Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #61
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #61



 仲居が料理を卓に並べる。
 まずは先付(さきづけ)。
「梅貝(バイガイ)とサヤインゲンの黄身酢和え」である。

 先付は、料亭のコース料理で真っ先に出される小鉢物である。
 塩茹でしたバイガイとサヤインゲンを、黄身酢で和えてある。黄身酢は、卵黄に酢、酒、味醂、それに砂糖を加えた合わせ調味料である。
 白いバイガイの身、緑のサヤインゲン、絡まる卵黄の黄。簡単な料理ながら華やかな先付であった。

「うわあ、綺麗」

 明子が手を打ち、声を上げた。

「あ、せや。お酒、お願いでけます?」

 明子が、侍る仲居に声を掛ける。
 年配の方の仲居が返事をした。

「酒。へえ。冷でよろしおすか、燗つけまひょか。
「燗付け、してください」
「承知しました」

 二人の仲居は座敷を出て行ったが、年配の方の仲居は、いくらも経たずに戻ってきた。
 盆の上に銚子と杯を乗せている。杯を明子とあやめの前にそれぞれ置き、銚子を取り上げた。

「どうぞ」
「おおきに」

 まず、明子の杯に、続いてあやめの杯に酒を注ぐ。

「ほな、あやめさん。改めて乾杯や」
「何に乾杯でしたやろ」
「もう忘れはったんどすか。『初めての出会いに』ですがね」
「あ、へえ。『初めての出会いに』」
「『初めての出会いに』」
「かんぱあい」

 二人は、ともに杯を上げ、なんとなく頭を下げあった。杯を口に持って行く。自然に目と目が合う。互いの目を見つめ合いながら酒を口に含んだ。

(あ、美味しい)

 あやめは感じ入った。

(さすがやなあ。酒ひとつでもこないに……)
(そういえば……「花よ志」ではどんなお酒出してんねんやろ)

 酒のことまでには思い至らなかった自分を、あやめは省みた。

(今度、兄さんに聞いてみんとなあ)

「ほな、いただきましょ、あやめさん」
「あ、へえ」

 箸を取り上げたあやめは、バイガイの身を一つ取り、口に含んだ。柔らかい貝の弾力と旨味、それを包み込む黄身酢の甘酸っぱさ。貝の茹で加減も、黄身酢の調合も見事であった。
 咀嚼し、嚥下する。口から舌、咽喉にかけ、旨味の塊が伝い下りて行った。

「……美味しい」

 思わず声が出た。
 傍らに控える仲居が、笑い混りの声を掛ける。

「おおきに、ありがとさんどす。『花よ志』はんのお料理人さんにお褒め頂け、光栄どす」
「とんでもおへん。こんなん言うたら生意気ですけど、バイガイの茹で加減は完璧ですし、この黄身酢のお味……こんな美味しい黄身酢、初めてどす。卵黄も調味料も、ほんまに吟味してはりますし、うちにはこないな味、出せまへん」
「ほほ。褒めていただくのは嬉しおすけんど、そんなん言いはったら、『花よ志』はんの板場はんが気ぃ悪しはりまっせ」
「あ」

 明子が華やかに笑った。
 つられて、あやめも仲居も笑い声を上げる。三人の笑い声は、炎熱の京の空に昇って行った。

「ほんでも、ほんまに美味しい。このバイ、どこのんですやろ」
「へえ、加賀と聞いとります」
「加賀……」

 石川県である。県都は金沢。あやめの脳裏を、また懐かしい女性の面影がよぎった。

(なんで今日はこないにあの子を思い出すんやろ……)
(そない云うたら……)
(あの子は、上州・月夜野の出や言うとったなあ)
(遠いなあ、上州)

 上州は、旧・上野(こうづけ)の国、今の群馬県である。京都は山城、金沢は加賀。金沢はともかく、京都から群馬は遠い地であった。
 群馬県に海は無い。

(あの子は……バイガイを食べたことあるんやろか)

