2013.3.26(火)
あやめは、俯せに横たわる香奈枝の背に覆いかぶさった。香奈枝の背の上に胸を、香奈枝の尻の上に腰をぴったりと重ねる。両脚は長く伸ばし、香奈枝の両脚に外側から絡めた。
両手を香奈枝の両腋に差し入れ、両の乳房を探る。香奈枝の乳房は、二人分の体重に押し潰されながらも、なおその豊かな量感をあやめの両手に伝えてきた。
肉布団……。
いつかどこかで読み覚えたそんな言葉があやめの脳裏を行き過ぎた。
この子は……。
あやめは思う。
この子は何者なんだろう。
わたしにとってどういう子なんだろう
昨日まで、その存在すら知らなかったのに。
今日初めて、ほんの数時間前に知り合ったばかりなのに。
まだろくにその人となりも知らないのに。
香奈枝が自分のことをどう思っているのかもわからないのに。
何がどうあれ今のあやめにとって、もう香奈枝と別れることなど考えられなかった。
一生一緒にいたい。
常に寄り添っていたい。
片時も離れたくない。
一対の、敷布団と掛布団の様に……。
香奈枝が身じろぎした。
呼吸が荒い。
重いのだろう。あやめは香奈枝の上から下り、その脇腹にぴったり寄り添って横座りになった。
香奈枝の体は、天井のほの暗い明かりに照らされ、白く浮かび上がっている。
あやめは改めて、初めて触れるように香奈枝の体に手を伸ばした。
触れる。
香奈枝の肌は滑らかだった。あやめの手を逆に吸いつけるような手触りだった。あやめは思わず手を離したが、再び触れる。
肩から背への滑らかなカーブ、まるでスキーのゲレンデのようなダイナミックな背の曲線、急激に落ち込む谷間のような腰の括れ、誇らしく立ち上がる尻の高まり、太腿から膝、脹ら脛への連なりは二頭の白い大蛇を思わせた。
あやめは、それらの全てを、この世の宝ででもあるかのように撫でた。
なによりもあやめを惹きつけて離さないのは、香奈枝の尻だった。小振りだ。そんなに大きいというわけではない。だが、その高まりを形作る優美な曲線は、あやめには一対の白磁の壺にも思えた。
あやめは、香奈枝の尻の頂点に唇を寄せた。そっと口づける。それはあたかも、登攀困難な未踏のピークを極めたクライマーが、そっと、慈しむように頂上の大地に口づけるようだった。
あやめは、香奈枝の尻を吸う、噛む。まるで自らの体内に取り込もうとでもいうように吸う、噛む。大きく舌を伸ばしたあやめは、香奈枝の尻を舐める、舐めまわす。尻の高まりの裾から頂上まで、二つの高まり全体を隈なく舐めまわす。あやめの両眼から、いつしか涙が流れていた。あやめは気づいていない。無上の喜びと、得体のしれない哀しみを抱え、あやめは香奈枝の尻をいつまでも舐めまわした。
あやめの舌が、香奈枝の二つの尻のあわい、股間に向けて落ち込む場所に差し掛かった時、香奈枝が身じろぎした。
「あやめぇ」
「ああ、香奈、気ぃついた?」
「あたし、気、失ってたの」
「うん」
「どのくらい?」
「せやねえ、5分もたってへんよ」
「オナニーで気、失ったて、初めて」
「気持ちよさそうやったもんねえ」
「もう、あやめが無理やりやらせるから」
「ごめん。ほんでも、ええやろ。見られながらやるオナニー」
「今度はあやめの番よ」
「はは、また今度ね」
「なあにようそれ、ずるうい」
あやめは、香奈枝の手を取って上体を引き起こした。香奈枝を抱きしめ、唇を合わせる。
「ふうん」
「うぅん」
「あ、やめぇ」
「好きやで、香奈ぁ」
「ああ、あやめ、あやめぇ」
あやめはいったん体を離し、香奈枝をじっと見つめる。
「香奈ぁ」
「なあに、あやめ」
「うち、あんたにお願いがあるんやけど」
「なあに、あやめ、あらたまって。何でも言って」
「聞いてくれる? いややったら遠慮のういや、言うてくれてええんよ」
「なあによう。もう、あたしたち、恋人どうしでしょ。ちがうの?
