Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
続元禄江戸異聞(二十九)
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「続元禄江戸異聞」 作:八十八十郎(はちじゅう はちじゅうろう)


(二十九)


微かな船の揺らぎに身を任せながら、羅紗姫とお通の二人は江戸を旅立ってから二十七日目の夜を迎えようとしていた。
西の空にほんのりと茜色を残して、見上げれば紺色の中にいくつか星のきらめきが見える。
立ち上がって錨を降ろすお通の向こうに、羅紗姫は小さく灯り始めた四日市の町の明かりを眺めていた。
「もう町の灯りがすぐ近くに見えますね・・。」
「ああ、海の上じゃ、ほんにそう感じます。だけどお姫様、歩きゃあ一汗かくほどまだ離れているんですよ。」
お通は姫に優しく答えた。
広い海にぽつんと浮かんだ船の上で、世間のしがらみを離れた女同士、お通は何となく母と娘の様な風情を自分達に感じていた。
お通は船縁に腰を下して、改めて姫の顔を見ながら語りかける。
「お姫様・・、世の中に苦しい事はたんとあるけど、大概は自分を苦しめるのは自分の心って事が多いんでさあ・・・。人間てなあ弱い、醜い、そして綺麗な生き物なんでね。
そんな時の薬の一つは、とにかく信じる事です。あたし達も今は、伊織様とお蝶が帰って来る事を信じましょう・・。
また信じるより他に、あたし達に出来るこたあ、ありゃしません。」
姫は胸に染み入るお通の言葉に小さく頷いた。
「それにね、お姫様・・、生まれつき呪われた人間なんて居やしません。生きてく内に呪われるんでさあ・・・。
お姫様と居ると心が洗われるようだ、沢山殺生してきたあたしなんざ・・・。」
お通は船縁から身を乗り出すと、海の水に手を浸けてぐるぐると掻き回した。
とたんにその手の廻りに青白い光が舞い起こった。
「まあっ、綺麗!いったい何でしょう・・・?」
「あはは、綺麗でしょう? あたしにもよく分からないんだけど、何だか小さい虫の集まりなんですよ。」
羅紗姫は思わず身を乗り出して、お通の手の廻りの輝きをじっと見つめた。


一軒の古い屋敷の前で、籠はゆっくりとその足を止めた。
「ご苦労だったね、じゃあこれを・・・。」
黒麗は駕籠かきに黄金色の物を渡した。
「ええっ! こんなに・・、こりゃどうも・・。」
バッタの様に頭を下げる駕籠かきに黒麗は続ける。
「いいかい、あんたたちは何も見なかったし、知らないんだ。・・・・わかったね。」
「ええ、そりゃもうっ。おい !、おめえ今日何したんだっけ?」
「うんっ? え~と、何だったっけ忘れちまったなあ。ただ・・、これからたらふく酒飲むことだけは分かってんですけどね、えへへ・・。」
「くだらない事言ってないで、さっさと荷物を降ろしなっ。」
黒麗の一喝に、駕籠かきは慌てて縄で縛られ猿轡を噛んだ伊織を担ぎ出す。
眠り薬を嗅がされた伊織の身体は、ぐったりと駕籠かきのの為すがままに揺れ動いた。
「へへ、じゃあ、あっしらはこれで・・。」
門の内側に伊織の身体を横たえると、駕籠かきはあたふたと駕籠を担ぎ上げ、一目散に町の方角へ去って行った。
黒麗は伊織の上体を起こし、そのままそれを肩に担ぎ上げた。
しかし二三歩進んだところで、黒麗はふとその足を止めた。
「・・・? こ、こいつ・・・。」
身体の柔らかさもさる事ながら、その若侍から何か甘酸っぱい体臭が漂って来るのである。
“ああ、いい匂い・・・。”
漠然とした疑問に捉われた黒麗は、門の内側に伊織の身体を降ろしてみる。
締まった縄から襟口を引き出すと、合わせの中に手を差し込んでいった。
手をこじ入れていく黒麗が突然目を見開いたかと思うと、あらためて伊織の顔を見つめ直した。
“やっぱり・・・・。そう思って見ると、ほんとにきれいな顔だ・・。”
担いだだけでは分からなかったが、さらしの下の胸の膨らみが微かに黒麗の手に伝わって来たのである。
ここまではお役目だと思いながら、黒麗は懐から小刀を取り出した。
胸を締め付ける縄を切ると、着物の合わせを引き開け、胸元のさらしに刃を入れていく。
さらしは刃が入るにつれ、弾力に押されて自ら次々と引きちぎれていった。
「ふうう~・・・。」
黒麗は熱い息を吐いた。
雪の様な肌が上品に膨らんで、その先に桃色の慎ましいものが目に飛び込んで来たからである。
開いた胸元に顔を寄せると、閉じ込められていた女の匂いが一斉に黒麗の顔を包み込んだ。
もう堪らず黒麗は、その膨らみに頬を押し付けてしまう。
“こんな綺麗な女と情を交わせたら・・・。んん、もうっ、ちくしょうっ!”
自分のものがみるみる潤うのを感じながら、黒麗は再び伊織を担ぎ上げた。
“もうちょっと早く気付いてたらねえ・・。”
屋敷内で恥戯を始める訳にもゆかず、黒麗はしぶしぶと美夜叉の元へ向かった。


