2011.12.20(火)
夏実は、試合を一時中断させる主審の掛け声<まて!>を聞いた時のように足を止めた。振り向く。
トイレの側面の壁にもたれて佇む女性がいた。20代後半か、30過ぎ。夏実よりははるかに年上だろう。長い髪を無造作に後ろで一つに束ね、白いブラウスの上に濃紺のスーツ。
「あら、まさか……あなた女の子よねえ」
男に間違えられたのだ。この服装では無理もない。こんなことはしょっちゅうだ。
「そうですが、何か」
「あなた、オナニーしてたでしょ」
「オナニーって、なんですか」
「まあた、とぼけちゃって。一人エッチよ、気持ちいいことよ」
夏実の全身が再び熱くなった。
(さっきのことか、あれは……あれはオナニーというのか)
「そんな……してません!」
「なあに言ってんのよ、あんだけ大声出しといてさ。してないもないもんだわ。あれ絶対男子用の方まで聞こえてたね。あん、あん、いい、いいっ、てね」
夏実は硬直した。
やはりあれを聞かれていたのか。声も出ない、指一本すら動かない、背中に汗が浮き、流れ落ちる。
「あたしさあ、あなたが隣に入ってくるちょっと前から始めてたんだけどさ。あなたの声聞いてたらあっという間にいっちゃってねえ。それでもやめられずにそのあと二回もやっちゃったんだ。
ほんとにすごかったよ、あなたの声。男だったらあれ聞いただけで射精してるね」
夏実は動けない。
いつのまにかあの、直立不動に近い無防備な姿勢をとっている。目がかすむ。耳鳴りがする。
「ねえあなた、いつもここでやるの。
あたしはほとんど毎日だね。
オナニー好きだからね。
そうねえ、日に5・6回はやるかなあ。
休みの日は間違いなく10回以上だね。
食前食後にオナニー、なあんてね。
朝起きぬけにまずやるね。
目覚ましオナニー、ははは。
で、朝ご飯、つっても菓子パンと牛乳だけどね。
めんどくさがりだからねえ。料理なんて一切しないの。
で、食べた後、時間があれば出勤前にもう一回。
これは大概トイレでね。
出勤のときの電車。
やるよ、車内で。
扉脇。あそこがあたしのオナニー場。
大概気づかれてるよ、まわりに。
声出しちゃうもんね、あはん、うふう、なんてね。
気にしないもんね、みんな見て見ぬふり。
こっちもどうぞ見てください、てなもんだ。
香奈枝オンステージ、ははは。
あ、あたし南香奈枝っていうの。
南は北の反対ね。かなえは、香る奈良の枝。よろしくね。
後であなたの名前も教えてね。
何の話だっけ。
そうそう電車内オナね。
車内に背中向けて、窓の外見ながら。
指でもやるけど、扉脇にあるじゃん、手すり。
あれにこすり付けるのが定番ね。
のけ反らないとうまくクリにあたんないから、
もどかしいのよ。それがまたいいんだけどね。
勤め先はこの近く。
もちろんやるよ、休み時間とかにね。
昼休みに外に出た時なんかは、たいがいここでやるわけ。
帰りがけにやるときもあるよ。
んで家に、うちっつってもしょぼいマンション。
給料、安いからねえ。
いや、あれはアパートだね、アパート。
素直にアパートっていえばいいものを、メゾンよ。
メゾン桜台。
笑っちゃうよね。
んでね、うちに帰るとね、
玄関入って鍵かけた途端、その場でやる。
玄関ドアにもたれて、立ったまま。靴履いたまま。
脱ぐの待ちきれなくてさ。
スカート捲り上げて、
パンストとショーツに手、突っ込んでクリ弄る。
脱いでないからまんこにまでは指、入れにくいけどね。
おっぱいももちろん擦るよ。
ブラウスの裾から手入れて、ブラこじ上げてね。
あの時の声、ドアの外まで聞こえてるんだろうなあ。
そのあとお風呂、ていうかシャワーだね。
いちいちお湯張るの、めんどいからね。
ま、それはいいんだけど、シャワーしながらやる。
これが気持ちいいんだ。
一日で一番気持ちいいオナニーかなあ。
シャワーヘッド左手で掴んでね。
おっぱいからおまんこからお尻の穴からお湯かけながら、
右手で擦る。
擦る擦る。
もう乳首はびんびん、まんこ汁はだらだら。
