2014.10.4(土)
焚き木の前で祈りを捧げる碧の頭が深く下げられた。
黒髪が垂れ下がって、白くほっそりとした顔を覆い隠している。
畳を降ろし終えた亜希子は、そんな碧にそれまでと違う張りつめた雰囲気を感じていた。
碧は茣蓙から立ち上がると亜希子の方を向いた。
鎖の下に佇む亜希子の方へ、ゆっくりと近づいて来る。
亜希子は碧の眼差しに射すくめられた様に、その場から動くことが出来なかった。
「いよいよ奥様があなたを必要としている様です」
「え……?」
亜希子には何のことか分からず、目の前に近づいた碧の顔をじっと見つめた。
「さあ、着ている物を脱いで」
「ど、どうして? 碧ちゃん……」
亜希子は碧の言葉に戸惑いながら、一方ではその言葉に逆らえない自分を感じていた。
濡れた瞳を輝かせながら碧は言った。
「奥様があなたとひとつになりたがっているんです。さあ……」
碧は亜希子の襟に手をかけて、その白衣を肩脱ぎに剥いた。
肌蹴た合わせ目から、30過ぎの熟れた乳房が垣間見える。
「きれいな身体……」
亜希子の耳元で碧はそう囁いた。
背筋を何とも言えない震えが駆け上る。
亜希子はごく一般的な日本女性の体形と言ってよかった。
しかしうっすらと柔らかみを帯びた肉付きと言い、片手に少し余る乳房の膨らみと言い、
まさに花なら満開を迎えた美しさを見せていたのだ。
碧の囁きを聞くと、亜希子は自分で白衣の腰紐を解いた。
碧にならって、白衣の下はもう一糸まとわぬ裸身だった。
碧の口元に16歳とは思えない笑みが浮かぶ。
落ちた腰ひもを拾って、亜希子の右手首を鎖に結わえ付ける。
続けて自分の腰ひもを解くと、碧は亜希子のもう一方の手を別の鎖に引き絞った。
亜希子は広く万歳をする格好のまま、鎖で身を拘束されたのである。
岩室のごつごつした壁の前に、ほの白く優しい日本女性の裸体が浮かび上がった。
「すごく、すごくきれいだわ……」
亜希子を陶然と見つめながら碧は呟いた。
巫女の衣装を脱いだ碧は、亜希子の様な成熟した芳香を纏う前の、まだ甘酸っぱい香りをその身に漂わせている。
亜希子は不安気に目をさ迷わせた。
「み、碧ちゃん、どうしてこんなことを……」
「あなたから余分なものを取り去るためよ」
「余分なもの……?」
「そう……。そうしなければ、あなたは私を自分のものに出来ないわ」
そう言うと、碧は正面から亜希子の身体を抱いた。
亜希子の背中に碧の両手が廻り、頬と頬が重なる。
二人はほとんど同じ背の高さだった。
亜希子のふくよかな乳房に碧の胸の弾力が触れ合う。
亜希子は数回瞬きをして岩室の天井を見上げた。
ざわざわと身体に刺激が走り、鳥肌が立つと共に固くなった乳首が碧の乳房に食い込むのを感じたからである。
「亜希子さん、もう乳首があたしの胸に刺さりそうよ!」
碧は吐き捨てる様にそう言った。
突き飛ばす様に身を離すと、両手で亜希子の胸の膨らみを鷲掴みにする。
「ひいっ!」
「わたしに欲情したのね!」
両乳首を碧の指が捻り上げる。
「きゃっ!!! 痛い!」
「痛い? 私に欲情したくせに、痛いですって!!」
左手で乳首をひねったまま、碧の右手が亜希子の左の乳房に飛んだ。
「ひゃっ、やめてっ!」
肌を叩く音と共に亜希子は叫んだ。
碧は再び亜希子の身体を抱くと耳元に唇を寄せる。
「あなたを真っ白にして、奥様とひとつにしてあげるわ」
亜希子は首を廻してまじかに碧を見つめた。
少女の瞳はもう山里に生まれ育った碧のものではなかった。
碧はゴムバンドを手に取るとその長い黒髪を束ねた。
後頭部やや上に締められた黒髪は、少し上向きに曲線を描いて後方にたなびいた。
何故か亜希子はその姿に山賊を連想した。
碧は荷物袋から茶色の皮のベルトを取り出す。
「碧ちゃん……」
呆然と見つめる亜希子の前で、碧は二つ折りにしたベルトを勢いよく両手で引き絞った。
室の中に皮が叩きあう乾いた音が響く。
