Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
元禄江戸異聞 根来(参)
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「元禄江戸異聞 根来」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(参)


 江戸。
 夜来の雨もあがり、澄みきった朝日が湖面を照らしている。
 小雨に濡れて粋な年増姿を見せていた菖蒲の花々も、今は朝露にきらきらと輝いていた。
 いつの間にか、そんな水辺に足を止めた者がある。
 菖蒲と同じ藍色の着物を着込んだ女の立ち姿が、水面を揺らす風とともに朝靄の中から浮かび上がる。
 切れ長の目に睫毛を煙らせて、女は水辺の景色をゆっくりと見渡した。
 齢三十の色香を漂わせて、人品卑しからぬ気品を加えた風情は、まさに非の打ちどころがない美しさである。

 菊は今朝も観音様をお参りした。
 遠く離れた子を思って神様に手を合わせることだけが、親として菊に出来るたったひとつのことだったのである。
 遠い国に思いを馳せていた菊は、自分に向けて走り来る足音に顔を上げた。
「先生、先生! やっぱりここだったのね」
「お園ちゃん!?」
 まだ小さなその女の子は、息せき切って菊の前に走り込む。
「大変、大変よ、先生! ……はあはあ……。またお蝶のおばちゃんとうちのお母ちゃんが井戸端で喧嘩してるの……はあはあ……」
「まあ、お蝶さんとお母さんがまた喧嘩? 今日は一体どうしたのでしょう……?」
「はあはあ……わ、わかんない……はあ……おこしがどうのとか言って……」
 菊は首をひねった。
「おこしが……? 何かしらそれは……? まあでは、とにかく急いで参りましょう」
 もう先に走り出したお園の後を追って、菊も小走りに走り出した。

「もう、あんたたちは毎度毎度しようのない。今朝は一体どうしたっていうんだい?」
 大家の内儀の前で、お蝶とお美代が肩を怒らせて睨み合っている。
「おかみさん聞いとくれよ。こいつがね、これはあたしが洗ってあげるよなんて言って、菊様のおこしを洗おうとしたんだよ!」
「はあ?」
 内儀は前歯の欠けた口を開けた。
「こいつってなんだい! 向こう三軒両隣って言うじゃないか。あたしが親切でやってやろうと言うのに、なにをどう間違えたんだか、こいつはつむじを曲げやがって!」
「なんだって!」
「まあまあ」
 おかみはまた掴み合おうとする二人の間に割って入った。
「そんなものどっちが洗おうといいじゃないか。あたしだって、毎度あんたたちの日課に付き合うほど暇じゃないんだよ」
「おかみさん!」
「は、はい」
 思わず内儀はお蝶の迫力にたじろいだ。
「どっちが洗おうがなんて、よくそんな事が言えますね。大事な菊様のおこしを」
 それを聞くと、お美代は小意地の悪い笑みを浮べて口を開く。
「ふん、年増が自分のでっかい尻の腰巻を洗ってるから、あたしゃ気の毒で助太刀を買ってでたんだよ、あははは」
「なんだって! あんただって相変わらずでかい乳しやがって!」
「なにを! あんたも歳のわりにゃ張った乳してるんじゃないか!」
 再び内儀が二人の間に割って入る。
「邪魔になるんだよ、あんたたちの乳は! あたしにあてつけ言ってるのかい……?」
「い、いいえぇ、そうじゃないんですけどね……」
 そう言うとお美代は、内儀の胸元に気の毒気な目線をさ迷わせた。
「と、とにかくこの年増にお飽きになったら、いつでもあたしが菊様のお世話する覚悟はできてるんです」
 それを聞くと、小意地の悪い笑みを浮べたお蝶が斜にお美代の顔を窺う。
「亭主も子供もいるくせに、なに言ってるんだい。ちったあ亭主に吸ってもらって、もう少し小さくしてもらいな」
 目を怒らせて言い返そうとするお美代を手で制して、お蝶はその色っぽい目を瞬かせる。
「それにお生憎様だけど……、まだまだ菊様は三つも四つもあたしにお代わりなさるんだよ……」
 内儀は怪訝な表情をお蝶に向ける。
「へえ……、菊さんってそんなに食べるのかい……?」
「あはは……、お食べになるっていうか、なんていうか……」
 要領を得ないお蝶の返事を聞いていた内儀が顔を上げて叫んだ。
「ああ菊さん、こっちこっち!」