あ、まんこ汁はシャワーですぐ流れちゃうけどね。
で、そのあとシャワー止めて、ローションプレイね。
あの気持ちよさはもう、この世のものじゃないわね。
ま、一人だからね、背中までは塗れないけど。
でも一度、リビングの床に防水シートを敷いてね。
シートにローションをだぼだぼ撒いてね。
そこ転げまわって、
全身ローションまみれになってしたことある。
あんときゃ死ぬかと思った。
しかもね、いくと同時におしっこだだ漏れ。
止めようと思っても止まんない。
後片付け大変だったよ。
あ、それで、お風呂場でローションね。
とても立ってらんない。
タイル地の床に転がってね、
左右の足おっぴろげて、えーと、
左足のかかとをドアノブ、右脚は浴槽のふちに掛けてね、
両脚、思い切り開くの。
んで、ローションまみれの、
おっぱいからクリからまんこからお尻の穴から、
擦りいの、叩きいの、突っ込みいの……。
もう気持ちいいのなんのって。
声、無茶苦茶だすよ。
あれはもう、よがり声なんてもんじゃないわ。
絶叫ね。
あれ聞かれたら通報されるかもねえ。
"お隣で悲鳴が、ひょっとしたら殺しかも……"
なあんてね。はははは。
んで、やっぱりローション使うと最後はおしっこだわ。
なんでだろうね。
お風呂場だからもちろん思いっきり出すよ、おしっこ。
腰、少し上げるからほとんど真上に噴き上がる。
まるで噴水ね。
顔にも胸にもかかるよ。
も、全身まんこ汁塗れのおしっこ塗れ。
顔にかかったおしっこは飲んじゃう。
あれがまたいいんだ。
あは、思い出したら濡れてきたわ。
お風呂場オナ。一度、寝転ぶ前にいっちゃってねえ。
いくと同時に足滑らせてね。
後ろ向けに転倒して後頭部を強打、
朝まで気を失ってたことがある。
暑い頃だったからよかったけど、
あれ冬場だったら間違いなく死んでたね。
風呂場で溺死ならともかく、凍死。
こんな間抜けな死に方はないわあ。
ま、あたしには似合ってるかもね。
あたし晩ご飯は食べないんだよ。
お酒。これがご飯替わり。
つまみは大したもんないよ。めんどくさがりだからね。
ピーナッツとか、ポッキー、柿の種とか、そんなもんだね。
あ、そうか。
あなた未成年だからこんな話、実感ないよね。
ごめんごめん。
で、飲みながらやる。
リビングの床にへたり込んでね。
ベッドの縁にもたれて。
パンツなんか穿かないよ。
家にいるときはいっつも下半身剥き出し。
オナるたんびに脱ぐの、めんどくさいからね。
上もTシャツくらいだね。
すっぽんぽんでもいいんだけどお、
乳首弄るときはTシャツの上からの方が気持ちいいの。
お酒飲むとねえ、なかなかいかないんだ。
で、酒オナは焦らない。
じっくりじっくり時間をかけて。
いきそうになったら手を止める。
でも気持ちがダウンしたらつまんないから、
おっぱいは弄りつづけるよ。
あたし、AVとかはあまり見ないんだ。
写真や絵、静止画像ね。
こういうの見ながら気持ちを高める。
このじわじわっとした盛り上がりもいいもんだよ。
さあ、どのくらいやってるかなあ。
お酒飲みながらだと時間がよくわからんくなるからね。
でも2時間以下ってことはないな。
この時のいき方はまた格別だね。
焦らして焦らしての末だからね。
いつのまにか気絶してる、床の上で、朝まで。
気絶しなかったらベッドで寝るけど、
枕抱えて、お股に手、挟み込んでね。
で、またやったりして」
夏実には、香奈枝の果てしなく続く饒舌のほとんどは耳に入っていない。何も見ていない、何も考えていない。
自失の状態にあった夏実が不意に覚醒する。香奈枝が両腕で夏実を抱え込み、耳元に囁きかけてきたのだ。
「今日はもう仕事、上がりなんだけどさあ。帰る前にも一度やろうかななんて来てみたら、なぁんてラッキー! こんなすごいことに出くわすなんて。
ねね、あなた幾つ、まだ若いわよねえ。中学生っ……てことはないか、高校生かな。あたしねえ、なんでこんなにオナ狂いかというとねえ、長いことお相手がいないからなんだよ。なんせ男じゃだめ、お・ん・なしか受けつけないんだ。
