2008.8.22(金)
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翌日から美弥子は学校を休んだ。
女教師に浣腸されたあげく、顔面を穢されたことも確かにショックだった。
しかし、それよりもむしろ、失神した女教師の性器を目の当たりにして、自慰の指を抑えられなかった自分への衝撃の方が大きかった。
両親の性行為を目撃し、母親にオナニーを教えられた、あの十歳の夜。
自分たち親子が、ロシアの娼婦の血を引いていることも教えられた。
母親は言った。
「夜、決して鏡を覗いちゃだめよ」
なぜかと問う美弥子に、母親はこう答えた。
「夜、鏡を見るとね、西欧の女の人が映るの。
知らない女の人。
赤い唇が別の生き物みたいに動いてね、白い手で手招きするの。
引きずり込まれるわよ。
美弥子ちゃんも、ロシアの娼婦になってしまうのよ」
美弥子は、夜の鏡を見ることが出来なくなった。
しかしそれ以来、ロシアの娼婦も美弥子に近づく気配を見せなかったのだ。
だが今度のことで、自分の中に流れるロシアの娼婦の血を改めて認識させられた。
浅ましくオナニーに耽った自らの振るまいのせいで、女教師に受けた辱めは、誰にも訴えられることではなくなってしまった。
翌週から美弥子は登校した。
保健室前は、出来るだけ通らないように気を付けた。
しかし保健室は、生徒玄関脇の階段を昇ってすぐのところにあった。
そこは教室棟へと続く通路にあたっており、登下校時に通らないわけにはいかなかった。
その下校時、女教師は保健室の前で美弥子を待っていたのだ。
無視して通り過ぎようとした美弥子の腕を、女教師が捉えた。
女教師は華奢な体形だったので、美弥子が本気で振り解けば逃れることは出来たはずだ。
しかし、やはり相手が教師であるという躊躇いと、他の生徒もいる中で人目を引きたくないという思いから、女教師の指を振り払うことが出来なかった。
腕を取られたまま、美弥子は保健室に引っぱり込まれた。
女教師は丸椅子を指し示し、美弥子を座らせた。
窓からは、初夏を予感させる風が入っていた。
矩形の窓枠には、切り取られた青空だけが見えた。
ときおり下の校庭から、女生徒たちの歓声が聞こえて来た。
まるでその声に吹き揚げられたように、窓枠の中を、今年初めて見る蝶がよぎって行った。
傍らのデスクでは、白いノートのページが、初蝶の羽ばたきを真似ている。
その椅子で、美弥子は恐ろしいものを見せられたのだ。
翌日から美弥子は学校を休んだ。
女教師に浣腸されたあげく、顔面を穢されたことも確かにショックだった。
しかし、それよりもむしろ、失神した女教師の性器を目の当たりにして、自慰の指を抑えられなかった自分への衝撃の方が大きかった。
両親の性行為を目撃し、母親にオナニーを教えられた、あの十歳の夜。
自分たち親子が、ロシアの娼婦の血を引いていることも教えられた。
母親は言った。
「夜、決して鏡を覗いちゃだめよ」
なぜかと問う美弥子に、母親はこう答えた。
「夜、鏡を見るとね、西欧の女の人が映るの。
知らない女の人。
赤い唇が別の生き物みたいに動いてね、白い手で手招きするの。
引きずり込まれるわよ。
美弥子ちゃんも、ロシアの娼婦になってしまうのよ」
美弥子は、夜の鏡を見ることが出来なくなった。
しかしそれ以来、ロシアの娼婦も美弥子に近づく気配を見せなかったのだ。
だが今度のことで、自分の中に流れるロシアの娼婦の血を改めて認識させられた。
浅ましくオナニーに耽った自らの振るまいのせいで、女教師に受けた辱めは、誰にも訴えられることではなくなってしまった。
翌週から美弥子は登校した。
保健室前は、出来るだけ通らないように気を付けた。
しかし保健室は、生徒玄関脇の階段を昇ってすぐのところにあった。
そこは教室棟へと続く通路にあたっており、登下校時に通らないわけにはいかなかった。
その下校時、女教師は保健室の前で美弥子を待っていたのだ。
無視して通り過ぎようとした美弥子の腕を、女教師が捉えた。
女教師は華奢な体形だったので、美弥子が本気で振り解けば逃れることは出来たはずだ。
しかし、やはり相手が教師であるという躊躇いと、他の生徒もいる中で人目を引きたくないという思いから、女教師の指を振り払うことが出来なかった。
腕を取られたまま、美弥子は保健室に引っぱり込まれた。
女教師は丸椅子を指し示し、美弥子を座らせた。
窓からは、初夏を予感させる風が入っていた。
矩形の窓枠には、切り取られた青空だけが見えた。
ときおり下の校庭から、女生徒たちの歓声が聞こえて来た。
