2017.4.27(木)
「う……」
喉の奥に息を詰めて伊織は繊月の眉を寄せた。
その焦点の定まらぬ瞳に、ぼんやりと行燈の灯りが映っている。
一糸まとわず横向きに寝た伊織の背中を、やはり全裸のお竜が抱き締めていた。
「うふふふ……、あたしが言うのもなんだけど、女の身体ってなあ正直だねえ……」
脇から前に廻ったお竜の右手が股間でゆるゆると動き、畳と身体の隙間から左手が胸元に滑り上がった。
背後から頬を重ねる様にして、お竜の瞳が伊織の表情を窺う。
「いくら義理立てしたって濡れるものは濡れる。固くなるもなあ、ほうらこんなに……」
「く……」
意に反して弾き立った乳首を易々とお竜の指につままれて、伊織は悔し気に唇を噛んだ。
思ったより優しく股間を愛しんでくる来るお竜の指先が、すでに滲み出てしまった熱い露で伊織の女を愛しんでいる。
これから熱い露を溢れさせながらその指に蹂躙されるかと思うと、伊織は湧き上がる不安で身を固くした。
いやしかし、それはただの不安なのだろうか。
そんな疑念に伊織が目を閉じた時、
「んん……」
固くなった乳首ごと乳房を揉みあげられて、湧き上がる切ない疼きに伊織は身体に震えを走らせた。
「ふふふ奥様、もう十分仕込んだから気持ちいいでしょう? ほら………」
お竜の指先が浅く伊織に割り込んで動き始めた。
「う……!」
悲しい快感が女のものから湧き上がってくる。
「何もかも忘れてあたしにまかせて。ねえ、気持ちようござんしょう……?」
お竜はそんなことを耳元で囁きながら、身を捩る様な刺激を伊織に伝えて来る。
「う……く……」
とうとう熱い露が外に流れ出て、ゆっくりと太ももを伝い降りるのを感じた。
「あらまあ……」
お竜は右手でその露を太ももから掬って左手の指に擦り付ける。
「こんな沢山濡らしちまって、奥様このところご無沙汰だっったんですか?」
「そ、そんな…………あ……!」
露を光らせたお竜の左手の指が乳首に戯れて、思わず伊織は短い声を上げた。
「ほうらもう、たまらでないでしょう……?」
耳元で熱っぽく囁きながら、お竜は伊織が我を忘れるような行為を続ける。
「あ……もう、……やめて…」
「やめて……?」
「ああ……いや……」
「いや? どうしていやなんですか……? ふふ、こんなに濡らしちまって、いやじゃあないんでしょう……?」
そんな言葉で伊織を苛みながら、お竜はその右手の動きを速めていく。
「あ……、こ、これ!」
官能の糸を弾かれて、つい伊織も狼狽のつぶやきを漏らす。
「ほらほら、ここをこうすると……ねえ奥様、いいでしょう……?」
あらためて深く股間に割り込んだお竜の右手が、脈を打って震える。
「あ……ああ! やめて!」
思いがけず体が高まり始めたのか、伊織は上ずった声を上げた。
慌ててお竜の右手を掴んだ伊織の身体が、何かに耐える様にねじれる。
「うっくっ……!!」
お竜の右手を股間に挟んだまま、伊織の裸身が魚の様に弾んだ。
うなじの脇からお竜の目がじっと伊織の横顔を見つめる。
お竜に抱かれたまま強張らせた身体から、やがてゆっくりと力が抜けて行った。
「ふう……、はああ……」
荒い息を吐きながら、薄っすらと閉じ合わせた伊織のまつげが細かく震えている。
しかしそんな仕草にも、お竜は真顔のまま上体を起こした。
「奥様、なんでこんなことを?」
「え……?」
目を開けて声の方を向くと、両脇に手をついたお竜の眼差しが真上から伊織に注がれていた。
「菊様……、あたしの目は節穴じゃありませんよ」
肩を掴んで身体を上向きにすると、鋭い輝きを宿した目が伊織の顔三尺の近くに迫る。
お竜の乳房が上から競り合って、伊織はその程よい柔らかさと重さを自分の乳房に感じた。
「本当に気を遣ったかどうか、あたしが分からないとでもお思いですか? さあ、どうしてこんな芝居であたしをだまそうとしたんです?」
伊織は微かに瞳を揺らした後、お竜からその眼差しを逸らした。
「そ、それは………」
じっと見つめているお竜の視線を痛いほど感じながら、その表情を悲し気に歪める。
「私は自分の身体が、こ、このようになってしまうなど初めて……。お家のためとは申せ、旦那様に不実を働くばかりか、まさか自分がこのように……。このまま我を忘れては旦那様に、も、申し訳が……うう……」
伊織はそう言葉を繋ぎながら、本当に目頭が熱くなるのを覚えた。
脳裏にうっすらとお蝶の顔後浮かぶ。
お竜の返事はなく、しばしの沈黙が流れた。
唇を噛んでおずおずとお竜に目を向けた途端、目の端から一滴の涙が零れ落ちた。
涙で歪んだ視野の中で、お竜の険しい表情がゆっくりと緩んでいく。
