Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #65
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #65



 八寸は、一皿にこれだけの料理が盛られているわけであるから、どこから箸を付ければいいか迷うところである。
 が、特に決まりはない。逆に迷って、皿の上で箸をうろうろさせることを「迷い箸」と言い、日本料理ではマナー違反とされる。
 これを避けるためには、何といっても各料理をしっかり頭に入れておくことであるが、いきなり出された八寸に対し、これは難しいことである。そのためには焦らず、まずは酒でも口に含み、会話を楽しみながら、ゆっくり皿の上を観察することである。そうはいっても、あまりじろじろと八寸皿を睨みつけるのも少しみっともない。このあたりの呼吸は難しいところである。
 しかし、わからなければ店の者に聞けばいい、なにも遠慮することはない。料理屋は悩む場所ではない、料理を楽しむ場所なのだ。
 あやめと明子は、楽しそうに八寸皿を眺めた。もちろん、箸は箸置きに置いてある。

「あやめさん」
「へえ」
「さっきのこのお料理『ウルイとタケノコの酒粕和え』言わはったねえ。どんなお味ですやろ」
「へえ、ウルイもタケノコも旬は春どすから、今は少し遅いんどすけど、季節には季節の味がおす。
 ウルイの味は特にクセはおません。野の味、言うたらええんどすやろか。今頃になりますと少し苦味が出ますが、それもまたええもんどす。
 筍の食味はようご存知ですわねえ」
「お味は……」
「へえ、酒粕と砂糖を少しのお湯で伸ばしてウルイとタケノコを和え、塩で味を調整します。酒粕も冬のもんどすさかい(ものだから)少し難しいお料理なのですが、酒粕にあまり頼らず、ウルイとタケノコの野草としての味を生かすお料理どすね」
「へえー、美味しそう。うち、ウルイて初めてなんです」
「美味しいですよ」

 明子は酒を少し口に含み、さらにあやめに問いかけた。

「ほな……カモと、ソラマメと、厚焼き玉子ははだいたいわかるとして、この可愛いお寿司はなんですやろ」
「手鞠寿司、云います。小さな鞠のようや、いうことどす。
 ネタはイワシどす。イワシは家畜の飼料や畑の肥料にもされますので、よく『下魚(げぎょ)』などという評価がされます。ですから、これを出されると怒りだすお方もいはるそうです。『馬鹿にすんな』いうことどすね。
 たしかに、サバと同じように痛みやすい魚なんどすが、水揚げ直後の新鮮なものを、このように寿司ネタや刺身、酢の物などにすると、こんな美味しいもんはおへん。イワシ料理専門店なんかもおますし」
「へええー、イワシの手鞠寿司」

 明子は、侍る年配の仲居に問いかけた。

「このイワシ、どこのんですやろ」
「ほほほ、そないなお話聞かせてもろた後ではお答えしにくおすけんど、瀬戸内もんといいますか、大阪湾どす。今朝揚ったもんを超特急で運んできました。まだ揚ってから2時間と経ってまへん」

 明子は、あやめに声を掛けた。

「ほなあやめさん、とりあえず手鞠寿司、いただきましょ」
「そうどすなあ」

 二人は同時に箸を取り上げた。手鞠寿司は、小さな笹舟型の小皿に乗っている。一貫のみである。小さな、直径がわずか2~3センチほどの丸い寿司を箸で取り上げ、口に入れた。

「おいしいっ」

 明子が歓声を上げた。あやめも、イワシと寿司飯の味をかみ締める。

(美味しい)
(このイワシ、よっぽど上手いこと運んできたんやろなあ)
(ほれにこの寿司飯)
(やっぱり、当たり前やけど、寿司飯の命は酢やな)
(しやけど、酢についてはさすがに、どこのもんか聞けんなあ)
(ほんでも、酢と、塩・砂糖の配合、飯との混ぜ方は見事やなあ)

 あやめは、自分が初めて寿司飯を作った時のことを思い出した。
 寿司酢の配合も、寿司桶の中での飯と寿司酢との混ぜ合わせ方も、ひどいものだった。自分でも、こんなものは使い物にならんとわかった。そんなつもりはないのに、思わず涙がこぼれた。
 板長の相良も、兄の健三も、母も父も何も言わなかった。それがかえって悔しく、情けなく、裏庭に飛び出して大泣きしたのを覚えている。

(あれは……いつごろのことやったかなあ)
(小5か小6か、中1になっていたか……)

