2015.4.7(火)
「帰りがけ、そこらへんに出したある(出してある)ポリバケツに突っ込んだ。今朝はゴミの日やったやろ。今頃は煙になっとるわ」
志摩子に、凶器の包丁を拭った布について問われた源蔵は淡々と答えた。空になった枡を志摩子に突き出す。
志摩子は再び酒瓶を抱え、源蔵の手元に傾けた。とろりとした質感の液体が枡を満たして行く。酒の香りが軽く立った。瓶のラベルの銘柄は「筐姫」。
伏見の「はこひめ」だが、「きょうき」とも読める。“兇器”あるいは“狂気”と……。
「しやけど源ちゃん。なんでまた、おろく(死体)をうちの庭に……」
「しゃあないやんけ。なんぼ夜中やゆうても、まさかおろく担いで先斗町歩けんがな」
「ほらほやろけど、ほれもこれも、うちの厨房でや(殺)ったりするからやないの」
「や(殺)ってもうた(しまった)もん、しゃあないゆうとるやんけ、ひ(し)つこいのう」
「源ちゃあん」
志摩子は、横座りの姿勢をさらに崩し、上体を源蔵に凭せ掛けた。大きく広げた両腕を源蔵の背に回し、片頬をねじ込むように、幅広い源蔵の胸に擦りつけた。
浴衣の裾が大きく割れ、両脚の間(あわい)が付け根近くまで剥き出しになる。その内腿は年齢に不相応な張りを持ち、仄暗い室内の灯かりに、ぬれ濡れと白く浮かび上がった。
「源ちゃあん」
詰るような、怨じるような、縋りつくような志摩子の声は、二十歳になるかならぬかの生娘か、と思わせるように瑞々しいものだった。
「源ちゃん、うちも……殺して」
その言葉を聞いた源蔵は、いきなり志摩子を押し倒した。
「ひっ」
短い悲鳴を上げ、志摩子は改めて源蔵にしがみついた。二人の口が激しく合わさる。初めて接吻を交わす中学生のように、互いの歯が音を立ててぶつかり合った。唾液が絡み合い、混ざり合い、互いの口辺から飛び散る。志摩子の口元からは滝のような勢いで泡混りの唾液が滴り落ちた。
「うおっ」
「ひいいいっ、源、ちゃあん」
「お志摩っ」
「こ、殺して、殺してえっ、源……」
「殺す、殺したる、志摩っ」
源蔵と志摩子は、引きちぎるように浴衣を脱がせ合った。正面から体をぶつけ合い、互いの背に腕を回し、少しの隙間も恐れるように抱きしめ合った。
だが、その二人の体は汗に塗れ、相手の手をむなしく滑らせる。それはまるで、鱗をもたず、粘液で体を保護する魚が、ぬめぬめと人の手をすり抜けようとする様に似ていた。
「お志摩、後ろ、向け」
志摩子の両の乳房をかなり強い力で握りしめながら、源蔵は命じた。
志摩子は跳ね起き、両膝をついたままうつ伏せになった。両腕は長く前に伸ばし、胸は畳に這わせる。豊かな乳房が押し潰された。獣の姿勢であった。
源蔵は、滑る手を志摩子の腰の張り出しに掛け、がっしりと抱え込んだ。前戯も何もなく、陰茎をいきなり志摩子の膣にねじ込んだ。
前戯は不要だった。志摩子の膣は既に満々と膣液を湛えていた。膣液は、膣口から溢れ出て外性器をしたたかに濡らしていた。
源蔵の陰茎は深々と膣に喰い込み、膣壁を掻き分けて奥に向かった。志摩子の膣液は、誘うように陰茎を奥に導いた。雁高の亀頭冠が膣壁を擦過するごとに、志摩子は絶え入るような悲鳴を上げた。
「いっ、ひい、いひい、いひいいいっ、いいっ、いいっ、いいっ、いいいいっ」
源蔵が物も言わず、志摩子の両の尻の横を両手で打った。それが合図ででもあるのか、志摩子が腰を落とした。
源蔵は姿勢を変えない。陰茎が膣から抜けた。
志摩子が半ば悲鳴のような声を上げた。
「ああ、いやや、あかん、抜いたらあかん」
「ほれ、上、向くんや」
志摩子はそのまま横向けに回転し、仰向けに姿勢を変えた。
源蔵は上から覆い被さった。正常位の体勢である。
志摩子は両脚を大きく開いて上にあげ、源蔵の胴を絡め取るように挟み込んだ。
源蔵は、改めて志摩子の膣に陰茎を挿入した。源蔵の下腹部が、志摩子の陰核を押し潰した。
亀頭冠が子宮口を擦り上げ、亀頭が膣底に喰い込んだ。膣底は、押し返すように亀頭を受け止め、膣はその全体、膣口から膣壁、膣底までの全てを用い、慈しむように陰茎を包み込んだ。
自らの膣に倣うように、志摩子の両腕、両脚は、この上なく愛しいものを掻き抱くように、源蔵の体を抱え込んだ。その様は、失われようとするものを「放してなるか」と繋ぎ止める、妄執の現れのようにも見えた。
志摩子は、譫言の様に声を上げ続けた。
「死ぬ、死ぬよ、うち、死ぬよ、死ぬよ、源ちゃん、源、ちゃんっ、もう、死ぬっ、死ぬ、死ぬ、死ぬ」
源蔵の挙睾筋が収縮した。陰茎全体が膨れ上がる。尿道を精液が走り抜ける。尿道口から激しい勢いで精液が射出され、志摩子の膣底を叩いた。溢れかえる精液は、志摩子の膣壁と源蔵の陰茎との間をすり抜け、膣口へ、外界へと向かった。