「お蝶さん、お美代さん、今朝はまた一体どうしたのですか!」
 菊に睨まれて、お蝶とお美代は身を縮めた。
「いえね、お美代が、その……おこしを洗おうとしたもんで、その、つい……」
 菊は首を傾げてお蝶に問いただす。
「何を言ってるの、あなたは。いいじゃありませんか、おこしを洗うくらい……」
「だって横からひったくって菊様の腰巻を洗おうとするんですもの!」
 慌ててお美代が口を挟む。
「い、いえ菊様、あたしはただお手伝いしようと思って……」
 菊の顔が怒りと恥ずかしさでみるみる赤くなる。
 大家の内儀はここぞとばかりに口を出す。
「あんたたちが喧嘩しなくったって、菊さんだって腰巻くらい自分で洗うよ」
 色っぽく眉を寄せたお蝶が口を開く。
「ご自分で洗い物なさるなんて、そんな畏れ多いこと……」
「へえ……、そんなに畏れ多けりゃ、親同然のあたしのも洗っとくれよ」
「畏れ多すぎて、それはちょっと……」
 偶然にお蝶とお美代の口調が揃った。
「もう沢山です! まったく、あなた達ときたら!!」
 菊の一喝に、お蝶とお美代は頭を並べてうなだれる。
 大家の内儀はやっと胸を撫で下ろして口を開いた。
「やれやれ、やっと治まったね。それにしても菊さん、あんた見かけによらず三つも四つもご飯のお代わりをするのかい……?」
「え……?」
 菊は怪訝な表情を内儀に向けた。
「いえ、わたくしご飯を三度もお代わりすることなど……」
 お蝶が取り繕うように言葉を繋ぐ。
「い、いえ……、わたくし一度もご飯と言っては……」
 菊の首から上が、再び茹蛸の様に染まり上がった。
「お蝶さん!」
「はい、申し訳ありません」
「もう帰りますよ!」
 内儀とお美代があっけにとられて見つめる中、お蝶は菊に手を引かれて帰りながら振り返ってあっかんべえをした。

 その日の夜、小さな長屋の一室。
 隅の蝋燭が消えると、質素な部屋は暗闇に包まれた。
 菊は解いた長い黒髪を枕の脇に束ねて、静かに布団を肩まで引き上げた。
 もう一足先にお蝶は隣の布団で寝息を立てている。
 目を閉じて今日一日の出来事を思い出す。
 今日は五、六人の子供が手習いに来た。
 菊は安い謝礼で近所の子供たちに習字を教えたり、代書をしたりして家計の足しにしていたのである。
 お蝶も飯屋の手伝いなどで駄賃を稼ぎ、二人は貧しいながらも幸せな日々を送っていたのだった。
 年齢も菊が二十九、お蝶は三十六を迎えていた。
“それにしても……。”
 再び今朝がたの騒動を思い出すと、菊は目を閉じたまま眉を寄せた。
 喧嘩友達という言葉はあるが、お蝶とお美代は度々井戸端で騒動を起こして廻りに迷惑をかけていたのだ。
“もう少しきつくお灸をすえておかねば……。”
 じわじわと眠気が襲い始めた頭で菊はそう思った。