「ああっ!伊織様っ!」
座敷牢の中でお美代は悲痛な叫びを上げた。
通路を挟んだ向かい側の牢に入れられた者は、あろう事か、心から助けと願っていた伊織本人だったのである。
美夜叉はそんなお美代に薄笑いを向けながら口を開く。
「お美代、頼みの伊織に会えてよかったのう・・。しかしこの様子では、助けに参ったのでない事は確かじゃ。生憎であったな・・・。」
「う、うわああ~~・・。」
お美代はもう言葉も無く泣き崩れた。
「お頭・・、それにしても、こやつ女とは驚きました。」
転がった伊織の胸元を開く様にして黒麗は言った。
「うむ・・。」
黒麗の言葉に頷くと美夜叉は言った。
「おなごであれば、よく連れ帰った。腕前からして使い道もある。使えなければ、始末するまでのことじゃ・・。」
それを聞いて再び顔を上げたお美代は、我が目を疑った。
まだ目を閉じて横たわったままの伊織の胸元がはだけて、お椀の様に膨らんだ乳房が垣間見えていたからである。
「い・・、伊織様・・・。」
呆然と呟くお美代に美夜叉が口を開いた。
「どうした・・? 愛しい伊織が女と分かれば、夢も醒めたか?」
美夜叉の言葉を聞きながら、お美代は自分を確かめる様に伊織を見つめた。
しかし胸の膨らみを露わにした女の伊織を見つめても、やはりお美代の胸の高まりは収まらず、そして愛おしく感じられる事に変わりはなかったのである。
「いっ、伊織様っ!!」
お美代は堪らずその名を呼んだ。
美夜叉はそんなお美代の叫びを呆れ顔で聞くと、黒麗に声をかける。
「よし、相手を一人減らす事が出来たの・・。姫を始末する時も近くなって参り、お前も役目に戻らねばならぬが、ここまで大儀であった故半時ほど時間をやろう。
如何いたす・・・?」
「お、お頭っ、有難うございます!」
黒麗は目を輝かせて伊織を見つめる。その様子に、黙って美夜叉は牢を出て行った。

黒麗は刃物を牢から外へ放り出すと、伊織の傍へ近づいていく。
「ちくしょうっ! やめろっ、伊織様にさわるなっ!!」
お美代の罵声に黒麗は笑いながら答える。
「よかったね、あんた。こりゃあ滅多に見れるもんじゃないよ。うふふ、途中から愛しい伊織様にも目を覚ましてもらうから、あんたもようく拝んどきな。」
「ああっ、やめろっ! さわるなっ!!」
お美代の泣く様な叫びもどこ吹く風で、黒麗はいそいそと伊織の着物をはだけ始めた。


