2018.1.18(木)
木戸口を二三歩出たところで伊織は後ろを振り返った。
「世話になった。この通り、心より礼を申す」
深々と頭を下げた伊織の横で、鶴千代も慌ててそれに倣った。
「もうどうかそのような……。では若様、お気をつけて……」
笑みを向けられた鶴千代は、透き通った眼差しで老婆を見上げる。
「お願い、大石を助けて」
膝を折って腰を落とすと、老婆は鶴千代と同じ高さに顔を向き合わせた。
「今朝も大石様の脈は確かでした。女と言えども剣の修行で鍛えたお体。瞬間切っ先の勢いを押さえられたのでしょう、手裏剣は急所の手前で止まっておりました。もし命に縁があれば、また元気になられるかもしれません」
鶴千代は目の前の猿飛にうなずいた。
「大石様の忠義に応えるためにも、無事お国元へお帰りください」
「わかった」
鶴千代に再び微笑むと、猿飛は立ち上がって伊織に顔を向ける。
「丹波の伊賀衆には伝令を送っておきました。早晩お城にもその旨知らせが届くかと……」
「かたじけない」
「そう急がずとも国境まで四、五日の行程。陰ながらそこまでは私共が見守っております。どうかお気をつけて」
伊織は万感の思いで猿飛を見つめた。
「すまぬ。この例はいつか必ず……」
猿飛は片手で伊織の言葉を遮った。
「ここも店仕舞いとなり、もうお会いすることはないでしょう。いやそれから……、次は反目でお会いすることがないよう、心より祈っております」
そう言うと、老婆は伊織と鶴千代に深々と頭を下げた。
大原の街道沿い。
もう京の町中まで小一日の道のりである。
一件の商家の前に、夕日で数人の長い影が伸びていた。
暖簾を確かめた秋花が眩し気な顔で振り返る。
「ここですか?」
「はい、大旦那様から声をかけていただいたお店です。もう京も目の前になりましたが、こちらで一晩お世話になることに致しましょう」
三笠屋の嫁、史は秋花から鷹へと目を向ける。
「よろしくお願い致します。では荷車と人足連中は裏から屋敷内へ……」
鷹の返事に小さく頷き返すと、若妻は暖簾の中へと入って行った。
物見高い眼差しをさ迷わせながら、早めの夕餉を済ませた春花が部屋へと戻って来る。
入り口の戸襖を半分開きかけて、春花はその手を止めた。
廊下の奥から何やら湯を使う音が聞こえたからである。
春花は左手を上げて、つんと上を向いた鼻先を脇の下に近づけてみる。
八の字に寄せた眉の下に苦笑いを浮かべると、春花はその足を廊下の奥へと向けた。
戸襖から板戸に変わったところで春花は足を止めた。
湯の音はこの中から聞こえてくる。
“ふふ、誰だか分からないけど、一緒に風呂を浴びてやるか……”
春花は片頬を緩めて板戸に手をかけた。
“あれ……”
何か言いかけた春花を、振り返った鷹の眼差しが制した。
「戸を閉めて」
顎をしゃくって春花を招き入れると、再び引き戸の隙間から洗い場の景色に目を戻す。
横目で機嫌を窺いながら、春花は後ろから鷹の肩に顎を乗せて中を覗き込む。
一坪ほどだろうか、そう広くない洗い場に二つの女の裸が見えた。
“お蝶のお仕込みか……”
春花はその愛くるしい瞳を輝かせた。
少々お腹の肉がたるみ始めた載寧が、洗い場に座り込んだお蝶の身体にへちまを使っていた。
長い洗い髪が肩から胸元に乱れてはいるが、豊かな胸の膨らみから腰のくびれ、そして引き締まったお尻に続くその身体は、雪の様に白い肌と相まって見事な美しさである。
立ち上る湯気の中で憂いを含んだ目を床に向けた風情は、まさに三十路半ばの女の色気が匂い立っていた。
「どうだ? きれになって気持ちいだろ? さ、両手上げて……」
縛られた両手を頭上に上げさせると、載寧は糸瓜のぬめりを手にまとわせた。
「ここ糸瓜は痛いから手でするがいいね」
後ろから載寧の厚ぼったい両手がお蝶の両の下を滑る。
「あ……」
脇の下からわき腹を撫でられたお蝶は小さな声を上げた。
「ふふ、こそばいか? でも気持ちいだろ? もうお前のこと全部分かるよ」
そう耳元で囁きながら、載寧の手はわき腹のくびれから脇の下に戻らずに、誇らしく盛り上がった両の乳房へと滑り上がる。
「うく……」
霜降りの裸身が戦慄いて、お蝶の乳房が細かく弾んだ。
「た、鷹……!」
肩に顎を乗せたまま生唾を飲み込むと、春花は我知らず鷹の身体を背後から抱きしめる。
「もう、あんたは……。仕込みの邪魔になるじゃないか」
「だあってえ~……」
そう言いながら、春花は鷹の背中に胸の膨らみを押し付けた。
「お願い……。あれを……、あれを頂戴……」
両手を上げたまま、お蝶は悲し気な眼差しで後ろの載寧に訴える。
「だめだめ。明日の朝まで我慢するんだよ」
白い首筋を載寧の指が撫で上がった。
額に貼り付いた乱れ髪を除けて、載寧はお蝶の濡れた長い黒髪を肩から胸元へ整えてやる。