 あやめは、また遠い思いに耽った。
 先付の鉢が空になる。そのタイミングを見計らったように、若い仲居が入って来た。

「お椀でございます」

 先付の皿を引いた後、椀物をそれぞれ、あやめと明子の前に置く。碗は京料理の花である。料理人の五感と美意識の全てが試される料理である。もちろん、客のそれも試されるわけであるが……。

 明子が碗の蓋を取る。あやめもそれに倣った。両手で捧げるように碗を持ち上げる。
 碗出汁はすまし、軽くとろみをつけてある。
 碗種は魚の切り身、それに蓴菜(ジュンサイ)。三つ葉を散らしてある。
 あやめは、碗を取り上げ、まず出汁を口に含んだ。柔らかく、それでいてコクのある液体が咽喉を伝い下りて行った。
 あやめの口から、思わず吐息が漏れる。

(美味しい……)
(こんな味、うちに出せるやろか)

 あやめは碗に箸を伸ばす。魚の身をほぐす。

(甘鯛か……)
(赤やろなあ)

 アマダイは"たい"と名が付くものの、マダイやクロダイなどの属するタイ科ではなく、キツネアマダイ科の魚である。
 アカアマダイ、シロアマダイ、キアマダイの三種が日本では食用に用いられ、アカが最も美味とされる。身は少し水っぽいので刺身にはせず、焼き物、煮物にされることが多い。
 マダイに劣らぬ高級魚である。
 あやめは、ほぐしたアマダイの身を口に入れた。

(赤やな)
(間違いない)
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2014/04/29 11:04
    • 東山の料亭「ひいらぎ」さん(この屋号は今回はまだ出てきません)の、お昼のコース料理。
      先に書いておきますかね。
      料亭のコース料理は、先付、椀物、刺身、焼物、箸休め、八寸、炊きあわせ、酢の物、ご飯、果物、菓子・薄茶
      という順序で出されます。もちろん店によって若干の違いはあります。
      で、今回は先付から始まり、椀物まで進みました。
      もともとこれらの料理は、あやめに作らせるつもりだったのです。が、そうするとあやめに味わわせることが出来ません。
      作らせるか、味わわせるか。
      悩んだのですが、作らせる機会はこの先、幾らでもある、ということで今回は味わわせることにしました。
      ま、お大尽明子に半ば引っぱられて、という形ですが。
      「ひいらぎ」さんのお昼の料理。
      完食するまでに何回かかるのでしょう、『アイリス』。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2014/04/29 12:16
    •  食べたことござんせん。
       でも、料理が順番に出てくるのは、性に合ってます。
       食卓に並んだ料理も、1品ずつ平らげていく癖がありますから。
       酢の物はパスでもいいな。
       その後のご飯は、オカズなしで食べるのか?
       あ、炊き込みご飯か。
       お昼にこれだけ食べたら……。
       座布団枕でいいから、昼寝させてもらわにゃなりません。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2014/04/29 16:10
    • こういう食べ方をする子を叱る親もいるそうです。
      「おかずをちょっと食べたら、次はご飯を一口、その次は味噌汁を飲みなさい」てな調子だそうです。どない食べようがカラスの勝手だと思いますが。
      それより箸使い、器の持ち方、などを躾けるべきでしょう。
      ま、料亭のコース料理の供し方からいいますと、一品ずつ平らげていくのが正しい作法なのかもしれません。
      コース料理。祇園の呉服屋さんと昵懇にならんかぎり、生涯食べる機会はないでしょう。
      それにしても、昼食に何万円も支払うなど、罰当たりといいますか、狂気の沙汰といいますか……。
      あれ、酢のものは苦手ですか、Miさん。
      わたしも以前はそうでした。「人間の食べるもんじゃねえ」とまで思っていましたが、今は大好物、自分で作るまでになりました。人の嗜好というのは、歳とともに変わるものでしょうかね。
      コース料理のご飯。漬け物が付きます。

