Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
センセイのリュック/幕間 アイリスの匣 #185
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戯曲『センセイのリュック』作:ハーレクイン



幕間(小説形式)アイリスの匣#185



「その斎王はんの別れの挨拶受けて、天皇はんはこない返さはるのが慣例やったそうです」

 秀男は、一息ついた。
 道代も志摩子も声を出さない。
 秀男もそのまましばらく押し黙った。
 焦れた、というより、三人の間に漂う緊張感に耐え兼ねたように、俯いたままの道代が声を押し出した。低い、小さな、地に掛けるような声だった。

「秀はん……あの、何と……」

 秀男は、自分の目の前の、居もしない誰かに宣言するように、ようやく言葉を継いだ。

「都のかたに……おもむきたまふな」
「都の……」

 道代が冒頭の一語だけをなぞった。その声は、先ほどよりも更に低く小さく、掠れるようであった。
 志摩子が後を引き取る。

「かたに……」

 二人ともそのあとが続かない。
 道代は、上体は俯けたまま、首を左に軽く捩じった。目の隅に秀男を捉える。
 志摩子は。こちらは顔だけでなく、上体を左に捩り、俯いたままの道代の頭越しに秀男を見た。
 二人とも口には出さないが、今の言葉の説明を求めているのは明らかだった。
 秀男は、軽く咳払いをした後、言葉を継いだ。

「『都』はむろん、この京の都ですなあ。『かた』は……ほう。方角、方向のほう(方)です。『おもむき』は……ああ、いや。『おもむく(赴く)』ですけんど……どこそこへ向かって行く、でしょうかのう」

 志摩子は、秀男の言葉を頭の中で転がしていたのだろうか、少しの間を置いた後に、一語一語区切りながら、確認するように秀男に語り掛けた。

「ほなら秀はん。都の、方に……向かって行く、ゆ(云)うことやろか」

 秀男は、今度は即座に答えた。

「そういうことですなあ、姐さん。ただし、最後が『たまふな』になっとります。これはまあ、平たく言や(言えば)、したあかん(してはならない)てなことです。結局……」

 秀男は再び一息ついた後、一気に説明を締めくくった。

「都の方に向かって来てはならぬ。きつい言い方しますと、『都に戻ること、禁ずる』『戻ってきては、相(あい)ならん』、ゆ(云)うことになりますかのう」

 道代は首を戻した。再び深く俯く。その目は……固く閉じていた。
 志摩子の声は高くなった。その大きな声には、まるで秀男を糾弾するような色合いがあった。いや、それは悲鳴と云ってもよかった。

「ほんな秀はん! なんぼなんでも、そないな……わが娘を追い出すような……」

 志摩子のその反応を予想していたのか、秀男は更に言葉を継いだ。志摩子を宥める様にも聞こえる口調だった。

「やらこう(柔らかく)言い変えますと……いったん都を離れ伊勢に向こうたら、決して振り返るな。まっすぐ前を向いて、前だけを向いて行け。ほして、自分の役目をしっかり果たせ……。そんな天皇さんのお気持ちが言わせた、そんな言葉やなかったんやないですやろかのう」

 秀男は言葉を切った。
 道代は無論、無言である。
 志摩子は、それ以上の言葉は考え付かないという風に、姿勢を戻した。
 京の嵯峨野、野宮(ののみや)神社の境内に沈黙が下りた。道代も志摩子も、秀男も言葉は出ない。拝殿前の石段に腰を下ろす三人には、互いに隣り合う相手の呼吸の音まで聞こえるように思えた。その沈黙を破るものは、風すらなかった。空を覆う葉叢の音も全く聞こえない。鳥の声一つすら聞こえてはこなかった。

