2013.3.7(木)
奈緒子は赤坂にあるホテルのバスルームでシャワーを浴びていた。
さすが一流と言われるホテルだけあって、バスルームの中も広く洒落た雰囲気である。
そしてそこは奈緒子にとってもう慣れ親しんだ場所でもあった。
シャワーを終えて軽く身体を拭くと、奈緒子は緩くバスローブを纏ってサニタリーを出た。
大きなダブルベッドの上では二重の枕を背にした河野幸枝が、煙草片手に何やら本に目を通している。
奈緒子はタオルで髪の水気を拭きとりながら、幸枝から少し離れてベッドに腰を下ろした。
幸枝は本に目を向けたまま口を開く。
「あの人誰・・・?」
タオルの動きをふと止めると、奈緒子は幸枝に聞き返す。
「え? あの人って?」
「ふうん、とぼけるとこは怪しいわねえ・・。昼間一緒だった人よ。」
「ああ、あの人。誰かと思った。学校のバザーのお客さんよ。」
「可愛い人ね。」
「まあそうね・・。でもそんなんじゃないわよ。幸枝さんったら、すぐそんな事ばかり言うんだから・・・。そんな事ばかり考えてたら、仕事なんか出来はしないわよ。」
「あんたには前科があるからね・・・。」
「またそれ? あれは向こうが全然その気の人だったでしょ? 大事なお客さんだった上に、思いがけず襲われちゃって仕方なかったのよ。」
「どうだか。頭がよくて勘のいいあんたに分からない訳ないでしょ。」
幸枝は本を閉じると奈緒子の方を向いた。
「でもあたしに嘘をついたら許さないわよ。あんたの会社だって困った事になるのは分かってるでしょ? それにあたし以上にあんたを喜ばせられるのは、男も女もいないはずよ。」
奈緒子は黙って髪を拭いた。
確かに幸枝の言う通りだった。幸枝以上に奈緒子に快楽を味あわせてくれた人はいない。
幸枝の経験を積んだ愛技は奈緒子を狂わせた。そして何より、もう数年来の付き合いで幸枝は奈緒子の身体を知り尽くしていた。
幸枝は47歳でテレビ局の部長・プロデューサーをしている。
奈緒子の勤める会社にとってもそのテレビ局は言わば大顧客で、彼女からの呼び出しがあれば、奈緒子がしている仕事を他の社員に廻して出かけても容認していた。
いや容認どころか、幸枝の気に入るように対応する為には、奈緒子がいつ何処でどうしていようが会社はそれを歓迎した。
そして奈緒子は社内でもトップクラスの業績を上げ、同世代の社員に比べて破格の給与を得ていたのである。
幸枝は気に入った女性との恋愛関係に無情の喜びを感じていた。
セックスに関しても、自分の腕の中で相手の女性が弾ける様にエクスタシーに縛られる時、幸枝は痺れる様な快感を覚えるのである。
そしてまだ細かく震える相手を抱きながら、女同士を揉み合せたり、右手で自分自身を責めてめくるめく絶頂を得た。
奈緒子が寝物語に聞いた話では、芸能界でAはビアンだとかBと関係したとか、女優や歌手の名前が出てくる。
売れる前の若いタレントの中には、自分から身体を開いて来る女の子もいるそうだ。
「ふん、あたしはいいわよ。そんな子がよければいつでもどうぞ。」
しかし幸枝は、そう冷たく言い放つ奈緒子が好きだった。
そして奈緒子の美貌や肉体は言うまでも無く、肌の相性の良さとその遠慮のない肉の交わりに比べれば、他の女との遊びは言わばおやつ程度だと思っていた。
「まあいいわ。今日はたっぷりと身体に聞いてあげる・・。」
幸枝は忙しく煙草を揉み消し、奈緒子の後ろから手を廻してバスローブを脱がすと、背中からベッドに引き倒す。
幸枝はそのまま覆いかぶさるようにして奈緒子に唇を重ねた。
若干嫉妬にかられたせいか濃厚なくちづけになった。
奈緒子もバスローブを着たままの幸枝の背中に手を廻して応える。
幸枝は奈緒子の甘い唇の感触に眩暈を覚えながら、
“今日はどうやって泣かせてやろうか。”
そうゾクゾクとした喜びを背筋に走らせた。
唇を擦り付けながら舌を割り込ませ、奈緒子の滑らかな舌と口の中をたっぷりと味わう。
甘酸っぱい唾液の蜜を吸い上げ、時には自分の唾液と合わせて流し込んでやる。
奈緒子も好きなように口の中を愛撫させた後に、幸枝のひと回り大きい舌を真珠の様な白い歯で甘噛み仕返したりする。
そんなところが幸枝は堪らなかった。
それは二人の間で“もっとツバちょうだい”の合図でもあったのだ。
幸枝は奈緒子の口の中からとろける様な唾液を吸上げると、たっぷりと味わった後に、再び奈緒子の口の中に注ぎ込んだ。
滑らかに唇を合わせたまま、奈緒子が小さく喉を鳴らしてそれを飲み下すのが分かった。
飲み干すのを待って、幸枝は堪らず唇を離した。
抱きすくめようとする幸枝の胸元に奈緒子は両手を当てた。
「バスローブぐらい脱いだら?」
奈緒子は涼しげな目元に笑みを漂わせ、幸枝を見上げて言った。
「いいじゃない、このままで。」
「いや、今日は何も着ないで愛されたいの。」
幸枝は下唇を噛むと、ベッドに両膝立ちでバスローブを脱ぎ捨てる。
「パンツもよ。うふふ・・。」
「んもうっ。」
滑稽にも幸枝はベッドの上にひっくり返ると、両足を上げて忙しなくパンティーを脱ぎ去った。
“いいわ、今日は思いっきり獣みたいに泣かせてあげる。”
再び奈緒子を組み敷き唇を奪うと、幸枝は奈緒子を堪らなく愛おしく感じた。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2013/03/07 09:22
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ははあ、奈緒子さんと河野部長は出来てる、と。
そらそうだわな。
まさか部長が優美さんをいきなり襲いにゆく、なんて話にはならんわな。
で、奈緒子さんと河野部長、いや幸枝さんか、との密会場所は赤坂の一流ホテル、と。
そこらの連れ込みやないんや。
さすがハイソだのう。
>あの人誰…?