 ところがしばらくすると、菊の掛布団がざわついて背中に冷気を感じた。
「菊さま、もう寝ちゃったの……?」
 もう先に寝入ったと思っていたお蝶が菊の布団に入って来たのである。
 今朝方のこともあり、菊は黙って寝たふりをした。
 ところが厚かましくもお蝶の手が腋の下を抜けて、菊の合わせの中に滑り込んで来たのである。
 あっと言う間に乳房の膨らみをお蝶の右手にあやされる。
「あっ、や、やめなさい……」
 菊は身を捩ってその手から逃れると、お蝶の顔を睨んだ。
 お蝶は何とも色気のある眼差しを菊に向けて呟く。
「だってしばらくお情けをいただいてないんですもの……」
「しりません」
 菊はそう冷たく言い放つとお蝶に背中を向けた。
 お蝶は菊の背中に寄り添うようにして悲しげな声を出す。
「そんな事……。わたくしの事がお嫌いになられたのですか……?」
 菊は意地悪く口をつぐんだ。
「ご返事もいただけないなんて……」
 お蝶は憐れな声を出した。
 人のいい菊は少しそんなお蝶が可愛そうになり、向こう向きのまま頬を緩めた。
「お言葉がいただけないのならば……」
「ならば、どうするのです?」
 お蝶が反省して詫びを入れると思い、菊はそう呟いた。
「ならばお体にお聞きします」
 お蝶の右手がお尻の膨らみの狭間に滑り込んで来た。
「あっ! な、なにを……」
 尻をすぼめてその手を阻もうとしたが、お蝶の右手の指はじんわりと菊の潤みを犯してきた。
 露を指に絡めたお蝶が囁く。
「まあ……、お身体は私をお許しになってらっしゃいますよ」
 上体を反らせた菊の襟をお蝶の左手が肩脱ぎに引いて、こぼれ出たお椀の様な乳房にふくよかな唇が吸い付く。
「あっ! こ、これ!」
 後ろから右足に右足を絡めて開かせると、改めて前に廻ったお蝶の右手が股間に伸びた。
 中指がぬるぬると苦も無く菊の女を犯す。
「あっ、うっ! やめなさい、もう怒りますよ!」
「どうぞ。一度気をお遣りになって、そのあと存分にあたしをお叱り下さい」
 その言葉を聞きながら、菊は真綿を締める様にお蝶の指を締め付けた。
 お蝶は微かに笑みを浮べると、二人の唇を触れ合わす様にして囁く。
「しばらくご無沙汰でしたもの。分かっておりましたよ、菊さまがこうなっていらっしゃることは……」
 湧き出る露を絡めながら、お蝶はゆっくりと潤みの中で指を蠢かせた。
 まだ何か言おうとする菊の唇が、ねっとりとお蝶の唇に塞がれる。
 右手で責め立てながらしなやかな身体を抱き込むと、もうあっけなく菊の両手がお蝶の背中に廻った。
「むんんんん……」
 菊の鼻息が荒くなると、お蝶は腰をずらして自分のものを菊の太腿に押し当てた。
 霜降りの腰がくねって、菊の太腿の肌にお蝶の露が濡れ光る。
 その腰の動きが速まるにつれ、お蝶の右手も筋を立てて菊を追い上げ始める。
「はあっ! ああだめっ、もう果てます……!!」
 菊はそう切羽詰まった声を上げると、お蝶の手の動きに合わせて狂おしく腰を振る。
「ああ菊さま、可愛い! そんなに早く……」
「……くうう~~っ!! あ、だめだめっ! ……あ……くっ! ……!」
 柳腰を捩ったかと思うと、お蝶の指を食い縛ったまま菊の身体が跳ねた。
 しなやかな裸身が筋を立てて、泣きたい様な極みの快感が菊の身体を走り抜ける。
 お蝶は強く菊の身体を抱きしめたまま、狂おしく自分のものを太腿に擦り付ける。
「あくうううっ………」
 強張った身体をひとつに震わせながら、お蝶は全身で菊の極みを感じていた。

 やがて部屋中に響いた吐息も静まり、二人の身体が布団に沈み込んでいく。
 しどけなく身体を離したお蝶が仰向けで口を開いた。
「ごめんなさい、菊さま。じゃあ、あたしを叱って……」
 目をつぶって荒い息を吐いていた菊が呟く。
「もう、あなたって人は……」
 菊は片肘をついて上体を起こそうとする。
 それを感じてお蝶が慌てて口を開いた。
「あ、ちょっと待って。まだ一度だけですもの。今度は菊さまからお情けをくださり、その後にして……」
「なんですって!」
 思わず菊が睨みつけると、何とも色気のある瞳に憂いを含んで、お蝶が下から見つめ返していた。
「うふふ……」
 目が合うとお蝶は悪戯っぽい笑みを漏らす。
「もう本当にあなたって人は……」
 菊の右手がお蝶の合わせを掴んだ。
 そのまま合わせを引き開けると、お蝶の豊かな乳房が弾み出る。
「悪い人!」
 そう言いながら菊の右手がお蝶の乳房を鷲掴みにする。
「ひゃあっ、あははは……、菊さま、嬉しい……!」
 抱き寄せられて肩脱ぎに寝巻を脱がされながら、お蝶はそんな喜びの声を上げた。


