Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #72
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#72



 あやめは、タクシーから明子を引きずり出した。

「明子はん。しっかりしとくんなはれ、明子はん。
 このマンションでよろしいんでっか」
「ロイヤルマンションや。御大層な名前や。ほんまに、アホか言いたなるなあ」
「何階ですか」
「もお、何階でもええやないの」
「そんな。部屋番号を教えてください」
「ほんまにあやめさんって、しっかりしてんねやねえ。ちょっとイラッとする」
「明子はん!」

 あやめは、肩にもたれ掛かる明子の耳元で怒鳴った。

「おわっ。何ちゅう声だすん、あやめさん」
「部屋番号を教えてください!!」
「311や、311。ちっとは静かにしよし(しなさい)!」

 あやめは、明子を抱え込み、エレベーターの開閉ボタンを押した。
 ドアが開く。
 あやめは、引きずりこむように明子をエレベーターに乗せ、階数ボタン「3」を押した。ドアが閉まる。
 明子があやめにもたれ掛かる。明子の乳房があやめの二の腕に押し潰される。豊かな感触だった。あやめの鼓動が速くなった。

 エレベーターのドアが開く。目の前のドア番号は303であった。
 あやめは廊下の左右に目を遣る。左には2軒しかない。明子を抱え込み、廊下を右に向かった。明子を抱きかかえ、転ばせないように注意しながらであるので、なかなかはかどらない。しかも、時折明子がしなだれかかって来る。
 ようやく311号室の前に着いた時には、あやめは汗まみれになっていた。

「明子はん、鍵、出してください」
「鍵ぃ? 何の鍵なん」
「もちろん、明子はんちの入り口の鍵ですがね」
「なんやのん、うっとこ(わたしの家)の鍵出せて。ひょっとして空き巣に入る気? あやめさん」

 あやめは明子の両肩を両手で掴み、真正面から明子を見詰めた。

「明子はん。知って(わざと)やってはるやろ」

 明子はしゃきっと立ち上がった。真正面からあやめを見返す。二人の目の位置は、ほぼ同じ高さだった。視線がからみあう。明子は微笑んだ。

「やっぱりわかる? あやめさん」
「わかりますよ。あの程度のお酒で、明子はんがそんなにべろべろになるわけおへんやろ。ご自分で『うわばみ明子』て言うてはったやないですか」
「ああ、そやったねえ。ごめんね、あやめさん。ちょっと構(かも)てみたかったんや」
「もう」
「ちょっと待ってね」

 明子はバッグの中を探り、すぐに鍵を取り出した。入り口のドアを開錠する。

「入って、あやめさん」
「え、いえ、うちはここで……」
「なにいうのん、あやめさん。こんなとこでさいなら(さよなら)はないやろ。はいって、入って」
「え、ほんでも……」
「こんな中途半端にさいならされたら、うち、どないしたらええかわからん。寂しゅうて死んでまう。お願い、入って」

 あからさまな言葉だった。あやめの頭に血が上った。久美の顔が脳裏に浮かんだ。

(やはり……)
(引き返すなら今だ)
(しかし……)

 明子への心情。
 宝田一族との関係。
 「花よ志」への影響。

 さまざまなことが頭をよぎる。
 足が動かない。
 明子が一歩部屋に入り、あやめの腕を引いた。
 あやめはふらりと室内に踏み込んだ。


 広い室内だった。
 いわゆるワンルームなのだが、10畳や12畳ではきかない。とにかく広い。
 あやめには、“遥か彼方”と思える窓際にベッドがあった。

「どうぞおはいり、あやめさん」
「へえ……」

 明子は、すたすたと奥に歩み入る。
 あやめは、引きこまれるように歩み入った。

「そこらに適当に座って、あやめさん」
「あ、へえ」

 明子は、エアコンのリモコンを操作しながら、あやめに声を掛けた。
 あやめは、ガラステーブルの前に据えられたソファに掛けた。どうにも落ち着かない。浅く、ほとんど尻が落ちそうになるほど浅く腰掛けた。