「ふふ菊様、ご心痛はようく分かりました……」
上からお竜が身を任せて来て、もう遠慮なく互いの乳房の柔らかみが押しひしぎ合う。
頬が触れ合い、お竜の熱い息がうなじに触れる。
「でもそんな小細工で健気に旦那様に操を立てようたって、あたしにゃあ無駄ですよ」
何とか言い訳が通ったことに、伊織は密かに大きな息を吐いた。
「それに何といっても菊様、お家のため。うふふ、同じ気を遣るにしても、謝りながら極楽に行きゃいいんでさね……よいしょっと……」
そう言って身を起こすと、お竜は一変して淫靡な笑みを浮かべて伊織の顔を見た。
「明日は早くから大事を控えてるんで今夜は早めにお開きにしますけど、先ずは一度落として差し上げますよ。あたしの楽しみは明日の晩ってことで……」
「あ、何を!」
下半身に身を降ろしたお竜に両足を大きく広げられて、思わず伊織は声を上げた。
「さあ、旦那様に申し訳が立たないんなら我慢してごらんなさい。でも今度はお遊び無しで参りますよ」
「あ、あ、やめ……!」
赤子がおしめを替える様な格好で太腿を抱え込んだかと思うと、お竜の顔が伊織の股間に潜り込んだ。
「ああっ!!」
自分の陰毛をお竜の鼻がかき分けたかと思うと、敏感な強ばりが口の中に吸い含まれるのを感じた。
熱い舌がうねうねと熱い潤みに遊び始めて、伊織は裏返った女の声とともにその光景から固く目を閉じた。
まるで餌を咥えた動物が首を振るように、敏感なものを吸い含んだままお竜の顔が左右に揺れる。
快感に疼くものを根元から揺さぶられ、暖かい舌で舐め上げられて、泣きたいような刺激が背筋を這い上がり始めた。
勿論こんな女同士の戯れも初めてのことではない。
もう女同士の身体の悦楽を十分知っている伊織ではあったが、このようにはしたなく両足を広げるのはお蝶の前のことだった。
無意識のうちに白蝋の黒麗に極めさせられたとは言え、これまで気を遣った相手もお蝶以外にはいなかったのである。
“許して、お蝶さん……”
悲し気に眉を寄せながら、伊織は心の中でそう呟いた。
お竜の愛撫にさらされた身体は、もう伊織本人の意思を裏切りつつあった。
「う……!」
悔しくも尻の穴に垂れる熱い露を時折お竜の舌に掬い取られる度に、伊織は短い息を吐いて身を震わせた。
音を立てて伊織の突起を吸い離したお竜が、口元を淫らに輝かせながら伊織の顔を見やった。
「うっふふふ、さあそろそろ引導を渡してあげましょうかね……。旦那様の代わりにあたしの指で……」
再びお竜の口がやんわりと伊織の敏感な突起を覆った。
「あうう!!」
少し物足りない程度に吸い含まれ、器用な舌が突起の皮を揺るがし始める。
身を捩る様なもどかしい快感が身を走った時、太ももを離したお竜の右手が顎の下から伊織の股間に潜り込んでゆく。
「あ! ……ぐうう!!」
上向きの中指と薬指がぬるぬると伊織の中に滑り込んで来た。
上から敏感なものを吸われながら、軽く曲げられた二本の指がその裏側で蠢く。
「う………あ……!」
思わず両足の指を開いて伊織の身体が反りかえった。
小鳥が餌をついばむようにお竜の唇が小刻みに伊織の突起を吸い付けると、触られてもいない乳首がみるみる弾き立って、引き締まった腰が浅ましく捩れた。
「ああ……く……、やめ……て……」
思わず伊織がお竜の髪を両手で掴むと、もう緩んだ髷から櫛が落ちて首筋に黒髪が揺れ落ちた。
しかし首を振って長い髪を片側に跳ねると、お竜は相変わらず伊織に吸い付いたまま気が狂いそうになる手の動きを続けるのである。
「はあ……はああっ………」
やがて焼けつくような息を吐いて伊織の身体が強ばり始めた時、お竜は強張りを吸い離して紅潮した顔を上げた。
「ほら、もうだめだろ? はあ……、さあ旦那様に謝ってから行くんだよ! さあ、ほら!」
再び伊織のものに吸い付くと、お竜お指がさらに狂おしく伊織を追い立てていく。
「あ、いや! ……あ……あああ!」
赤子の指のような伊織の弾力を舌で弾きながら、お竜の二本の指が熱い露を掻き出しながら蜜壺を抉り続ける。
「あ………だめ……」
背筋に力を込めると、伊織の身体が弓なりに反り上がる。
なおも執拗に股間を吸われながら、とうとう伊織はその腰を浅ましく振り立てた。
「あくう………………、許して!!!!」
心ならずも激しく極みの快感に縛られながら、伊織はお竜の両肩を掴んだ。
二度三度と押し寄せる快感に唇を噛んだまま、固く閉じた瞼の端から悔し涙が畳へと伝い落ちて行った。
まだ世の明けきらぬ薄暗がりの中、門口脇の提灯に火が灯された。
物々しく廊下を踏み鳴らして数人の若い衆が表へ飛び出していく。
