2013.7.16(火)
「あやめ」
香奈枝は、並んで横たわるあやめに声をかけた。
「あやめ、あやめぇ」
揺り動かしたいが、両腕はもちろん使えない。香奈枝は今更の様に思った。
両腕を、拘束されるというのは、
愛しいあやめを抱きしめることも許されないのだ。
香奈枝は顔を擡げ、あやめの胸に載せた。乳房がひしゃげる。少し顔をずらせた香奈枝は、あやめの乳首を口に含んだ。軽く吸いたてるが、あやめは目を覚まさない。
香奈枝は上下の前歯で、少し強めに乳首を噛んだ。
「うひい」
悲鳴を上げ、あやめは目を見開いた。
「あ、目、さめた? あやめ」
「な、なんちゅう起こし方すんねん、香奈ぁ」
「だあって、両手使えないんだよ。まさか足、使うわけにいかないでしょ。口、使うしかないじゃない」
「それはそやけど……まあ、ええ。よおし香奈。次いくよ」
「うん」
「おきて、座り」
「うん」
香奈枝は、先ほどの様に起き上がろうとするが、やはり上手くいかない。
「ああ、もうええ、もうええ。うちが起こしたる」
あやめは香奈枝の上体に両手を掛け、引き起こした。床に座らせる。香奈枝は正座しようとした。
「せやない、あぐらや、胡坐、かき」
「え、あぐら?」
「せや、あぐらや。知らんのか?」
「知ってるけど……えー、恥ずかしいよ、裸なんだよ、なにも着てないんだよ」
「せやからどやのん。嫌なんか、うちに逆らうんか、香奈」
「逆らったり……しないよ。あやめの言いつけなら何でも聞くよ。でも、あやめ、なぜ、そんな恥ずかしいこと、させるの」
「香奈、緊縛の基本の一つはな、縛る相手を辱しめることなんやで。覚えとき」
「あやめは……あたしが憎いの?」
「アホ、逆や。可愛いんや。可愛いて可愛いてたまらんから、せやから縛るんや、せやから辱しめるんや。わかるか、香奈」
「わかるような気もするけど……」
「まあええ。だんだんわかってくる。それよりあぐらや。早よせんかいな」
「あ、はい」
香奈枝は尻を床に落とし、両脚を交差させて胡坐の姿勢になった。ほの暗い電灯の明かりの下、剥き出しに曝け出された香奈枝の股間は、影の中に沈んでいた。
「うーん、香奈のおめこ、よう見えんなあ。暗いからなあ。懐中電灯で照らしてみるか」
「いやあ、そんなの」
「まあええ、夜やし、しゃあない。今度明るい時にまたやろ」
「いやあ」
「いや、ばっかり言うてるんやないわ。いくよ、香奈」
あやめは縄を手に取った。
胡坐に組んだ香奈枝の両脚が交差するあたり、足首の少し上の両の脛を束ねるように一巻き、二巻き、巻いて結ぶ。
「さあ、でけた」
「え、もう?」
「せや、これが胡坐縛り。股縄もそやけど、そのまんまのネーミングやな。でや、香奈」
「うん。胡坐は恥ずかしいけど、縛り自体はそんなに……きつくない」
「せやなあ。胡坐縛りは、あぐらの姿勢を保たせるだけのものやからなあ」
香奈枝は、恥ずかしさを忘れ、拍子抜けしたような気持ちになった。
高手小手は、今なお、香奈枝の両腕を背で厳しく固定している。
縄渡りと股縄は、あの鮮烈な、生まれて初めて経験した信じられないような刺激は、未だに香奈枝の脳裏を去らない。
それに比べこの胡坐縛りは、恥ずかしさは別にして、このあっけないような縛りは……。
しかし、香奈枝の両脚を固定している縄は、まだたっぷりと余っている。あやめの両手の中で扱かれている。
「香奈ぁ。なんや物足りんっちゅう顏やな」
「そんな……ことないよ」
その通りだった。
物足りなかった。
もっともっと、厳しく縛って欲しかった。
もっともっと……。
縛って。
虐めて。
辱しめて。
可愛がって。
もっともっと……もっとよ、あやめぇ。
「もっとぉ……」
知らぬまに呟いていた。
「おーや、香奈。縄の味、少ぉしわかってきたかあ」
「縛って。虐めて。辱めて。おねがい、あやめぇ」
「心配せいでも、こっからが本番や。音(ね)ぇ、あげるんやないで」
あやめは、縄を手に立ちあがった。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2013/07/16 08:17
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緊縛の世界では、高手小手と並んでよく知られた縛りですが、いみじくも香奈枝せんせが「そんなに……きつくない」と感想を漏らしたように、そんなに苦しいものではありません。
あやめさんの台詞「可愛いてたまらんから、せやから縛るんや、せやから辱しめるんや」に照らし合わせますと、胡坐縛りはどちらかというと、相手を「辱しめる」方に力点を置いているわけですね。ですから、香奈枝せんせが「物足りなかった」と感じたのも無理からぬところでしょう。
もちろん、このままで済むわけはありません。次回になりますが、次の縛りはいわば胡坐縛りの変形バージョン。これも世によく知られた緊縛法ですが、縛りとしての厳しさは、胡坐縛りのような甘っちょろいものではありません。香奈枝せんせ、はたして堪え切れるでしょうか。
で、次の縛りが完成するとき、長々と続いて参りました緊縛講座!は幕となります。もちろん『アイリス』自体はまだまだ続きます。
乞う、ご期待。
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2. Mikiko- 2013/07/16 20:49
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蝋燭に縄。
やはり和物SMは、『陰影礼賛』の世界ですよね。
舞妓さんなどの白塗りも、本来は蝋燭の下で見るための化粧なんだそうです。
さすがに、蝋燭の明かりだけの料亭は無いでしょうが……。
少なくとも、電球色の照明にすべきでしょうね。
胡座。
最近は、この座り方自体できない若者が増えてるそうです。
縛ったら、座れるのかな?
