2013.2.12(火)
あやめと貴子の通う大学の近くの繁華街、片町の少し外れに大きな川が流れている。大きなといっても川幅は50メートルほど、普段の水深は大人の膝くらいしかない浅い川であるが、流れる水は澄んで美しい。市内を走る数本の国道の内の一本がこの川を渡っており、鉄製の巨大な橋が架けられている。大衆割烹「川太郎(がたろ)」はこの橋の袂に建っており、客室からは間近に川の流れを望むことができる。これもこの店の売り物の一つである。
木造三階建の古い建物は明治初期に建造されたということで、かなり古びてはいるが、手入れがいいのか未だにしっかりした佇まいである。建てられた当初は料理屋ではなく、遊郭だったという噂もある。割烹「川太郎(がたろ)」として商売が始まったのは昭和初期のことらしいが、いずれにしても、あやめや貴子にそのあたりの詳しい経緯はわからないし、それほど興味もなかった。
「川太郎」の料理は魚が売り物で、海が近いこともあって、新鮮なものを出す割に値段は安い。あやめ達のような貧乏学生でも結構頻繁に利用することができるありがたい店であった。建物自体はさほど大きくはないのだが、内部はたくさんの小部屋に分かれており、そのあたりが"川太郎、元遊郭説"の根拠になっているらしい。ただし一階は、仕切りの襖をあけ放つとかなりの広さの大広間にできる。あやめ達の学部の新歓コンパは、この大広間で行われることになっていた。
大学から見ると「川太郎」は川向こうになる。あやめと貴子は、定刻の少し前に橋を渡って川太郎に向かっていた。二人の前後には、やはりぞろぞろと連れ立って学生や教授たちが歩いており、のんびり歩く二人を、次々と追い越して行く。追い越しざま二人に声を掛けていく顔見知りも多い。同じ学部なのだから、多くの者が知り合いである。
ときおり、若葉の香りを含んだ川風が吹きすぎる。あやめと貴子は、取り留めのない会話を交わしながら、橋の上を対岸に向かって歩いて行く。
「あー、きもちええなあ、なあ、あやめ」
「せやねえ、気持ちええねえ」
「今頃が一番ええ季節やねえ、暑くもなく寒くもなく」
「何やのん、お貴。その婆くさい言い方」
「せやかて、うち暑いんも寒(さぶ)いんも苦手やもん」
あやめは、夕陽を照り返してきらめく川面に目をやり、さらに川の上流にそびえる山々を見上げる。山肌の雪はほとんど消えていた。
「あんたは堪え性が無いからなあ、お貴。寒いのあかんねんやったら、何でこんな雪国の大学に入ったんよ」
「しゃあないやん。ここしか受かれへんかってんもん」
「関西の大学は? 受けへんかったん?」
「受けたよお、京大」
「きょう……。あんたやったら、今受けても受からん思うで」
「うちもそない思う。せやけど、いっぺん受けてみたかったんや、記念に」
「記念って、何の記念や、アホくさ。入試は受からななんの意味もないやろ」
「そらそうなんやけどぉ~」
「あんたが理系で受かりそうな大学て、関西にようけあるやん。神戸とか、大阪府大とか、市大とか、近大とか」
「そうなんやけどねえ、あ、私立ははじめからあかんねん」
「あんたんとこ、ビンボやからねえ」
「ほっといて。あ、何や他人(ひと)に言われたら腹立つなあ」
「うちらは他人(たにん)やないやろ」
「ひっ」
貴子は立ち止まり、少し前かがみになる。
「な、なんやのん、変な声出して」
「そんなん言われたら、おめこ汁、出た」
「だあああ、いっぺん医者行け。頭の中こじ開けて診てもらい」
貴子はあやめに抱きつこうとする。
「な、あやめ、しよ」
「ドアホ、川に放(ほ)りこむぞ」
あやめは貴子を振り切って足を速める。取り残された貴子はあわててあやめを追った。
「あーん、まってえやあ」
あやめは「川太郎」の暖簾をくぐった。続いてくぐろうとする貴子が足を止める。
「なあ、あやめぇ」
「なんやのん、早よ入らんかいな。そんなとこに立っとったら通行の邪魔やろ」
「あやめ、さっき、この店の名前『かわたろう』やのうて『がたろ』や、言うてたやろ。ほんで、『がたろ』っちゅうのは河童のことやぁーて」
あやめはもう一度暖簾をかき分けて外に出る。
「それがどないしたん」
「ほんで、この店の大将が『だあれも、がたろて読んでくれへん。暖簾にフリガナもおかしいし』て、言うてるて」
「しやから、それがどないやのん」