腰を低くした男たちが見守る中、両手で暖簾を跳ねたお竜が姿をあらわした。
「代貸し。沙月女たちはもう出たんだね?」
「へい」
入り口の暖簾を背にした代貸しが頷く。
お竜は鋭い眼差しを周囲の男たちに巡らせた。
「よし、行こうか」
二人の提灯持ちが先導して、懐手のまま歩き始めたお竜の後に数人の若衆が続く。
やがて頭を下げて見送った代貸しが暖簾の中に消えると、筋向いの屋根の谷間で微かに黒いものが動いた。
“こんなに早くから動くところを見ると、やはり港に何かあるに違いない。ここは桔梗様も呼んで、二手に分かれて見張る方がよさそうだ……”
黒装束で屋根の谷に身を潜めた蔓は、胸の内でそうつぶやいた。
“いったん戻って、ここは桔梗様に代わってもらおう……”
尻からずり上がる様に動き始めた蔓は、顔を傾げてふとその動きを止めた。
蔓の視線の先でちらりと動いた気配が、物陰に身を潜めた旅芸人へとその形を変えていく。
“あの女、我らの仲間うちではなさそうだが……。お竜一家を見張っているところを見ると……ひょっとして……”
一瞬そう逡巡した蔓であったが、再び動き始めたその黒い影は、屋根の棟を越えて未明の闇へと消えた。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2017/04/27 07:51
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繊月の眉
繊月は、細い月のことだそうです。
すなわち、三日月ですね。
読み方は、“せんげつ”。
俳句では、秋の季語。
ちなみに「三日月」という呼び名は、陰暦3日の夜の月だからだそうです。
熊本県人吉市に、『繊月酒造』という造り酒屋があります。
といっても、日本酒ではなく、球磨焼酎の蔵元です。
人吉城の別名が、繊月城であることから名付けられた店名だそうです。
球磨焼酎は、熊本県球磨郡または人吉市の地下水で造られた、米100%の米焼酎のこと。
ゆうべは、米、麦、芋と、3種類の焼酎を飲みました。
こう書くと、大酒を飲んだみたいですが……。
グラスが小さく、氷がたくさん入ってて、あっという間に空になるんです。
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2. 月見ればハーレクイン- 2017/04/27 08:41
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繊月
不覚にも知りませんでした。
負け惜しみじゃないですけど、これと同様(ただし下弦)の細い月に二十六夜の月があります。有明の月とも称します新月直前の月ですね。
こちらは夜明け前に東の空に昇り始め、日が高くなる頃には見づらくなります。この月をよく見る方は、まだ明け遣らぬ早朝に出勤するか、帰宅する方々だけでしょうね。
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3. Mikiko- 2017/04/27 19:46
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月
3月までは、会社の帰り道が真っ暗でした。
柳都大橋の上から、月がよく見えるんです。
満月のときは、実に見事です。
今はもう、帰りが明るくなってしまいましたので……。
月を見ることもなくなりました。
明かりの乏しかった昔は……。
月は、今よりもっと親しい存在だったのでしょうね。
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4. ちぢにものこそHQ- 2017/04/27 21:41
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↑悲しけれ
>月は、今よりもっと親しい……
なんせ太陰暦でしたからねえ。
三日月は、月の3日に出るから三日月。
十五夜は15日の夜、月は満月に決まってました。
今は月明かりより、街のネオンの方が明るくなっちゃいましたが……。
日向子姐さんの『百物語』にこんな話があります。
小僧一人を供に他出した主人。出先で振る舞われ、思いがけず遅くなり戻りは夜半。
時ならぬ雪景色、澄んだ天に十五夜の月。↓主人と小僧の会話です。
小僧「旦那様、コウ明々と……。提灯は如何に」
主人「ソウだな。いらんな」
面白い様に明るい夜道を、冴え冴えと酔い醒めて急いだ。
で、見かけるわけです。何をって、丑の刻参りです。その様は……。
