Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #228
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#228



 志摩子は舞い続けた。
 東中 昂(ひがしなかこう)の朗々とした唄声も続いた。
 舞が唄を引き出すのか。
 唄が舞を励ますのか。
 志摩子は、さほど広くもない座敷の内を、自在に舞い続けた。
 東中の唄声は、志摩子の舞いに、これも自在に絡み、部屋いっぱいに響き渡った。


♪夏は河原の夕涼み
 白い襟あしぼんぼりに
 かくす涙の口紅も
 燃えて身をやく大文字
 祇園恋しや だらりの帯よ

♪鴨の河原の水やせて
 咽ぶ瀬音に鐘の声
 枯れた柳に秋風が
 泣くよ今宵も夜もすがら
 祇園恋しや だらりの帯よ


 東中 昂の唄声は、ここで途切れた。
 ここで唄が終わる。
 何の合図も無かったが、志摩子にはそのことが分かった。

(3番までか……)

 祇園小唄は4番まであり、それぞれ春夏秋冬の祇園の情景を詠んでいる。

(秋までか……)
(冬は……4番は……)

 唄いはらへんのやなあ、と心中で思いながら、志摩子は何の無理もなく、流れるように身を捌いて舞を終えた。
 相馬禮次郎と東中 昂(ひがしなかこう)に向き合い、正に座す。畳んだ舞扇を膝前の畳に置く。志摩子は畳に両手の指を突き、深々と頭を下げた。

「お粗末さまでございました」

 下げる志摩子の頭越し、相馬禮次郎が叩く両手の音と、称賛の言葉が行き過ぎた。

「いやあ、見事見事。相変わらず、大した腕やのう、小まめ」
「おおきに、ありがとさんで御座います」
「祇園の舞妓小まめ、ここにあり、ゆうとこやな」
「と、とんでもおへん(ありません)」
「よっしゃ、こっち、おいなはれ(いらっしゃい)」
「へえ」

 志摩子は、変わらず屏風の脇にひっそりと控える道代にちら、と目を遣った。
 道代はこちらも正に座し、両手は膝の上。顔は俯け、志摩子を見ることも無く、無言で控えている。いつものと云えばいつもの道代なのだが、志摩子はふと違和感を覚えた。

(何やいな、道)
(いっつもやったら、もうちょっと……)

 無言の内にも、うち(私)の舞いを称える素振りを示すのだが、と訝しく思いながら、志摩子は相馬と東中の前に戻り、ゆったりと座した。
 改めて頭を下げる。

「おおきにー」

 相馬禮次郎が、手の杯を志摩子に突き出した。

「ほれ、一杯やんなはれ」
「へえ、おおきに」

 東中 昂(こう)が、こちらは無言で徳利を突き付けてきた。
 志摩子は両手で支えた杯で、東中の酌を受けた。飲み乾す。少し迷ったが、杯を相馬禮次郎に戻そうとした。

「儂やない、東中はんや」
「え、しやけんど……」

 東中 昂は酒をやらない。
 先ほど相馬に聞かされたのを思い出し、志摩子は迷いながら手を止めた。
 その志摩子に、相馬が言葉を継いだ。

「東中はんは確かに酒はやらんのやが……まあ、固めの杯、ゆうとこやな」
「……へえ……」

 不得要領に言葉を返しながら、志摩子は東中 昂(ひがしなかこう)を見遣った。空の手を、志摩子に突き出している東中がいた。
 志摩子は、手にした杯を東中に差し出した。
 無言で受け取った東中に、志摩子はすかさず酌をした。
 東中 昂は、変わらず無言のまま、受けた酒を見遣りもせず、杯を膳に戻した。

 入口の板戸が開いた。
 思わず振り返った志摩子の目に、白い上下の料理人服の男がのっそりと入室する姿が入った。

(まだお人、おいやした〔御出でになった〕んか……)