「ちょっと待ってね」

 明子は冷蔵庫の扉を開けた。

「あ、おかまいなく」
「別に、大したお構いはしませんよ」

 明子は、冷蔵庫のドアポケットから、ペットボトルを2本取り出した。ミネラルウォターとお茶である。
 さらにウィスキーと焼酎の瓶。

「あやめさん、どっちがよろし? ウィスキーと焼酎? お酒もおますえ」
「あ、いえ、うちはもう……」
「なに言うてはりますのん。まだまだ飲み足らんて顔してはりますえ」
「そんな……」

 明子は、ウィスキーと焼酎の両方をガラステーブルに置いた。ミネラルウォターとお茶も置く。
 サイドカウンターから、腰高のグラスを2つ取り出し、テーブルに置く。

「自由にやってね」

 明子は言い置いて再び冷蔵庫を開けた。
 角氷を取出し、アイスペールに開ける。角氷に満たされたアイスペールをテーブルに運ぶ。
 再びあやめに声を掛ける。

「好きにやってね」
「明子はん、ほんまにお構いなく」
「お構いなんかしてまへんよ。えーっと、なんかツマミになるようなもんは……」
「明子はん、ほんまに……」
「あ、こんなんあった」

 明子は、オイルサーディンの缶詰を見つけ、嬉々としてテーブルに載せた。フォークを2本、同様にテーブルに載せる。

「ほんまにお構いなしやけど、こんなんで堪忍してね。あやめさんが来はるてわかってたら、いろんなもん用意しといたんやけどねえ」
「そんな、明子はん……」

 明子は、缶詰のプルトップを引き上げた。

「どうぞ」
「おおきに」
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2014/07/15 10:26
    • >明子はん。知って(わざと)やってはるやろ
      あやめに指摘された明子は芝居をやめます。
      >寂しゅうて死んでまう。お願い、入って
      もう、愛の告白と言っていい明子のセリフです。
      さあどうする、あやめさん。
      どうする、といっても入っちゃいましたけど、あやめさん。
      >ほんまにお構いなしやけど、こんなんで堪忍してね
      ま、お構いなしといえばお構いなしなんでしょうが、もてなしで大事なのは、物ではなく心ですからねえ、明子はん。
      あやめはそのあたり、十分感じてると思いまっせ。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2014/07/15 20:58
    •  ぜったいに、膀胱が満タンなはずです。
       トイレにも行かずに飲み始めるなんて、考えられん。
       オイルサーディン。
       昔、一度、買ったことがあります。
       やたらと塩っぱかった記憶があります。
       あれ、違ったかな?
       わたしが食べたのは、アンチョビかも知れません。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2014/07/15 21:53
    • いやあ。
      東山の「ひいらぎ」はんと、明子のマンションはすぐそこだよ。
      間違いなくワンメーター。大丈夫だろ。
      オイルサーディン。
      まあ……イワシ類かな。
      アンチョビ。
      カタクチイワシだそうです。
      どう違うのかね、イワシとカタクチイワシ。
      缶詰はどちらも塩っぱいよ。
      酒の肴にはいいんだけど、あまり体にはよくないかも。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2014/07/16 07:51
    •  明子は、あやめを『花よ志』の近くまで迎えに行っておいて……。
       わざわざ、自分のマンション近くの『ひいらぎ』に案内したと。
       ということは、ここまでの成り行きは全部策略というわけですね。
       最近、久しぶりに桃屋のイカの塩辛を買ってみました。
       最初は、塩っぱくて驚きましたが……。
       慣れると、ご飯のオカズに最高。
       2,3切れで、お茶碗1杯食べられます。
       カタクチイワシと云うのは……。
       口の堅いイワシです。
       普通のイワシは、口が軽いですから。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2014/07/16 16:57
    • お、さすが鋭い。
      よく見た。
      そうです。明子は大酒飲みの上に策略家で、裏で手を回すのが得意のすれっからしなんですね。このあたり、晋伯父に鍛えられたのかもしれません。
      あやめでは太刀打ちできんやろなあ。
      桃屋の瓶詰は、実に多種多様なものが出ているようです。
      わたしらの頃は、♪おかずは桃屋の花らっきょ、くらいだったのにね。
      「カタクチイワシは口が堅い」
      お、まあおもろい。
      椅子用の小座布団、一枚。
      実際には……、
      Wiki
      「カタクチイワシは目が頭部の前方に寄っていて、口が頭部の下面にあり、目の後ろまで大きく開くことが特徴である。和名も『口が頭の片側に寄っている』ことに由来する」
      だそうです。
      “片口イワシ”なんでしょうかね。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2014/07/16 19:39
    •  桃屋と云えば、『江戸むらさき』でした。
       大阪では、“江戸”の付く商品は、ポピュラーじゃなかったのかねか?
       たまに、『メンマ』が食べたくなります。
       『花らっきょう』は、食べられないことはないですが……。
       自分から手を伸ばすことはありません。
       ↓確かに、実に多様な商品があります。
      http://www.momoya.co.jp/products/
       今度は、『酒盗』を買ってみよう。
       ↓片口は、これのこと?
      http://blog-imgs-69.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/2014071617385612d.jpg

