Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #58
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式) アイリスの匣 #58



 翌朝、あやめは「花よ志」の板場で立板の関目源蔵に声を掛けた。

「兄さん。ほな、すんまへんが行かせていただきます」
「ふん。ま、宝田はんのお声掛かりや。しゃあないわのう」
「すんまへん」
「ええから行け。女将はんから話は聞いとる」

 源蔵に深々と一礼し、板場を出ようとするあやめに、焼方の良雄、平野良雄が声を掛けた。

「よろしなあ、あやめちゃん。宝田はんのお招きや。美味しいもん、一杯食べさせてもらえるわなあ」
「そんな、平野兄さん。宝田はんいうても姪御さんどっさかい、そないには……」
「いやいや。何ちゅうてもあの宝田はんの身内や。姪御はんの若い娘でも、たっぷり持ってはるやろ。あ、こないな言い方、品が無いのう」

 あやめは良雄に頭を下げた。

「すんまへん、兄さん。行かせていただきます」
「おう、久しぶりの骨休めや。楽しんでこい」
「へえ、おおきに」

 碗方の銀二、田辺銀二は姿が見えない。
 あやめは、改めて板場全体に頭を下げ、いったん自室に戻った。久美はもう仕事にかかっているのだろう、姿が見えない。あやめは、作業着を私服に着替え、「花よ志」の勝手口から外へ出た。南へ向かう。
 すぐに四条通(しじょうどおり)に行き当たる。四条通が鴨川を渡る四条大橋の袂の北側。そこに明子が立っていた。駆け寄る。今日の明子は洋装であった。

「すんまへん、お待たせしました」
「そないに待ってまへんよ、うちも今来たばっかしや」
「へえ」
「行こか、あやめさん」
「どこ、行かはりますのん」

 それには答えず、明子は手を上げた。タクシーが二人の前に停まる。

「乗って、あやめさん」
「いえ、明子はんから先に」
「ええから、乗りよし(乗りなさい)」

 明子は、あやめを押し込むようにタクシーに乗せた。自分も続いて乗り込む。
 行き先を告げた。

「平安神宮へ、お願いします」
「はい、平安神宮」

 タクシーは四条大橋を渡り、すぐに左折した。鴨川沿いの東大路通(ひがしおおじどおり)を北上する。
 あやめは、先日、久美と歩いた西大路通りを思い浮かべた。で、今、走っているのは東大路通り……。

「明子はん、お参りどすか」
「せやないんよ、今から行くお店は平安神宮の近くなんですわ。直接行ってもええんやけど、あなたと少しお散歩がしたいと思(おも)て」
「……へえ」

 あやめは車窓に目を遣りながら、呟くように返事した。

「あやめさん、やっぱり迷惑やった?」
「迷惑やなんてとんでもない、そないなこと……」
「そお? なんや、心ここにあらず、いう感じやけど」
「ほんまに、迷惑やなんて。ただ、どこで何をしてても、すぐ料理のことを考えてしまうんどす。すんまへん」
「はあー。つくづく凄いお人やねえ、あやめさん。ほんでも、今日だけはうちのこと、考えてほしいな」
「はい……」

 あやめの手の甲を明子の指先が擦った。思わず引こうとするあやめの手を、明子の手が捉えた。軽く握りしめる。

「なあ、あやめさん。こないだの喫茶店でのこと、覚えてはる?」

 一瞬の間(ま)をおいてあやめは答えた。

「……へえ」
「こんなん聞いたらあかんねやろけど、あの時のお連れさん、どないなお方?」
「あ、『花よ志』の仲居です。わたしと久美、あ、名前は久美いうんですけど、二人とも住み込みで、部屋が同じなんです」
「ふうーん、おんなじ部屋に住み込みかあ。ほれで仲、およろしいんやねえ」
「仲ええて、そんな……」

 明子は、握ったあやめの手を軽く揺さぶる。

「長いんどすか? お付き合いは」
「わたしが『花よ志』に入ってからですから、まだ一年にもなりません」
「え? あやめさんって、まだそんなもんなん。それであの腕かあ、凄いねえ」
「あ、いえ。料理修業は小学生のころからです。実家が料理屋なもんですから」
「小学生! はあー、ほなら大ベテランやおへんか」

 明子は改めて、まじまじとあやめを見た。

「料理屋さんて……どこ? なんてお店?」
「へえ。鞍馬の、『かわふ路』いいます」
「鞍馬の『かわふ路』さん……あ、伯父さまに聞いたことおます。いっとき、頻繁に通(かよ)たて言うてました」
「へえ、宝田はんには、ほんまにご贔屓賜りました」
「そうかあ、あやめさんって、凄い料理人なんやねえ」
「いえ、とんでもおへん」