貴子は暖簾を指さしながら、
「フリガナがおかしかったら、絵はどうなん、イラスト。河童の絵、暖簾に描いといたら、他の人にもだんだんわかるようになるんやない?」
「あ、なーるほどぉ」
「なー、ええアイディアやろ」
「ほやなあ、今日、店のおっちゃんに教(おせ)たろか」
「な、な、アイディア料くれるかな」
「アホか、ほんなもんくれるかい、その程度で。さもしい奴」
「ぶうーぅ」
その時後ろから声がかかる。
「これ、そこなお女中二人。道をお空け下されい」
化学科の助教授、横井良雄。あやめ達の指導教官である。あやめと貴子は飛び退くように脇による。
「すみませーん、横井せんせ」
「どおぞー」
「なにしてるんだね、こんな店先で」
問いかける横井に貴子は、川太郎の店名や暖簾の話などを説明する。
「ははあ、なるほどね」
答える横井にあやめが、
「先生、知ってはりました? がたろ」
と問いかけると横井は、
「知っとるよ。結構有名じゃないかね。『かっぱ』という語は『川童、かわわらわ』が変化した語だが、同様の語に『川太郎、かわたろう』があって、これがさらに変化したのが『がたろ』だね。だから、川太郎を『かわたろう』と読んでも間違いとは言えないが、この場合は店名だからねえ。ここの親父さんが『がたろ』と呼んでほしい、ということならそれは尊重すべきだろうね」と長広舌をふるう。さらに、
「かっぱで有名な漫画家というと、もう亡くなられたが清水昆氏だな。東中くん、君なら知っとるだろ、かっぱをCMキャラクターにした日本酒」
あやめは問われて、
「京都伏見の『黄桜』ですね。最近はあまりかっぱは使ってないようですけど」
「お、さすがに知っているな。黄桜のかっぱを描いたのが清水氏だね」
と返す横井に、あやめは、
「先生、なにが『さすが』なんですかあ」
「わはははは、そりゃあ、酒とくれば東中あやめの右に出る者はおるまいよ。なあ、三原くん」
声を掛けられて貴子、三原貴子は、
「そうですねえ、あやめは理学部一の酒豪ですからねえ。それより横井せんせ。『くん』付けはやめて下さいって、何度言わせるんですかあ。うちは女の子なんやから」
と抗議する。横井は、
「ん、そんなに嫌なのか。いいではないか、男女は平等。敬称も平等」
と取り合わないが、貴子は引き下がらない。
「そういうのは『平等』やなくて、尊重すべき男女の本質的な差異を無視してるんやと思います。それに、相手の嫌がることはしない、というのも大事なことやと思いますけど」
「おおー」
目を丸くする横井。あやめも、
「どないしたん、お貴。また虫わいた?」
「ああ、分かったわかった。これは私が悪かった。まことにそのとおり。では今後は……『三原さん』でいいかな」
と答える横井に貴子は、
「いいともー」
と、にっこり笑う。あやめはあわてて、
「こら、お貴。先生はきちんと挨拶してはるんやから、そんなん失礼やで」
「はーい、すみません、せんせ」
横井は改めてあやめと貴子を見比べ、
「ほんとに君たち二人は仲がいいねえ、まるで姉妹だね」
聞いた貴子は、
「もう、いややあ、せんせえ」
言うなり、横井の背に思い切り平手打ちを見舞う。
「あ痛たたたた」
身体を捻って仰け反る横井は、中に入れずに立っている10人ほどの学生に気が付く。
「おお、すまんすまん。道を塞いでしまってたな。みんな中に入ろう。もう始まる時刻だな」
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2013/02/12 09:04
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幕間小説『アイリスの匣』。
“幕間”と謳うからには、ほんの数回で完結する軽いお話、のはずだったのですが、またも出ました悪い癖。どうも長くなりそうです。
そもそも予定では、今回はあやめさんと香奈枝せんせの巡り合いの場、になるはずだったのですが、妙な男がしゃしゃり出てきまして、延期になっちゃいました。
もちろん男なぞ書きたくなかったのですが、一つには軽い伏線。今一つには、いずれどうしても男を書きこまなければなりません『アイリス』、そのトレーニングでもあります(本編内で練習してどうする!)。
