2012.2.16(木)
「んっ!・・ふむっ!・・はあっ・・やっぱりこんなことっ!・・。」
お美代は尼僧の唇から逃れると、両足を閉じて尼僧に背を向けた。
お美代の身体を優しく撫でていた尼僧の右手が、両足の間に滑り込んで来たからである。
尼僧は慌てる様子も無く、背中からお美代を抱くと囁いた。
「何がいけないのですか・・? 心を空になさい。そして私の身体だけを感じなさい・・。」
再び両脇を抜けて前に回った尼僧の両手が、お美代の肌を確かめる様に撫で上がり、しっとりと両の乳房の下にあてがわれる。
お美代は思わず身体が戦慄き、張りのある乳房と共に、その先の桃色の彩を上下に弾ませた。
背中に尼僧の乳房の柔らかみを感じながら、優しく抱き締めてくる女の肌の温かさを感じる。
男のぎらついた欲望の不安を感じないまま、やがて女の成熟を迎えつつあるお美代は、初めて身体を触れ合うときめきに五感が揺れ動く。
「はっ・・、あっ・・・。」
まだ控えめな胸の先を尼僧の指に擦られて、お美代は短い息を吐いて尼僧の手を掴んだ。
「ほら・・、ここに煩悩を感じますよ・・・。あなたもそうでしょう・・? でも、大丈夫。今夜は全部、出してしまいなさい・・・。」
その指にうぶな乳首が強張り始めるのを感じとると、尼僧は二本の指でそれを挟みながら膨らみを揉み始める。
お美代のうなじに尼僧の熱い息がかかる。
「ああ・・・、和尚人さま・・・。」
「大丈夫、さあ、こちらを向いて・・・。」
お美代が肩口の声の方へ顔を向けると、尼僧の唇が喘ぐお美代の唇を吸い塞いた。
甘い舌が滑り込んできたかと思うと、怯えるお美代の舌に優しく絡んでくる。
「んんっ・・・、んふっ・・・。」
自分の唾が尼僧に吸い出されるのを感じて、お美代は鼻息を荒げた。
“そんな、汚い・・。あたしの唾なんか・・・。”
しかしそんな微かな意識も消し飛ぶ様に、尼僧は徐々に息を荒げながらお美代の唇を貪り続けるのだ。
上になった尼僧の乳房が自分の乳房を柔らかく揉み込んできて、お美代は我知らず尼僧の両肩を掴み、やがてその手は尼僧の背中の肌を彷徨い始めた。
しかし何という事か、尼僧の全身が桜色に染まるにつれて、お美代の手が彷徨う背中の肌にぼんやりと浮かび上がって来るものがあった。
それはまさに、抜ける様な白い肌の中に、朱の色に染まってうねる大蛇の姿であった。
やるせなく喘ぐお美代の裸身の上に、あたかも赤い大蛇が絡み付いている様に見える。
が突然、尼僧がお美代の唇を離し、目を見開いて叫んだ。
「だ、誰だ!。」
その叫びの直後、天井を蹴破る音と共に板張りに舞い降りた者がある。
それは忍びの黒装束に身を包んだ、お蝶の姿であった。
「どうも危なっかしいお嬢だと思って付いて来てよかったねえ・・。まあ、小娘の最初の手習いにゃ手頃かと思って見てたけど、尼さんの割りにゃあ粋な隠し彫りをしてるじゃないか・・・。白蝋の一人かいっ!!」
お美代は急いで身体を丸めると部屋の隅に縮こまった。
赤蛇尼はゆっくり立ち上がって小刀を拾うと、不敵な笑みを浮かべて口を開く。
「ほう、あなたの様な余禄が付いているとは気が付きませんでした・・・。まあ、探す手間が省けたのは礼を言っておきましょう。」
お蝶はお美代に向かって何やら丸めた紙を放ると、真顔に戻って叫んだ。
「さあっ、あんたは早く行きな!。赤蛇女、お前はあたしが相手だ。行くよっ!!」
言うが早いか、お蝶の身体が赤蛇尼の上に舞い上がった。
“ギンッ!!”
