Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(65)
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老「都の女は、髪に椿油を塗るから、ことのほか髪が美しいと聞く」
都の女は、髪に椿油を塗るから、ことのほか髪が美しいと聞く

老「そんな馴染みの女が、都におるのであろう、と。
 船乗りは、話をはぐらかしつつも……。
 今度来る時は、おまえのために椿の実を持って来てやろうと言った」
今度来る時は、おまえのために椿の実を持って来てやろうと言った

老「荷を材木に積み替え、船乗りは上方に帰っていった。
 女は、翌年の船を待った。
 しかし、その船に、船乗りは乗っていなかった。
 船乗りが戻ってきたのは……。
 3年目のことであった。
 久しぶりに女のいる遊郭を訪ねたが……」
久しぶりに女のいる遊郭を訪ねたが……

老「女の姿は見えなかった。
 不実な船乗りを恨み……。
 海に身を投げてしまっていたのじゃ」
み「うぅ。
 可哀想な」
老「船乗りは、自らの仕打ちを悔い……。
 遊女の墓に、持ってきた椿の実を供えた」
遊女の墓に、持ってきた椿の実を供えた

老「その実が弾け、種が散ったのであろう……。
 墓の周りは、椿の林になった」
墓の周りは、椿の林になった

み「なるほど。
 夏泊半島の椿は……。
 海流ではなく、不実な船乗りが運んできたというわけか」
海流ではなく、不実な船乗りが運んできたというわけか

老「ところが、その椿の枝を折ると……。
 遊女の霊が現れ、恨み事を言うようになった」
遊女の霊が現れ、恨み事を言うようになった

み「未練が残ったんでしょうな」
老「里人は、小さな社を作り、椿を神として祀った。
 それが、椿神社ということじゃ」
それが、椿神社ということじゃ

み「にゃにー。
 椿神社が出来たのは、鎌倉時代じゃなかったの?」
椿神社が出来たのは、鎌倉時代じゃなかったの?

老「それがどうした」
み「そんなころ、青森と上方を結ぶ船便なんか、あったのか?」
老「さー」
み「さー、じゃないだろ」
老「神主から聞いたままを話しただけじゃ」
み「無責任なやつ」
老「昔、五能線の沿線では、ヤブツバキの花を売り歩く風習があったそうじゃ」
昔、五能線の沿線では、ヤブツバキの花を売り歩く風習があったそうじゃ

み「はぐらかしおって。
 ま、ヤブツバキは、春を告げる花だったんだろうね」
老「椿の花を買って、ようやく巡ってきた春を祝ったのじゃろうな」
椿の花を買って、ようやく巡ってきた春を祝ったのじゃろうな
↑萩市の椿小町。

み「新潟だと、椿の花は、いまいち日陰の存在だなぁ」
老「なんでじゃ?」
み「花の時期が、サクラと重なっちゃうんだよ」
花の時期が、サクラと重なっちゃうんだよ

み「人の目は、華やかなサクラに行ってしまうというわけ」
老「なるほど」
み「その船乗りの話だけどさ……。
 船乗りは、海流の象徴なんじゃないの?」
老「どういうことじゃ?」
み「対馬海流は、津軽海峡を通るわけでしょ」
対馬海流は、津軽海峡を通るわけでしょ

老「なるほど。
 夏泊半島で根付いた椿の実は、対馬海流が運んで来たと?」
み「さようです。
 あ、そうか。
 太平洋側の椿も、対馬海流で運ばれてきたのかも知れないね。
 津軽海峡を出た対馬海流は、親潮に押されて南下するわけじゃない」
津軽海峡を出た対馬海流は、親潮に押されて南下するわけじゃない

み「つまり、大船渡の椿は、日本海側から回ってきた椿なんだよ。
 どないだ?、この説」
老「さてと、そろそろお暇しようかの」
み「なんだよ。
 結局、何しに出てきたんだ?」
老「わしも、ようわからんくなった。
 それじゃ、あとで請求書を送ります」
み「いらんと言っとろうが!」
老「また会おうぞ」
み「あ、目が死んだ」
あ、目が死んだ

食「うーん。
 ボク、居眠りしてました?」
律「そんなことないと思いますけど……。
 何だかわたしにも、空白の時間があったような気がしますわ」
食「今、どこでしたっけ?」
み「椿山を過ぎたとこだよ」