ああ、いやいや、もとより『アイリス』はビアン小説、男はしょうことなしの“灰汁(あく)”のようなもの。今後もビアンエロ場面満載でお届けいたす所存です。
なにとぞご愛顧賜りたく、お願い申し上げます。
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2. Mikiko- 2013/02/12 19:40
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金沢のようですね。
わたしは、1度しか行ったことがありませんが……。
道路のすぐ脇を綺麗な水が流れてて、とても素敵な街でした。
文化度という点では、新潟より遙かに上でしょうね。
老舗料理屋さんでの食事って……。
綺麗な盛りつけのお皿が順々に出てきて、楽しいですよね。
昨年の3月、新潟県三条市の料亭にお呼ばれしたときも、なにより目が美味しかった。
唯一の難点は、座敷で足が窮屈ということ。
掘りごたつだといいのにね。
地の文を現在時制にしてるから、ト書きみたいになるんでないの?
あと、セリフと地の文は、繋げない方がいいと思うけど。
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3. ハーレクイン- 2013/02/12 20:22
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うーむ。やはりわかるか。
件の川は、金沢ゆかりの文豪の名にちなむ名称ですね(さて、どちらがどちらにちなんだのか)。
金沢市内にはもう一本、有名な川が流れておりまして、もう少し水量が豊かですね。こちらも、大文豪にゆかりの川。
金沢ってすごいなあ。
>老舗料理屋さんは……目が美味しい
ま、「川太郎(がたろ)」さんは大衆割烹ですからね。そんなに凝った料理はお出しできませんが、味は飛びきりでっせ。
このお店、まだご健在のようで、建て増しまでしてはるようです。
商売繁盛で笹もってこい♪
>地の文が現在制。
>台詞と地の文の繋がり。
いろいろ試して苦慮しておるのです。
本編で試すというのも読者に失礼かな、とは思いますが、なんせど素人作家。ご寛恕のほどを。
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4. マッチロック- 2013/02/12 21:04
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ハーレクインさん
「男はしょうことなしの“灰汁(あく)”のようなもの」
いくらビビアン小説でも男を灰汁にするとは・・・う~む
でも、知っていますか灰汁の中身
えぐ味、苦み、渋味だそうです。
その言葉を見て、何か見えませんか?
中年男性を称賛する言葉が・・・
Mikikoさん
金沢は、私も1度行きました。
目的は金沢城。
復元された城とはいえ見ごたえある城でした。
「長町武家屋敷跡」も見たかったけれど時間が無くなり断念し後悔が残る旅でもあり、もう一度行きたいところの一つです。
老舗料理屋は縁のない場所の一つでもあり、敷居が高すぎて登れない場所の一つです。
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5. ハーレクイン- 2013/02/12 21:24
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まず、些細なことですが面白いので。
>ビビアン小説
って何だよ。
「風と共に去りぬ」かい。
で、灰汁。
男を灰汁扱いするに何のためらいもありませぬが、「中年男性を称賛する言葉」って何だろう。
ぅわっかりませぬ。
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6. Mikiko- 2013/02/13 07:43
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室生犀星の犀川と、泉鏡花の浅野川。
泉鏡花は、昔良く読みました。
室生犀星の「蜜のあはれ」は、隠れた大傑作。
金沢って、いいなぁ。
「川太郎(がたろ)」さんは……。
実在のお店がモデルなんでしょうか?