「さあ、余計なものは全て捨てるのよ」
碧はゆっくりと亜希子の背後に廻る。
亜希子が不安げな表情を後ろに向けた時、碧の右手が振られた。
「きゃあっ!」
水しぶきが飛びそうな湿った肌の音がした。
重い鎖がじゃらじゃらと音を立てて、亜希子の裸身がわななく。
「やめて、碧ちゃん、きゃあっ…………ひいっ!!」
続けざまに裸身を叩く音がひびき、亜希子の白い背中からお尻の肌に数本の赤い筋が浮きあがった。
「お願い、ゆるして……」
亜希子はほとんど泣き声で口走った。
碧は前に廻ると亜希子の顎を掴んで上向かせる。
とうとう堪えきれずに亜希子の目から一筋二筋涙が流れ落ちた。
しかしそれでも、碧の表情にはうっすらと笑みさえ浮かんだのだ。
「泣いても許してあげないわよ。もうすぐ奥様に会えるのだから」
思わず亜希子は涙目のまま碧を見た。
碧の顔からすっと笑みが引いた。
「あたしは乙女なんかじゃなかった。両親を殺した山賊にさらわれて、散々慰みものになったんだもの。でも奥様はそんなあたしを心からいたわってくださった……」
「み、碧ちゃん……?」
碧の瞳はもう焦点を失っている様に見えた。
「気付いた時には、あたしは奥様を心から慕っていた。もう奥様しか見えなかった」
今話しているのは、もう碧ではないことに亜希子は気付いた。
「でも奥様はあたしに気持ちがあるのに、なかなかそれをお見せにならなかった。立派なご主人もいらっしゃったのだから、無理も無かったのだけれど……」
亜希子は碧の話にじっと耳を傾けた。
「でもあたしはもう我慢できなくなって、ある日とうとう奥様に自分の気持ちを伝えた。でも奥様は、それはあなたの本当の気持ちではないと言ったの。私は頭に血が上って、奥様に詰め寄った」
碧の目が焚き木の炎を映して燃え上がる様に見えた。
「夢中で揉み合ううちに、とうとう奥様は私を激しく求めたの。煩悩のままに求め合いながら、奥様はわたしの事が欲しかったとおっしゃったの」
碧の目から一筋の涙が零れ落ちた。
「そしてあの時、奥様は私を助けて……」
室の中を沈黙が流れた。
「もうすぐ、もうすぐまた、奥様に会えるの……」
我知らず亜希子は口走った。
「お願い碧ちゃん、もっと私を苛めて……」
「ひいいい~~~!!!」
続けざまに肌を叩く音が室の中に響いた。
「どう? 堪らないでしょう? 苛められて、身体が疼くでしょう?」
碧は亜希子を苛む手を休めてそう叫んだ。
もう亜希子の白い裸身は、無残に赤い血筋に覆われていた。
ベルトを下に置くと、誇らしげに茂った亜希子の陰毛を掴む。
「もう溢れるほど濡らしてるんじゃないの?」
そのまま右手の指が茂みに潜り込んでいき、碧は改めて亜希子の顔を見る。
「なによこれ、びしょびしょじゃない……」
碧は指の滑りを亜希子の太腿の肌に擦り付けた。
その時、おもむろに亜希子の顔が上を向いた。
「あなたももう、濡れているでしょう……?」
落ち着いた響きを持った声だった。
「え……?」
「さあ、あなたの唾をちょうだい?」
碧の表情が何故か泣きそうに変化した。
亜希子にすがる様に抱きつくと唇を重ねる。
透き通るような碧の唾液を吸うと、亜希子はまた口を開く。
「さあ紐を解いて、会いたかったわ」
甲斐甲斐しく碧が両手の紐を解くと、二人はその場でしっかりと抱き合った。
やがて碧の細い肩に両手を添えると、亜希子は口を開く。
「まあ、あなた、乙女になったのね」
「ええ……」
「とても可愛いわ」
碧の顔がみるみる赤く染まる。
「どうか、乙女の私を奥様のものにしてください」
亜希子は黙ってその身体を抱きしめた。
そのまま碧の身体を畳の上に誘う。
上向きに横たわった碧の横に亜希子は寄り添った。
優しい笑みを浮べて亜希子は碧の顔を見つめる。
碧が両手を首に廻して亜希子を引き寄せると、二人の唇はもう待ちかねた様に深々と重なり合ったのである。