2011.11.3(木)
女は伊織の着物の合わせ目から手を滑り込ますと、書状のありかを探った。
「やっ! やめろっ!」
伊織はうろたえたように声を張り上げた。
「ああ・・・、あったあった、・・・・・・・あら・・?」
取り出した書状を懐にしまうと、訝しげに伊織の顔を見て口を開く。
「伊織様、あなたまさか・・・?」
横に逸らした伊織の顔が、みるみる耳まで赤く染まり上がった。
「まさかねえ・・・?」
そう言うと、いきなり女は右手で伊織の顎をわし掴みにした。
「あがっ! あががっ!!」
無理やり伊織の口を開くと、素早く左手を己が懐に差し入れ、何やら小さな革袋を取り出す。
そのままそれを、開いた伊織の口の中へねじ込んだ。
「あがっ! ・・・ごっ! ・・・んごっ!」
たまらなく苦い汁が、伊織の喉の奥へ伝い降りていった。
「さあ、もうようござんしょう・・・。」
女はゆっくりと腰を上げると、寝転がったままの伊織に近づいていく。
伊織の身体に絡まった縄を小刀で切り去ると、袴の腰ひもを緩め始めた。
「なっ、何をする! 無礼なっ! ・・あっ、やめろっ!!」
叫びながら抗おうとした伊織は、己が四肢にほとんど力が入らない事を感じた。
「この薬の効き目はほんの一時ですからね。ふふっ、急がなくっちゃ・・。」
女は委細構わず一枚また一枚と、伊織の着物をはだけていった。
「ふうっ・・、やっぱりねえ・・・。」
横たわる伊織の肩から胸元の肌がぬめるように白く輝き、そのすぐ下から腹にかけて幾重にも固くさらしが巻いてあった。
腰には垂らしを短く切った、似合わない褌を巻いている。
「噂の若侍、美剣士が・・・おんな・・・・。」
女は怪しい輝きを瞳に宿すと、この上もない喜びを見つけたようにほくそ笑んだ。
伊織は堪らず女の視線から顔を背けた。
固く閉じ合わされた長い睫毛がふるふると震えている。
その様子を何とも楽しげに見やると、女は言った。
「伊織様、あたしは何とも今日はついてますよ。まあ何はともあれ、いい男の身体を御開帳と参りますかね。」
そう言うと女はさらしに手をかけて解き始めた。
「無礼者! さわるなっ、やめろ!」
「はいはい、んん・・・もう少しですよ。」
ゆるゆると抵抗する伊織の動きに合わせて、女は器用にさらしを解いていく。
やがてその胸の辺りは、自らさらしを押し出すように膨らみ始めた。
女は溜息交じりに声を出した。
「まあ、きれい・・・。」
はだけられた男の衣装の上に、白くなまめかしい女の身体が現れた。
肩から腰にかけて糸を引くようにくびれていき、男装ゆえ腰のものさえ付けていないお尻に向かって、再び白磁気のように盛り上がっている。
何よりお椀を伏せたような乳房は、女であることを誇るかのように膨らみ、恥ずかしくもうぶな乳首が桜の色を添えていた。
伊織は必死に身体を捩って、女の視線からわが身を隠そうとする。
「もったいない、こんなきれいな身体なのに・・。」
女はその身体から視線を外せないまま呟いた。
「無礼者・・・、もう舌を噛んで死ぬ・・・・。」
伊織は恥辱に消え入りそうな震え声を出した。
「あら、随分しおらしい声になりましたね。もっともそのお姿じゃ、もう男の声はお似合いになりませんわねえ・・・。」
そう言うと女は、白い指を伊織の顎に添えて微笑んだ。
その指を首を振って払いのけると伊織は叫んだ。
「言うな! 私も武家の娘。舌を噛んで死にます!」
最後の意地を見せようと、伊織は目を固く閉じた。
だが女は慌てる様子もなく口を開く。
「どうぞご勝手に。でもそのまま自害なさいますと、どうなりますかねえ・・・。恥ずかしいお姿が世間に晒されて、その上お家は・・・。」
伊織は思わず目を開き、訴えるように女の目を見た。
「そうでござんしょう・・? でしたら、この書状の行き先を教えておくんなさい。」
必死で威厳を保つと、伊織は女を睨みつけながら答える。
「それは死んでも明かす訳にはいかない。」
「死んで恥辱を残し、お家断絶になってもとおっしゃるんですか?」
「・・・・・・。」
伊織は返事をせず、眉を吊り上げて女を睨んだままであった。
「さすがは伊織様、相当の覚悟でいらっしゃいますね。」
女はそう言うと、立ち上がって小屋の入り口まで行き、改めて外の様子を窺うと、戸を閉めてかんぬきを掛けた。
ゆっくりと歩を戻しながら、女は嘗めるように伊織の裸身を見て言った。
「じゃあ、あたしも別の方法を考えなくちゃなりませんねえ。」
「な、何を考えている。」
女は伊織の脇に身をかがめると、思わず背けた伊織の顔に、匂い立つような色気のある笑みを近づけて囁いた。
「くのいちの術は、跳んだ跳ねたばっかしじゃありませんのよ。まあお嬢様、いや、伊織様はまだご存じないでしょうけど。」
女は再び伊織の身体に視線を走らせながら続ける。
「まあ、でも本当にきれいな身体・・・。まだ何のお手付きもなく、初雪のよう・・・。先ほどはお役目を務めながらも、うっとりしてましたけど、これを見たらどんな殿方だって、いえ女のあたしだって震い付きたくなってしまいますわ・・・。」
伊織は何やらおぞましさを感じて、身体を固くすると怯えた目で女の顔を見た。
「わたしの術でお窺いをたてますよ。伊織様には、このやり方がよろしいかと・・・。」
そう言うと女は、伊織のなで肩の白い肌に、細い指を這わせていった。
「はっ、やめなさい! け、汚らわしい!」
思ってもみない女の行いに、伊織は叫びを上げて不自由な体を暴れさせた。
恥ずかしさに身を荒げる伊織の意志に反して、盛り上がったその乳房や下半身は、動きと共にはじけるように弾み、若い女の魅力を見せつけているかのようであった。
「ええ、あたしは汚らわしい女ですよ。でもその元気がいつまで続きますかねえ、こうやって可愛がられると・・・。うふふ・・女の身体って、そんな風にできてますのよ。」
淫らな笑みを口元に漂わせると、女は弾んでいる形の良い乳房に、その手をあてがっていった。
コメント一覧
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1. ハーレクイン- 2011/11/03 09:03
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伊織クンはやはり伊織ちゃんであったか。
HQ、まだまだ修行が足りぬのう。
で、謎の女はくのいち。
「くのいち」なるネーミングの由来、これはあまりにも有名。
書くまでもなかろう。
>くのいちの術は、跳んだ跳ねたばっかしじゃありませんのよ
>女の身体って、そんな風にできてますのよ
あれまあ、伊織ちゃん。
早くもやられちゃうのか。