まるでその声に吹き揚げられたように、窓枠の中を、今年初めて見る蝶がよぎって行った。
傍らのデスクでは、白いノートのページが、初蝶の羽ばたきを真似ている。
その椅子で、美弥子は恐ろしいものを見せられたのだ。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2008/08/22 07:23
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わたしの使ってるこのFC2ブログは、携帯対応になってます。
携帯から同じURLにアクセスすると、携帯用画面が表示されるわけです(サイドバーにQRコードがありますから、アクセスしてみてください)。
今のところ、携帯からアクセスしてくれてる方はあまり多くないみたいです。
でも、将来的には期待しています。
携帯ユーザの方が、ずっと多いでしょうから。
でも、携帯用画面って言っても、テンプレートが変わるだけなので、本文表示はPC画面と同じです。
そのため「由美美弥」では、携帯から読まれることも多少考慮して、本文を書いています。
たとえば句点で必ず改行したり、会話文の前後や段落ごとに空白行を入れたり、いわゆる「ケータイ小説」に近い書き方もしています。
しかしながら、漢字使いはまったくと言っていいほど考慮していません。
携帯画面では潰れて読めないような字もたくさんあるでしょうね。
携帯は、機種によって見え方もいろいろだと思うんで……。
読みにくくて言語道断、という方おられたらお知らせください(対応できないかと思いますけど……)。
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2. 堕天使ニーチェ- 2008/08/22 13:33
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お久です。
ついに出ましたね、ロシアの娼婦。
展開がめまぐるしいですね。
この小説を早くレズ好きの友達に教えたいですね。
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3. 肉球- 2008/08/23 00:47
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一気に読んでしまいました
トラウマをちゃんと描いてて、面白かったです続きが楽しみです
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4. Mikiko- 2008/08/23 07:38
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待ちかねたぞ武蔵(また古い)、じゃなくて堕天使ニーチェ。
本当に久しぶりじゃのう。
忘れられたのかと思ったぞ……。
ついに出た!
ロシアの娼婦は、鏡の中に現れる……。
でも、この方向に深入りするとオカルトレズビアンになってしまうので、ここは筆の抑えどころ。
「由美美弥」は、今後も展開が目まぐるしいぞ。
なにしろ、筋を考えてから書いているわけじゃないからの。
筋は書きながらでっちあげていくので、自分でも今後どこへ突っ走っていくのか判らん。
早く、レズ好きの友達を連れてまいれ。
Mikikoは、コメントが少なくて悲しんでおる。
ここに来てるのは、堕天使ニーチェ以外、みんな男なんじゃないかと疑っておる。
できれば、ブラバンのハーフの副部長を連れてきてくれ。
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5. Mikiko- 2008/08/23 07:52
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一気に読んでもらえて嬉しいです。
わたしの文章は読みづらいんじゃないかと不安だったので、こういう感想は本当に嬉しい。
「由美美弥」は、トラウマの嵐です。
登場人物のすべてがトラウマを抱え、そして突然蘇るトラウマに犯される、そんな物語になっていきます(肉球さんのコメントを読んで、今そう思いつきました)。
もっともっと面白くしていくつもりですので、続きを楽しみにしてください。
たまには最初から読み返してみると、新しい発見がきっとありますよ(わたしは、既に投稿した部分をちょくちょくいじってますんで)。