マッチロックさんが訪ねられたという、「長町武家屋敷跡」。
まったく覚えがありません。
金沢城と兼六園は行ったと思うんですが……。
風景は、何も覚えてません。
金沢城では、インド人のように色黒な日本人を見た記憶だけが残ってます。
> 男を灰汁扱いするに何のためらいもありませぬが、「中年男性を称賛する言葉」って何だろう。
これはもちろん、「苦み、渋味」ですよね?
ビビアン小説は、狙いではなく、天然とお見受けしました。
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7. 金沢観光大使HQ- 2013/02/13 12:01
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犀星の名の由来は、若い頃の住まいが犀川の西にあったから、ということらしいです。この頃の鬱屈した思いが、犀星の作品には色濃い影を落としているそうですが。
犀星は、何度も渡ったはずだよね、犀川。
犀川から北方に臨む山並み。美しいですよ。
浅野川の畔には鏡花の碑があります。そのすぐ近くに架かる天神橋。わたし、学生時代にいっとき、この橋のすぐ近くに下宿していました。
そのころから何度も鏡花に挑戦しているのですが、未だに読み通した作品はありません。死ぬまでに一編でもいいから読みたいなあ。
大衆割烹「川太郎(がたろ)」。
国道157号線が犀川を渡る犀川大橋。あやめと貴子がいちゃついてた橋ですが、この橋の南詰にある魚処「寺喜屋(てらきや)」さんがモデルです。ああ、書いちゃったなあ。ま、いいか、まだ悪口は言ってないもんね。
学生時代はほんとにお世話になりました。
犀星記念館が近くにあります。『蜜のあはれ』は是非読みましょー。
長町武家屋敷跡は、兼六園のすぐ近くでっせ。
兼六園が広いからなあ、武家屋敷跡を訪ねそこねる観光客さんは多いようです。こっちを見てから兼六園に行くべきだな。
金沢城は兼六園の真向かいですが、正門の「河北門」以外はほとんど面影ありません。天守も何もなくなってます。
そもそも跡地が金沢大学のキャンパスでしたからね。今は引っ越しちゃいましたが。
今、どうなってるのかなあ。
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8. マッチロック- 2013/02/13 18:09
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「ビビアン小説」
金沢観光大使HQさんまでも巻き込んでしまったみたいで
嬉しいやら悲しいやら
ハーレクインさん
ビビアン・リーはストレートのはずです。
続編に関し、同性愛悶々は入れないよう
釘を刺されたみたいですが・・・
Mikikoさん
天然は最近珍しい品種になりかけております。
あちらを覗いても、こちらを覗いても養殖ものばかり・・
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9. Mikiko- 2013/02/13 19:45
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> ハーレクインさん
寺喜屋さんは、川魚料理かと思ったら……。
海鮮系でしたね。
http://blog-imgs-47.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130213121817d95.jpg
ノドグロが売り物のようです。
金沢は、ぜひもう一度行ってみたい土地ですが……。
いかんせん、新潟からだと遠い。
特急『北越』で、3時間半かかります。
東京までなら、新幹線で2時間で行けちゃうのにね。
ちなみに、JRの営業距離を調べてみたら……。
新潟→金沢は、313.5㎞。
新潟→東京は、334.1㎞でした。
距離的には、もっと近いのかと思ってた。
やっぱ、北陸は遠いわ。
> マッチロックさん
どう反応していいのか、言葉を失います。
ハーレクインさんへのレスも、意味がわからん。
て、手ごわい……。
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10. ハーレクイン- 2013/02/13 20:48
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金沢には、川魚料理の店もあります。