心配せんでええ、気持ちええぞ。
たっぷり可愛がってもらいな。
話はそのあとじゃ。
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2. Mikiko- 2011/11/03 12:50
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逆に、くのいちは男だったって展開になり……。
もろきゅう合戦に突入するんでしょうね。
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3. 八十八十郎- 2011/11/03 12:52
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伊織は18歳の設定で、江戸時代の女性です。
また、何故か男装で侍の修業をしてきたという事で、
いったいどんな女性だろうかと考えてしまいます。
生理的には殆ど成熟していると思って、
くのいちとの絡みに関する迷いは無かったんですが。(笑)
男装の侍という由縁は続編で明かす事になります。
もっともこの時点では続編を考えていなかったので、
後から付け加えたものです。
ありがとうございました。
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4. 八十八十郎- 2011/11/03 13:00
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“もろきゅう”というのは知らなかった。
面白いなあ。(笑)
BL小説を読んだことが無いので分からないけど、
きっと凄い事になるでしょうね。(笑)
セリフも、男らしい言葉なんだろうか?
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5. Mikiko- 2011/11/03 13:12
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忍者もののBL小説を読んだことがあります。
「近頃は特に美しくなられましたな……女のように」
↑こーゆー世界でしたね。
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6. ハーレクイン- 2011/11/03 14:32
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もろきゅうの画像、「由美美弥768回、東北に行こう!209-1/2」にあります。もちろんMikikoさん提供。
残念ながら“うんこまみれのちんこ”ではなく“味噌まみれのキュウリ”の方ですが。
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7. 八十八十郎- 2011/11/03 17:00
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ありがとうございます、ハーレクインさん。
今見て来ました。
キュウリの端の方を削いであるのが、また何とも。(笑)
凄い沢山の場所があるので、
最初間違えて行ったところには
何と足を広げた茹蛸が。
これがまた何とも不思議な縁でした。(笑)
Mikikoさん。
深く潜行するセリフですねえ。
GLだと
「貴女、素敵よね。」
「カッコいいなあ(死語かな?)、**みたい。」
の様な感じかな?
いやいや、もっと迫った言い回しだなこれは。(笑)
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8. Mikiko- 2011/11/03 20:23
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故中島梓の『小説道場』という本を、古本屋で見つけました。
『JUNE(ジュネ)』というBL系雑誌での連載を、単行本にまとめたものです。
読者からの投稿小説に、中島梓が講評をするという企画でした。
古本屋で見つけたときには、とっくの昔に連載が終わってましたので……。
もちろん、わたしが投稿したことはございません。
この中に、『影人たちの鎮魂歌』という投稿作品があり……。
中島梓が大喜びしてたんですね。
どういう作品かは、↓のブログを御覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/Pulin/20100505/1273045396
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9. ハーレクイン- 2011/11/03 20:58
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中島梓、別名栗本薫。
代表作は何といっても栗本薫名義のヒロイックファンタジー『グイン・サーガ』シリーズ。
出版点数はなんと、正伝130巻、外伝21巻の膨大なもの。
しかも、著者病没の為、ついに未完に終わる……というとんでもない作品だ。ただしHQ、一冊も読んでおらぬ。
ファンタジーは苦手じゃでなあ。
そうか、BLも書いていたのか中島梓。
ま、多芸多能な方だったからのう。
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10. Mikiko- 2011/11/03 22:57
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『ぼくらの時代』くらいしか読んだことありませんが……。
BLを書いたという話は聞きません。
でも、『小説道場』では、ほんとうに楽しそうでしたね。
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11. ハーレクイン- 2011/11/04 00:30
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『真夜中の天使』1979年刊行、は現今のBLの源流の一つだ、という評価があります。その一方で、いや、そういう読み方をしてはいけないという評価もあるようです。
読んでいませんので何とも言えません。
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