    • ––––––
      4. ハーレクイン
    • 2014/04/29 17:58
    • J1、第10節。
      対ヴァンフォーレ甲府戦、1-0で今季初勝利です。
      10試合目での初勝利。今夜の酒は美味かろう。

    • ––––––
      5. Mikiko
    • 2014/04/29 19:41
    •  よく考えたら……。
       居酒屋の4,000円コースでも、料理は順番に出てきますわな。
       料理ってのは、作りたてが一番美味しいのでしょうから……。
       その方が、理にかなってるのかも。
       酢の物は、食べられないわけではないですけど……。
       1品だけ出てこられたら、大いに困るところです。
       ご飯。
       わかり申した。
       それは、お茶漬けにするのでしょう。
       徳島。
       危ないところでした。
       前節、新潟が1点差でしたからね。

    • ––––––
      6. ハーレクイン
    • 2014/04/29 20:20
    • そんなのあるのか。
      居酒屋では、やはり一品ずつ注文したいですなあ。
      わたしはとりあえず「板わさ」、んでもって「ホッケの塩焼き」ですね。
      「ノドグロ」が欲しいところですが……。
      料亭でお茶漬けは……少々お行儀が悪いか、と。
      徳島ヴォルティス。
      いやあ、終了間際からロスタイム、甲府の猛攻を何とかしのぎきって今季初勝利。
      これで弾みをつけてほしいものですが……。

    • ––––––
      7. Mikiko
    • 2014/04/30 07:41
    •  居酒屋の飲み放題コースでは、料理は順番に出てきます。
       板わさ。
       聞いたことはありましたが、どんな料理か知りませんでした。
       単なる蒲鉾じゃん!
       こちらではたぶん、単品メニューにもないと思います。
       ホッケは、学生時代、よく食べました。
       安くて身がデカいのが魅力です。
       2人でシェアしても、食べでがありました。
       料亭のお茶漬け。
       粋だと思いますけどね。
       鯛茶漬けなんかだったら最高。

    • ––––––
      8. ハーレクイン
    • 2014/04/30 08:25
    • ふむ。そちらでは言わないのか。
      関西語かなあ。
      「板」は仰せのとおり蒲鉾の板、「わさ」は山葵、つまりわさび醤油で食べるかまぼこ、ということですね。
      こちらでは、どんな飲み屋のメニューにも必ずあります。
      近ごろ、ホッケは食べきれなくなりました。

    • ––––––
      9. ハーレクイン
    • 2014/04/30 12:03
    • そういえば「もろきゅう」というのもあります。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2014/04/30 22:27
    •  こちらにもあります。
       箸休めにいいですね。
       “冷やしトマト”なんてのも良かです。
       余談ですが……。
       男色行為を称して、“もろきゅう”と云う場合もあるようです。
       本日の飲み会、魚が売りのお店でした。
       地元新潟で上がったものしか出さないようで……。
       残念ながら、ホッケはありませんでした。
       代わりに、アジの一夜干しとアンコウの唐揚げを食べました。
       いずれも、滴るほどの脂で、美味でござんした。
       あと、これはハーレクインさんには無理なのでしょうが……。
       雪下人参のスティックが、頭蓋まで響くほどの歯ざわりで絶品でした。

    • ––––––
      11. ハーレクイン
    • 2014/04/30 23:05
    • もろ(もろみ味噌)→うんち
      きゅう(胡瓜)→ちんちん
      ということですね。
      冷やしトマト、美味しうございました。
      アジの一夜干し、美味しうございました。
      アンコウの唐揚げ、美味しうございました。
      要するに、とれ取れの生ではないと、こういうことですな。
      雪下人参。
      サイトさんの魚沼良品農場さん曰く。
      「糖度が普通の人参に比べ2度程高く、人参特有の嫌な癖もありません。人参嫌いのお子様にも喜んで食べていただけるサラダや生ジュースなどの生食専用人参です」
      ま、「糖度が高い」はともかく「人参特有の嫌な癖」だよねえ、問題は。これは人参という植物の根源的な特質だと思うが、どうだろう。
      で、食材の価値は、歯触りだけではないと思うが、どうだろう。