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3. ハーレクイン- 2013/07/17 00:51
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『陰翳礼讃』。
これを引き合いに出されるとは、褒めていただいているのかな。
あやめさんの部屋は、一貫して薄暗い、という設定で書いて来ました。照明も蛍光灯ではなく、電球。シェード(かさ)の影になる天井などは当然薄暗く、部屋の隅には十分な光は届かないでしょう。
そして、胡坐を組んだ香奈枝せんせの股間は深い闇の中に沈み、その陰毛の翳りすら判然としない……。
「胡坐(あぐら)」。
一般には「かく」「胡坐をかく」ですよね。
大阪古語(死語)に「じょら」というのがあります。この場合、「かく」でもいいのですが、「組む」「じょらを組む」ともいいます。わたしの父親などは使ってましたが、今は使う人も少ないようです。
ちなみに、肩車は「ちちくま」ですが、これももう死語でしょうね。
胡坐がかけないというのは、関節が硬い、ということなのかなあ。
和室では困るでしょうね。胡坐をかけない人が正座はできないでしょうし、横座りかなあ。女性ならともかく、男性は少しみっともない。
両脚を投げ出して壁にもたれる、かな。
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4. Mikiko- 2013/07/17 07:39
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電球色の色合いだった気がしますね。
わたしも、執筆時のデスクライトは電球色です。
やっぱり、蛍光色とはひと味違います。
胡座はかけなくても……
正座は出来るみたいですよ。
股関節を開くのが苦手なんでしょうかね。
和式トイレが無くなったことも、大いに影響してるんじゃなかろうか。
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5. ハーレクイン- 2013/07/17 08:34
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へえー、わからんものですね。
出来ても、あまりしないだろうなあ。
トイレと胡坐との関連、これはなんともわかりません。
じゃあ、欧米の人は胡坐をかけないんでしょうか。
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6. Mikiko- 2013/07/17 19:39
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生活習慣によるものではなく……。
個人的な体質みたいですね。
欧米人でも、出来る人は普通に出来るようです。
↓あぐらがかけない人は、股関節に問題ありだとか。
http://www.mizuho-physical.com/pickup26.html
↓蝋燭の揺らぎを再現するLEDがありました。
http://hb.afl.rakuten.co.jp/hgc/11844820.a1c6c8b4.11844821.2e0578c6/?pc=http%3a%2f%2fitem.rakuten.co.jp%2fenjoy-home%2funi13028%2f%3fscid%3daf_link_txt&m=http%3a%2f%2fm.rakuten.co.jp%2fenjoy-home%2fn%2funi13028
これ点けて書いたら、気分出るぞ~。
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7. ハーレクイン- 2013/07/17 21:45
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股関節脱臼、または股関節変形症という病気があります。日本人には非常に多く、多くは先天性のものです。重篤度にもよりますが、あぐらがかけない場合が多いようですね。
個々の症状は様々ですが、最終的には、人工関節に置き換えるという手術が必要なようです。
キャンドルLED。
もう少し早く知ってればなあ、もっといいものが書けたかも。
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8. Mikiko- 2013/07/18 07:18
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赤ちゃんが、股関節脱臼になる場合もあるようです。
股を開いて背中に括りつける姿勢が悪いのかと、ずっと思ってましたが……。
逆だそうです。
足を伸ばしておんぶする方が、危険なんだとか。
しっかり股を開かせて、お母さんの背中にぴったりくっつくようにすると良いのだそうです。
キャンドルLED。
お盆用に、買おうかな。
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9. ハーレクイン- 2013/07/18 10:10
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おしめの当て方も影響する、と聞いたことがあります。
同じことですね。両脚を伸ばしてはいけない、カエルのような開脚姿勢でおしめを当てることが大事なようです。
いっとき、この姿勢はみっともない、見た目が悪い、と脚を伸ばさせておしめを当てることが流行ったそうですが、この時の赤ちゃんたちは今……。
お盆用のキャンドルLED。
お、今度は怪談ものに挑戦ですかあ。
『怪談(kwaidan)』は小泉八雲、ラフカディオ・ハーン。