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2014/07/16 21:06
    • 江戸むらさきといえば“ユカ”むらさき。
      メンマは、ラーメンの添え物、としか思えぬ。
      らっきょ。
      わたしも全くダメです。
      今まで二度口にし、二度とも吐き出しました。
      今後生涯、食べることはありません。
      「酒盗」
      やはり高知の名物ですかね。
      「片口」、これで注がれたら“カ・イ・カ・ン”
      注ぐ方としては、取っ手が欲しいとこだな。

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2014/07/17 07:26
    •  小皿で出せば、立派なツマミの一品になります。
       らっきょう。
       吐き出すのはいけませんね。
       一度口に入れたものは、観念して呑みなはれ。
       片口。
       これは、何に使う食器なのでしょう。
       熱いもの入れたら、持てないよね。
       思いつくのは、天つゆくらいでしょうか。
       注ぎ口に、スプーンを預けられるから……。
       デザートなんかには、いいかもですね。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2014/07/17 12:24
    • らっきょだけはだめです。人間の食べるものではありません。臭いを嗅いだだけでも吐き気をもよおします。
      今はさすがに見なくなりましたが、昔のカレー屋ではご飯の上に直接らっきょを乗せて供する店がありました。コノヤロ、と思いながららっきょをご飯で埋めつくし、見なかったことにしてカレーを食べたものです。
      片口。
      持ち方によっては、ガサツな感じにもなりそうな……。
      やはり冷や酒、ないしぬる燗が最適じゃないですかね。
      それにしても、誰がこんなの考え付いたんだろうね。
      注ぎ口にスプーンって、無粋な真似はやめましょう。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2014/07/17 20:39
    •  ご飯とカレーが、別々に供されるか……。
       あるいは、ご飯とカレーが、皿の両側に分かれて出されるお店ですね。
       埋めたらっきょは、最後にはどうしたんです?
       ご飯にくるんで食べたわけ?
       冷や酒を飲むのに、なんで片口なんか使うんでしょう?
       壜から、直接注げばいいだけではないか。
       居酒屋とかなら、コップに盛り切りですよね。

    • ––––––
      11. ハーレクイン
    • 2014/07/17 22:54
    • 食べまっかいな、ほんなもん。
      くたばれコノヤロ、てな感じでほったらかしでした。
      片口の酒。
      え、なんで?
      そらあ、ただ注ぐだけならそれでいいだろうが、やはり気分が違うんでないの。

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2014/07/18 07:36
    •  ぜったいにひっくり返します。
       徳利なら、すぐに起こせば、大半は残りますが……。
       片口は、一瞬でおじゃんですね。
       酔っぱらいの使える酒器ではありません。

    • ––––––
      13. ハーレクイン
    • 2014/07/18 16:16
    • >片口は一瞬でおじゃん
      たしかにそのとおりですね。
      だから、お道さんとか久美ちゃんとか、しっかりしたお方に侍っていただきたいものです。

    • ––––––
      14. Mikiko
    • 2014/07/18 19:51
    •  片口を使わなきゃいいだけじゃん。
       ていうか、使う必然性、ナッシングでしょ。

    • ––––––
      15. ハーレクイン
    • 2014/07/19 03:30
    • ま、確かにその通りですな。
      なんで片口なんて話になったのか、遡ってコメを読んじまったよ。
      オイルサーディン。アンチョビ。カタクチイワシからだな。
      そういや『アイリス』早よ次、書かんとなあ。
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