「大丈夫。またあたしが、あれのことは忘れさせてあげるから。………ね?」
お蝶の前に廻ると、正対したお蝶の両手を降ろさせてその輪の中に頭を入れる。
そのまま洗い場の上に胡坐をかいた載寧は、足の上にお蝶の裸体を抱え込んだ。
「さあ、おいで」
「あ、いや……」
太い二の腕で抱き寄せると、豊かな乳房や腹の柔らかみを隙間なくお蝶の身体に押し付ける。
「うふふ、いやなのは最初だけね? もう何回も極楽行ったでしょ? さあほら……」
「や、やめて……いや……」
「ね、ほらほら……ね……」
首を振って逃げるお蝶の抗いも、載寧の二の腕の中では限りがあった。
「あ……く! やめ……て……あ……んぐ……」
左手で胴のくびれを抱かれたまま、右手で顎を掴まれたお蝶の唇が載寧の唇にふさがれる。
押し付けた唇が少しずつ馴染むにつれ、お蝶の眉間に刻まれた縦皺が薄らいでいく。
やがて顎を掴んだ右手がゆっくりと離れて、二人の唇は重なり合ったままであった。
載寧はずるずるとお蝶の舌を引きずりながら唇を離した。
「あんたはもう、あたしの女」
小鳥の様に二三度唇をついばんだ後、もうためらうことなくふたりの唇は深く重なり合う。
左手でお蝶の腰のくびれを抱きながら、載寧は右手に掴んだ風呂桶で洗い場にお湯を流した。
そのままお蝶の身体を洗い場の上に押し倒す。
さらに狂おしく唇を重ねられながら、お蝶は熱に浮かされた様に焦点の定まらぬ瞳をゆっくりと閉じたのである。
「はあ、はあっ……はあっ……」
洗い場の上でお蝶は胸の奥から熱い息を吐き出していた。
「はあはあ……ほら、まだ往けるだろ? ほらほら……」
載寧の太い指がお蝶の黒々とした茂みを激しくえぐり込んでいる。
「はあはあはあっ……ああ……あはあ……!!」
「はあはあ……また往くのかい? いいよ何度でも……ほら……」
載寧の右手が忙しなくお蝶を追い立てていく。
繋がれた両手で載寧の背中を抱くと、お蝶は戦慄きながら下半身を洗い場からせり上げた。
「あくううう!!」
白濁した露を滴らせながら、お蝶は載寧の右手に合わせて激しく腰を振る。
「あ………ぐ……」
首に筋を立てて、そのまま目くるめく快感で白い身体に痙攣が走った。
数呼吸極みに縛られたお蝶は、再びゆっくりと洗い場の上に背中を戻す。
そのまま息を整える暇もなく唇を重ねられて、お蝶は大きく胸を波打たせながら荒い鼻息を載寧の頬に吹き付けた。
そしてねっとりと舌を絡み合わせながら、載寧の指が白く泡立ったお蝶の陰毛に優しく戯れていた。
鷹と春花は息を呑んでその様子に見入っていた。
「ふう……」
「だいぶ仕込みも進んだようだ。この調子なら京に着いてから働いてもらうにも、そう手間はかからないかもしれない……」
鷹は何故か寂し気な眼差しを風呂場から逸らした。
その様子にも気づかず、春花は火照った顔を鷹の耳元に寄せる。
「ねえ鷹……」
後ろから春花の両手が鷹の胸を掴んだ。
浴衣に着替えていた鷹の身体は、鮮やかに春花の両手に乳房の弾力を伝える。
「何するんだい。あたしはそんな遊びをしてる暇はないんだよ」
身をひねって鷹が春花の手から逃げた時、
「誰かお風呂をお使いですね?」
廊下から女の声が聞こえた。
「え、ええ、若奥様」
外に向けて顎をしゃくった鷹にうなずくと、春花は目を輝かせて廊下へ出ていく。
「奥様、今うちの使用人たちがお風呂をいただいておりまして。着替え場でも一人待っていますので、もうしばらくは暇がかかりそうでございます」
申し訳なさそうな春花に、史は優しい笑みを浮かべる。
「そうですか。では私は後で使わせていただきます。どうか遠慮なく、ごゆっくり……」
立ち去ろうとした史の右手を春花が掴んだ。
「あの、奥様……」
「な、なんでしょう」
史の白い顔にほんのりと茜が射した。
悪夢の様な劣情の契りを交わしてしまった相手である。
「使用人が使ったお風呂を後で若奥様がお使いになるなんて……。どうでしょう、外のお風呂に参りませんか……?」
「外に……?」
「この近くに待合などございませんでしょうか?」
「え、ええ、あるにはありますが……」
春花はわざと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「では、そこへ二人で参りましょうよ」
「で、でも……」
途惑った表情を浮かべた史の耳元に春花は顔を寄せる。
「私、奥様と二人だけでお会いしたかったんです」
「え?」
史は無言のまま春花から一歩身を引いた。
その手を再び引き寄せながら、春花はさらに史に囁く。
「あの晩分かりましたよ。奥様は女の匂いに包まれるのがお好きだと……」
「し、失礼します」
歩き去ろうとした史の両手を春花の両手が掴んだ。
「あの晩若奥様は、汗ばんだ身体に抱かれて熱い露を流されました。そして女の小水を浴びながら喜びに堕ちられたではございませんか……」