↑側面展望『ウェスパ椿山→深浦』。0分39秒、林の向うにちらっと見えるのが椿山だと思います。

食「あぁ、そうでしたね。
 この崖下に、海に沿って道路が走ってます。
 今度は車で来て、ぜひ夕陽どきにドライブしてみてください」
右の三角山が椿山かな? ウェスパ椿山からの撮影のようです
↑右の三角山が椿山かな? ウェスパ椿山からの撮影のようです。

み「知らない場所を運転してて、景色なんか眺められるわけないだろ」
食「何でです?」
み「運転するだけでいっぱいいっぱいなのじゃ」
運転するだけでいっぱいいっぱいなのじゃ

律「わたしが乗せてあげるわよ」
み「先生のジャガーは車高が低すぎて、景色がよく見えないじゃないの」
先生のジャガーは車高が低すぎて、景色がよく見えないじゃないの

律「悪かったわね」
食「へー、ジャガーですか。
 スゴいですね」
み「凶暴な女にお似合いの車だわ」
凶暴な女にお似合いの車だわ

律「何ですって」
み「やっぱ、レンタカーにしようよ。
 ミニバン」
ミニバン

み「眺めがいいから」
食「ミニバンの助手席なら、特等席ですよ」
律「ダメよ、この女は」
み「なんで!」
律「そういう時に限って、寝ちゃうんだから」
そういう時に限って、寝ちゃうんだから

律「1日はしゃぎ回った後の夕陽どきなんて……。
 絶対起きてないわ」
み「遠足の小学生か!」
律「似たようなものでしょ」
食「あ、そろそろ、『みちのく温泉』ですよ」
み「おー。
 ドアまで行かねば」
律「向こうの窓から、十分見えるわよ」
食「ほら、水車です」
ほら、水車です
↑五能線の車中からは、こんなふうには見えないと思います。

み「でかっ」
律「ほんとに観覧車みたい」
み「あの、水車の水を汲む桶みたいなのって、何て云うの?」
あの、水車の水を汲む桶みたいなのって、何て云うの?
↑どういう構造か、イマイチわかりません。

食「バケットだと思います。
 和名は、ちょっとわかりません」
み「遠目だけど、そうとうデカいんじゃないの?」
食「容量は、確か120リットルですね。
 それが、152個付いてます」
み「120リットルもあれば、人が乗れるんじゃないの?」
120リットルもあれば、人が乗れるんじゃないの?

律「あれに乗る気?」
み「乗れそうだってだけ。
 あんな高いとこまで担ぎ上げられたら……。
 漏らしちゃうでしょ。
 あ、でもバケツに水が入ってるから、バレないか」
律「汚い女」
み「外から見えないから、いっそ大もする?」
律「止めて」
み「これがホントの、ハニーバケット」
これがホントの、ハニーバケット

律「何よそれ?」
み「知らないの?
 第二次大戦後、日本に進駐してきたアメリカ兵たちは……。
 農民の担ぐ、肥たごに仰天したわけよ」
農民の担ぐ、肥たごに仰天したわけよ

み「で、それを称して“ハニーバケット”と呼んだわけ」
それを称して“ハニーバケット”と呼んだわけ

律「おかしなことばっかり知ってるんだから」
み「教養の違いです」
律「あんたの教養は、シモネタに片寄り過ぎ」
み「片寄ったら、ハニーバケットがこぼれます」
片寄ったら、ハニーバケットがこぼれます

律「いい加減にしなさい」
食「さて、オチが付いたところで……」
み「さらに番組は続く」
食「あ、そうそう。
 あの茅葺きの水車小屋にも泊まれるんですよ」
茅葺きの水車小屋にも泊まれるんですよ
↑左手前の建物。

み「泊まってどうする?
 粉挽きでもするのか?」
食「粉を挽くのは、水車です」
粉を挽くのは、水車です

食「ちゃんと客室になってるんですよ(画像がありませんでした。なぜじゃ)」
み「うるさくて寝られないんじゃないの?」
食「遊び疲れて温泉に浸かれば……」
遊び疲れて温泉に浸かれば……

