2019.7.13(土)
観衆のどよめきはすぐには収まらなかった。
それもそのはず、敗れたとはいっても一国の美しい姫君が一糸まとわぬ姿で縛られ今まさに処刑に臨もうとしており、さらには本来あるべきところに大切な恥毛がないと来れば、誰しも驚いて当然であった。
「おおっ、なんと! あのお姫様“かわらけ”ではないか?」
「ほんとだ! つるつるだ~! 大事な場所に毛が生えてねぇぞ」
「もしかしたらお役人に剃られてしまったために毛がないのではないか!?」
「うんだうんだ。おれもそう思う。見た感じでは十七、八ぐらいだし、毛無しというのも妙だからな~」
「それにしても、あのくっきりとした縦線、ううっ、たまらないね~」
「おれの女房のように黒ずんでねえし、ふぁ~生娘はたまらないなあ~」
「きれいな桜色したべっちょだねえ。うっとりするよ~」
「それにしても素っ裸にひん剥かれてどうされるんだんべい?」
「裸のまま槍でぐさり……じゃねえのか? ああ、可哀相に……」
「んだら何も裸にひん剥くことはないのにね」
「きれいなお姫様なのにもったいないねぇ」
観衆の中には当然幼い子を連れた母親の姿も混じっていた。
「かあちゃん、あのおあねごちゃん、裸だ」
「これ、あんまり見るでねえ。さあ、帰るぞ」
母親はありさ姫を眺めている子供の腕を引っ張り、そそくさとその場を立ち去ろうとしていた。
この日、ありさ姫にはもう一つの不幸があった。
当時同じ磔刑と言っても、男性と女性とでは磔台の構造が少しだけ異なっていた。男性を磔刑にする場合は磔台を『キ』型に組み上げ、両手両足を広げた形で縛りつける方法がとられていた。それに対して女性の場合は磔台を『十』の型に組み上げ、股を広げられることはなかった。これは死に行く女性へのせめてもの配慮がなされた証であろう。
ところが、今回ありさ姫に用いられた磔台は男性用の『キ』型であった。これは前代未聞の出来事であった。
実は前夜、黒岡と下川が密談を交わし、ありさ姫を死ぬ直前まで徹頭徹尾辱めようという非情なる約束がなされたのであった。
はじめ磔台に固定された時は両足は揃えて十文字に縛られたが、黒岡の号令一下小者が磔台に駆け寄り両足の縛めはいったんは解かれたが、両足は約四十五度の角度に拡げられすぐさま新しい縄で固定されていく。
これにはありさ姫も狼狽した。
「くっ! 何をするのじゃ! やめろというに!!」
先程まで両足を揃えていたため女陰は辛うじて縦線の形状を保っていたが、大きく開脚されてしまったために亀裂はぱっくりと割れ、まだ誰にも見せたとのない内部の肉襞までもさらけ出してしまった。
うら若き女性が全裸で処刑されるというだけでも耐えがたいことなのに、そのうえ陰毛はすべて剃られてしまい、さらには観衆の前に秘所の内部までさらけ出さねばならないと言う屈辱。
ありさ姫の苦しみはいかばかりであろうか。
処刑される直前までなぜこれほどの辱めを受けなければならないのだろう。
ありさ姫は口惜しさに打ち震え涙を流した。
世間の娘達よりも気位が高く、しかもいまだかつて男性と肉体的な契りも結んだこともない。
そんな清廉無垢なありさ姫にとっては死ぬより辛い過酷な刑であった。
身体の隅々まで観衆に見られている……
透き通るような白い肌に突き刺さる視線……
それは好奇に満ちた視線……邪悪な視線……
目のやり場がない苦しみ……
「ううっ……み、見ないでください……恥ずかしき……」
今消えてしまえるならすぐにでも消えてしまいたい。
白い肌は羞恥のため真っ赤になっている。
ありさ姫は悲しげに嗚咽をもらした。
黒岡は羞恥に打ちひしがれているありさ姫に対しさらなる追い討ちをかける。
「愚将野々宮新八郎の娘だけあって、実に嫌らしい身体をしておるのう~。わっはっはっはっは~! 皆の者! この淫乱なる姫の身体を処刑前に頭の先から尻の穴までしっかりと目に焼きつけておくがよいぞ!」
「くっ! おのれ~黒岡めっ!! 私だけならまだしも父を愚弄するとは持っての他!! この身死すれどもゆめ許しはせぬぞ!!」
「ふん、ほざけ!!」
そこへ下川が口を挟んだ。
「黒岡殿、ありさ姫を淫乱呼ばわりするのはいささか可哀想ではござらざるや?」
「いかでじゃ?」
「聞くところによると姫は未だ生娘とか」
「がっはっはっはっは~! ふむ、確かに、昨夜、剃毛を行いし役人どもの話によると姫は違わず生娘なりと言っておったのう。男を知らぬまま冥土に行かねばならずとは哀れじゃのぅ」
「ふむ、それは不憫でござるのう。黒岡殿、では例の品をぜひ使いたまえ」
「おお、そうなりし、そうなりき。下川殿より頂戴せし祝いの品をこれへ持ってまいれ」
黒岡が合図を送ると、家臣が白い絹に包んだ長尺物を大事そうに運びこんできた。
長尺物は丈がおよそ十尺(3メートル)ほどあった。
黒岡がうなづくと家臣は白い絹を取りのぞいた。
そこに現れたのは一本の立派な槍であった。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2019/07/13 06:33
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生娘
今さらながらふと疑問に思ったのですが……。
「生娘(きむすめ)」とはなんでしょう?
