Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #226
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#226



 膳の上の料理に目を遣る相馬につられ、志摩子も自らの前の膳部を見遣った。
 目も眩むほどの料理群だった。
 本膳には飯椀と汁椀、それに料理群。徳利と杯、菓子・果物、それに真鯛の焼き物は二の膳に据えられていた。
 本膳上の大小さまざまな皿小鉢。その上には、多種多様な料理の数々が並べられている。志摩子には考えもつかない、正体すらわからない手の込んだ料理の群れだった。

(これは……)
(このお料理は……)

 志摩子とて、これまで数多くの座敷で多くの料理を見てきた。そして口にしてきた。日本料理の基本的なところは身に付いている志摩子である。
 その志摩子にも、今、目にする料理は、それこそ食材の正体すら判然としない、華麗極まるものだった。

「ほれ、お上がんなはれ」

 自らの膳に箸をつけ、酒も口にしながら、相馬禮次郎は志摩子を促した。

「へえ、頂戴しますぅ」

 食欲など全く無かった。
 が、饗応に応じるのも舞妓の仕事である。
 志摩子は、箸置きに置かれた箸を取り上げた。
 左手の指先で二本の箸を摘み上げ、持ち上げた箸を、下から右の手指で迎える。
 志摩子の右の手指が巧みに動き、二本の箸を把握した。
 箸の一本の根本近くを、親指と人差し指の間に深く押し込む。箸の先に近い側を薬指の第一関節に当て、同時に、親指の腹で押さえ込んで固定した。
 もう一本の箸は、同じく右手の三本の指。親指、人差し指、中指のそれぞれの第一関節の先、つまり指先が把握した。
 箸の、始めの一本はしっかり把握され、動かない。
 もう一本は、志摩子の三本の指、親指、人差し指、中指の、それぞれの指先により巧みに動いた。

(さて……)

 志摩子は、改めて膳の上に目を遣った。
 いったい、何から手を付ければいいのか……。
 個々の料理の正体が判然としないのに、何から、も何もあるまい。
 志摩子は腹を決めた。
 その箸先は真っ直ぐに膳の最も右手前、汁椀のすぐ向こうに置かれた皿に向かった。箸先が料理に触れる。
 表面はこってりした質感のソースに覆われていた。
 志摩子は、箸を持つ右手に軽く力を籠めた。箸先はソースに潜り、料理本体に触れる、食い込む。志摩子は箸先を巧みに操り、料理を切り分けた。分けられた料理本体の一片、ソースをたっぷりと纏う一片を摘み上げた。
 志摩子の持つ箸は小動(こゆるぎ)もせずに中空を移動した。その箸先を、両唇を軽く開いた志摩子の口が出迎える。口内に料理の一片を残し、箸はゆっくりと志摩子の口唇から抜け出た。箸を持つ右手に左手を組み合わせ、志摩子は両手を膝の上に置いた。
 志摩子の舌先がまずソースに触れる。

(甘い……)

 舞踊はともかく、志摩子は料理には素人である。それ以上、味を表す言葉を持たない志摩子だった。

(いろんなもん、混ぜたある〔てある〕みたいやけど……)

 今で云うタルタルソース様の物に、さらに各種香辛料などを混ぜてあるようである。志摩子に見当の付くはずもなかった。
 志摩子の上下の前歯が料理本体に食い込んだ。さらに口の奥に送り、奥歯で噛み締める。砕かれた料理がソースに混ざり合い、舌を刺激した。香りが口内から鼻に抜ける。
 香りと、味と、歯ざわりから志摩子は判断した。

(これは……お魚……)
(なんちゅう、お魚、やろ)

 噛み締め、味わった志摩子の喉が軽く動いた。旨味の余韻を口内こ残し、料理は胃の腑へ滑り降りて行った。
 その様子を横目で見ていた相馬禮次郎が、志摩子に声を掛けた。

「でや(どうだ)その料理、なんかわかるか」

 一瞬、言葉に詰まった志摩子は、相馬を見遣った。
 わかるわけがない。
 ソース自体、初めて口にする味だったし、魚に至っては……白身魚であろうくらいは分ったが、タイだと言われればそうかと思うだろうし、カレイだと言われても納得するしかない志摩子だった。