食「水車の音くらいで眠れないわけないです。
 五能線を走る気動車と……」
五能線を走る気動車と……

食「水車の音」
水車の音

食「この上なく幸せな眠りに付けると思います。
 あ、もうすぐ『艫作(へなし)』駅です」
み「どうしても、屁無しに聞こえる」
食「ここ『艫作』が、五能線最西端の駅になります。
 でも、この駅も、これで見納めです」
この駅も、これで見納めです

み「無くなっちゃうの?」
食「来月(2010年11月)、建て替えになるんです」
公園のトイレに見えるのは、わたしだけでしょうか
↑建替え後の艫作駅。公園のトイレに見えるのは、わたしだけでしょうか。

食「あー、通り過ぎちゃった」
み「何の変哲も無い駅ではないか」
食「あの駅で寝たことがあるんです」
あの駅で寝たことがあるんです

食「ボクの青春の1ページがつまった駅です」
み「あんなとこで寝たら、凍死するんじゃないの?」
あんなとこで寝たら、凍死するんじゃないの?

食「夏でしたから」
夏でしたから

食「蚊に刺されまくりでしたけど」
み「どしえー。
 それは御免被る」
食「あ、そうそう。
 この駅のすぐ近くに……。
 『五能線全通記念碑』が建ってるんです」
『五能線全通記念碑』が建ってるんです

食「五能線が最後につながったのが……。
 この『艫作』と、さっきの『陸奥沢辺』間なんです」
み「『ウェスパ椿山』は……。
 そのころ無かったわけか」
食「そうです。
 あ、今、五能線が最後につながったって言いましたけど……。
 これは、言い方がヘンですね。
 ここが繋がって初めて、『五能線』が出来たんです。
 それまでは、五所川原線と能代線でしたから」
それまでは、五所川原線と能代線でしたから

み「いつだっけ?」
食「昭和11年7月30日です」
み「沿線住民にとっては悲願だったんだろうね」
食「その日、五所川原駅を出た始発列車を……。
 艫作駅のホームでは、鈴なりの住人が、日の丸の旗を振って迎えたそうです」
昭和61年、国鉄最後の新線として開業した『内山線』内子駅(愛媛県喜多郡内子町)の様子
↑これは、昭和61年、国鉄最後の新線として開業した『内山線』内子駅(愛媛県喜多郡内子町)の様子。

み「おー。
 光景が目に浮かぶようじゃ」
律「あ、あんな近くに灯台が見える」
み「ほんとだ」
食「舮作崎(へなしざき)灯台です」
舮作崎(へなしざき)灯台です

食「灯台って、たいがい辺鄙な場所にありますけど……」
み「♪おいら岬の~」
♪おいら岬の~

食「この舮作崎灯台は……。
 日本で一番JRの駅に近い灯台なんです。
 艫作駅から徒歩10分」
み「ってことは、列車で通勤出来るわけね」
食「もちろん今は、無人化されてますけど」
み「今も使われてるの?」
食「もちろんですよ。
 明るさは、73万カンデラ。
 沖合21.5海里、約40キロまでを照らします。
 灯器は、コンピューター制御になってます」
み「なんだかなー」
食「文明の発展を、素直に喜びましょう」
律「あ、また風車よ」
あ、また風車よ

み「ほんとだ。
 そば粉を引いてるのかな?」
律「それは水車でしょ」
それは水車でしょ
↑そばの香り成分は、熱に弱いそうです。水車で挽くと、ほとんど熱が出ないので、香りが飛ばないのだとか。

み「ボケてみただけじゃ。
 やっぱり、風が強いんだね」
食「ですね。
 あ、『横磯』駅を通過します」
み「今の、工事現場のプレハブみたいなの?」
今の、工事現場のプレハブみたいなの?

食「そうです」
み「冬の一人旅で降り立ったら……。
 心まで凍りつきそうだな」
律「何でこんなとこで降りるのよ」
み「♪なじかは知らねど 心わびて」
律「♪昔の伝えは そぞろ身にしむ」
み「♪寂しく暮れゆく ラインの流れ」
律「♪入り日に山々 赤く映ゆる」
食「なんで、『ローレライ』なんです?」
なんで、『ローレライ』なんです?