>あんたには前科があるからね
>あたしにうそをついたら許さないわよ
で幸枝さん、かなり嫉妬深い、と。
>学校のバザーのお客さんよ
>でもそんなんじゃないわよ
とりあえずとぼける奈緒子さん。
幸枝さんは、奈緒子さんの会社云々まで持ち出すし、なかなか微妙な関係ですなあ、奈緒子-幸枝ペア。
しかし……、
>幸枝の経験を積んだ愛技は奈緒子を狂わせた。そして何より、
>もう数年来の付き合いで幸枝は奈緒子の身体を知り尽くしていた
ですからなあ、とりあえず体のかんけーとしてはお互い満足している、と。
いやらしいなあ。
>自分の腕の中で相手の女性が弾ける様にエクスタシーに縛られる時、
>幸枝は痺れる様な快感を覚えるのである
ふむ。
幸枝さんは「バリタチ」かあ。
で、「おやつ」も好物と。
しかし、奈緒子さんには「おやつ」は許さん、と。
うーむ。
で、今回の白眉はキスシーンでしょう。
唾液のやり取り、たまりまへんな。
>八十郎さん
“無情”
レ・ミゼラブルやないんやから。
「無上」でっしゃろ。
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2. Mikiko- 2013/03/07 19:27
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今は無き『赤坂プリンスホテル』でしょうか……。
それとも、『ホテルニューオータニ』?
『ホテルニューオータニ』には、ささやかな思い出があります。
大学に入った年、同じ高校の女友だちと、行ってみたことがあるんです。
もちろん泊まれるわけはなく、展望ラウンジの利用です。
メニューを広げると、ほとんど知らない飲み物ばっかり。
それでも、普段と違うものが飲んでみたかったので……。
微かに聞き覚えがあった、マティーニを注文しました。
銀色のお盆に載って運ばれて来たグラスは、まるで貴婦人のようでしたが……。
一口飲んで、びっくり仰天。
わたしの口元をじっと見てた友人が、興味津々の顔で聞いて来ました。
「どう?」
「変な味」
「どんな?」
「ママレモンみたい」
「ママレモン、飲んだことあるの?」
もちろん、ママレモンなんか飲んだことありませんが……。
そんなふうにしか例えようの無い味でした。
以来、1度も飲んでませんが……。
今なら案外、美味しくいただけるかも知れませんね。
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3. ハーレクイン- 2013/03/07 20:15
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現在、取り壊し中ですね。
なんか、独特の工法を用いているそうです。
【マティーニ】ジンにベルモットを加えたカクテル。
オリーブの実を添えて供する。
ジン:麦類を原料とし、ネズの実で香りをつけた蒸留酒。
ベルモット:各種香草やスパイスを加えた白ワイン。
香りが高くフレーバードワインと称される。
つまり、蒸留酒をワインで割ったカクテルですね。非常に複雑な香りが立ちますので、独特の味わいがあります。
ただし、アルコール度数が高いので、飲み過ぎにごちうい。
【ママレモン】ライオン㈱製造・販売の台所用洗剤。
レモンの香りが特徴。
味は不明。
成分
バランス剤:水
界面活性剤:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム
界面活性剤:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸
安定剤:エチルアルコール
pH調整剤:トリエタノールアミン
安定剤:安息香酸ナトリウム
安定剤:ポリエチレングリコール
乳濁化剤:ポリ酢酸ビニルエマルジョン
他に、各種香料、クエン酸、着色剤
わけわかりませんね。詳しくはあやめさんにお聞きください。
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4. Mikiko- 2013/03/08 07:36
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下から解体していくんですね。
↓はた目には、ビルが縮んでいくように見えます。
http://www.youtube.com/watch?v=9AuDXnkm2_8
この『赤坂プリンスホテル』や『ホテルニューオータニ』があるのは……。
千代田区紀尾井町。
これはかつて……。
紀州徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家、それぞれの中屋敷があったからなんですね。
これだけの大家でも、3つまとめられちゃうんだから……。
主計町の主計くんはスゴいですよね。
なお、紀尾井町の人口は、246人だそうです(2010年2月時点)。
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5. ハーレクイン- 2013/03/08 09:25
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へえーこんなのもUPされてるんや。
ま、テレビでやったくらいだからな
全体をジャッキアップして、下から崩していくんですね。
こんな工法をとったのは、周りが立て込んでいるから、ということらしいです。アメリカなんかだと、火薬を使って一発でボン、なんでしょうけど。
紀尾井町。誰が命名したんだろうね。
寅さんの口上では「四谷赤阪麹町、ちゃらちゃら流れる御茶ノ水、粋な姐ちゃん立小便……」となっちゃいますが。
主計くんはスゴい。
ま、いかに百万石とはいえ、江戸に比べれば田舎だからなあ。