Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
元禄江戸異聞 根来(四)
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~ これまでの あらすじ ~


 武家社会のしがらみから養父母を亡くした“菊”(19歳)は、そんな世の中の矛盾を正すべく、女を捨て“陣内伊織”として侍の修行に励んでいた。

 そんな折、藩の密書を狙う公儀隠密九ノ一“お蝶”(24歳)と遭遇した伊織は、不覚にも身体の自由を奪われたまま密書の半分を奪われる。
 そしてそればかりか、女同士の交わりを強いられた揚句に、心ならずも初めての女の快楽をお蝶から与えられた。

 しかし後日、残り半分の密書を狙ったお蝶は藩江戸屋敷で囚われの身となる。
 進んで取り調べの任に当たった伊織は、以前命を見逃された恩義から、牢で再び互いの肌の温かみを確かめ合った後、密かにお蝶の身を解き放ったのだった。
【元禄江戸異聞】


 その温情と美貌に惚れ込んだお蝶は、抜け忍の身となり、押しかけ女房同然に謹慎中の伊織の世話をやいていた。
 そんなある日、伊織に藩から汚名挽回の密命がおりる。
 江戸屋敷で育った羅紗姫(16歳)を、その命を狙う九ノ一集団“尾張白蝋”から守りながら、江戸から国元の丹波まで送り届けるという使命だった。
 それを知ったお蝶は、自分も命を懸けて伊織と旅を共にすることを決心する。
 また伊織を女と知らずに想いを寄せていた左官の娘お美代(18歳)も、家出して伊織の後を追う。

 旅が進むにつれ身近に危険が迫ったことを感じたお蝶は、自分の師匠ですでに忍びを退いていたお通に加勢を頼む。
 お通は自分の年齢を考えると役に立つのは難しいと言ったが、お蝶の命を懸けた願いにとうとうその重い腰を上げる。

 お通の活躍もあって、いくつもの艱難辛苦を乗り越え一行は西を目指す。
 しかしやがてお美代は虜として白蝋の手に落ち、伊織とお蝶、羅紗姫とお通も二手にはぐれてしまう。
 母娘のように心を通わすお通と羅紗姫は、ついに琵琶湖手前で白蝋に追い詰められ、お通は身を挺して姫を逃がした後に、尾張白蝋の赤蛇尼と刺し違えるように命を落とす。
 続けて姫を助けたお蝶も、白蝋の春花・秋花姉妹ともつれ合って谷底に落ちて行った。
 やっと巡り会った伊織と羅紗姫であったが、お美代の命と引き換えの果たし合いに向かう事を決心する。

 その夜羅紗姫は、自分が女の身体の中に男の身体を併せ持っている事を伊織に告白する。今生の別れを覚悟した伊織も、自分を慕う羅紗姫に自分が女であることを打ち明けた。
 それでも姫の心が変わらぬことを知ると、伊織は女に戻って羅紗姫に操を捧げるのだった。

 夜明けの山門での最後の果たし合い。
 尾張白蝋の小頭“水月”(伊織の義姉)の命に代えた裁量で、伊織と羅紗姫は生き残り、頭領“美夜叉”と水月は炎の中に消える。
 燃え落ちる楼閣から命からがら逃げだした伊織たち三人は、激しい雨に打たれながら戦いの終わりを悟る。

 藩主より羅紗姫と共に藩政に尽くすよう求められた伊織だったが、愛する人を亡くした心の痛手は大きく、侍の身分を捨て江戸に帰ることを望む。
 再び江戸に帰る道中、女に戻った菊(伊織)とお美代の前に、幸運にも谷川で一命を取り留めたお蝶が姿を現し、一行は喜びを噛みしめつつ江戸への帰路に就いた。

 江戸に帰った後、菊は羅紗姫との一夜の契りで命を授かり、お蝶の手で赤子を産み落とす。
 それから30有余年、否応も無く国元に引き取られた赤子も今では立派に藩主となり、先に病で他界したお蝶を忍びつつ、静かに長屋暮らしを続ける“菊”(53歳)の姿があった。
【続元禄江戸異聞】


 そんなある日、芝居小屋を手放した“八十”(59歳)がひょっこり菊の長屋を訪れる。
【元禄江戸異聞 根来】


「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(四)