「美味しいねえ、あやめさん」
「へえ、ほんまに美味しおす」

 あやめと明子は、ほぼ同時に侍る仲居を見やった。
 年配の仲居は、一瞬どぎまぎした。

「んまあ、堪忍しとくれやす。うちが作った、云うわけやおへんし。どうぞ、あともお上がりやして」

 若い仲居は俯いている。軽く笑っているようである。

「いやあ、まだもうちょっと残っとります」
「これですやろ、明子はん」
「あやめさん、これ、幽庵焼きですなあ」
「へえ、そうどす。醤油・酒・味醂の合わせ調味料に、柚子など柑橘類のしぼり汁を加えた液、これを『幽庵地』いいます。これに魚を2、3日漬け込んだ後、焼いたもんどす」
「魚は、マナガツオですねえ」
「へえ、そうどすなあ」
「で、問題はこのお皿ですねえ」

 明子は「イイダコのマリネ」の小皿を指した。八寸皿の上の他の小鉢の中では、少し腰高の鉢である。ネタは一目でタコとわかる。生のようであるし、さほど細工はしていない。
 あやめは考えた。

(ということは、問題はマリネ液の配合やな)

 マリネ液(漬け汁)は、西洋料理では酢をベースにし、レモン汁、ワイン、塩で味を調え、さらに油や、各種の香草、香辛料を加えた漬け液である。
 食材は肉、魚、各種の野菜。ただの和えものとも云えるのだが、酢、ワイン、油、香辛料などにどのようなものを用いるかで、非常に幅広い味が得られる。ある意味、難しい料理である。

 日本料理の南蛮漬けも、広い意味ではマリネである。肉や魚を唐揚げにし、酢・砂糖・塩を混ぜ合わせた調味料に漬け込む。この調味料を「南蛮酢」と云う。ネギ類や唐辛子を刻んだものを混ぜることもある。このあたりの配合をどうするかという問題は、西洋料理と同じである。

 八寸皿の上のタコ自体は生である。南蛮漬けとは云えない。
 が、いずれにしても、マリネという料理の最大のポイントは漬け込む酢にあろう。酢の吟味がマリネの味を決める。

(さあ、どないな味やろ。楽しみやなあ)

 考えるあやめに、明子が声を掛けた。
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2014/05/27 09:05
    • 酒粕は冬のもの。
      これらをうまく合わせるのは少し難しおすが、
      まかせとくんなはれ(あやめ)。
      イワシの手鞠寿司。
      美味しいですよ。
      大阪と和歌山を結ぶJR阪和線の杉本町駅前に、大阪市立大学があります。
      「市立」大学というのは珍しいと思いますが……。
      ま、それはともかく、この大阪市立大学の正門前に、イワシ料理専門店があります。店名は忘れましたが珍しいでしょ。
      前菜から、メインから、寿司から、ネタはみいんなイワシです。どうぞ、一度お立ち寄りください。
      最寄駅は、JR阪和線「杉本町駅」です。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2014/05/27 20:41
    •  ギボウシのことですね。
       最近は、ちょっと気取って、ホスタなどとも呼ばれます。
       日陰に強く、花も綺麗です。
       ↓優秀なガーデニングプランツとして、わたしも紹介しました。
      https://mikikosroom.com/archives/2769810.html
       食べられるってことだけは……。
       書き忘れたなぁ。
       なにしろ、食べたことが無いので。
       苦みがあって、ビールに合うそうですね。
       花は、天麩羅でもいただけるそうです。
       イワシ。
       丸干しを焼いたのは、好物です。
       頭から、全部食べます。
       ハラワタはもちろん、骨まで。
       美味しいですよね。
       さすがに、ホテルの朝食で出ることはありませんが。
       生のイワシは、ちょっとパス。
       あと、つみれも苦手です。
       イワシづくしが出ても……。
       食べられるのは、丸干しだけかな。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2014/05/27 22:16
    • 「パーフェクトプランツ」とも。
      聞き始めでした。
      と思ったら、読んでいました「Mikiko's Garden」。
      1年以上前の記事ですねえ。
      いやあ、懐かしい。
      可憐な花ですねえ、ギボウシ。
      あまり擬宝珠には見えんな。
      ホテルの朝食でイワシは出ないだろうなあ。旅館ならわからんが。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2014/05/28 07:38
    •  投稿日時は、ダミーです。
       元コメは、第225回(https://mikikosroom.com/archives/2671517.html)。
       投稿日は、2009年7月1日ですね。
       イワシ。
       やっぱり、“下魚”と称される魚は、出しにくいんですかね。

    • ––––––
      5.
    • 2014/05/28 13:50
    • 何の意味があるのだ。
      でも読んだぞ。
      ま、普通の料理屋ではまず出ないでしょうね、イワシ。
      でも、料理に自信のある料理屋では出ると思います。
      もちろん、イワシ料理専門店でも出ます、当たり前。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2014/05/28 19:37
    •  諸般の事情というのがあったのだ。
       ただの酔っぱらいには説明してもわからんと思うので、省略。
       イワシは、天麩羅も美味しかったな。

    • ––––––
      7.
    • 2014/05/28 21:32
    • なにかを誤魔化そうとするときの城東区、おっと常套句だな。
      新鮮なイワシは本当に美味しいよね。
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