み「♪なじかは知らねど」


律「もういいって」
食「あ、そうだ。
 さっきの椿山は、ツバキの日本海側北限でしたが……。
 深浦には、北限の樹木がまだいくつかあるんです」
み「なんじゃい」
食「よく知られてる樹木としては……。
 まず、エノキでしょうか」
『さいたま緑の森博物館(展望広場)』のシンボルツリー・エノキ
↑『さいたま緑の森博物館(展望広場)』のシンボルツリー。

み「エノキって、落葉樹だよね。
 もっと北にも生えてそうだけど。
 ニレ科でしょ?」
北海道豊頃町のハルニレ。撮影スポットとして有名
↑北海道豊頃町のハルニレ。撮影スポットとして有名。

食「エノキは、元もと東南アジアにも分布する樹木です」
エノキは、元もと東南アジアにも分布する樹木です

食「日本では、昔から一里塚に植えられて来ました」
『日光御成道』の「西ヶ原」一里塚(東京都北区)
↑『日光御成道』の「西ヶ原」一里塚(東京都北区)。

み「榎本とか、榎田とか、苗字にもなってるよね」
食「エノキは、国蝶オオムラサキの食樹でもあります」
エノキは、国蝶オオムラサキの食樹でもあります
↑綺麗ですね。わたしは一度も見たことないです。

み「ほー、そうだったのか。
 新潟でも、日和山の住吉神社に生えてるな」
新潟でも、日和山の住吉神社に生えてるな

食「あと、もうひとつが……。
 マダケです」
マダケです

み「竹か。
 これは、明らかに南方の植物だね。
 暖流の力って、スゴいな」
食「そのほか、カラスザンショウ、コクサギ、キンラン、スズメウリなども北限です」
み「そこまで詳しいと、不自然だわい」
律「あら、この辺も、いい景色ね」
み「お、棚田か」
律「棚田越しに海が見えるってのも、不思議な景色ね」
み「棚田って、山の中の印象があるもんね」
食「海岸段丘の上が棚田になってるわけです。
 夕日どきは、まさに絶景ポイントですよ」

 この部分のセリフを書いたのは……。
 『にっぽん列島 鉄道紀行 東北1』に、次のような記述があったからです。

「風力発電の風車を左に見ながら北東に向きを変えていくと横磯駅。この辺りは海を見下ろす海岸段丘上の棚田越しに夕日を見る絶好のポイントである」

 で、画像を探したんですが……。
 まったく見つかりません。
 ↓側面展望の動画を見ると……。


 3:35くらいから、チラチラ見えます。
 残念ながら、千枚田のような棚田ではなかったですね。

食「さて、この辺りで線路は右にカーブして……。
 見えてきたでしょ。
 あれが深浦湾です」
あれが深浦湾です

み「なるほど。
 まさに、深い浦ってことか」
食「深浦は、日本書紀にも出てくる古い町です。
 藩政時代は、北前船の風待ち湊として栄えました」
藩政時代は、北前船の風待ち湊として栄えました

み「なるほど。
 確かにこれは、絶好の港ですな」
確かにこれは、絶好の港ですな

律「わかるの?」
み「湾曲評論家です」
律「あら、トンネル」
食「残念ながら……。
 ここからはトンネルが6つ、続きます」
み「ふーん。
 てことは、昔は人の往来も大変だったわけだね」
食「このトンネルの上に、『御仮屋跡』という史跡があります」
このトンネルの上に、『御仮屋跡』という史跡があります

み「“いかりや”跡?」
“いかりや”跡?

食「“おかりや”です」
み「女優に、本仮屋(もとかりや)ユイカっているよね」
女優に、本仮屋(もとかりや)ユイカっているよね

食「彼女の『本仮屋』は、薩摩藩の代官所のことらしいです。
 こちらの『御仮屋』は、深浦町奉行所ですね」
こちらの『御仮屋』は、深浦町奉行所ですね

食「さっき、大間越にもありましたでしょ。
 あれと同様の関所のようなものです。
 もうひとつ、鰺ヶ沢にもありました。
 大間越は藩境でしたから、人の出入りに目を光らせてましたが……。
 ここと鰺ヶ沢は、船舶の出入りが監視されました」
み「なるほど。
 山の上から、船の出入りを見張ってたわけか」
山の上から、船の出入りを見張ってたわけか
↑4枚前の写真にある展望台から見た景色。

