Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
元禄江戸異聞 根来(九)
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「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(九)


 まるで夜店でも眺める様に、二人の女は薄笑いさえ浮かべながら警護の中を歩いて来る。
 じっとそれを見つめる羅紗の瞳が、突然大きく見開かれた。
「あ……あれは、まさか……」
 腰元が怯えた声を上げる。
「な、何人たりとも同席は許さず、ただ羅紗様にのみ謁見したいと申しております」
 眉を吊り上げて羅紗は振り返った。
「よい。お前たちは下に控えて、ここへ通しなさい」
「し、しかし羅紗様!」
「構わぬ、恐らく私に危害を加えることはあるまい。それにあの者達……、知らぬ者ではない」
 頭を垂れた腰元たちの前を、羅紗はゆっくりと上座へ向かった。

 両手を付いた頭を上げながら、春花は上目づかいの笑みを羅紗姫に向ける。
「お懐かしゅうございます羅紗姫様。再びこの世のご縁をいただき、相変わらず麗しいお姿に接し、我ら姉妹、恐悦至極にございます……」
「言うな!」
 羅紗は青白くさえ見える顔に険を走らせた。
「この度の鶴千代の一件、お前たちが仕組んだ事か!!」
 春花から丸い目を向けられた秋花が、羅紗に向かって口を開く。
「羅紗様には若様の一件にてこの上なくご心痛のご様子、私どもも心よりお察し申し上げます。しかし私どもが仕組んだなど、滅相もございませぬ。幼き頃の非道を悔いております私どもが裏街道で見知りました一件、何とか罪滅ぼしにお役に立ちたいとこうして馳せ参じた次第にございます」
「な、なんと……」
 秋花の言葉を聞いて、浮いていた羅紗の尻が戸惑いながら茣蓙の上に戻る。
「たまたま賊の一味を見知っておりました私どもは、無事若様をお助けする糸口を探って参りました」
「鶴千代を無事取り戻す術があると申すのか!?」
 再び前のめりに羅紗の腰が浮き上がる。
 細めた目に睫毛を煙らせて、春花がゆっくりと頷いた。

「若様が連れ去られる前、羅紗様にはお通に瓜二つの女にお会いになられましたね……?」
 まだ戸惑ったままの羅紗に春花は続ける。
「その女、お通の妹、鷹でございます」
「お、お通さんの妹……!」
 双子の顔に薄っすらと笑みが浮かび、愛くるしい瞳が輝く。
「鷹は大陸の知り合いと交易を持ちたいと考えておる様でございます。聞けばなに、海辺の小さい港を交易の場としてお許し願いたいと申すだけのこと……」
「大陸と交易!?」
 羅紗は春花が話し終える前に叫んだ。
「無断で大陸と交易などご政道に反しておるばかりか、ま、まさかご禁制の品では!?」
 春花の袖を引くと、秋花が落ち着いた口調で話をつなぐ。
「とんでもございません、羅紗様。布地、砂糖や塩、それに……漢方薬などありきたりの品ばかりでございますよ」
「し、しかし……」
 戸惑う羅紗に、再び春花が口を開く。
「藩にも収益に応じて上納させていただく由で、公儀への届は追々下準備をすればよいこと……。何より若の身を守るには、否応なく先ずは申し出に乗る方が得策かと……」
「う……む……」
 羅紗の伏せた眼差しがおろおろとさ迷った。
 その時、突然春花の顔から笑み消えた。
「誰だ! そこの者、こっちへ出てこい」