史は春花から顔を背けた。
「今日は道中を終えたばかりで私も汗ばんでおります。たぶん、奥様も同じかと……」
春花は音もなく史に身を寄せた。
「お風呂はもっと汗をかいた後が気持ちようございます。さあ……、さあ奥様、参りましょう……」
そんな春花の囁きに、史はその長いまつげを薄っすらと開いたのである。
半刻も経たぬ待合の一室、史の股間で春花の右手が狂おしくその動きを速めていた。
全裸で布団に横たわった史の肉感的な身体に、やはり一糸まとわぬ伸びやかな春花の裸身が覆いかぶさっている。
「はあはあ……ああ……ああもういけません……」
そんな史の泣き声に春花は顔を上げる。
両足で史の太ももを挟み込むと、つんと上を向いたお尻を忙しなく動かし始めた。
「もうだめ? ……はあはあ……もうだめなの? 奥様……」
「ああだめです……ああだめ………お願い……もうだめよ!!」
「はあ……いいわ奥様……一度引導を渡してあげる……」
そう言うと春花は熱い息を吐く史に唇を重ねた。
待っていたように史は両手で春花の背中を抱きしめた。
春花はその右手に筋を立ててさらに史を追い立てていく。
「ふん! ……ふん……んん~~んぐうう!!!」
重ね合った唇の間で史が強ばった呻きを上げると、唇を吸い離した春花が自分の脇を史の顔に押し当てる。
「あくう……!!」
甘酸っぱい春花の体臭を胸いっぱいに吸い込みながら、史は極みの快感にその豊満な裸身を貫かれた。
春花の指を締め付けたまま、悩まし気に捩った身体が幾度か思い出したように弾む。
「ああ……ああ! あたしも!!」
史の反応を全身で受け止めながら、春花は濡れたものを史の太ももに激しく擦り付ける。
「ああ……!!」
泣きたいような刺激が背筋を駆け上がって、春花はきつく史と抱き合いながら極みの快感に身を震わせていた。
「遅くなりました。もうお風呂に入りましょう……」
布団の上で抱き合いながら、史は目の前の春花に囁いた。
いつものように春花は悪戯っぽい笑みを浮かべて、少し上を向いた鼻先を史の鼻先と触れ合わせる。
「うふふ、まだもう少し後で……。それとも史様はもう入りたいのですか?」
春花の問いかけに目を伏せると、史は無言のままその顔に笑みを漂わせた。
「うふふ……。今度は私血道が上がって、史様にお小水をかけてしまうかも。かけてもいいですか? 史様……」
目を伏せたまま、史の顔が赤く染まる。
「可愛い、史様……んむ……」
そう言って唇を合わされた史は、返事の代わりに春花の背中に両手を回して、強くその唇を重ね返したのである。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2018/01/18 07:50
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時代劇のお風呂シーンと云えば……
↓何と言っても、『水戸黄門』の由美かおる。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6213079
https://www.youtube.com/watch?v=yx1aOAhiluU
これが無くなってから、『水戸黄門』の視聴率も下がり……。
打ち切りに繋がったらしいです。
昔のテレビって、平気で裸が出てましたよね。
バラエティとかでも。
今は、映画くらいしかないでしょう。
由美かおるさん、現在67歳だそうです。
大阪の梅花高校を中退して、芸能プロダクション入り。
あんまり可愛いんで、通学が大変だったんじゃないですかね。
大阪の泉陽高校に通ってた沢口靖子さんもそうだったそうです。
彼女の乗った客車は、常にぎゅう詰めだったとか。
由美かおるさんは、こちらの戸外では、ごくたまに見かけます。
アース製薬のホーロー看板です。
ネグリジェ姿で、脚を抱えて笑ってます。
隣に必ず、キンチョールを構えた水原弘がいます。
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2. ハーレクイン- 2018/01/18 11:57
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大原
>京の町中まで小一日
比叡山の西麓に位置します山里、大原。
京の町中の北西部、北大路通と東大路通の交わるあたりまで、距離にして三里ちょい、というところでしょうか。
大原からですと、まさに小一日の道のりです。
大原ときますと大原女(おはらめ)ですが、今はもう絶滅したでしょう。
お風呂シーン
そういえば、『アイリス』では一度もやっていないなあ。