 どれほど経ったろうか。重苦しい沈黙を破ったのは志摩子だった。自らの気を引き立てるような声音で話題を変えた。

「なあ、秀はん」
「なんですやろ」
「斎王はんは、天皇さんの代理で伊勢にお仕えしやはるんやったなあ」
「そうですなあ」
「ほれは、必ず必要なお方やったん? いや仮に、今度の天皇さんの場合は、斎王はん無しで堪忍してもらう、ゆうわけには……」
「そらあきまへん、姐さん。話の順序がおますさかい後回しになりますけんど、斎王はん無し、ゆう天皇さんは一人として居やはりませなんだ。そんだけ大事な役目やった、ゆうことですなあ、斎王はんは」
「ほな、ほならやで、秀はん。もし天皇さんにいとはん(お嬢さん;娘さん)がお生まれにならはれへんかったら、どないしはるん。どないしようもないやおへんか」
「ああ、それは……。その時は、直(ちょく)の娘はんでのうても、近いお身内の方でよろしかったんです。姪御はんとか、お孫はんとかですなあ」
「ふうん。ほんまに、なにが何でも、の斎王はんやねんねえ」

 秀男と志摩子は互いに上体を捩って向き合い、俯き続ける道代の頭越しに会話を続けた。

「逆にですなあ、姐さん。もし、娘はんが二人も三人もいやはったら……」
「ふん。ほのときは上から順番かいなあ」

 志摩子の言葉には、軽くではあるが投げ遣るようなな色合いがあった。

「いやいや、姐さん。ほの時は占いで決めはったんですわ。ぼくせん(卜占)云いますがのう」
「占い!? ほない大事なこと、占いで決めはるて……」
「いやいや、せやおません。ほら逆ですわ、姐さん。占いゆうても、そこらで見かけるような大道占いみたいなもんやない。大事なことやからこその占いです。占い、ぼくせん(卜占)ゆうのんは……人の思慮には余る大事なことの判断を神さんにお伺いする、ゆうことです。今の時代やったらともかく、斎王はんの頃には、人やない、神さんに決めてもらう。これ以上の決め方はおへんかったですやろ。無論、出た結果に異論を唱える。そないなお人、おらはるはずもおませんでしたやろなあ」

 志摩子は秀男から視線を外し、俯いたままの道代の顔を覗き込んだ。
 道代は両目を閉じたままだ。
 志摩子は、道代の目頭から鼻の麓に沿って、かすかな光の筋を認めた。

「あんた、道……泣いてんのん?」
「………」
「道、て」

 重ねて声を掛けられ、道代はようやく、絞り出すように言葉を押し出した。

「すんま……へん」
「道ぃ……」

 志摩子は、それ以上追求しなかった。無言で自らの袖口に手を差し入れ、小さく畳んだ布を引き出した。薄桃色の手巾(しゅきん;ハンカチ)であった。道代の眼前にそっと差し出す。志摩子は無言だった。
 道代は、志摩子の手巾を認め、顔を右に捩った。志摩子を見る。
 志摩子は軽く笑(え)んでいた。

「顔、拭きよし(お拭きなさい)、道」
「姐さん……」
「あんた、顔……どろどろとまではいかんけど、人様に見せられる様(さま)やないで」
「す、すんまへん」
「ええから、ほれ。拭きぃ、て」
「すんまへん、もったいない」

 道代は、手巾など洒落たものは持っていない。手拭いはあるがそれは今、自らの尻の下だ。道代は、押し頂くように志摩子の、小娘の持つような可愛い手巾を受け取った。押し頂くような仕草だった。

「おおきに、有難さんでございます。お借りします」

 道代は、志摩子の手巾を顔に当てた。拭う。手巾からは微かに芳香が漂う。道代にとっては慣れ親しんだ、志摩子の匂いだった。
 顔を拭い、ようやく頭を上げた道代は、改めて志摩子に声を掛けた。

「すんまへん、姐さん。これ……汚して〔し〕まいましたよってに……あろ(洗)てお返しします」
「そんなん、かめへん。うち、後で、お座敷で使うかもしれへんやん。とりあえず、かや(返)して」
「あ、へえ、ほな……」

 道代は、手巾を志摩子に差し出しながら付け加えた。

「ほな姐さん。お座敷から戻(もど)たらお洗いしますよってに……」

 志摩子は手巾を袂に戻しながら言う。

「ほれにしても道。あんたて、こないに泣きみそ(味噌;泣き虫)やったかいねえ」

 道代は、再び俯いた。
センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #184】目次センセイのリュック【幕間 アイリスの匣 #186】

コメント一覧
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    • ––––––
      1. 泣いたらあかんHQ
    • 2017/03/07 11:16
    • 都のかたにおもむきたまふな
       出てけー!
       二度と戻って来んなー!!