知ってるでしょ、ビアン、レズビアン。ね、あたしたち、こんな出会いをしたのは運命だと思うのよ。あたしのお相手、お願いできないかな。ね、お・ね・が・い」
香奈枝は唇で夏実の唇を捉える。夏実の唇が無意識のうちに開く。香奈枝の舌が夏実の舌を捉える。
「ふううん、んんん、んんっ」
香奈枝の漏らす声が、夏実の潜在意識の奥から、美玖とのことを引き出す。
校舎の出口、楡の木の下、通学路の土、土の香り、降りそそぐ陽光、吹き抜ける風、どこまでも青い空、楡の梢……。立ったまま夏実を抱きすくめる美玖。美玖の唇が耳朶を、頬を、唇を這い、舌が……口の中に……。
夏実は思う。
(あのとき……なぜ美玖を拒絶したんだろう)
(よく頑張った、可愛い子だった)
(あのままさらに精進すれば、かなりの実力を……)
(ボクは、なぜ美玖を……)
夏実はさらに思い出す。あのときの美玖の囁きだ。
「わたし……いつまでも夏実に投げられたい……」
(そうだ!)
(2年の間、あれだけ死に物狂いで頑張ってきた美玖)
(なぜ「いつか夏実を投げたい」と言えない! 美玖)
(お前に足りないものは……)
夏実は、唇を重ね、鼻声を漏らして舌を蠢かせている香奈枝の存在をようやく意識した。
(違う、この人は違う、全然違う)
(この人は……香奈枝さんは、駄目だ)
何がどう駄目なのかよくわからないまま、夏実は抱きしめる香奈枝の腕をあっさり引き剥がした。
「やめてください」
「ええー、どおしてえ」
「わたしにはその気はありません」
「うんうん、はじめは誰でもそうよ。でもね、怖くなんかないって、絶対気持ちいいって。オナニーの十倍、いや百倍気持ちいいから。保障する。あたしはビアンでもベテランだからね。初めてやったのが小4の時。オナ覚えるより早かったんだよ。ていうか、その初めての相方にオナも教えてもらったの。その子、あたしの同級生でね……」
夏実は、再び始まろうとする香奈枝の饒舌を断ち切り、宣言する
「とにかく、私には興味ありません。失礼します」
背を向け、立ち去ろうとする夏実に香奈枝が取りすがる。
「いやあ、ね、ね、お願い、一度だけ試してみようよ、ね」
夏実は追い縋ろうとする香奈枝に向き直り、左手で香奈枝の右手首を取って軽く引き下ろし、右腕を香奈枝の脇に差し入れ引き込みながら、左足の裏を香奈枝の右脛に軽く当てて香奈枝の行き足を止める。香奈枝はマット体操の前転のように前方に回転して地に落ちていく。
<支釣込足(ささえつりこみあし)>相手を崩すのに頻繁に用いられる足技である。
夏実はすかさず体を沈め、仰向けに落ちてくる香奈枝の身体を下から支える。香奈枝はほとんど衝撃もなく地に横たわった。
何が起こったのかわからない香奈枝は、呆然と夏実を見上げてくる。
「ごめんなさい、失礼します」
夏実は香奈枝に背を向けた。
「なあによお、いじわるう。一度やってみようよお。ぜったい気持ちいいんだから。ねええ、気が変わったらまたここにおいでね。今頃にはたいがいいるからねえ」
遠ざかる香奈枝の呼びかけに思わずクスッと笑った夏実は、公園の出口でトイレを振り返った。
トイレに入っていく香奈枝の後ろ姿が見えた。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2011/12/20 08:52
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美玖ちゃん、恵ちゃんに続く三人目の新人女優、香奈枝サンの登場です。
すでに以前のコメ(825回)で予告済みですが、敢えて再掲させていただきます。
お題は『刃傷、夏の廊下』。
もちろん、忠臣蔵、浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)が江戸城内の「松の廊下」で吉良上野介義央(きらこうづけのすけよしひさ)に脇差で斬り付けるという、いわゆる『刃傷松の廊下』事件のパクリです。
ちなみにこの事件が勃発したのは、元禄十四年三月十四日。