少なくともあたしはそう思ってる。なら、何でも聞くよ。言って」
「おおきに、ほんまにおおきに、香奈。
うちなあ、さっき思たんやけど、もう香奈と別れることなんか、考えられへん。一生一緒にいたい。いっつも一緒にいたい。離れとない」
「あやめぇ、うちもや、うちもそうや、おおきに」
二人は、互いの思いを相手に伝え、その思いを改めて自分に宣言した。
“うちらは、恋人どうし”。“死が二人を別つまで、いや死が二人を別とうとも、生生世世に離れない……”。
あやめは、香奈枝をもう一度しっかり抱きしめた後、立ちあがった。押し入れに歩み寄る。境の襖を引いて押し入れを開ける。押し入れの下の段に頭を突っこみ、奥の方を探る。
「あやめぇ、大丈夫? 手伝おうか」
「大丈夫や。よっと」
あやめは、押し入れの奥から段ボール箱を引き出し、部屋の中に投げ出した。ガムテープで留めていない段ボールの蓋が開く。
覗けた中身。
それは、使い古された麻縄の束だった。
一目見て香奈枝はすべてを理解した。そういうことか。
「香奈ぁ。これ、わかる?」
「わかるよ、あやめ」
「ほうか。さっきも言うたけど、無理強いはせんよ。うちはこういう女や。いややったらそう言い。ほんで、帰り。ほれでお別れや」
香奈枝の両眼から涙が噴き出す。濡れた瞳で、詰るようにあやめを見返す。
「なんでそんなこと言うのん! うちら、恋人どうし違ごたん。さっきのあやめの言葉は、あれ嘘なん? 一生、一緒にいたいって、あれ口先だけなん!」
香奈枝は、泣きじゃくっていた。傷ついた幼い少女が、手放しで泣くような、そんな泣き方だった。
あやめは、そんな香奈枝を抱きしめる。
「ごめんやでぇ、香奈。ごめんや。ごめんなあ」
「うええぇーん。あほ、あやめのあほ。あやめはあほやあ」
「ごめんや、かんにん、香奈。好きやで、世界で一番、香奈が好きや」
「うちは、宇宙で一番あやめが好きや」
「ほうか、ほうか。おおきに、おおきにやでえ、香奈ぁ」
「あやめぇ、抱っこして」
「よしよし、こうか」
「背中、ポンポンして」
「よしよし」
「キス、して」
互いに相手を飲み込もうとでもいうような激しい口づけだった。舌を深く絡め合い、多量の唾液を交換し、唇から、鼻から、耳から、瞼から、額から、顎から、喉元から、互いの顔の全てを舐めつくすような、そんな口づけだった。
ようやく唇を離した香奈枝が、あやめに囁きかける。
「あやめぇ、括って……」
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2013/03/26 08:36
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今回の『アイリス』、無茶苦茶気恥ずかしいな。ようこんな歯の浮くような文章、書けたもんや。
うーむ。
やはり、若い頃の香奈枝・あやめの初々しさが書かせたのかなあ。しかし『リュック』劇場版ではこんなことなかったもんなあ。
ま、いまさら書き直しもでけんし、ご愛嬌ということで目をつぶろう。
次回から、本格SM編に突入です。
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2. Mikiko- 2013/03/26 19:48
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おありだったとは、少々驚きました。
ラブレターもそうですが……。
夜、勢いに乗って書くと、そーゆーものができ勝ちです。
必ず、昼間に読み返した方がいいと思います。
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3. ハーレクイン- 2013/03/26 21:36
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恥ずかしいという意識のあることが、なぜ驚きなんだろう。
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4. Mikiko- 2013/03/27 07:55
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すでに、仙境にあられると思ってました。
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5. ハーレクイン- 2013/03/27 11:58
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中国の古典なぞをいろいろ読んだり見たりしていると、仙人というのはやたら出てきます。で、これら仙人、意外と俗っぽいんだよね。
仙人は過去にも未来にも遊べるらしいから、SMものやビアンものの小説・AVなんぞにも精通してたりしてね。
諸星大二郎に『無面目』という仙人物の漫画があります。主人公は天地開闢以来の仙人なのですが、これが超俗物。前漢・武帝の時代の長安を舞台に、超能力を駆使して大騒動を巻き起こす、という物語。
面白いよ。
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6. Mikiko- 2013/03/27 20:30
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久米仙人などというスケベじじいもいましたね。
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7. ハーレクイン- 2013/03/27 21:37
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ああ、飛行中に下界の姐ちゃんの脚に見とれて雲から落ちた、あの仙人ね。
奈良県橿原(かしはら)市にある久米寺の開祖とされますが、もちろんお話。