「うおおおおおおおっ」
「あ、あ、あ、あ、もう……もう、し、ぬうっ」
膣液と精液を追うように、志摩子の尿道口から多量の尿が噴出した。志摩子の失禁は、いつ果てるともなく続いた。
「なあ、お志摩」
「なあに、源ちゃん」
志摩子と源蔵は並んで横たわり、薄暗い天井を見詰めていた。いや、天井を通して、炎暑の京の夜空を見上げていた。
身には何も着けていない。
「もう、ええやろ」
「ええ、て、何が?」
「あいつやがな、あの、女や」
「あの女て……」
「しやから、包丁もっとる奴や」
志摩子は、顏を横向け、源蔵を見た。
「あやめのことかいな」
「ほや(そうだ)」
「あやめやったらあやめ、て言や(言えば)ええのに。変なお人やねえ」
源蔵はそっぽを向いた。
志摩子は、おかしそうに源蔵に問いかける。
「ほんで? あやめの何が、もうええのん」
源蔵は、改めて志摩子の顔を見詰め、少し声を大きくした。
「とぼけるんやないわ。もともとおまん(お前)が言いだした話やろが、あいつを潰す、て」
「ああ、せやった(そうだった)ねえ」
「こんだけ、ええ思いさせたったんや。もう、たいがいにしようや」
「こんだけ、て。ええ思いて、どういうこと?」
「しやから、とっくに潰されてるはずが、包丁振いぃの、客に褒められぇの、そこら中の評判になりぃの……。ええ思いやないかい(ではないか)。それがかれこれ、もう二(ふ)た月や。妙な言い方やが、分不相応っちゅうもんやで」
「ふん」
志摩子が視線を外し、天井を見上げた。源蔵は志摩子の横顔を睨み付ける。
「おまん(お前)も、たいがいあいつで儲けたやろ。しやからやな。ここらでそろそろ計画通りに、やな」
「儲けた、とかゆう話やったら、まだまだ儲かるやないの、あの子で」
「アホ、そんなん、きりないわい。ほれにやな、のんびり構えとったら、抜き差しならんようなるで」
「抜き差しならん、てどういうこと?」
「あいつがやな、この店で自分の立場を作り上げてまいよる(しまう)ゆうことや。潰そ、思ても潰せんようなって(し)まう、ゆうことやがな」
「ほないなもん(そういうもの)かねえ」
「ほないなもんや」
「なあ、源ちゃん」
志摩子は再び源蔵を見た。源蔵の腹の底を見透かそうというような視線だった。
「あんた……なんぞあの子に含むとこ、あんのん?」
源蔵は一瞬口ごもったが、続けた。志摩子に、というより、何か正体不明の者に宣言するような口調だった。
「儂なあ、なんや知らんけど、嫌いやねん、あいつのこと」
志摩子は思わず微笑んだ。源蔵の全て許す、そんな笑みだった。
「なんや源ちゃん……なんや、小学生みたいやで。『わし、あいつ、きらいやねん』」
源蔵の口調を少し真似て、志摩子は語り掛けた。源蔵は嬉々として返答する。
「ほんだら(それなら)、やるか? ええんか?」
「ええよ、ええ。あんたの好きにしよし(しなさい)」
志摩子は片腕で源蔵の頭を抱え込んだ。愛しそうに引き寄せる。
源蔵は志摩子の腰を引き寄せた。
二人は再び絡み合った。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2015/04/07 10:58
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これはむろん、殺人鬼・狂犬源蔵の事です。
どうも……尋常の人間ではありません、関目源蔵。一店の立て板、実質的に板場を統括する立場にありながらの女漁り(珍しくもないか)。で、やった女はたいがい殺して「ほかす(捨てる)」という、とんでもない野郎です。まさに鬼畜。
「ねじが一本抜けている」という可愛い言い回しでは、到底表現できる人物ではありません。
相方の志摩子は志摩子で……、
>失われようとするものを「放してなるか」と繋ぎ止める、妄執
の虜。
“うちら(私達)に明日はない”てな感じで、刹那の享楽に悶え狂っております。
で今回、源蔵-志摩子の極悪コンビが、あやめを「潰す」という密議を始めました。この二人の間では、あやめを入店させる段階からの予定だったようですが、いよいよ実行に移される、と……。
何故あやめを潰そうとするのか、これにはそれなりの「わけ」がある訳ですが、これは今後、徐々に明かされることになります。
ともあれ、今回の源蔵のセリフ、
>儂なあ、なんや知らんけど、嫌いやねん、あいつのこと
ということは、「わけ」「企み」以前に、大げさに云いますと何やら「根源的に相容れないもの」が、あやめと源蔵の間にはあるようです。これは二人の初めての出会いシーン(#33、#34)からそうでした。