 在りし日のお蝶を思い浮かべながら、ふと菊は筆を持つ手を止めた。
 誰か人の声が聞こえた様な気がしたからである。
「あの、先生……」
 表に目を向けると、遠慮がちな笑みを浮べて八十が戸口に立っていた。
「まあ、八十さん!」
「えへへ、先生……」
「来てくれたのですね」
「お蝶さんが亡くなって、お元気でいらっしゃるかと気になりやしてね」
「八十さん……」
 目を潤ませる菊に、慌てて八十は言葉をつなぐ。
「あ……あはは、やだなあ先生湿っぽくなっちゃ。向こう意気が強くても江戸っ子はそいつには弱いんだから、ついあっしまで……」
 そう言って鼻をすすり上げる八十に、菊は泣き笑いの顔を向けた。
「ごめんなさい。どうぞ、汚いところですけど上がって下さい。このような有様で白湯しかお構いも出来ませんが」
「なに先生、あっしはここで。それに師走も近くなると白湯がいいんでさあ、身体も温ったまって……」
 上がり段に腰を降ろすと、八十は七輪に向かう菊の背中に声をかけた。

「しかし案外お元気そうで、安心しやした」
 そう言うと八十は、おそるおそる湯呑を口に運ぶ。
「気にかけて頂いて、有難うございます。お蔭様で、何とかその日その日を暮してはおります。それで、あなたの方はいかがですか?」
 菊の優しい言葉に、八十は照れくさそうに頭を掻いた。
「あっはは、あっしなんざ如何って聞かれると恐れ入るんですがね。芝居小屋もなくなっちまってごろごろしてるところに、世の中にゃあ奇特な旦那もいらっしゃるんですね、お前の芝居がなくなって寂しい、小屋あ借りてやるから正月から打ってみないかってね……」
「まあ、それはおめでとうございます!」
「あははは……」
 菊の言葉に八十はぺこりと頭を下げた。
「そこで先生、実は正月からの芝居の話を是非また先生にお願いしてえと」
「ええ!? お正月の興業に今からですか?」
「後生です先生。是非、なんか新しい出し物を演りたいんです。それに……」
 両手を合わせた八十の目が菊を見上げて輝きを増す。
「さっきは先生、筆を握って何かを書きながら、あっしの声にお気づきにならなかった。あっしゃあピンと来ましたぜ……」
「まあ……」
 菊は笑みを浮べて八十の顔を見た。
「うふふ、あなたにはかないませんね。では、なんとかやってみましょう……」
「ありがてえ! 先生、宜しくお願いします!」
 感極まった八十は、思わず目の前の菊の手を握った。

「こら! おまえ、なにやってるんだい!」
 背中からどすの利いた声にどやされて、八十は上がり段からずり落ちた。
「ななな、なんだなんだ!?」
 ひっくり返った八十が後ろを振り返ると、腰に両手をあてがった体格のいい女が見おろしている。
「聞きたいのはこっちの方だよ。お前、菊様の手なんか握りやがって!」
「俺あ、ただ仕事のお願いに来ただけで……」
「分かるもんか。おおかたどっかで菊様を見かけて、ついふらふら入り込んだんだろう。第一、品が無いんだよ、あんたの顔は」
「なにい、このばばあ。品が無いのは俺のせいじゃねえや!」
「あ、ばばあって言ったなこいつ! じゃあ、誰のせいなんだい、このじじい!」
「う、ううんと……、多分死んだ親父だろうよ。女癖が悪かったから……」
 仕舞いの付かない話に、あきれて菊も口を開く。
「お美代さん、この人は仕事の話をしに来ただけですよ、それに、こんなおばあちゃんに誰が言い寄って来るものですか」
「あ、いてて……」
 転がった八十を押し退けて、お美代は上がり段に大きな尻を持ち込む。
「何を言ってるんですか菊様、おばあちゃんだなんて。まだまだ菊様は変わりなくおきれいですよ」
「違えねえ。五十路とは思えねえ、上品な色気があって……」
 仕方なく土間に胡坐をかいた八十も話に割り込んでくる。
「ほんとだよ。湯浴みで拝見すると、まだお乳なんか若い頃とちっとも変らないし……」
「見たの……?」
「うふふ……。うん、お風呂でね」
「なんでい、いいなあ女同士は、そんなこと出来て」
 菊はすっくとその場に立ち上がる。
「あ……」
 口を開けて見上げるお美代と八十に菊は言った。
「もう沢山です。今日の所は二人ともお帰りなさい。お話はまた後日……」
「あ! ついおふざけが過ぎちまって……、き、菊様、もうしわけ……」
 八十の言葉が終わらないうちに、鼻先で障子が閉まった。