売りは「ゴリ」。
ハゼ科の淡水魚で、姿・形に似合わぬ上品な味の白身魚。煮てよし焼いてよし、もちろん刺身でよし。
金沢にお立ち寄りの節は、是非お試し下さい(金沢観光大使HQ)。
しかし寺喜屋さん、けっこうなお値段ですなあ。
昔はもっとお手軽な値でしたが、ま、時代が違いますわな。
北陸は遠い。
前にも書いたけど、こっちから見ると、越前・加賀・越中ときて越後やから、ほん隣、というイメージがあるのですが、違うんや。
ふむ。
遥かなり越後、というところかな
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11. ハーレクイン- 2013/02/13 21:46
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とりあえあず前回のコメから。
まず、
>金沢観光大使HQさんまでも巻き込んでしまったみたいで
これはわたくしハーレクインとHQが別人だと思っておられるのでは。
私のハンネ、ハーレクインは英語でHarlequin。この略語がHQですね。ちなみにHarlequinは正式にはHarlequin fly。日本語ではユスリカと称する昆虫です。
詳しくは、『由美美弥』540回のわたしのコメに書いております。もしご興味があればご参照ください(と、さりげなく番宣)。
で次に、
>ビビアン・リーはストレート
「ストレート」の語はWikiに無茶苦茶ようけありました。で、
●性的指向のうち、異性愛を意味する呼び名のひとつ。同性愛(レズビアンやゲイ)、両性愛(バイセクシュアル)などに対応する言葉。
これかなあ。ま、ビビアンがストレートというのは、特に違和感ありまへんが。
これに続く「続編」「同性愛悶々」「入れない」「釘を刺された」。
まったく解読不能です。100年たっても解読不可能と思われますので、ご本人の解説を心よりお待ち申し上げます。
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12. Mikiko- 2013/02/14 07:35
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ああいう顔は、唐揚げが美味しそうだよね。
北陸では、富山から西は、関西域でしょうね。
言葉も関西弁だし。
新潟県でも、富山に近いあたりでは、関西弁のイントネーションが交じるようです。
フォッサマグナは、まさしく文化の端境でもあるんですね。
うーむ。
ハーレクインがユスリカだとは、初めて知った。
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13. ハーレクイン- 2013/02/14 09:28
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富山から西は関西。
新潟でも富山県境は関西弁。
あれ!?そーなのか!!
こおれはまずいなあ。どおすんべ。
『アイリス』書き直しだよ。
要するに、フォッサマグナの東にすりゃええんやな(なあんのこっちゃい)。
>ハーレクインがユスリカだとは、初めて知った。
くおら。
まあた読み飛ばしておったな。
最初の挨拶(537回)のあと、540回で説明しておろうが。
ユスリカは蚊や蠅と同じく、双翅目の昆虫。
翅は1対二枚しかない、だから「双翅」。
(まさか、普通の昆虫の翅は2対4枚、は知ってるよな)
(ついでに脚は3対六本だ)
(さらに昆虫の体は大きく、頭部、胸部、腹部に区分される)
(すべての翅・脚は胸部に付いている)
ユスリカとは体を「揺する」蚊ということ。
ちなみに、ハーレクインHarlequinとは道化師、ピエロのことだな。
昆虫学概説の授業を終わる。起立、礼。
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14. Mikiko- 2013/02/14 19:36
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明示してなければ、問題ないんでないの?
今のシーンだって、金沢とは言ってないんだし。
読み飛ばしてなくても……。
そんな昔のことなんか、覚えてまっかいな。
540回は、2年半も前ですよ。
体を揺するのは、幼虫のボウフラではないか?