この一年九か月後の元禄十五年十二月十四日、赤穂四十七士の吉良邸討ち入り事件が起こり、吉良は討ち取られる。「月は変われど日は同じ」というやつですね。
ではでは、
「おおー。
困ったよ。
裏夏実にまたも新人登場だ。
新人募集はしていないって言ったのになあ。
人気あるなあ(?)裏夏実。
いや、危ないなあとは思っておったのだよ。
どうしても避けて通れない場面があってな。
出来れば点景人物でいてくれよ、と思っていたのだが 南無三なむさん、南無三宝。
案の定、しゃしゃり出てきおった。
しかも、暴走・爆走・迷走・激走。
これを放っておったらどこまで行くか、とんでもない奴だ。
しかあし。
締め切りはは目前、ゴール前のホームストレッチ。
こんなところで躓くわけにはゆかぬ。
『御放し下され梶川殿お』。
ん、ちょっと違うか。
御心配召さるな各々がた。
この暴走女の始末は今日半日で着け申した。
おかげで章が一つ増えてしもうたがのう。
ま、場合によってはこの女、投稿時には抹殺するかもしれぬ。
裏夏実の雰囲気を壊す可能性、大じゃでなあ」
と いうことでしたが、結局抹殺できませんでした。まったくゾンビの様なオナニーfreak女、香奈枝サンです。
もともと、夏実に初オナニーをさせるためのきっかけに過ぎないチョイ役だったのですが、“空気読めない”体質なのか、“自分に正直”といえばいいのか、夏実以上に作者の言うことを聞かぬ、こまったちゃん女です。
「こんなお方、実際にいるのかねえ」といいますと、「いるよ」と申し上げましょう。
上記コメ中“増えた章”というのがもちろん、今回の「第7章 香奈枝と夏実」です。
暴走ビアンにして超絶オナニー女、香奈枝サンの所業。よく考えれば、結構可愛い女なのでは……。
どうぞご賞味ください。
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2. Mikiko- 2011/12/20 19:46
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いねーだろ。
強いて云えば……。
香純に似てるか?
勝手に独白し始めるとことか。
思えば、「由美美弥」で……。
独白シーンを開発してくれたのが……。
他ならぬ香純でした。
第443回(http://mikikosroom.com/archives/2671796.html)からのシーン(『温製のポイズン』)ね。
作者としては、香純には深く感謝してます。
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3. ハーレクイン- 2011/12/20 20:20
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「温製のポイズン」で、香純はバレーボール部キャプテンとの経緯といいますか何といいますか、過去の所業を語ったんですよね。
ま、この所業についてはキャプテンはもちろんですが、何かと迷惑を蒙った方々が多くおられたと。
独白という点では、香奈枝は香純と似てなくもありませんが、香奈枝の場合は、他人はどうでもいい、ひたすら自己の表白に終始しております。
いわば究極の自己チュー女。
ま、そこがまた可愛いわけですが。
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4. ハーレクイン- 2011/12/23 18:30
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「温製のポイズン」読み返しちゃいましたよ。
ついでに「大分に行こう!」もね。
「姉ちゃん、姉ちゃん」って泣きながら射精する愁くん。可愛いぞ。
ちんちんはどんどん発育していったようだが。
この章で香純にやられたというか、やられかけたというか……は美弥ちゃんだったんだよなあ。
杉乃井ホテル。凄かったなあ。