食「ですね」
み「日本書紀には、どう書かれてるわけ?」
食「今から、1,350年前のこと。
 斉明天皇の御代です」
斉明天皇陵ではないかと云われる『牽牛子塚(けんごしづか)古墳(奈良県明日香村)
↑斉明天皇陵ではないかと云われる『牽牛子塚(けんごしづか)古墳(奈良県明日香村)』。

み「いつごろよ、それ?」
食「西暦660年くらいですね」
み「げ。
 大化の改新の15年後!」
飛んでるのは、蘇我入鹿の首
↑飛んでるのは、蘇我入鹿の首。

食「飛鳥時代ですね。
 そのころ、阿倍比羅夫という、将軍がいました」
ねぶたに描かれた阿倍比羅夫
↑ねぶたに描かれた阿倍比羅夫。

食「蝦夷討伐の大将ですね」
み「征夷大将軍だね」
食「阿倍比羅夫のころは、まだその呼称は無かったようです」
み「あらそう。
 いつごろからの称号なの?」
食「奈良時代に入ってからですね。
 あ、そうそう。
 『東夷(とうい)』『西戎(せいじゅう)』『北狄(ほくてき)』『南蛮(なんばん)』ってご存じですか?」
み「中華思想だね。
 中国が世界の中心で、その周りに野蛮人の国があるって思想でしょ」
中国が世界の中心で、その周りに野蛮人の国があるって思想でしょ

食「まぁ、そうですね。
 で、“征夷”ってのは、『東夷』を征討するという意味なわけです。
 征夷大将軍は、「夷」征討に際し任命された将軍のことで、太平洋側から進む軍を率いました。
 日本海側を進む軍を率いる将軍は、征狄将軍(もしくは鎮狄将軍)。
 九州へ向かう軍隊を率いる将軍が、征西将軍(もしくは鎮西将軍)」
み「南がいないではないか」
食「南は太平洋ですから、行きようがないです」
み「むかしの太平洋側は、地の果てだったってことだね」
むかしの太平洋側は、地の果てだったってことだね

み「でも、中華思想の真似っこなんかしなくていいのにな」
食「中国は、その当時の圧倒的な先進国でしたからね。
 で、日本書紀での記述です。
 阿倍比羅夫は……。
 大和朝廷に帰順の意を示した蝦夷たちを招いて……。
 有馬の浜で大宴会を催したそうです」
有馬の浜で大宴会を催したそうです
↑こういう芸はしなかったと思いますが。

食「この有馬の浜というのが……。
 深浦の吾妻の浜ではないかと云われてるんです」
深浦の吾妻の浜ではないかと云われてるんです

み「古代から、重要な港湾だったということか」
食「深浦町からは、縄文時代の遺跡もたくさん出てますからね」
深浦町からは、縄文時代の遺跡もたくさん出てますからね

み「そのころまで遡るのか」
食「港としては、室町時代から賑わっていたようです」
み「ほー」
食「もっとも栄えたのは、やはり江戸時代でしょうね。
 鰺ヶ沢(あじがさわ)、十三湊(とさみなと)、青森とともに、津軽藩の四浦に指定されました」
深浦港。本当にいい港ですよね
↑本当にいい港ですよね。

み「北前船か」
深浦港に現れた現代の北前船『みちのく丸』
↑深浦港に現れた現代の北前船『みちのく丸』。

食「港がいいだけでなく……。
 すぐ後ろが山でしょ。
 そこから産する木材の積込港でもあったわけです」
み「なるほど。
 京、大阪から荷物を積んで来て……。
 帰りは、木材を積んで行くわけか。
 往復ビンタで大儲けってことね」
深浦の廻船問屋。扇型の忍び返しがかっちょいーです
↑深浦の廻船問屋。扇型の忍び返しがかっちょいーです。

食「『深浦町歴史民俗資料館』って施設がお勧めですよ」
『深浦町歴史民俗資料館』

食「ボクのこのウンチクも、そこからの受け売りです。
 もうひとつ、ぜひ『風待ち舘』という施設も見ていただきたいです」
ぜひ『風待ち舘』という施設も見ていただきたいです