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15. ハーレクイン- 2013/02/14 21:03
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富山県の砺波と決めていたんですよ。
で、大学のある金沢(これはもうバレバレやろ)とは、直線距離ではさほど離れていないんだけど、電車だとぐるっと回ってこんならんし、電車自体1時間に1本くらいしかないし、とても通えない。
なあんて話を、あやめさんとの寝物語でする……という予定だったのだ。
ユスリカ。
確かに、幼虫がゆらゆら体を揺らすのが名前の由来と言われています。ただし、ボウフラは蚊の幼虫。
ユスリカの幼虫はアカムシ(赤虫)と言います。昆虫のくせに血液が赤いんでね。
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16. Mikiko- 2013/02/15 07:44
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昆虫の血は赤くないのか?
そんなら何色なんだよ?
> なあんて話を、あやめさんとの寝物語でする……という予定だったのだ。
予定?
こないだは、“書き直し”って言ってませんでした?
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17. ハーレクイン- 2013/02/15 09:56
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昆虫の血液(体液)は酸素を運搬するヘモグロビンを含まない。だもんで、昆虫の体液は、ヒトのリンパ(リンパ液)のような感じで、色は薄―い「緑色・黄色」です。
ヒトの血液が赤いのはヘモグロビンの色だからね。
ユスリカの幼虫は例外で、その体液にエリスロクルオリンという、ヘモグロビンに類似の物質を含んで酸素を蓄えているため、赤い色をしています
“書き直し”。
「わたしの頭の中にあって、まだ打ち込んではいない部分」の修正、ということですな
因って件の如し。
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18. Mikiko- 2013/02/15 19:51
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赤くないのはわかった。
でも、なんでヘモグロビンを含んでないんだ?
酸素は、どうやって運搬されるわけ?
>「わたしの頭の中にあって、まだ打ち込んではいない部分」の修正、ということですな
こういうのは、“書き直し”とは云いません。
“練り直し”です。
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19. ハーレクイン- 2013/02/15 21:09
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くそ、またやっかいなことを。
ま、よかろう。授業を始める。
話は陸上、というか空中で生活する昆虫に限定する。
こういう例えで行こうか。
昆虫の体内には、人体でいうと血管系のような細い管が網目状にくまなく広がっている。
ちなみに、昆虫には血管系がほとんど無いが、このことはあとで触れよう。
で、この細い管を「気管」というのだが、そういえば人体にも気管がある。喉から肺につながる管だな。
昆虫の「気管」も人体のそれと同様に考えればよい。つまり昆虫の「気管」の中には空気が通っている。人体の気管の入り口は鼻と口だが、昆虫のそれは、腹部にいくつか開いている小さな穴で、これを「気門」という。
気門には気管が繋がっており、気門から取り込まれた外気は、気管を通じて体内全身にくまなく流れていく。で、全身の細胞は、気管内を流れる空気から、直接酸素を取り込むというわけだな。これが、昆虫の体内で酸素を運搬する仕組みである。血液が運ぶのではないのだよ。
わかったかな。
で、昆虫の血液だが、昆虫の血管系を「開放血管系」と言い、心臓と、それにつながる短い血管からなる。
血管の端は開いており、血液は血管から流れ出て体内のあらゆる隙間を満たしていく。そして、気管と細胞との間の酸素のやり取りを補助する役目を担っている。
“補助”だから、ヘモグロビンのような優れた酸素運搬物質は必要ない。なので、昆虫の血液は赤くないのだ。血液はいずれ心臓に戻り、再び体全身に押し出されていくことになる。
よいかな。
この話は、教科書からは省かれてしまったので、今の入試生物ではめったに出題されんがの。
授業を終わる。起立、礼。
“練り直し”は終わり、打ち込みも終わった。送稿も終わった。
結局、寝物語ではなく、飲みながらの会話になったが。
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20. Mikiko- 2013/02/15 22:19
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ひとまず、そうなってることはわかった。
しかし……。
なぜ、昆虫はそうなってて、人間はそうなってないのか?