「いえ、わかりまへん」
「ふむ。まあこの魚に、ほ(そ)のソースは、ある意味邪魔や。ソース自体は、ようでけとる(よく出来ている)んやけどな」
「へえ……」
「ほの魚はのう、小まめ」
「あ、へえ……」
「オコゼや」
「お、こ……」

 聞いた記憶のあるような名称だったが、志摩子には確信はない。無論、その魚の姿・形が思い浮かぶはずも無かった。

「オコゼ、や。聞いたことないか」
「へえ……すんまへん」
「謝ることやないけんどな」

 相馬禮次郎は、苦笑交じりに言葉を継いだ。

「へえ……」
「漢字で、虎魚(とらうお)、と書く」
「とら……」
「獣の虎。獅子・虎・狼、の虎。ほれに魚、や」
「虎の……」
「全身棘だらけ、毒も持つ、ぶっさいく(不細工)な魚や」
「…………」
「世の中に、これ以上醜い魚はおらんやろ、ゆ(云)うくらいにのう」
「…………」

 オコゼを扱(こ)き下ろす相馬だったが、一転、継いだ言葉は逆にオコゼを持ち上げる。

「しやけんど、味は最高。白身で脂肪が少ない淡白な……上品極まる味や」
「…………」
「しやからのう、小まめ」
「あ、へえ」
「オコゼは、刺身や生け作り、要するに生をそのまま味わうのが本道や」
「へえ……」
「しやのにあの男、東中(ひがしなか)のやつ、わわざわざ焼いた上に、こてこてのソースを塗(まぶ)しよった」
「…………」
「邪道、ゆうたらこれ以上邪道な料理も無いやろ」

 オコゼに次いで、東中を扱(こ)き下ろす相馬だった。
 志摩子に言葉は無い。

「…………」
「しやけんど、美味いんか不味いんかゆうたら……この味や。おまはんも文句は無いやろ、のう、小まめ」

 やはりオコゼと同じく、東中 昂(こう)を持ち上げる相馬禮次郎だった。

「あ、へえ、ほんまに美味しおす」
「ふん。あの男、東中がどないな人間かは、ほの料理一つで分かる」
「…………」
「要するに、これ以上は無い捻(ひね)くれもん(者)、ゆうことやな」

 相馬禮次郎は、前の膳から徳利を取り上げ、志摩子に突き出した。
 志摩子は箸を箸置きに戻し、両手で杯を取り上げる。軽く頭を下げ、酒を受けた。その杯をそのまま膳に戻し、自らの膳の徳利を取り上げて相馬に酌をする。
 相馬禮次郎は脇息に左肘を突き、胡座に崩していた。右手を伸ばして酌を受けた。

「さあ、遠慮はいらん、どんどんやんなはれ。酒もな。腹が減っては戦(いくさ)はでけん」
「へえ、おおきに」

 一口、いや、半口の料理を口にしただけで、志摩子は食欲を取り戻していた。改めて箸を取り上げ、膳に向かう志摩子だった。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #225】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #227】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2017/12/19 09:53
    • 始まりました
       相馬の旦さん、相馬禮次郎と、祇園の小まめこと、竹田志摩子の酒宴です。
       膳の上には、鞍馬の料理屋の主人にして料理人、東中 昂(ひがしなかこう)の手になる「目も眩むほどの料理群」が並んでおります。
       で、その料理は「正体すらわからない手の込んだ」もの。

       本来でしたら、料理の一つ一つを描写せなあかん所なのですが、これはかなり以前、あやめと明子の酒宴で行いましたので、今回は省略です。
      (手抜きや)
       何と仰るうさぎさん。あまりしつこく同じことを繰り返すのもご退屈様でしょう。
      (物は言いようやのう)
       と仰る向きもおありでしょうから、今回は一品だけ。オコゼの焼き物です。

       オコゼは、とげとげだらけの超不細工な魚。しかもとげとげ(鰭〔ヒレ〕なんですがね)の一本一本に毒をもつという、とんでもない魚です。
       こんなの食べようと、初めて考えたお方は偉い、と申します、かもの好きと申しますか……。
       しかし「文句は食べてから言え」とか。
       味は極上、超高級魚なんですね、オコゼ。
       是非一度お試しください。まあ、わたしは食したこと御座いませんが(なんのこっちゃ)。