食「3分の1の大きさで復元された北前船の模型『深浦丸』が展示されてます」
3分の1の大きさで復元された北前船の模型『深浦丸』が展示されてます

み「3分の1って、どれくらい?」
食「長さ、7.5メートル。
 さらにその上の帆柱の高さは、5.1メートル」
さらにその上の帆柱の高さは、5.1メートル

み「合わせて、12.6メートルか。
 これで、3分の1ってことは……。
 実物の高さは、40メートル近いってこと?」
食「ですね」
み「でかー。
 ビルの10階以上ある」
ビルの10階以上ある

食「この模型、佐渡の『小木民俗博物館』にある板絵を元に造られてるんです」
『小木民俗博物館』。大正9年に建てられた旧宿根木小学校をそのまま利用してます。行ってみたい!
↑『小木民俗博物館』。大正9年に建てられた旧宿根木小学校をそのまま利用してます。行ってみたい!

3年生の教室が、そのまま残されています。こんな教室に通ってみたかった。
↑3年生の教室が、そのまま残されています。こんな教室に通ってみたかった。

み「うーん。
 降りたくなってしまったではないか」

 北前船は、日本海側の港街にとって……。
 繁栄のシンボルのようななもの。
 舟運の時代から陸運の時代に変わって、衰退してしまった港町も多いですからね。
 新潟も、もちろん例外では無いです。
『新潟湊絵図』
↑『新潟湊絵図』

 この春、新潟市の萬代橋の袂に、地元の新聞社『新潟日報』のビルが建ちました。
 昔はもちろん、新潟市の中心部にあったんですが……。
 その後、広い敷地を確保できる郊外に移転してしまいました。
1982年、西蒲原郡黒埼町(現在・新潟市西区)に移転
↑1982年、西蒲原郡黒埼町(現在・新潟市西区)に移転。

 でも、再び中心部に戻ってきたんですね。
 新潟の中心部に、再びかつての繁栄を呼び戻したいという願いもあったのでしょう……。
 『メディアシップ』と名付けられたそのビルは、北前船の帆をイメージした形になってます。
『メディアシップ』と名付けられたそのビルは、北前船の帆をイメージした形になってます

 ちなみに、最上階の20階には展望室があります。
 20階で展望室なんて言うと、東京の人は笑うでしょうね。
 すぐ近くの万代島ビルには、31階の展望室があります。
すぐ近くの万代島ビルには、31階の展望室があります

 なんで11階も低いところに、同じような展望室なんか作ったんだろうと、不思議に思ってました。
 でも、最近、行ってみて、大いに納得しました。
 10階も低いってことは、その分、地面が近いってことです。
 見応えという点では、断然『メディアシップ』の方が上でした。
『メディアシップ』から見た信濃川河口
↑『メディアシップ』から見た信濃川河口

 よく考えたら……。
 ネットで俯瞰写真なんか見るときって、出来るだけ拡大しませんか?
 個々の建物が大きく見える方が、ずっと臨場感がありますから。
 わたしは、東京スカイツリーに行ったことがないので、なんとも言えませんが……。
 あそこまで高いと、地面のディテールなんて、判別できないんじゃないですか?
東京スカイツリーからの展望
↑東京スカイツリーからの展望

 地面が近い方が、ずっと迫力があるように思います。
 半分、負け惜しみですけど。

食「あ、トンネルを出ましたね。
 深浦駅に止まりますよ」
深浦駅ですれ違う、『くまげら』と『ブナ』
↑深浦駅ですれ違う、『くまげら』と『ブナ』。

食「降りますか?
 能代駅以来の旅客駅です」
覚えてますか? 能代駅
↑覚えてますか? 能代駅。

み「何それ?」
食「駅員のいる駅ですよ」
み「へ?
 てことは、能代からずーっと、無人駅ばっかり?」
食「無人駅か、委託駅ですね」
み「委託駅って、ウェスパ椿山みたいな?」
委託駅って、ウェスパ椿山みたいな?

食「そうです」
み「それもまた……。
 別の意味で大したもんだね。
 能代から深浦って、どのくらいあるの?」
能代から深浦って、どのくらいあるの?