『リュック』では書いたんだけどね(第九場;浴室、と傍若無人の番宣)。
〔♪京都~大原三千院~HQ〕
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3. Mikiko- 2018/01/18 20:02
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京都~大原~三千院~
修学旅行で行ったような気もするのですが、記憶にありません。
常寂光寺や化野念仏寺は、嵯峨野でしたっけ?
行ったのは、嵯峨野だったかな?
嵯峨野と大原は、離れてるんですかね?
大原女は、花などを売り歩いた行商の女性ですね。
鎌倉時代が発祥だそうですが……。
昭和30年代に姿を消したとか。
毎年5月、『大原女まつり』が行われてるようです。
大原女姿の女性が、勝林院から寂光院までを練り歩くとか。
なお、前日までの予約で大原女衣装が無料で貸りられ……。
誰でも行列に参加できるそうです。
誰でもって、男でもいいんですかね?
↓電話番号などは、こちらで。
https://www.okeihan.net/navi/kyoto_tsu/tsu201205.php
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4. ハーレクイン- 2018/01/18 21:09
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嵯峨野です
常寂光寺、化野念仏寺。
離れてます
大原と嵯峨野。
大原は市の北東部、嵯峨野は西のはずれで、20㎞弱くらいの距離です。
そちらですと、新潟駅前から瓢湖くらいでしょうか。
>男でも……
大原「女」だよ。
ただまあ、今どきはなあ。NHKがトランスジェンダーものドラマをやる時代、にせ女も混じってるかもしれません。
〔♪京都嵯峨野に吹く風は~HQ〕
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5. Mikiko- 2018/01/19 07:29
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新潟駅と瓢湖
かなり離れてます。
車で40分くらいでしょうか。
大原と嵯峨野、ぜんぜん別の地域ですね。
大原女。
ほんとに、商品しか売らなかったんでしょうか?
本人にその気がなくとも……。
山の中の一軒家を訪ねれば、そういう危険もあったんじゃないですか。
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6. ハーレクイン- 2018/01/19 14:26
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全然違います
京の旧市街を挟んで対峙?しているってな感じです、大原と嵯峨野。
土地柄も違いますね。
大原は庶民の、典型的な山里。嵯峨野は皇族・貴族・文人・墨客のリゾート地、てな感じです。
大原女
仰りたいことは実によくわかります。
かつての飯盛り女や湯女が娼婦を兼ねていた、と同様に、ということですね。
薪は売っても身は売りまへんえ(大原女)。
〔ホンマかーいHQ〕
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7. Mikiko- 2018/01/19 19:50
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飯盛り女や湯女は……
店舗型ですね。
比丘尼や夜鷹は、辻立ち型でしょうか。
大原女も、この系統なんじゃないですか?
もちろん、売らない人は売らなかったのでしょうが……。
中には、いたんじゃないかと思います。
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8. ハーレクイン- 2018/01/19 21:51
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店舗型
に、辻立ち型。
大原女は「デリヘル型」でどうでしょう。訪問販売に行った先で一発、という形式です。
〔二度ほど経験ありHQ〕
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9. Mikiko- 2018/01/20 07:21
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なるほど
確かに、デリヘルですね。
次の予約も取って帰ればいいわけです。