       というところでしょうか。
       まあ、むごいといえばむごい話です。
       お可哀想に斎王はん。
       が、まあ。この点についてもいろいろおましてな、次回以降に書かせていただきます。
       (まだやるんかい、斎王話)
       へえ、やりまっせ。
       お座敷ほったらかしてもやらしてもらいますう。

       斎王選定のための亀甲占い。
       亀卜(きぼく)とも称したようですが、海亀の甲羅を焼き、生じたひび割れで判断する、というような占いで、中国から伝わったものだとか。
       占いは、これ以外にわんさとありますようで、とてもわたしなどの手におえるものでは……。

       道代が泣き出しちゃいました。
       斎王話に身をつまされて、というところでしょうが、実はこれには裏がおます。
       情緒不安定の道代。これが今後の展開の伏線なんですね。乞う、ご期待。

       それにしても『アイリスの匣』は変態エロ舞妓小説(料理小説やなかったんかい)。
       それが長らくエッチシーンがありません。実に困ったちゃんですが、かくてはならじ(だからそれは聞き飽きたって)。
       ここはひとつ、野宮神社の境内で道代と志摩子を媾わせるという、神をも恐れぬ所業を考えたのですが、それには秀男が邪魔。
       ということで、道代か志摩子による妄想話を企画中です。
       泣き味噌道代、にやらせますかね。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2017/03/07 19:56
    • 竹林の道の竹は……
       孟宗竹だそうです。
       妄想なら、尉と姥に青姦させればいいんです。
       実に目出度いではないか。

    • ––––––
      3. 勃てたらあかんHQ
    • 2017/03/07 21:41
    • 妄想竹
       高砂コンビの青姦ねえ。
       勃たんだろ、尉。百歳近い爺様なんだから。
       姥に口でやらせるという手もあるけど、イクと同時に逝ったりして。

       久しくご無沙汰のエッチシーン。
       道代の妄想という企画で、近々始めたいと思います。
       まあ、そんなことやってる暇があったら、とっととお座敷に向かえばいいんですがね。
       志摩子のお座敷、酒池肉林・阿鼻叫喚(なんじゃあ!?)を予定しております。

      WBC
       6回表を終わって日本7-1キューバ、です

    • ––––––
      4. Mikiko
    • 2017/03/08 07:30
    • 尉と姥
       ちんちんが、孟宗竹のタケノコみたいに、にょきにょき伸びて……。
       舞いながら交わるというのも、おもしろかろ。
       神社の、ガラガラ鳴らす紐に掴まりながらの立ちバックがいいですかね。
       静謐な空気を掻き回すように鳴り響く鈴の音。
       いい場面じゃござんせんか。

    • ––––––
      5. 春はあけぼのHQ
    • 2017/03/08 12:45
    • 〽さしたる用もなかりせば……
       で、尉と姥は退場しております。

      ますぐなるもの地面に生え、
      するどき青きもの地面に生え、

       ばらしちゃいましょう。斎王のまぐわいを考えています。
       しかし、平安朝の文化なんてほとんど知りませんし……企画倒れになる可能性が高いです。今から源氏物語を読むわけにもいきませんしねえ。

      いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて 時めき給ふありけり。

       ともあれ、御所内の貴人たちだって、やってたことは間違いないんだよなあ。やりまくってた、かどうかはわかりませんが。
       SMプレイにはまっていた、かどうかはもっとわかりませんが。

    • ––––––
      6. Mikiko
    • 2017/03/08 19:49
    • 用が無いのなら……
       出て来るな、と言いたい。

       斎王を脱がす場合……。
       着てるものを、1枚1枚解説しなきゃならんと思います。

    • ––––––
      7. よに逢坂の……HQ
    • 2017/03/08 22:40
    •  ↑関は許さじ

      用が無くても……
       客は見たがるんだよ。で、顔見せだけに舞台上に……。
       もちろん尉と姥じゃなくて、義経です。


      斎王を剥く
       そのあたりなんですよ、悩んでるのは。
       やはり、いわゆる一つの十二単だろうしなあ。あれ、ほんとは12枚もない、って聞いたことありますが。
       一つの手として、斎王のプライベートの場、しかも就寝中に男に夜這いをかけさせる……。昔はこういうの、普通だったらしいよ。