食「63㎞です」
み「なんだ、そんなものか」
食「と言っても、『リゾートしらかみ』で、1時間以上かかりますよ。
 普通列車なら、2時間近くになります。
 距離で言えば、東京から平塚までと同じです」
距離で言えば、東京から平塚までと同じです
↑近いのか遠いのかよくわかりませんが……。この距離間に、駅員のいる駅が無いってのはスゴいと思います。

み「ま、ええわ。
 北前船のほかに、見どころはあるの?」
食「円覚寺という、古刹があります」
円覚寺本堂。よく燃えそうです
↑円覚寺本堂。よく燃えそうです。

み「お寺かぁ。
 ちょっち、食指が動かんのぅ。
 どんな寺?」
食「船関係の奉納物が多数収められてます。
 船主や豪商が奉納した船絵馬だけでも、70点以上ありますよ」
船主や豪商が奉納した船絵馬だけでも、70点以上ありますよ

み「いつごろ出来たお寺なの?」
食「建立は、1200年くらい前らしいです」
み「どしえー」
食「そうそう。
 面白い奉納物もあるんですよ。
 やっぱり、船関係ですけど」
み「なんじゃい?」
食「髷です」
み「マゲって、ちょんまげ?」
マゲって、ちょんまげ?

食「そうですよ」
み「何でそんなもんが奉納されるんだ?」
食「海で遭難しかけたとき……」
海で遭難しかけたとき……

食「命が助かったら、髷を切って収めますと誓いを立てて……。
 必死で祈るわけです。
 で、九死に一生を得た船乗りが……。
 自分の髷を額に入れて収めるんです。
 30点近い額があるそうですよ」
自分の髷を額に入れて収めるんです

み「それは面白ろそうだにゃ。
 ますます降りたくなってしまった。
 まだ、何かありそうだな」
食「うーん。
 青森といえば、太宰治ですよね」
青森といえば、太宰治ですよね

食「深浦は、太宰が『津軽』の執筆で訪れたそうです。
 当時泊まった旅館が、『太宰の宿 ふかうら文学館』になってます」
当時泊まった旅館が、『太宰の宿 ふかうら文学館』になってます

食「宿泊当時の部屋が再現されてるんですよ」
宿泊当時の部屋が再現されてるんですよ

み「太宰が泊まったのって、いつごろ?」
食「昭和19年と、20年だそうです」

 少し長くなりますが、『津軽』より引用します。

『深浦町は、現在人口五千くらゐ、旧津軽領西海岸の南端の港である。江戸時代、青森、鯵ヶ沢、十三などと共に四浦の町奉行の置かれたところで、津軽藩の最も重要な港の一つであつた。丘間に一小湾をなし、水深く波穏やか、吾妻浜の奇巖、弁天嶋、行合岬など一とほり海岸の名勝がそろつてゐる。しづかな町だ。漁師の家の庭には、大きい立派な潜水服が、さかさに吊されて干されてゐる。何かあきらめた、底落ちつきに落ちついてゐる感じがする。駅からまつすぐに一本路をとほつて、町のはづれに、円覚寺の仁王門がある。この寺の薬師堂は、国宝に指定せられてゐるといふ。私は、それにおまゐりして、もうこれで、この深浦から引上げようかと思つた。完成されてゐる町は、また旅人に、わびしい感じを与へるものだ。私は海浜に降りて、岩に腰をかけ、どうしようかと大いに迷つた。まだ日は高い。東京の草屋の子供の事など、ふと思つた。なるべく思ひ出さないやうにしてゐるのだが、心の空虚の隙《すき》をねらつて、ひよいと子供の面影が胸に飛び込む。私は立ち上つて町の郵便局へ行き、葉書を一枚買つて、東京の留守宅へ短いたよりを認めた。子供は百日咳をやつてゐるのである。さうして、その母は、二番目の子供を近く生むのである。たまらない気持がして私は行きあたりばつたりの宿屋へ這入り、汚い部屋に案内され、ゲートルを解きながら、お酒を、と言つた。すぐにお膳とお酒が出た。意外なほど早かつた。私はその早さに、少し救はれた。部屋は汚いが、お膳の上には鯛と鮑(あわび)の二種類の材料でいろいろに料理されたものが豊富に載せられてある。鯛と鮑がこの港の特産物のやうである。お酒を二本飲んだが、まだ寝るには早い。津軽へやつてきて以来、人のごちそうにばかりなつてゐたが、けふは一つ、自力で、うんとお酒を飲んで見ようかしら、とつまらぬ考へを起し、さつきお膳を持つて来た十二、三歳の娘さんを廊下でつかまへ、お酒はもう無いか、と聞くと、ございません、といふ』

 ゲートルというのが、まさに戦時中ですね。
ゲートルというのが、まさに戦時中ですね
↑脛に巻いてるのがゲートル。これは祭り装束のようです(こちら)。

 着流しでふらふら旅行するわけにはいかない時代だったんでしょう。
 酒を2本しか飲めないのも、戦時中ならではでしょうか?
酒を2本しか飲めないのも、戦時中ならではでしょうか?