ぎらついた音を立てて、お蝶の逆落としの懐刀を赤蛇尼の小刀が受けた。
刃を合わせたまま、次の動きを窺う様に二人の身体が競り合っている。
「何してんだい!。早く逃げなっ!!。」
鋭いお蝶の一喝に、お美代は我に返って着物を掴むと部屋を走り出て行った。
お蝶は受けた小刀を跳ね返すと、同時に左手の中の物を赤蛇尼に投げつける。
身を飛ばして、寸でのところで飛礫を避けた赤蛇尼の身体は、勢い余って障子を衝き破り縁側へと転げ出た。
そのまま雨戸を蹴倒して、全裸のまま表へ走り出て行く。
杉の木に飛び上がった赤蛇尼のすぐ後ろに、お蝶の気配が迫る。
次々と枝を飛び移る赤蛇尼のすぐ後ろで、お蝶の鉄つぶてが枝をへし折る音が迫ってくる。
「くっ、はあはあ・・・。」
赤蛇尼は太い杉の幹の後ろに身を隠し、お蝶の気配を探った。
「待ち伏せかい? それは無駄だよ。あんたどうやら幻術使いだけあって、動きは遅いようだね・・。命まで取るちゃあ言わない、もう観念しな。」
すぐ近くの木の上でお蝶の声がする。
「くっ!」
赤蛇尼はその声から遠い方へ走りだした。
頭上の木の上を追って来るお蝶に反撃しようにも、全裸の赤蛇尼には道具が無かった。
“み、水・・、どこかに水はないか・・・。”
そう心の中で叫びながら逃げ惑う赤蛇尼の目に、暗い森の中に微かに月明かりを映す湧水が目に入った。
急いで水溜りに駆け寄ると、赤蛇尼はその中に両足を浸けた。
「やっと観念したかい・・。」
目の前に立ちはだかって、お蝶は赤蛇尼にそう声をかけた。
しかし赤蛇尼は、その顔に何故か不敵な笑みを浮かべたのである。
「ふふふ・・、残念ながら私はもう、水の中に入ってしまいました。・・ほらっ。」
思わずお蝶が赤蛇尼の指差す水溜りに目を向けた瞬間、するするするっと、赤蛇尼の身体
が水の中に飲み込まれた。
浅い水溜りだと思ったその中で、赤蛇尼は頭だけを水の上に出して笑っている。
「!!、これも幻術・・!?」
我が目を疑いながらそう思ったお蝶の頭上で、何やら何羽か鳥の羽ばたく音がしだした。
「ふふふふ・・・、私を捕えられないどころか、あなたにも客が来たようですねえ・・。
それでは私はこれで・・・。」
そう言うと、赤蛇尼の頭は水溜りの中に忽然と姿を消した。
慌てて水溜りの中に駆け込むと、何のことはない、水はお蝶の足首を浸す程度である。
そうしている間にも、頭上の羽ばたきの音が数を増していた。
身の危険を感じてお蝶が走り出したとたん、何やら黒いものが肩先を襲った。
鋭い爪が肩の肉に食い込む。
「あっ!!」
驚く間も無く、次々と黒い鳥が逃げるお蝶を襲い来る。
月夜にお蝶を襲ったものは、幾十というカラスの群れであった。
頭や肩をカラスに絡まれて身体を揺るがせた時、何処からか次々と投げ縄が飛んで来て、
お蝶は身体の自由を奪われたまま地面に転がった。
幾十羽のカラスが見守る中を、ひとつの影が歩み寄って来る。
「あははは、思いがけず、いい獲物が獲れたじゃないか。」
そう嬉しそうに声を出したのは黒麗であった。
「本当に、いつもあなたの術には感心してしまいます・・。」
その後ろから、全裸のままの赤蛇尼も姿を現す。
「うふふ、そりゃあお互い様だろ。まあ、このカラス達はあたしの家族みたいなもんだからねえ。ときに・・・、あの娘は放っといていいのかい?」
「それは大丈夫。楽しみを邪魔されたのは腹が立ちますけど、用は済んでいます・・。」
忌々しげに転がっているお蝶の顔を見た赤蛇尼であったが、やがてその目に怪しげな光を宿らせながら口を開いた。
「しかしよく見れば、この女、いい女ですねえ・・・。命の遣り取りをした相手だと思うと、余計に心が魅かれます。」
赤蛇尼は微かに口元を綻ばせながらお蝶を見つめる。
お蝶は背筋を走る悪寒に、身を捩じらせながら叫んだ。
「こ、殺せっ!。お前の慰みものなんかになってたまるかっ!」
「おっと・・。」
黒麗は慌ててお蝶に猿轡を噛ますと、軽々とその身を担ぎ上げた。
「そう簡単に死なれちゃ、赤蛇尼が悲しむからね。あんたにえらくご執心なんだってさ。
あの世に行く前に、たんと可愛がってもらいな。あたしは身を引くよ・・・、あっははははは・・。」
からかう様な笑い声と共に、その影は荒れ寺の方に消えていった。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2012/02/16 14:58
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赤蛇尼の名前の由来はそういうことか。
興奮した時だけ浮き上がる刺青「白粉(おしろい)彫り」かなあ。
さあ、蛇に食われちゃうのかお美代ちゃん、というところで間一髪、お蝶さん乱入。
恋敵を助けるとはお蝶さん、なかなかの義侠心じゃねえか。しかも一方的に赤蛇尼を追い詰める体術。なかなかのもんだなあ。
しかし、赤蛇尼も只者ではない。得意技は幻術か!
しかも、カラス使い黒麗が助っ人に。2対1ではたまらん。あっさり捕らえられたお蝶さん。
伊織ちゃんと羅紗姫様は、まあだのんびりしておるのか?
さあ、どうなる!
待て、次回!!
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2. Mikiko- 2012/02/16 19:50
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現在使われてる意味は、下記のとおり。
『腋下・内股など他人には見られにくい場所に、花びらなどで隠れた名前や言葉、淫靡な絵を彫る(Wikipedia)』
でも、本編中で使われてる“隠し彫り”は別の意味ですね。
普段は何も見えないんだけど……。
興奮したり、お酒を飲んだりしたときに限って、浮かびあがって来る刺青のことです。
“白粉(おしろい)彫り”とも云うようです。
小説の中には、よく登場しますが……。
こういう刺青って、実在するんでしょうか?
するとしたら、どういう仕組みなんでしょう?
温度によって発色する色素なんて、あるんでしょうかね?
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3. ハーレクイン- 2012/02/16 20:13
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小説の中だけの話で、実際には“そんなん無理”だそうですね。