そもそも……。
なぜ、生物は、さまざまな形態を取るのか?
不思議ですのぅ。
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21. ハーレクイン- 2013/02/15 23:28
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結果的にそうだ、という観点から見ると、気管系の発達により体が軽くなるので、飛翔するに有利、ということが言えますね。
かといって、「んじゃ、鳥はどやねん」と言わんといてくれよ。
>なぜ、生物は、さまざまな形態を取るのか?
ダーウィンは、これを「適応放散」という概念で説明しようとします。
地球上には様々な生息環境があり、それぞれの生息環境に最も適した(そこで生きるに有利な)形態・機能というものが考えられる。
生物が様々な生息環境にそれぞれ適応していった、結果的に様々な形態の生物が出来ていった……ということですね。
しかし、数百万から数千万種類と言われる多様な生物の存在。これを適応放散だけで説明できるかというと、到底無理ですね。
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22. Mikiko- 2013/02/16 08:22
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たしかに、わざわざ液体に溶かして運ぶより……。
気体のまま運んだ方が、簡単だよね。
身体も軽くなって、飛びやすいだろうし。
それじゃなんで、人間や鳥は、身体が重くなる方法を選んだのか?
それは、遠い先祖が、水中にいたからじゃないでしょうか?
水中では逆に、身体が軽すぎることは不利になります。
水面あたりにしかいられなかったら、すぐに捕食されてしまうでしょうから。
でも、軽い気体に満たされていては、身体を沈めることができない……。
ということで……。
酸素を、血液という液体に溶かして運ぶシステムが出来上がった。
つまり、血液は、体を沈めるバラストの役目もしてたってわけ。
どないじゃ?
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23. ハーレクイン- 2013/02/16 10:33
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ただねえ、効率は良くないんだよね。血管系の心臓に相当するものが無いんでね。
だから、昆虫は体を大きく出来ない。酸素の巡りが悪くなるからね。この点が、昆虫という生物の一つの弱点なんだけどね。
鳥も、骨格を工夫したりして、体重を極力減らそうとしてるけど、到底、昆虫には及びませんね。
体が重くなるのを承知で何故血管系という酸素運搬システムを選んだか。それは、運搬効率が昆虫の気管系よりはるかに高く、生存上有利だからですね。
水中では、軽い方が不利。
ふむ、一理ある。ただ、
>血液は、体を沈めるバラスト
これは言い過ぎ。
血液の比重は、水をごくわずかに上回るけれどほぼ1。バラストとしては、到底役に立ちませんね。もちろん、空気よりはずっと重いんだけどね。
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24. Mikiko- 2013/02/16 13:03
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あきまへんか?
じゃ、これならどうじゃ。
水中深く潜ろうとすると、当然水圧がかかります。
気管系の体では、潰されてしまいます。
水圧に抗するためには……。
体内を液体で満たさなきゃならない。
というわけで……。
酸素を液体に溶かして運ぶシステムが出来上がった。
どないじゃ?
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25. ハーレクイン- 2013/02/16 14:05
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体内を液体で満たして水圧に耐える、か。
深海潜水艇、ね。最近テレビでよく見かけますが。
あれが水圧に耐える仕組みが、実はこの原理なんですよ。
もちろん、生活区域まで水を満たすわけではない(当たり前じゃ、溺れてまうわ)。生活区域と外殻との間に隙間をつくり、そこを海水で満たすわけです。この隙間は外部に開放されており、常に潜った深さの水圧の海水を取り込んでいます。
原理名もあるんだけど、忘れちまったい。
いずれにしてもお見事!
座布団一枚、はおかしいから「双手刈り一本!」
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26. Mikiko- 2013/02/16 21:53
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反則だろ。
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27. ハーレクイン- 2013/02/16 22:23
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いきなり掛ければ反則だが、連続する技の一つ、ないし返し技として掛けるのは反則ではない。
いっぽーん!