 タクシーの左側の車窓には、鴨川の景色が見え隠れする。あやめと明子は手をつないだまま、しばらく口をつぐんで車窓の風景に見とれた。
 タクシーは、東山二条の交差点を右折した。南北方向の東大路通と、東西方向の二条通の交差点である。二条通を東へ向かう。いくらも走らずに左折した。フロントグラスの向こうに、朱塗りの建物が見えた。

「明子はん、あれ……」
「あこが平安神宮どす」

 タクシーは、いったん停車した。

「お客はん、どないしはしります? ここでよろしおすか、門の前まで行きますか」
「へえ、おおきに。ここで結構どす」

 明子はバッグから財布を出し、料金を支払う。

「おりますよ、あやめさん」
「へえ」

 二人は参道の途中に降り立った。

「あの、明子はん。タクシー代……」
「念の為いうときますけどなあ、あやめさん。今日の掛かりはぜえんぶうち持ちどっせ」
「え、けどそんな……」
「うちが無理やり誘(さそ)たんやさかい、当然ですがね」
「へえ……」

 あやめは、釈然としない思いを抱えながら、後ろを振り返った。巨大な、鮮やかな朱塗りの大鳥居が、見下ろすように立っていた。

「うわー、すごいですねえ」
「初めてどすか、あやめさん」
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2014/04/08 09:16
    • 改めて明子に言われるまでもおへん。
      あやめの料理経験は凄いものどす。
      あやめは現在22、23歳。
      小学六年生から経験を積んだとしても、既に10年。ひょっとしたらそれ以上。まあ、大学の4年間は板場にはおらんかったわけですが……。
      四条通。
      四条大橋。
      東大路通。
      鴨川。
      二条通。
      京の町中の風景が続きます。
      で……。
      平安神宮の朱塗りの大鳥居。
      とんでもないデカさです。
      こけおどし、と言っていいかもしれません。
      >あやめさん。今日の掛かりはぜえんぶうち持ちでっせ
      「うち」は関西女子語、「私」。
      イントネーションは、→↑。
      いっぺん、こんなん言われてみたいもんどす。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2014/04/08 20:39
    • 1.熊野本宮大社(和歌山県田辺市)33.9m
      2.大神神社(奈良県桜井市)32.2m
      3.弥彦神社(新潟県弥彦村)30.2m
      4.最上稲荷(岡山県岡山市)27.5m
      5.神柱宮 (宮崎県都城市)25.0m
      6.古峯神社(栃木県鹿沼市)24.6m
      7.平安神宮(京都府京都市)24.2m
      7.豊国神社(愛知県名古屋市)24.2m
       平安神宮は、7位ですね。
       新潟の弥彦神社が、3位に入ってます。
       何度か行きましたが、鳥居が大きいという印象は無かったです。
       すぐ裏に、弥彦山が聳えてるせいでしょうか?
       “今日の掛かり”。
       これが、“係”でないことは明白です。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2014/04/08 22:04
    • いろんなランキングがあるんだなあ。
      だれがどうやって調べるんだろうね。
      ひとつ、「鳥居の足元の太さ」ランキングも出してもらえんかのう
      新潟県弥彦村。
      確か、競輪場のあるとこだったよね。
      雪が降ると開催中止かなあ。
      雪中のレースも面白いと思いますが。転倒続出だったりして。完走しさえすれば優勝だったりして。
      それにしても、o】って何なんだ。
      「掛かり」はもちろん、「費用」ですね。
      高いぞおー、京の料亭。
      ほとんど“ぼったくり”ですね。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2014/04/09 08:01
    •  わはは。
       きっと、コピペするとき、くっついて来てしまったカケラですね。
       コピペがバレちまった。
       ↓出典はこちら。
      http://taropx.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post-4be0.html
       弥彦競輪場の開催期間は、4月~11月までのようです。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2014/04/09 09:10
    • 熱心ですねえ、「全国鳥居の高さランキング」さん。
      ましかし、こういうこだわりは、わたしも好みとするところです。
      そうか、やはり冬場は開催中止か、弥彦競輪さん。
      正月は稼ぎ時なのにねえ、競輪場。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2014/04/09 20:16
    •  雪が降ったらとうてい走れないでしょう。
       ↓春の開催を前にした除雪作業の様子がありました。
      http://www.yahikokeirin.com/index.php/infomation/6875

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2014/04/09 21:52
    • へええー、所属選手が除雪作業!
      大変ですなあ、ご苦労様です。
      ま、しかし。
      除雪して開催にこぎつけないと、自分らの稼ぎになりませんからなあ。
      競輪競技。
      最下位でも賞金が出るそうです。
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