 背後の襖の陰から、中年の女官が静かに姿を現した。
 年の頃はもう四十過ぎか、覚悟の行いであろう、動じる気配も無く双子を睨み据えた。
「は、初音!」
 羅紗の叫びを聞いて、春花が口を開く。
「初音……? 何人も同席は叶わぬと言ったはずだ。下がれ!」
「いいえ、私は何処へも行かぬ。私を羅紗様から引き離すつもりなら命を奪いなさい」
 春花はその目を見開いた。
「ほう……」
 思わず頬を緩めた秋花が口を開く。
「見事な心構えだ。何者だい?」
「私は藩江戸屋敷にて、赤子の頃より羅紗様にお仕えした者」
「なるほど、乳母か……」
 羅紗の傍に進む初音を目で追いながら春花が呟いた。
 初音は羅紗の斜め前に座を占めると、双子に正対した。
「乳母ではない。乳母は別におった、十五で御屋敷に上がって以来、ずっと私のお役目は羅紗様のお世話。御国元にお帰りになってからもお声掛けをいただき、お傍でお仕えするため江戸から参ったのじゃ」
 春花と秋花は顔を見合わせると、鼻先で小さく笑った。
「このお桟敷で血を流しても畏れ多いし、ふふ……この頑固なお女中だけは、まあ仕方ないか」
 初音は双子たちの薄笑いを見つめながら口を開く。
「羅紗様、私もこうしてお傍に控えております。どうかご心配なく」
「は、初音……」
 初音は羅紗を振り返って頭を下げると、再び春花と秋花の方へ向き直った。
「して、その交易の場を提供すれば、賊は若様を無事解き放つと申すのだな?」
 その問いかけに、秋花が思い出した様に口を開く。
「あ、ああ。賊の案配じゃあ、その脈があるのさ。ただ、あたしたちの口利きがあっての話だけどね」
「お前たちの口利き……? し、しかし、天下の大事に至る様なことは無いと申すのだな?」
 若を助けたい一心で、羅紗は前のめりの問いかけをする。
「大丈夫ですよう。藩にしたって収益の上がる話だし、差し当たって小商いをしながら、公儀から取引のお許しはゆっくり準備をすればいいんですから……」
「う……ん……」
 考え込んだ羅紗を見て、初音が重ねて問いかける。
「くれぐれも大事に至らず、若様をお助け申し上げる方策に間違いないのだな!」
 春花が呆れたように首をすくめた。
「あたしたちが持参した端切れは若様のものに違いないでしょう? どうもそう信用がなくっちゃ、お助けすることも難しそうですね。じゃあ、この度の話はご破算に……」
 じれったそうに立ち上がる春花に、慌てて羅紗が声をかけた。
「わ、わかった、港の方は何とか手はずを整えよう。だから早速お前たちも、賊に折衝しなさい」
 春花は相好を崩すと、上げかけた腰を再び床に戻した。
 横の春花を見やった秋花が口を開く。
「羅紗様、早速はいいんですけどね、それには条件が……」
「条件? 何じゃ、申してみよ」
「とりあえず橋渡し賃としてあたしたちに五百両ずつ、合わせて千両。それともうひとつ……」
「もうひとつ……?」
 春花の言葉に、初音ばかりか秋花も異口同音に呟いた。
 羅紗と初音を見つめる春花の顔には、何故か淫靡な笑みが浮かんでいた。

「赤子の時から御付きなら、初音さんとやら羅紗様のこたあ全部知ってんだろう……?」
 初音はその表情を硬くすると、無言のまま春花の顔を見つめた。
「十年前、あたしたちも羅紗姫様と湯浴みをご一緒して、すべてを拝見したんだよ」
「お、おまえたち……」
 俯いて唇を噛んだ羅紗の前で、初音が詰まった声を漏らした。
「もう最近は拝見してないんだろう? どうだい、あたしたちと一緒に拝見してみないかい?」
 秋花が上目づかいに天井を見上げて、あきれた様に肩をすくめた。
「ぶ、無礼な!! 羅紗様に何ということを!」
 顔を紅潮させて初音が叫んだ。
「ああそうかい。しかしこれも条件のひとつなんだ。生憎あたしたちゃ下賤な生まれで、ただ“はいそうですか”って善行で事を運べやしないんだよう」
「お、お前たち!!」
「よい初音、構わぬ……」
 血相を変えた初音の後ろで静かに羅紗は立ち上がった。
「私に出来る事で若を救えるなら……」
「し、しかし羅紗様……」
 その瞳に淫らな光を宿らせて春花が口を開く。
「だったら初音さん、あんたも素肌を晒しなよ。年はいっても、まだ女を捨てちゃいないんだろう……?」
 それを聞くと、初音は鋭い眼差しを春花に向けた。
「こやつ……」
 射抜く様な眼差しで春花を見据えたまま初音は言った。
「ようし、そこに控えておれ。しかし、きっと若様をお助けする術とならねば許さぬぞ」
「は、初音……」
 背中に羅紗の声を聞きながら、初音は羽織の紐に手を掛けた。

「ほおお……」
 思わず春花がため息をついた。
「四十路とは思えない、きれいだねえ……」
 その横で秋花もそんな呟きを漏らす。
 きつく唇を噛んだ初音の身体から、白い襦袢が足元に滑り落ちた。
 白い肌がふくよかに盛り上がった乳房の先で、淡い桃色が煙っていた。
 いそいそと立ち上がった春花が初音の後ろに回り込む。
「御屋敷詰めで色事には縁がなかったんだね、まだ娘の様なお乳じゃないか。この桜色を羅紗様に吸わせたことはないのかい?」
 ますますその表情を強張らせると、初音は春花から顔を背けた。
「乳は出ずとも、そうやってあやした事があるんだろう……?」
 秋花の問いかけに、初音は黙ってその胸を両腕で隠した。
「ふふ、あるんだね? どうだい、その乳首を吸わせた時、身体の奥が熱くならなかったかい?」
 思わず初音は秋花を睨みつけた。
「この身の疼きは是非も無く……か。羅紗様の代わりに、今日はあたしたちが吸ってあげてもいいんだよ……」
 秋花の呟きに、血の気の引いた顔で初音は一歩後すざった。
「じゃあ、あたしたちも脱ぐから、羅紗様もそろそろ御開帳願いましょうか」
 そう言うと春花は、くびれた腰に巻き付いた細帯を解き始める。
「ら、羅紗様……」
 初音の声を聞きながら、帯を解く手を止めた春花が羅紗を窺う。
「わかりました……」
 無言のまま促されて、羅紗は血の気の引いた顔でそう呟いたのである。
元禄江戸異聞 根来(八)目次元禄江戸異聞 根来(十)