 どう見ても料理人のその男は、これまで厨房にいたのだろう。。

(ここの……)
(調理場て……どこにあるんやろ)

 道代に聞けばわかるのだが、と志摩子は道代に目を遣った。
 道代は変わらず目を伏せ、ひっそりと屏風の脇に控えている。
 新たに入室してきた男は、入口の板戸を閉じ、そのままその場に控えた。身の丈はさほど無い。志摩子や道代とさほど変わらないだろう。だが、その体躯は太かった。

(何や、縦より横の方が大きそうな……)
(うちの倍からあらはる〔倍ほどもおありになる〕ような……)

 そんなことを考えた志摩子の気分は、少し柔らかくなった。巧まずして人の気持ちを和らげる、そんな気分にさせるその男の見掛け、居住まいであった。

「あの……旦さん……」

 取り付く島もない、という風情の東中にではなく、志摩子は相馬禮次郎に声を掛けた。

「なんや」
「あのお人は……」

 志摩子は、入り口を入ったところに無言で座す、料理人風の男を見遣りながら、それだけを口にした。
 それだけで志摩子の意図は通じたのだろう、相馬禮次郎は軽く返した。

「ああ、あれは祇園の料理屋の料理人や。下っ端やけんど腕はええ。今回、東中はんだけで十分に手は足りたんやけんど……今後のこともあるし、いっぺん顔合わしといたほうがええやろ、思(おも)てな。てったい(手伝い)も兼ねて呼んどいたわけや」

 相馬禮次郎の口は滑らかに動いた。

(今日はなんや……)
(よう喋らはるなあ)

 もっと寡黙な男ではなかったか。さほどその人となりは知らぬながら、これまでとは異なる印象を相馬に持った志摩子だった。

「紹介しとこか。おい、太郎」

 相馬禮次郎はまず志摩子に、少し声を高めて料理人姿の男に声を掛けた。
 男は顔を上げ、即答した。

「へい」
「ちょと、こっちゃこう(こちらに来い)」
「へい」

 男はまず短く返答し、遅滞なく立ち上がり、こちらに向かって来た。
 志摩子は相馬禮次郎の横に身を移すと、近づいてくる男を目で迎えた。

(まるで、立った熊があるかはる〔お歩きになる〕ような……)

 熊が立って歩くところなど実際には見たことは無いのだが、そんな印象を男から受けた志摩子だった。
 相馬、志摩子、東中に向き合い、数歩の間を空けて男は座した。とりあえず深々と礼をする。下げた頭を上げながら、男は一言。

「へい、旦さん」

 その体躯と同様、男の顔も太かった。その座す風情は……、

(だるまさんのおにんぎょ(お人形)みたいやなあ)

 さらに気分が和らぐ志摩子だった。

「おい、小まめ」

 男を見遣りながら、横の志摩子に声を掛ける相馬禮次郎だった。

「へえ、旦さん」
「こいつはな、祇園の料理屋で働いとる太郎、野田太郎や」

 男、野田太郎は無言、改めて深々と礼をした。

「店は……小まめ、おまはんとこのすぐねき(傍)やで」

 野田太郎の勤める料理屋は、小まめの志摩子が所属する置屋の程近くにある、と教える相馬禮次郎だった。

「へえ、野田はん、どうぞよろしゅうに」

 聞いて野田太郎は更に頭を低くした。額を畳に擦り付けんばかりである。
 相馬禮次郎が声を掛けた。

「まあ、顔、上げ〔上げなさい〕」
「へ、へい」

 返答はしたものの、満足に顔の上がらない野田太郎だった。

「のう、小まめ」
「へえ、旦さん」
「この機会にのう、おまんに店一軒、持たそ思とんねん」

 暫し志摩子は絶句した。
 隣に座す相馬を見遣る。

「お店て、旦さん……」
「おまんも、いつまいでも芸妓・舞妓稼業も無いやろ。店の一軒も持ってやな、女将稼業ゆうのんはどないや」
「どないて、旦さん……」
「実はのう、もう場所と店舗は見つけとるんや。料理屋や。場所は先斗町、祇園から見たら川向う、ゆうとこやな。
 経営なんぞはおまんが心配することなんも無い。儂がみいんなやったる。おまんはほこ(そこ)の奥座敷に納まっとりゃええんや。厨房はこいつ、野田がちゃんとやりよる」

