Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
続元禄江戸異聞(三十六)
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「続元禄江戸異聞」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(三十六)


黒麗は木立の中から明るい日差しの降り注ぐ草原へと走り出て来た。
それまで何事も無かったかの様に走っていた身体が、突然大きく揺らめいたかと思うと、ゆっくり円を描きながら草むらの中に倒れ込んだ。
その時にはもう手足さえ動かす事も適わず、黒麗は虚ろな目を青空に向けているばかりになっていた。
「黒麗っ!!」
追いかけて来た赤蛇尼が黒麗を見つけて駆け寄って来る。
「黒麗っ、大丈夫ですか! ちょっと傷を見せなさい!」
胸を押さえた黒麗の手をどけると、赤蛇尼は傷を確かめた。
「・・・・・な、なに、大した事はない。黒麗、気をしっかり持ちなさい。」
何故か赤蛇尼はいたわる様な眼差しで黒麗を見つめた。
黒麗はおぼろげな目を赤蛇尼に向けて答える。
「ふふふ・・・、赤蛇尼、もう気休めはよしとくれ。うぐっ・・、あ、あたしも仲間を見送る時、あんたみたいな目をして見守ったもんだ・・。」
「黒麗・・・。」
赤蛇尼は二の句が継げずに黒麗の顔をじっと見つめた。
「だんだん暗くなってきたね・・。ぐっ・・、もう日が暮れるのかい・・・?」
呼吸が弱まっていく黒麗の顔には、まだ午後の強い日差しが降り注いでいるはずであった。
赤蛇尼はそんな黒麗に向かって追いかける様に言った。
「黒麗、教えておくれ。誰だって一度はあの世とやらに行くのです。怖いですか・・?」
黒麗は血の気の引いた顔に笑みを浮かべると答えた。
「赤蛇尼・・・、あんただって子供の頃を覚えてるだろう・・? 辛い目に会って、一人でまだ行ったことのない川向うへ遊びに行った時の事をさあ・・・。う・・、ぐ・・・、
な~に、それとちっとも変わりゃしないよ・・・。 ぐっ・・・。」
黒麗は苦しげに息を詰まらせると続けた。
「はあっ・・・、あたしはもう、お先に向こうでゆっくりさせてもらうよ・・。はあ、はあ、あたしみたいな生まれ損ないを仲間にしてくれて・・、う、嬉しかったよ・・・。」
「黒麗っしっかりしなさいっ! 黒麗・・・? 黒麗っ!!」
しかしその赤蛇尼の呼びかけに、黒麗の返事はもう返っては来なかった。


お通は藁の中から覗かせた目を大きく見開いた。
先ほど通って来た木立の上に白い狼煙が上がっているのを見つけたからである。
“何かあった!”
そう思ったとたん、木立の中を上って来るいくつかの人影が見えた。
お通は藁に頭を埋めたまま、牛のたずなを握っている老人に叫んだ。
「爺さんっ、この牛はちったあ走れんのかい?」
「ああ、走ろうと思えば少しは走るがの・・。」
「そうかい、じゃあもう遠慮なく走っておくれっ。それからあの岩の向こうを廻ったら、どんどん走り続けておくれっ!」
爺さんが行く手の右先を見やると、豪雨で崩れ落ちて来たのか、大きな岩が木立の中に姿を見せていた。
「ああ、わかったよ。」
爺さんが改めてたずなを操ると、呑気そうだった牛が、徐々にのっしのっしとその足を速め始めた。
「何かあっても、爺さんはあたしたちの事を正直に話してくれたらいい。そしたら大丈夫だからね。」
「はぐっ、んぐっ、な、何かあるのかの? ふぐっ・・。」
大きく揺れだした牛車の上で、爺さんはやっとの事でお通に聞いた。しかしお通はそれには答えず、優しげな口調で爺さんに言った。
「爺様・・・、向こうに着いたら肩でも揉んであげようと思ったが、どうやらそれも出来ないみたいだ。ごめんよ・・・。」
「ふぐっ、なあに、こんな年になって、うぐっ、あんたみたいなべっぴんに血道をあげたら、ば、婆さんに叱られるでの・・。ぐうっ・・。」
「あはは、初めて褒めてくれたね、有難いこった。 ほらっ、もう岩だっ! 向こうを廻ってしっかり走って!!」
牛車は壊れそうな音を響かせながら、大きな岩の向こうを廻って走り過ぎて行った。