美夜叉が音も無く廊下を歩いて来る。
お蝶が庭の植え込みの陰から見守る中を、正面の座敷の中へその姿が消えていった。
“あの黒い女は出て来ないね。今動いても伊織様の身が・・・。もう少し様子を見るしか手はないか・・。”
そう心の中で呟くと、お蝶は用心深くその身体を松の幹にもたせかけた。
さすが白蝋の屋敷である。植え込みの中から池の上に至るまで、そこら中に髪の毛ほどの細く黒い糸が張り巡らされていた。
少しでもその糸を揺るがす者があれば、屋敷の中で小さな鈴でも鳴る仕掛けのようである。
そんな仕掛けに守られた屋敷の中では、伊織の身の安全を確かめた上でなければ、お蝶は迂闊に動き回る事さえ出来ないのだった。


座敷牢の中で、黒麗は蕩ける様な眼差しを伊織の身体に向けていた。
“ああ・・、きれいな身体・・・。”
恐らく持って生まれた美しさであろう、昼間剣を交えた相手が、今は天女の様な裸体を黒麗の前に晒している。
むっと匂い立つ女らしさは無いが、すらりと伸びやかな手足に相まって、片手に馴染むほどな胸の膨らみも、一瞬触れるのを躊躇う様な美しさを伝えて来る。
黒麗は伊織の脇にひざまづくと、そのしなやかな身体を自分の胸に抱き起こした。
しばしその顔を見つめた後、その微かに開いた朱の唇に夢中で自分の唇を重ねる。
「ああっ・・・、お願い・・もうやめて・・。」
黒麗の身体に抱かれて深々と唇を重ねられた伊織が目に入ると、お美代は耐え切れぬが如くに悲しげな声を上げた。
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コメント一覧
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    • ––––––
      1. ハーレクイン
    • 2012/07/05 10:04
    • 白蝋衆の伊織ちゃん嬲り。
      始りはじまりい。
      一番手は「大儀であった、褒美じゃ」、で黒麗。
      しかし、どっちかというと、黒麗の方が伊織ちゃんの魅力にめろめろのような。
      脇で気を揉むお美代ちゃん。
      「伊織様っ、女でもいいわ、お慕い申しております!」
      といっても囚われの身どうし、どもならんなあ。
      大胆にも、敵の本拠の奥深く、様子を伺い身を潜めるお蝶さん。
      さあ、どう出る。
      敵の隙を見出せるか。
      黒麗が伊織ちゃんに溺れている今は、いわゆる一つのチャンスなのだがなあ。
      ま、しかし。
      敵の本拠は当然、忍者屋敷。
      うかつには動けぬわなあ。
      もう一枚、コマが欲しいとこだが、チーム羅紗姫。
      さあ、どう展開する、本格忍者エロ小説『続元禄』。
      待て、次回!

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2012/07/05 20:21
    •  『続元禄江戸異聞』中の白眉と云ってもいいんじゃないでしょうか。
       夢のように美しい場面です。
       カラーになり始めたころの日本映画を見てるよう。
       撮影監督が読んだら、「撮りたい!」と思うんじゃないでしょうか。
       光ってるのは、もちろん夜光虫でしょう。
       『海洋性のプランクトンで、大発生すると夜に光り輝いて見える(Wikipedia)』。
       物理的刺激に反応して光るそうで、石を投げると、↓のごとし。
      http://blog-imgs-53.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/201207050942310e9.jpg
       お通が水を掻き回すと光ったのは、このためですね。
       夜は、幻想的なまでに美しい夜光虫ですが……。
       昼間見ると、真っ赤っかの赤潮だそうです。
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