「ほうら見ろ、お前が変な時に入って来るから……」
「あんたが菊様の手なんか握るからだろ?」
 お美代と八十はぶつぶつとぼやきながら表へ出て行く。
「ところであんた、菊さんからお美代さんって呼ばれてたけど、ひょっとして羅紗姫様を担いで階段を下りたっていう……」
「ああ、それはあたしだよ」
 八十はそれを聞くと、思わず着物の襟を直してお美代を見た。
「へえ、そいつは御見それしました。実は正月興行の出し物のお願いで今日は菊さんのところへ来たんでさ」
「ふうん、そうなのかい……」
 お美代はそう呟くと、戸口脇の縁台に腰を降ろす。
「じゃあ多分、もう菊様の話は決まってるよ」
「え? も、もう決まってるって?」
 八十の驚いた顔をお美代はゆっくりと見上げた。
「あたしたちが江戸に帰り着いてから10年後。一人の女がお蝶さんを訪ねて来るんだ」
 八十は怪訝な表情でお美代の顔を見つめる。
「そしてその女は、今のあたしみたいに、この縁台にこうやって腰を降ろしたんだよ」

 漏れ聞こえてくるお美代の話を聞きながら、菊は後ろ手の障子から手を放した。
 静かに書机の前に座ると、再び筆を執る。
 長い旅路をたどる時の様に、その眼差しが遠く前方を見つめ始めた。
元禄江戸異聞 根来(参)目次元禄江戸異聞 根来(五)



コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2015/01/22 09:23
    •  お菊さんが53歳!?
       えらくまた時が流れたものだが……。
       と思って読み返してみたよ、続元禄・最終章(現)。
       たしかに「一緒に暮らして三十年余り・・・。長いようで束の間のことのように感じます」「もう五十過ぎくらいだろうか」とありました。
       へええ
       お菊さんは戯作を書くんだ。
       やはり黄表紙かなあ。
       で、「長い旅路をたどる」お菊さん。
       いや、陣内伊織の方がいいかな。
       「お蝶さんを訪ねて来る女」って、何者なんだろうね。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2015/01/22 20:43
    •  波瀾万丈の一大長編ですね。
       どこかで、映画化してくれませんかね?
       金とヒマがあれば、わたしがやるんだけど。
       しかし……。
       今、時代劇のテレビ番組って、大河ドラマ以外にあるんでしょうか?
       あ、ときどきNHKの地上波でやってますね。
       見てませんけど。
       でも、去年、BSでやった『おそろし 三島屋変調百物語』は、抜群に面白かった。
       主演の波瑠さんが、とても可憐でした。
       あんなドラマが作れるのに、どうしてもっと時代劇をやらないんだろ?

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2015/01/22 21:15
    •  『三島屋』やったんですか、テレビで。
       波瑠?
       そんな登場人物いたっけ?
       と考え込んでしまった。
       主人公おちかを演じた女優さんですね。
       昔はそれこそ毎夜のようにやってたよね、時代劇。
       多分ですが、製作費がかかるからじゃないかなあ。
       それにしても、やはりBSかなあ。

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2015/01/23 07:40
    •  ↓面白かったです。
      http://www.nhk.or.jp/drama/osoroshi/
       BS、入りなはれ。
       テレビの楽しさが、ぜんぜん変わりますよ。
       ↓『謎解き江戸のススメ』とか……。
      http://www.bs-tbs.co.jp/edo/
       ↓もちろん、『おんな酒場放浪記』も(これは、毒か)。
      http://www.bs-tbs.co.jp/onnasakaba/
       集金人にバレるまでなら、タダで見れます。
       窓の位置が良ければ、窓際に置いた室内アンテナで映るかもです。

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2015/01/23 09:19
    •  ミヤベの小説って、なんであんなにおもろいんだろうね。あのレベルで、次から次から発表する。
       しかも、時代もの、現代もの、推理、ミステリー、SF、ファンタジー……何でもありだもんなあ。このお方にはかなわない、と素直に頭を下げます。
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