       ちなみに、料理人東中 昂(こう)は、相馬に言わせますと「これ以上はない捻(ひね)くれもん(者)。
       ということでございまして、超曲者コンビの相馬-東中。
       この二人を相手に、志摩子-道代はどう立ち向かうのでしょうか。
       次回以降を乞う!ご期待。
              〔美味い魚にゃ毒があるHQ〕

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2017/12/19 19:47
    • オコゼ料理
       板前さんは、まずトゲを切るんですかね?
       それ以前に、市場の人が危険なのでは?
       死んでれば大丈夫なんですかね?
       料理の写真を見ましたが、やはり唐揚げが美味しそうです。

       土日は、わたしがスーパーに食材の仕入に行くのですが……。
       出来合いの焼き魚をよく買ってきます。
       新潟には「浜焼き」という食文化があるせいか……。
       すでに焼いてある魚が、たくさん売ってるんです。
       わたしがよく買うのは、サバ、ホッケ、サーモンといったところでしょうか。
       とても上手に焼いてあり、生を買って来て家で焼くより、ずっと美味しいと思います。
       先日は、魚じゃありませんが、豚肉の金山寺味噌和えを買ってきました。
       これはもちろん、生で売ってます。
       大きな肉が6枚も入ってて、480円でした。
       母と2人で、2日がかりで食べました。
       ところどころ固かったですが、とても良い味でした。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2017/12/19 21:18
    • トゲ処理
       ハサミで切る……んだったと思います。
       死んでれば大丈夫……でもないと思います。
       (頼んないやっちゃ)

      浜焼きスーパー
       確かに、買ってきてレンジでチンすれば楽ですね。
       焼き方は当然プロの仕事(かな?)でしょうから文句はないでしょう。
       こちらでは売ってないです。
       干物はありますが、焼き魚は……たまに置いてありますが、普段からあるのはウナギくらいです。

      金山寺味噌
       大好物です。
       豚肉を和えて……ではなく、カップ入りの味噌を売ってます。1個100円(税別)。
       これを買ってきて、キュウリに付けて食べます。美味なり。
                              〔とげぬきオヤジHQ〕

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2017/12/20 07:34
    • 焼いてある魚
       実に便利です。
       煙も出ないし、グリルも汚れません。
       フライより、油も少ないでしょうし。

       金山寺味噌。
       生産地は、和歌山県、千葉県、静岡県などだそうです。
       2008年3月20日、和歌山県岩出市の根来寺旧境内から、約430年前の金山寺味噌が見つかったとか。
       単独で売ってるんですね。
       今度、探してみます。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2017/12/20 10:46
    • 以前から……
       なんで「金山寺」味噌、云うんやろと思ってました。
       で、この機会に少し調べますと……。

       「鎌倉時代、宋の国は径山寺(きんざんじ)で修行し、帰国した法燈国師(だれや、あんた)によって紀州に伝えられた……」

       で、訛って?金山寺、だとか。
       しかし、430年前の味噌って……黴たり干からびたり、してなかったんですかね。
          〔ご飯にのっけてもおいしい金山寺HQ〕

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2017/12/20 19:51
    • 寺と味噌
       どーしても、男色を連想してしまいます。

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2017/12/20 21:14
    • 寺と味噌と男色と
       なんとなく寺門痔門、いや、ジモンを連想してしまった。
                                〔味噌擂り坊主HQ〕 

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2017/12/21 07:22
    • お寺の糞尿は……
       高く引き取られたとか。
       なぜなら……。
       「突き固めてあるから、中身が濃い」。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2017/12/21 08:46
    • >突き固めて……
       もひとつようわからん。
       鐘を撞いてるから、かなあ。
          〔♪やまのお寺の鐘がなる~HQ〕

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2017/12/21 19:46
    • なんでわからん
       男色なら、肛内を突き固めるではないか。

    • ––––––
      11. ハーレクイン
    • 2017/12/21 23:28
    • わかったようで……
       ようわからん。
       突き……はいいとして、固めてはおらんのでは。
                          〔突き押し、怒涛の押しHQ〕

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2017/12/22 07:26
    • 突けば……
       命の泉湧く。
       ではなく、ウンコが突き固められるではないか。

    • ––––––
      13. ハーレクイン
    • 2017/12/22 11:35
    • はいはい
       お得意の「ウンコ」話でしたか。
           〔軟便下痢便便秘便HQ〕
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