コメント一覧
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    • ––––––
      1. Mikiko
    • 2015/04/23 20:55
    •  お待ちどうさまでした。
       前回、(八)の投稿が、3月5日でしたから、1ヶ月半ぶりになります。
       次回が、スゴく楽しみな終わり方ですね。
       いつごろ読めますかしら。
       ま、焦らされるのも、楽しみのひとつです。
       一緒に、ワクワクしながら待ちましょう。

    • ––––––
      2. ハーレクイン
    • 2015/04/23 23:02
    •  「『元禄』の流れが全くわからなくなったので、はじめから読み返す。それまで『根来』へのコメは堪忍ね」と書きましたが、ようやく『続元禄』(十二)まで来ました。伊織たち一行は大井川を渡るところですが、次の掛川宿の様相も同時進行しています。
       しかし、この分では、いつになったら追いつけることやら。 一か月半の猶予をもらったんだから、もっと進んでいないとなあ。

    • ––––––
      3. Mikiko
    • 2015/04/24 07:49
    •  元々は、紀伊国北部、根来寺に本拠を構える僧兵集団だったそうです。
       鉄砲で武装し、傭兵として働くこともあったとか。
       種子島に鉄砲が伝わったと聞きつけて島に渡り、鉄砲と火薬の製法を習ったそうですから……。
       日本における鉄砲使いの元祖ですよね。

    • ––––––
      4. ハーレクイン
    • 2015/04/24 09:50
    •  何を見てもそう書いてあるから、そうなんでしょう(なんか文句があるんかい!)。
       いや、忍者集団だと思っていたんだけどなあ。やはりアクション時代もののドラマや小説(含『元禄根来篇』)の影響なんだろうなあ。

    • ––––––
      5. Mikiko
    • 2015/04/24 20:18
    •  わたしは、この連載で初めて知りました。
       根来より、“値ごろ”の方が好みですが。
       根来衆と似た組織に……。
       雑賀衆(さいかしゅう)というのがあったようです。
       こちらも、多量の鉄砲で武装した集団だったとか。
       なんか、今の中東を連想してしまいますよね。

    • ––––––
      6. ハーレクイン
    • 2015/04/24 21:33
    •  根来衆と同じく、紀州和歌山の傭兵集団だそうです。リーダーの一人、雑賀孫市は有名ですね(参考文献:司馬遼太郎『尻啖え孫市』)。信長も、この雑賀衆にはてこずったとか。
       根来衆が僧兵から派生した集団だったのに対し、雑賀衆は土着の、百姓あがりの集団だとか。
       傭兵、とくるとどうしても真田幸村と十勇士を思ってしまいます。傭兵じゃないんだけどね。十勇士は架空の人物だし。
       懐かしいなあ、猿飛佐助、霧隠才蔵、三好清海入道……。わたしが忍者、忍術というのを初めて知ったのは彼ら、真田十勇士からでしょう、おそらく。

    • ––––––
      7.
    • 2015/09/13 06:02
    • 続きが読みたいです!!

    • ––––––
      8. フライ
    • 2015/09/14 20:40
    • 一気に読んでしまいました!
      更新楽しみにしてます!
      初孫の話も凄く興奮しました!

    • ––––––
      9. 初めまして
    • 2016/06/10 05:07
    • さすがに打ち切りですよね。
      一年以上待ってますが。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2016/06/10 07:35
    • 作者の八十八十郎さんとは……
       連絡が取れています。
       連載再開の思いもお持ちでいらっしゃいます。
       ただ現在、先日の熊本地震で勤務先が被災されたこともあり……。
       すぐに執筆に取り掛かれる状況では無いようです。

       メールアドレスをお教えいただければ、再開時にご連絡を差し上げることも可能です。
       八十郎さんには、今回のコメントの件、ご報告しておきます。

    • ––––––
      11. Mikiko
    • 2016/06/14 07:37
    • 八十八十郎さんから返信が届きした
       コメントが入っていることをお知らせしたところ、八十八十郎さんからメールが届きました。

       最近は、ボランティアの方々が利用できるような仮設小屋を建てたりしておられるそうです。
       皮が剥けるほど日に焼けたとか。

       近況に続き……。
       「まだ楽しみに待っておられる方がいらっしゃるとは、本当に嬉しく有り難く感じました。私が書いた拙いものでも楽しみにしてくださる方のために、遠からず稿を繋いでいければと思います」との嬉しいお言葉もいただきました。

       楽しみですね。
       わたしも一緒に、再開を待ちたいと思います。

    • ––––––
      12. 平成浪花異聞HQ
    • 2016/06/14 08:31
    • 元禄根来
       最後の投稿から1年以上になるんですね。
       早よせえ、とはもちろん言いませんが、楽しみに待ちたいと思います。
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