 飲もうと思ったときに飲めないのは、ちょっと切ないですね。
 「汚い部屋」と書いたのは、その鬱憤かも知れません。
 汚いはずないと思うんですよ。
 この秋田屋旅館が建ったのは、昭和5年のことですから。
 写真のとおり、斜陽館を思わせる立派な作りです。
 建った当時は、御殿のようだったと思います。
 太宰が滞在したのは、建築から14年後のこと。
 部屋なんか、まだ十分綺麗だったはず。
 ま、『津軽』は小説ですから、ウソを書いたというのは当たりませんが。

 またちょっと脱線します。
 江戸の吉原を描いた映画なんかで……。
 店の中のシーン。
 しどけなく肩を着崩した花魁が、廊下なんかを歩いてます。
 リアリティを出すためなんでしょうか……。
 廊下も柱も、黒光りするほど古びた感じに描かれてます。
京都島原に残る揚屋『角屋(すみや)』
↑京都島原に残る揚屋『角屋(すみや)』

 ま、花魁の衣装や肌の白さが映えるようにと……。
 バックを暗くしたいというのもあるんでしょうね。
 でも、吉原の店が、黒光りするほど古びることは有り得ないんです。
 なぜなら……。
 江戸時代、吉原は、23回も火事で丸焼けになってるからです。
 つまり、常に新築同然で、古びるヒマなんてなかったわけ。
 おそらく、いつ行っても、木の香がプンプンしてたでしょう。
常に新築同然で、古びるヒマなんてなかったわけ

 で、この『津軽』の翌朝のシーン。

『「あなたは、津島さんでせう。」と言つた。
「ええ。」私は宿帳に、筆名の太宰を書いて置いたのだ。
「さうでせう。どうも似てゐると思つた。私はあなたの英治兄さんとは中学校の同期生でね、太宰と宿帳にお書きになつたからわかりませんでしたが、どうも、あんまりよく似てゐるので。」
「でも、あれは、偽名でもないのです。」
「ええ、ええ、それも存じて居ります、お名前を変へて小説を書いてゐる弟さんがあるといふ事は聞いてゐました。どうも、ゆうべは失礼しました。さあ、お酒を、めし上れ。この小皿のものは、鮑のはらわたの塩辛ですが、酒の肴にはいいものです。」
 私はごはんをすまして、それから、塩辛を肴にしてその一本をごちそうになつた。塩辛は、おいしいものだつた。実に、いいものだつた。かうして、津軽の端まで来ても、やつぱり兄たちの力の余波のおかげをかうむつてゐる。結局、私の自力では何一つ出来ないのだと自覚して、珍味もひとしほ腹綿にしみるものがあつた。要するに、私がこの津軽領の南端の港で得たものは、自分の兄たちの勢力の範囲を知つたといふ事だけで、私は、ぼんやりまた汽車に乗つた』

 これも、太宰一流の作り話という気がします。
 兄から、中学の同級生が深浦で秋田屋という旅館をやっていることを聞いていて……。
 あえて、そこに泊まったんじゃないでしょうか。
 秋田屋では、主人が自分に気づくかどうかと思い……。
 正体を黙ってたのかも知れませんね。
 でも、気づいてはもらえなかったんでしょう。
 同級生の弟とわかってれば、お酒の追加も出来たでしょうから。
 ひょっとして、その日ご主人は出かけてたのかも。
 翌朝もたぶん、顔を合わせなかったのかも知れません。
 小説にあるような交流があったのなら……。
 「汚い部屋」なんて、書けないじゃないでしょうか。
 しかし、朝から塩辛を肴にお酒飲むんですね。
 わたしなら、動きたくなくなります。
 ↓『太宰の宿 ふかうら文学館』を訪ねる動画がありました。


 鮑の塩辛も出てきます。
鮑の塩辛も出てきます
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