2008.5.21(水)
前の扉から入ってきた彼女は、クラス全員の視線を浴びながら、クラス全員の予想を裏切って教卓前を素通りした。
そして、由美の前方の席に座ったのだ。
こんな女性が同級生とは信じられなかった。
そう思ったのは、やはり由美だけでは無かったようだ。
それまで傍若無人に喋っていた、付属高からのエスカレーター組が、すっかり黙り込んでいた。
後ろから、ひそひそ声が聞こえて来た。
「帰国子女?」
「なんでよ。
帰国子女なら普通の日本人でしょ」
「じゃ、なに?」
「留学生とか?」
「留学生が、一年に編入される?」
「知らないわよ」
オリエンテーションでの自己紹介で、その人が留学生では無いことが判った。
彼女は、大室美弥子と名乗ったのだ。
イントネーションも、完全に日本人だった。
しかし、判ったのはそれだけだった。
彼女は、自分の名前しか言わなかったのだ。
『おおむろ、みやこ、さん……』
由美は、その名を心に刻んだ。
その後に行われたクラスコンパにも、美弥子は参加しなかった。
学内で、誰かと話している彼女を見ることは無かった。
一人で登校し、一人で帰っているようだった。
サークルにも所属してないらしい。
二ヶ月前、入学直後のキャンパスでは、サークルによる新入生の勧誘が盛んに行われていた。
由美などは、しばしば複数のサークルに取り囲まれて揉みくちゃにされた。
これで幾度、美弥子の後ろ姿を見失ったことか。
由美は、何とか美弥子と話が出来ないものかと、彼女の跡を度々付けて行ったのだ。
前を行く美弥子は、どのサークルからも声をかけられることなく、人波の中をすり抜けて行ってしまう。
とても新入生には見えないのだから、当然だろう。
由美は全く逆だった。
新入生にしか見えないらしい由美は、ことごとく勧誘員に掴まってしまうのだ。
そして、由美の前方の席に座ったのだ。
こんな女性が同級生とは信じられなかった。
そう思ったのは、やはり由美だけでは無かったようだ。
それまで傍若無人に喋っていた、付属高からのエスカレーター組が、すっかり黙り込んでいた。
後ろから、ひそひそ声が聞こえて来た。
「帰国子女?」
「なんでよ。
帰国子女なら普通の日本人でしょ」
「じゃ、なに?」
「留学生とか?」
「留学生が、一年に編入される?」
「知らないわよ」
オリエンテーションでの自己紹介で、その人が留学生では無いことが判った。
彼女は、大室美弥子と名乗ったのだ。
イントネーションも、完全に日本人だった。
しかし、判ったのはそれだけだった。
彼女は、自分の名前しか言わなかったのだ。
『おおむろ、みやこ、さん……』
由美は、その名を心に刻んだ。
その後に行われたクラスコンパにも、美弥子は参加しなかった。
学内で、誰かと話している彼女を見ることは無かった。
一人で登校し、一人で帰っているようだった。
サークルにも所属してないらしい。
二ヶ月前、入学直後のキャンパスでは、サークルによる新入生の勧誘が盛んに行われていた。
由美などは、しばしば複数のサークルに取り囲まれて揉みくちゃにされた。
これで幾度、美弥子の後ろ姿を見失ったことか。
由美は、何とか美弥子と話が出来ないものかと、彼女の跡を度々付けて行ったのだ。
前を行く美弥子は、どのサークルからも声をかけられることなく、人波の中をすり抜けて行ってしまう。
とても新入生には見えないのだから、当然だろう。
由美は全く逆だった。
新入生にしか見えないらしい由美は、ことごとく勧誘員に掴まってしまうのだ。