いえ。
もちろん、意味はわかってます。
しかし、なぜそれが、「生(なま)」なのか。
どうやら、「生」の意味に真相が含まれていそうです。
↓「漢字ペディア」より(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0003833400)。
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①はえる。はやす。草木が芽を出す。「生長」「野生」
②うむ。うまれる。/(ア)子がうまれる。子をうむ。「生殖」「出生」/(イ)物を作り出す。「生産」「再生」/(ウ)物事が起きる。「生起」「発生」
③いきる。いかす。「生活」「生存」
④いのち。「生命」「余生」
⑤いきながら。うまれつき。「生別」「生来」
⑥いきいきしている。「生色」「生鮮」
⑦なま。熟していない。「生硬」「生熟」
⑧き。純粋な。まじり気のない。「生糸」「生一本」
⑨くらし。なりわい。「生業」「平生」
⑩学問・修業をしている人。「生徒」「書生」
⑪男子のへりくだった自称。「小生」
⑫うぶ。ういういしい。
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ありましたね。
⑧「生糸(きいと)」「生一本(きいっぽん)」。
「生娘(きむすめ)」も、まさしくこれです。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2019/07/13 06:33
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生娘(つづき)
なお、これは何かで読んだ話ですが、調べ直さずに書きます。
間違ってるかも知れません。
昔は、流行病などで、若い女性が亡くなることが少なくありませんでした。
結婚前の女性は、「生娘」であることが普通です。
で、「生娘」のまま死ぬと、成仏できないという俗信があったようなんです。
それじゃ、どうするか。
あの世への引導を渡すのは、お坊さんの役目です。
通夜の晩……。
お坊さんが、亡くなった娘を「生娘」から卒業させてやったわけです。
早い話、屍姦ですがな。
これを聞いただけだと、「役得」としか思えませんが……。
そういう場合じゃないことの方が多かったと思います。
早い話、変死などの場合です。
水死とかね。
死んでから日数が経ってるとか。
カラスにつつかれた後とか。
よほどの覚悟がなければ、勤まりませんよ。
えり好み出来ないんですから。
そもそも、死後硬直してたら、出来るんですかね?
脚をバキバキ折ってからやるんでしょうか?
ていうか、お坊さんは……。
どういう状態の遺体が相手でも、勃つ必要があるわけです。
これは、生半可な修業では出来ないことだと思います。
ひょっとしたら、悟りを開くより難しいのでは?
続きはさらに次のコメントで。
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3. Mikiko- 2019/07/13 06:34
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生娘(つづきのつづき)
あと、「生娘」を調べてて、面白いことがわかりました。
↓『隠語大辞典』より(https://www.weblio.jp/content/%E3%81%8D%E3%82%80%E3%81%99%E3%82%81)。
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厳重に鎖鑰を施したる土蔵のことをいふ。処女にして容易に破られないといふ意味からいつたもの。〔犯罪語〕
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時代小説に出て来そうですね。
さらに、興味深いことが判明。
時代劇を更に遡り、日本の古代。
須佐之男命が、八岐大蛇を退治するときに使った酒。
「八塩折之酒(やしおりのさけ)」。
これの製法です。
原料である米粒は、女性が潰してました。
どうやって潰したか。
噛むんです。
どうも、「醸(かも)す」は「噛むす」から来てるらしいんです。
でも、どんな女性でもいいわけじゃありません。
婆さんじゃ、歯がありませんし。
神に供えるような酒を「噛むす」のは……。
「生娘」じゃなければなりませんでした。
この酒を噛む生娘たちを統括する女性を「刀自(とじ)」と呼びました。
わたしが「刀自」という呼び名を知ったのは、横溝正史の小説だったと思います。
古い家の女主人を指す言葉でした。
年代を経るうちに、そう転じて行ったんでしょうね。
ここまで読めばお分かりかと思いますが……。
「杜氏」は「刀自」が由来だそうです。
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4. Shy- 2019/07/13 08:24
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「生娘」の分析、ごくろうさまです。
同義語だと思いますが、時代劇で「未通女(おぼこ)」という言葉をたまに聞きます。
ほかには、処女 ・ 手入らず ・ 乙女 等もありますが、
個人的には「未通女」という言葉が好きです。
「まだ通っていない女」……何が通っていないというのでしょうか(笑)
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5. Mikiko- 2019/07/13 18:11
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本日は……
出勤してきました。
特別に忙しかったわけではありません。
来週の月曜日に、振替休日を取るためです。
前日の開票速報を、遅くまで見るつもりなので。
今、思いついたのですが……。
トンネル工事では、その種の戯れ言が使われそうな気がします。
地下水がダダ漏れになる場所もありますしね。