水月以下、赤蛇尼、春秋花の四人は、林道を走り行く牛車を目前に捉えていた。
こんな森の中を走る牛車など普通ではない。しかも敵の一人を見つけたすぐ近くの場所である。
しかし森の中で足場も悪く、四人は登って行く牛車に追い付くのに案外と手間取ってしまったのだ。
「はあっ・・・、とっ、止まれっ! はあっ・・。」
ようやく刃物をぎらつかせて牛車を止めた時には、もう最初に見かけた場所から遥か遠くに登り上がった場所であった。
赤蛇尼は注意深く荷台に近づくと、仕込杖を抜いて藁の中へ付き立てた。しかし二度三度と付き入れても、刃物からは何の手応えも伝わって来なかった。
終いには、がさがさと藁に踏み込んだ赤蛇尼が悔しげな声を上げた。
「いない! どこかで抜け出したに違いない。」
さすがに水月も艶やかな唇を噛んだが、周囲に鋭い視線を巡らしながら口を開く。
「身体が消えるはずも無い。牛車を降りて相手は足を失った。手を広げ過ぎずに探せばきっと捉える事が出来るはず。
見つけさえすれば、もう勝負は目に見えています。」
四人は改めて顔を見合すと、各々森の中へと散って行った。


その夜、伊織とお蝶は土山の旅籠で羅紗姫とお通の到着を待っていた。もう真夜中に差し掛かって、静かな山里に通りを歩く人影も途絶えた。
表に目印の傘を下げているにも関わらず、まだ二人の姿は無い。
お蝶は不安げな眼差しを伊織に向けて言った。
「また何かあったのでしょうか・・・? 小さな町で、目印さえあれば居場所は分かるはず・・・。」
伊織は曇った顔を上げてお蝶に答える。
「うん、何事も無ければ、もうとうに着いているはず。何かあって街道筋を辿れないのではないか・・。いずれにせよ、この夜更けではどうする事も出来ぬ。明朝早くから街道脇を探してみよう。」
「はい・・・。」
畳に座した二人を重苦しい静けさが包み込む。
ふとお蝶の脳裏に昼間の敵の嘲笑う声が蘇った。静けさの中にそっと伊織の顔を盗み見る。
お蝶は健気にも一言もそれに触れない伊織が哀れだった。
「あ、あの、伊織様・・・。白蝋の屋敷の中で、辛い目にお会いになったんでしょう・・・?」
「え・・・?」
伊織は驚いた顔を上げたが、再びじっと畳を見つめて唇を噛んだ。端正な横顔に蝋燭の炎の陰影が揺らいでいる。
お蝶は伊織に身を寄せると優しくその肩を抱き寄せた。
伊織の髪に頬を寄せたお蝶の睫毛がふるふると震える。
「あたしったら、こんな時に・・・。ふと、心の何処かで・・・、もうあたしたちだけだったらなんて・・・。 こんな時に、あたしって悪い女? ねえ、悪い女でしょう・・?」
伊織は顔を上げて、お蝶の潤んだ目をじっと見つめた。
「いいえ、私とて・・・、私とて同じ・・・。」
女の思いを浮かべた伊織の顔を見て、お蝶の目から耐えていた涙が零れ落ちた。
「あたしの命はいつも伊織様と一緒・・・。あなたは一途な方だもの、あたしはただ、あなたに付いて行くだけ・・・。」
「お蝶さん・・・。」
その呟きと共に、二人はきつく互いの身体を抱きしめあった。