 在りし日のお蝶を思い浮かべながら、ふと菊は筆を持つ手を止めた。
 誰か人の声が聞こえたような気がしたからである。
元禄江戸異聞 根来(弐)目次元禄江戸異聞 根来(四)




コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2015/01/15 09:23
    • ですか、菖蒲の花。
       菊に戯れる蝶。
       なかなかの風情ですが、菊の花と蝶々とでは、少々季節が合いませんなあ(菊蝶違いじゃ)。
       お美代ちゃんも相変わらず、ちゃきちゃきの江戸娘やってますなあ。
       あ、もう娘じゃないのか。
      >ああだめっ、もう果てます
       えらくお早いですが菊様。お久しぶりでしたかな。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2015/01/15 19:42
    •  ↓新潟には、菊を食べる習慣があります。
      http://www.pref.niigata.lg.jp/syokuhin/shun10_kakinomoto.html
       わたしは、酢の物があまり好きではないので、ほとんど食べませんが。
       菊は秋、蝶は春の季語です。
       両者をひとつの俳句に詠み込めば、「季違い」ということになります。
       でも、自然界では、出会わないわけではありません。
      http://blog-imgs-79.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201501151704110cf.jpg
      ↑食用菊『かきのもと』に止まる蝶。
       この“季違い”ですが……。
       横溝正史の『獄門島』では、重要な言葉となってます。
       しかしながら、テレビなどでは、当然、この音は使えません。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2015/01/15 22:22
    •  食用菊「かきのもと(人麻呂)」、別名「おもいのほか(美味い)」ですか。
       花びらだけを食べるようですね。酢の物にするのか。
       わたしも若い頃は絶対に食べなかった酢の物。歳とともに食の好みが変化し、今は好物です。
       菊といいますと、こちらでは刺身皿の飾りですね。食べることはまずありません。
       ま、新潟産の食用菊とは、品種も食味も異なるのでしょうが。
       季違い、『獄門島』ねえ。
       季違いvs.キ○○○。
       イントネーションは違うんだけどね。
       森進一『花と蝶』を思い出してしまいました。
      ♪花が女か男が蝶か……

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2015/01/16 07:44
    •  人麻呂は、関係ないようです。
       「生け垣の根本に植えたから」「柿の木の根本に植えたから」「柿の実が色づいてくるころ赤くなるから」など、諸説あるとか。
       菊を食べる食文化は、新潟のほか、東北、北陸の一部に限られるそうです。
       江戸時代に、食用が始まったみたいです。
       ひょっとして、飢饉の副産物?

    • ––––––
      5. ハーレクイン
    • 2015/01/16 09:26
    • は「垣の本」「柿の本」「柿の頃」ですか。
       救荒食に菊の花は贅沢、というかあまり食べでが無いのでは。
       天明の大飢饉に懲りた米沢藩では、『かてもの』という救荒食の手引書を作成して天保飢饉を乗り越えたそうです。この指揮を執ったのが、名君上杉鷹山ですね。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2015/01/16 20:01
    •  救荒食物として作られてたわけじゃ、ないのですよ。
       食べでが無さ過ぎだろ。
       秋……。
       何も収穫できなかった人々は、空腹に耐えかね、咲いている花まで口にした。
       その中で!
       何とか食べられる花があった。
       それが、菊だったのです。
       で、その後、品種改良が重ねられ、平常時の食卓にも上がるようになった。
       空腹の余り、花まで口にした先祖を偲ぶ想いもあったのかも知れません。

    • ––––––
      7. ハーレクイン
    • 2015/01/16 21:19
    • >空腹に耐えかね、咲いている花まで口にした
       何も無いから、しょうことなしに、無いよりまし、で食べたということでしょうか。
       作物としての救荒食の条件は「気象の変化や土質を問わずに生育可能」「雑草や病害虫に強い」「生育・成熟が早い」「簡単に料理が出来る」「主食として必要な量のエネルギーを有する」などだそうです。
       サツマイモは、これらの条件を満たすすぐれた救荒食とされたそうです。
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