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2014/05/01 07:34
    •  とれとれのお刺身もありましたが……。
       わたしはパスでした。
       雪下人参は、確かにニンジン臭さがありませんでしたね。
       特に生食の場合……。
       歯ざわりは、味の重要な要素になるのではなかろうか。

    • ––––––
      13. ハーレクイン
    • 2014/05/01 08:55
    • 生魚はあかん、と言うてはりましたなあ。
      歯触りはもちろん、重要な味の要素です。
      今後、乞うご期待。
      しかし、何を今さら、という思いなのですが。
      いつのまにグルメ小説になってしまったのでしょうか『アイリス』。始めた当初は考えもしていませんでした。
      なんとなく書きはじめ、緊縛ものから料亭裏事情ものになり、今はグルメものです。
      どこへ行く! 『アイリス』。

    • ––––––
      14. Mikiko
    • 2014/05/01 20:57
    •  ↓『おんな酒場放浪記』という番組をやってます。
      http://www.bs-tbs.co.jp/onnasakaba/
       わたしはこれが好きで、毎週録画して見てます。
       今風の小洒落たお店などは、いっさい取りあげられません。
       戦後の闇市から始まったような店ばっかり。
       肴は、焼き鳥やホルモン系、オデンなどが多いのですが……。
       これがまた、すこぶる美味しそうなのです。

    • ––––––
      15. ハーレクイン
    • 2014/05/01 22:00
    • いやあ、面白そうですなあ。
      「酒場という聖地へ、酒を求め、肴を求めさまよう……」
      ですかいな。
      ぜひ、京都へ。
      祇園、東山にお越しください。あやめがおもてなし申し上げます。
      ちょっと雰囲気違うかな。

    • ––––––
      16. Mikiko
    • 2014/05/02 07:50
    •  料亭なんかには行きまへんって。
       共通点は、暖簾に引き戸。
       その引き戸が、スムーズに開かなかったりします。
       店に入ると、カウンターがずらーっと並んでおり……。
       おっさんが、ホッピーを飲んでます。
       その向こうから、焼きの煙がもうもうと上がってる、という感じですね。

    • ––––––
      17. ハーレクイン
    • 2014/05/02 11:13
    • 「ぶらンチ」という、わずか4分の番組があります。
      河島あみるちゃんが案内役で、大阪の料理屋さんを紹介するわけですが、「おんな酒場放浪記」とは真逆。今風のこじゃれたお店の紹介番組です。
      見てみたいなあ「おんな酒場放浪記」。
      しかし、ホッピーって、まだあるのか。

    • ––––––
      18. Mikiko
    • 2014/05/02 19:52
    •  DVDになってますので、ひょっとしたら、レンタルであるかも知れませんね。
       それよか、BSに入りなはれ。
       今、ほんとにおもろい番組は、BSでしか見れませんぞ。
       地上波の番組は、くだらなすぎです。
       ホッピーは、新潟ではスーパーでも売ってます。
       飲んでもみましたが……。
       あれはやっぱり、家飲みするものではありませんな。
       煙の充満するカウンターで飲んでこその味じゃないでしょうか。

    • ––––––
      19. ハーレクイン
    • 2014/05/02 21:22
    • 金口が取れてしまいました。
      で、無理やり口を開けて飲みましたが、なんかなあ。
      煙の充満するカウンターの彼方のう。
      BS。
      入りたいとは思いますが。
      お濃さんは信長の正室。
      農姫さんですねえ。

    • ––––––
      20. Mikiko
    • 2014/05/03 08:17
    •  こんなになるまで飲むかねー。
       翌日読んで、恥ずかしくなか?

    • ––––––
      21. ハーレクイン
    • 2014/05/04 18:33
    • は、恥ずかしくな「い」か、だな。
      「注意一秒怪我一生、危ない事はやめましょう」。
      そんなには飲んどらんぞ。
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