 志摩子には初耳だったが、野田は聞かされていたのだろう。再び深く頭を下げる野田太郎だった。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #227】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #229】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2018/01/02 10:33
    • 新年あけましておめでとうございます
       長編変態エロ舞妓料理小説『アイリスの匣』、本年もよろしくお願い申し上げます。


       今回、なんと懐かしの野田太郎、登場です。
       いったい、この妖しの苫屋、踊熊庵で何を……ですが、どうやら相馬・東中コンビに使い回される臨時雇い、のようです。
       この後、どういう役割を担うのでしょうか。そのあたりは次回以降、徐々に明らかになります。
       で、その野田太郎。相馬の声掛けに応じて、

      >まず短く返答
      >立ち上がり、こちらに……

       子供のころ、親に厳しく躾けられました。
       「人に声かけられたら、動くのは後。とりあえず、まず返事しなさい」
       これがマナーだそうで、称して「一(いち)返事、二尻(にじり)上げ」
       尻上げは、動くこと、ですね。


       で、志摩子に「店の一軒」を持たせるという、相馬の話。
       そもそも志摩子を呼んだのは「衿代え」の相談やなかったんかい、ですが、そのあたりも次回以降に……(勿体付けおって)。

       ともあれ、これで登場人物が5人になりました。
       狭い踊熊庵の座敷は、押し合いへし合いです(それほどでも)。
       5人(ないしそれ以上)を同時に動かすのは『アイリス』の本家『センセイのリュック』第九場「浴室」のシーン以来でしょうか。
       まあ、あの時は会話主体でしたからまだしも、でしたが今回はそうも参りません。
       会話はもちろん、人の所作、情景描写なども欠かせません。果たしてうまく進むでしょうか(現に今回ちょっと失敗、管理人さんに指摘されちゃいました)。

       ということでございまして『アイリスの匣』。
       年も改まりまして心機一転、クライマックスに向けて書き進めます所存です。
       本年もよろしくお引き回しの上、変わらぬご愛顧賜りたく、伏して御願い奉ります。
            平成三十年元日翌日(?) 作者敬白

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2018/01/02 11:49
    • > 子供のころ、親に厳しく躾けられました。
       こういう人に限って、アル中でクビになったりします。

       「一返事 二尻上げ」。
       この語を検索してヒットしたのは『東北に行こう!(総集編・104)http://mikikosroom.com/archives/2805153.html』だけでした。
       本文ではなく、ハーレクインさんのコメントです。
       「ハーレクイン家」独自の言い回しでないの?

       「よろしくお引き回し」の「引き回し」は、「市中引き回し」と関係があるんですかね?
       江戸時代は、秤や枡の不正でも「市中引き回し(もちろん、引き回しの後は獄門や磔)」になったようです。
       経済の根幹を揺るがす犯罪ですからね。
       日産や神戸製鋼の不正も、関わった個人に厳罰を科すべきです。
       会社の罪にして、個人を罰しないから、不正が後を絶たないんです。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2018/01/02 15:33
    • 一返事……
       ははあ、一度書いてましたか。
       わたしんちと云うより、近江限定の言い回しかもしれません。

      引き回し
       この場合、獄門とは無関係。「世話をし指導する」という意味です(広辞苑「引き回す」)。
       偉い人のお供で、各所に挨拶回りをする。
       これを偉い人の側から見た表現ですね。

       で、日産に神戸製鋼。
       話がえらい大ごとになりましたが、じゃあついでにJR。
                                 〔悪徳両替屋HQ〕