「はっ、はあっ・・・、伊織様お願いっ、もっと、もっと強く抱いてっ!」
お蝶のふくよかな裸体を、上から伊織の一糸纏わぬ身体が抱きしめていた。
激情に任せて求めあう二人の周りに、脱いだ着物が乱れ落ちている。
もう手など使う必要も無い。身体をきつく抱き合わせて、狂おしく互いの太股が濡れたものを擦り合っている。
唸りを上げて唇を吸い合わせながら、伊織の固い乳房が上からお蝶の豊かな乳房を揉み込む。
お蝶はもう何処が高まりか分からぬほど、何度も続けて身体に愉悦を走らせていた。
全身の皮膚が溶け合い、血が通いあい、泣きたい様な愉悦が交じり合う。
「あはあっ、あはあっ! ああっ! あう~っ!」
割り込んだ伊織の太股を挟んで、お蝶の下肢がぶるぶると震えた。
上から掻き抱いてくる伊織の身体が引き攣って戦慄くのをお蝶は全身で感じる。
「あはっ! お蝶っ! ・・・ああああ~、もう果てるっ! んっくっ、あはああっ!!」
耳元で切羽詰まった伊織の熱い息が弾けた。
お蝶の全身を耐えきれぬ極みが襲う。両手の指が伊織の背中の肉を掴んだ。
伊織の身体の重みが、お蝶の上で強張って痙攣した。
「ああっ! 伊織様っ!! あぐう~~っ!!」
お蝶は必死で伊織の身体にしがみ付くと、身体の芯から突き上げる快感に身を震わせた。
息を詰めたまま抱きしめ合う二人は、ぶるぶると大きく小さく身を弾ませながら、めくるめく女の喜びを極めていた。
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2012/08/23 09:03
    • 白蝋衆vs.チーム羅紗姫、ついに犠牲者が!
      >「あたしみたいな生まれ損ないを仲間にしてくれて・・、う、嬉しかったよ・・」
      黒麗、今わの際の名台詞。
      泣くな、黒麗。君は一人ではない。
      冥福を祈る……。
      以下は、『続元禄』(弐)に書かせていただいたわたしのコメ、“白蝋衆のキャラ予測”の一部です。
      「赤蛇尼」。怪傑“白頭巾”。真っ先にやられそうな見かけ倒し。
      「黒麗」。最後までしぶとく生き延びるタイプ。死んだふりしてなかなか死なない。
      「赤」と「黒」は逆かもしれんなあ。
      ということで、結局「赤」と「黒」は逆、真っ先にやられた白蝋衆は黒麗だったわけですね。
      といっても、赤蛇尼が“最後までしぶとく生き延びる”かどうかはわかりませんが。
      さあ、これで人数は4対4の同数になったが、チーム羅紗姫は非戦闘員を一人抱えてるし、逆に白蝋衆は頭領、美夜叉が控えてるからなあ。
      まだまだ油断はできぬ、チーム羅紗姫。
      という状況がわかってるのか、伊織とお蝶。
      まーたはじめちゃったよ、土山の夜。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2012/08/23 13:18
    •  東海道五十三次の49番目の宿場。
       現在は、滋賀県甲賀市(旧土山町)。
       鈴鹿馬子唄では、「坂は照る照る 鈴鹿は曇る あいの土山雨が降る」と歌われてます。
      http://blog-imgs-53.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201208231300126be.gif
      ↑安藤広重『東海道五十三次之内土山宿春之雨之図』
       馬子唄の“あいの”には、諸説あるようです。
      http://www.ainotutiyama.co.jp/
       ちなみに、甲賀市の読みは、“こうかし”だそうです。
       南は、三重県伊賀市と接してます。
      http://blog-imgs-53.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20120823131644b0a.jpg
       甲賀と伊賀が隣り合わせてるとは、初めて知りました。

    • ––––––
      3. ハーレクイン
    • 2012/08/23 22:43
    • はるばると来つるものかな。
      東海道49番の宿場、土山宿。
      甲賀と伊賀が隣り合わせとは、わたしも知りませんでした。
      たいがい、忍者物だと、甲賀と伊賀は敵同士だもんね。
      しかし……。
      馴染み深い市町村が並ぶなあ、地図。
      宇治市、久御山(くみやま)町、城陽市、精華町。
      知り合いがいるとこだけで、これだけあります。
      土山の雨は、黒麗の涙雨かなあ。
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