黒髪を巻き付けた草履を樹に打ち付ける女。
「カツーン カツーン……」
月と雪に映り、額の産毛まで見て取れた。
主人。小僧を小脇、後も見ずに一目散……。
事の顛末は、月明かりとは無関係。其の九十八『赤い実の話』です。
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5. Mikiko- 2017/04/28 07:26
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丑の刻参り
なんで怖いんでしょうね。
やってるのは人間です。
でも、この主人は偉いです。
自分一人で逃げずに、小僧さんを抱えて逃げたんですから。
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6. 丑年生まれHQ- 2017/04/28 12:44
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怖いぞ、丑
やってる最中(エッチじゃなく、丑)を見られたら、掛けた呪いは自分に降りかかります。
この話を聞かされた、主人と懇意のご隠居は、
「調伏前を人に見られたら、呪詛は己に返ると聞くがの」
受けて主人、
「イヤサそりょ。それを思うと恐ろしい」
何が恐ろしいかと云いますと、呪詛が己に返るのを阻止するには、見た相手を殺す。これしかないからなんですね。
実はこの後日譚。主人は丑女とばったり出会います。でなんと、女は主人を見覚えていた! けど、かの主人。殺されもせず、そのあと湯豆腐なんぞを食べてました。
へい、ご退屈様。
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7. Mikiko- 2017/04/28 19:39
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さっぱりわからん落ちです
湯豆腐は好物です。
昆布とネギと豆腐で十分ですが……。
鱈などあれば最高。
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8. 落ちルンですHQ- 2017/04/28 23:01
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>わからん落ち
まあ強いて言えば、かの丑女。人では無かったのかも、というのが、オチと云えばオチなんです。
丑女とばったり出くわした主人の独白。
「あの夜は敵が振り返る寸前に逃散したから、こっちの面は分らぬ筈。なのにぴたり青眼に見据えている」
背中につららの汗が幾筋も流れた、と地の文が続きます。
で、ここからがこの話のキモ。さらに地の文と主人の独白です。
ふっと喉元の赤い斑点に気付いた。
「何だろう。」(コマには丑女の喉元の絵)
「あっ。」
後ろの柱に赤い実の小枝(南天?;HQ)が飾ってあり、首の斑点と思ったのはそれだった。
「透き通るような肌とは女へのほめ言葉だが、本当に透けるのは初めて見た。」(そらそやろ;HQ)
で、聞き手のご隠居のセリフです。
「ハテ。茶屋で働くほどならば、(丑女は茶屋娘という設定;HQ)この世のものなんだろうが。」
で、湯豆腐の絵が最後のコマでした。
が、絵なしではこの話の味わいがわかりません(特に、透ける女の喉元;HQ)。
ぜひ読みましょー、日向子版『百物語』。
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9. Mikiko- 2017/04/29 07:40
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湯豆腐を一緒に食べたのは……
ご隠居だったんですか?
丑女だと思った。
喉を豆腐が下りていくのが見えたら、面白いですね。
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10. 豆腐(こっち)のHQ- 2017/04/29 09:10
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↑柔肌に相伴したい
丑女よりも、というご隠居ラストのセリフです
この、シケベ
主人と隠居の茶飲み話
の話題が丑女だったわけです。
で、ご隠居の「この世のものなんだろうが」の慨嘆の後、湯豆腐パーティが始まるわけですね。
>喉を豆腐が……
それじゃB級ホラーだよ。