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2018/01/02 18:16
    • 彦根のひこにゃんは……
       返事しないと思います。

       引き回し。
       ひょっとしたら、お祭りの山車が元ですかね?
       町内を引き回すわけですから。

       野田太郎。
       ↓わたしのイメージでは、鶴田忍です。
      https://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M93-2181.html

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2018/01/02 22:05
    • 返事するゆるキャラ
       ふなっしーくらいじゃないの。

      引き回し
       わたしのイメージは「猿回し」ですね(猿がわたし)。

      鶴田忍
       ジャンボ鶴田……じゃないんだ(こちらも合ってるような)。
       ざっと検索しただけですが、むちゃくちゃ出演作が多いですね、鶴田忍。
       いっぱい見てるはずなんですが記憶にない。
       脇役俳優さんのようです。
        〔うっとこのも返事しない「はにたん」HQ〕

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2018/01/03 07:51
    • 猿回し
       確かに、紐で引き回してますね。
       これには、動物虐待という声もあるようです。
       でも、猿がほんとうにイヤだと感じてるなら……。
       芸を教えこむことは、絶対に無理なんだそうです。

       鶴田忍。
       先日、時代劇『無用庵隠居修行』に出てました。
       恰幅が良いので、着物が実に似合います。
       このドラマ、主演が水谷豊、脇が岸部一徳でした。
       思いのほか、面白かったです。

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2018/01/03 11:01
    • 次郎くん
       猿回しときますと、いっとき大ブレイクした日光猿軍団。
       どうしてるのかなあ、で検索しましたところ、何やかんやあって一度潰れ、経営者が変わって現在営業中のようです。

      『無用庵隠居修行』
       水谷豊、岸部一徳ときますと『相棒』ですが……。
       無用庵ねえ。
       踊熊庵にすりゃよかったに。
         〔無用ときますと、さいとう・たかを『無用ノ介』HQ〕

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2018/01/03 11:52
    • 原作がありました
       ↓海老沢泰久(1950~2009)。
      https://books.rakuten.co.jp/rb/6628350/

       ドラマは、けっこう面白かったです。
       時代劇の面白さは、悪役のキャストで決まる気がします。
       柴田美濃守の篠井英介、淡島(大奥)の濱田マリ、高麗屋の渡辺哲など……。
       いかにも悪そうで楽しかったです。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2018/01/03 14:16
    • 海老沢泰久
       知らんなあ、で著作リストを見ます。
       1冊も読んでませんでした。
       『みんなジャイアンツを愛していた』という、むかつくタイトルのがありましたが『巨人がプロ野球をダメにした』なんてのもあります。
       わけわからん。

      濱田マリ
       が淡島。
       ミスキャストも極まれり、と思いますが見ていないので何とも……。
       〔文句は見てから読んでからHQ〕

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2018/01/03 18:44
    • ミスキャストって……
       淡島は、架空の人物でしょう。
       絵島のもじりだということは、丸わかりですが。
       濱田マリは和風の顔ではありませんが、それがかえってそれ風でした。

    • ––––––
      11. ハーレクイン
    • 2018/01/03 21:31
    • 架空でも
       *島は、イメージが確定、のようなものでしょう。

      >かえってそれ風
       ねえ。
       まあ、見ていないので何とも言えません。
                           〔生島HQ〕

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2018/01/04 07:42
    • 濱田マリ
       『いかすバンド天国』出身の歌手だそうです。
       雰囲気からして、ポルノ女優出身かと思ってました。
       意外でしたね。
       2時間ドラマにも、ときどき出ます。

    • ––––––
      13. ハーレクイン
    • 2018/01/04 08:34
    • 濱田マリ
       夏木マリと勘違いしてました。
       すまぬ、マリ。
          〔『絹の靴下』今日からデイですHQ〕
             ↑夏木マリのヒット曲
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