なあんてことを書いているうちに、源蔵-志摩子コンビについて、思いついたアイディアを思いつきました(日本語、大層、変)。
いやあ、これはぜひ書きたいものですが、書くとしたら物語の流れのどこにはめ込むかが問題だなあ。しばらくじっくり考えることにしましょう。
なんだか、関目源蔵にのめり込みそうです。
いやあ、書くって、楽しいなあ。
ともあれ(さっきも書いたぞ)、今回の登場人物は源蔵-志摩子コンビのみ。かくてはならじ。
『アイリスの匣』の主役は、あくまであやめ姐さん。匣を開けるのはあやめ、と当初から決まっております。
次回はあやめ-久美コンビの活躍になります。
乞う!ご期待。
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2. Mikiko- 2015/04/07 20:45
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“嫌よ嫌よも好きのうち”かと思ったら……。
ほんとに嫌いなんですか。
なんででしょうね。
殴られても、へこたれないからでしょうか。
しかし、どうやって潰すんでしょうね。
『トンコ節』作詞/西条八十 作曲/古賀政男
あなたのくれた おびどめの
達磨の模様が チョイト気にかかる
さんざ遊んで ころがして
あとでアッサリ つぶす気か
ネー トンコトンコ
いっそ、あやめを芸子に転身させたらおもろいんでないの。
包丁も握れる芸子。
不埒な客は、隠し持った柳刃で、耳を削ぎ落とすとか。
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3. ハーレクイン- 2015/04/07 22:18
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ふっふっふ♪
これは、秘中の秘だよ。
乞うご期待、とだけ書いておこう。とりあえずのう。
ま、ご指摘通り、殴られても蹴られても、どれほど踏みつけにされてもへこたれるあやめではありません。目障りに感じている人間にとっては、これほど小憎らしい存在はないでしょう。
ならば!……
♪こうしてこうすりゃこうなると
知りつつこうしてこうなった二人
ほれた私がわるいのか
迷わすおまえがわるいのか
ネエ トンコトンコ
芸子は、京では「芸妓」と書きます。
読みは「げいぎ、または、げいこ」です。
一色まこと著『ハッスル』という、人情スポ根・女子プロレス漫画があります。
プロレスが趣味という祇園の舞妓(舞子、まいこ。“まいぎ”とは云いません)が、すったもんだの末、女子プロレスラーに転身。苦闘の末、デビュー戦勝利を果たす、というものです。
ちなみに「舞妓」は、簡単に言えば「芸妓見習い」というところですね。
J:COMが地上デジタル放映している番組に『恋舞妓の京都慕情』というのがあります。祇園甲部の舞妓二人が、京都の有名スポットを案内するという、ま、たわいないと言えば他愛無い番組です。
『アイリス』京都編の参考になるので(ていうか、舞妓Haaaan!!!が可愛いので)、録画して見ています。
前回は、祇園の「八坂神社」でした。
あやめは包丁一筋です。
♪包丁いっぽぉ~ん さらしにまぁいて~
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4. Mikiko- 2015/04/08 07:50
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逸ノ城を連れてきて、あやめの布団の上に座らせるとか。
舞妓と芸妓。
↓新潟では、『振袖さん』と『留袖さん』です。
http://www.ryuto-shinko.co.jp/sode/
わたしは残念ながら、実物を見たことがありません。
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5. ハーレクイン- 2015/04/08 11:37
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すっかり取り口を覚えられたのか、先場所はさっぱりでした。その前は負け越すし。
やはり、体重と腕力だけでは勝てないということだな(あたりまえ)。
気持ちを入れ替え、技術を磨き、頭も使って……精進されよ。
振袖さん・留袖さんとは懐かしい。
ご健在なんですねえ、㈱柳都振興さん。
「あやめ」さんが、いてはるやないですか。しかも留袖さん。
よっ、あやめ姐さん!