/kyookotoba/accent/iroiro.html
読みづらさ、さらに倍増ですね。
自動車のナビで、関西弁のやつがありますよね。
あれのイントネーションは、正確なんですかね?
↓今では、関西弁以外の方言もダウンロードできるようです。
http://www.smart-acs.com/contents/downloadvoice/product/
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5. ♪答えいっぱつHQ- 2016/03/09 11:45
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アクセント表記
なるほど。
読むのもそうですが、書くのも手間ですな。
締め切りに間に合わなかったりして。
「作者、アクセント記号の添付に手間取ったため、1回お休みいただきます」なーんちゃって。
関西弁のナビ。
残念ながら聞いたことありませんが、おそらく“テキトー関西弁”でしょう。関東芸人のよりひどかったりして。
関西弁はむつかしおまっせ。
それに……聞いてるドライバー、ナビと喧嘩始めるんやないかね。
「そのくらいわあっとる。いちいちやかましわ」てなもんやないか、なーいか、どーとんぼりよ。
で、書かずもがなのことを書いちゃうんですが、URLをいちいちコピーするの、面倒(めんど)いよね。以前はクリック一発で入れたんだけどね。まあ、何ともならないんでしょうがねえ。
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6. Mikiko- 2016/03/09 19:47
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ナビ
自動運転の実現には、当然、ナビの技術が必要になるんでしょうね。
クラリオンとかのカーナビ会社は、莫大な収益が期待できるんじゃないでしょうか。
NISAで買うかな。
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7. NATOでもないHQ- 2016/03/09 21:15
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NISA
少額投資非課税制度。
何の関係が。
NASAが商売始めた、とか。
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8. Mikiko- 2016/03/10 07:21
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NISA口座
2月に申し込みをし、先日、開設の通知が来ました。
お金がないので、何も買えませんが。
でも、世の中、何があるかわかりませんから。
1千2百万円拾って、お礼を120万円もらえるかもしれません。
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9. ビンボ人ハーレクイン- 2016/03/10 16:30
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お
ホンマの話ですかいな。
意外と小金を貯め込んでるんですなあ。
♪コガネムシは金持ちだ~
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10. Mikiko- 2016/03/10 19:47
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金はないと……
書いたではないか。
口座を開くだけなら無料なのだ。
totoで100万円当たる可能性もありますから。
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11. 蜀山人ハーレクイン- 2016/03/10 22:59
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なんだ
金なしホーイチかい。
金もないのに口座を開いて、何のいいことがあるのだ。
あ、呼び水か。
●世の中はいつも月夜と米の飯それにつけても金の欲しさよ
(太田南畝)