       うーん、やはり源氏を読むか。2日や3日では到底無理だし、しばらく休載を願って……(2,3年かかるわ)。

    • ––––––
      8. Mikiko
    • 2017/03/09 07:24
    • やっぱり……
       昆布巻き立ちバックですかね。
       衣の裾は、お付きの巫女が両側から持ちあげてるわけです。

    • ––––––
      9. 着乱れ斎王HQ
    • 2017/03/09 08:33
    • 早い話が……
       下着ひとつすら、どんなものかわからないんですよ。
       江戸期だったら「緋縮緬の長襦袢がしどけなく着崩れ、ほの暗い行燈の灯りに、濡れ濡れと光る内腿が……」てな調子でいいんでしょうけど。

       「しょせん妄想だからテキトーに書きましたぜ」と開き直る手もあるんですがね。
       やはり“参考書”は巫女さんの服装かなあ。下着姿の巫女さん画像は何枚か持ってます。

       平安は遠くなりにけり。

    • ––––––
      10. Mikiko
    • 2017/03/09 19:42
    • 下着
       着てないんでないの?
       十二単を着るような身分の人は、着物が肌に触れて汚れても、いくらでも替えがあるでしょう。

       下着という衣類が発達したのは……。
       頻繁には洗濯できない着物を、汗などで汚さないようにするのが目的ではなかったでしょうか?

    • ––––––
      11. 男はふんどし?HQ
    • 2017/03/09 21:21
    •  ↑男はどーでもいいや

      ノーパン斎王
       使い捨て十二単ってかーい。
       ホンマかいな。腰巻や襦袢くらいはあったのでは。それも含めて12枚だったのでは。

       とはいえ、よく考えたら十二単を洗濯するって大変そうです。やはり使い捨て?
       いやいやそうでもないか。汚れた和服はほどいて洗い張り、だったかなあ。じゃあ、洗い替えがたくさんあればいいのか。選択係の小女は大勢いただろうし。

       うーん、困ったな。
       下着無しとなると上着を書くしかないわけですが、和服の構造って、時代とともに変わってきましたよね。ほんとに、江戸期以前なんてわたしにはわからんぞ。

       無難なところで小袖一枚。これで寝ているところに夜這いをかけられる……そんなとこかな。
       次回以降に書きますが、斎王は伊勢に行き着くまでに頻繁に禊を行ったそうです。この時のスタイルが白い小袖一枚だった、なんて見てきたようなウソをテレビでやってました。だって、そんなカッコを下々の目にさらすわけないもんね。

       よし決まり。
       斎王の「まぐわひ」は、白小袖で一枚でちょめちょめ。
       禊の場を襲われる、というのもよろしかろう(バチあたりめ)。

    • ––––––
      12. Mikiko
    • 2017/03/10 07:30
    • 禊の場
       これは良いアイデアを思いつきましたね。
       脱がせる手間が省けます。
       問題は、襲う側をどういう人物にするかです。
       いっそのこと、天狗とか?

    • ––––––
      13. 太政大臣ハーレクイン
    • 2017/03/10 12:13
    •  ↑こらこら

      斎王エロ話
      書くことにします。野宮神社にここまで寄り道したんだから、毒食わば皿まで。後には引けません。

       で、敵娼?のオーディションを行っております。
       幼馴染の従兄弟か再従兄弟(はとこ)あたりはどうでしょう。公卿では年齢の問題があるでしょうから、一般?の殿上人。普段から隠れてごしょごしょやっていた、という間柄です。で、別れに際し最後の一発……てなところですかね。

       禊の場だと一般人も可能ですが、まさか雲助風情ではねえ、あんまりですね。まあしかし、警護の衛士がわんさと控えていることだし、やるなら命がけです、雲助くん。
       禊の場には、見張り役の女官が付きます(のぞき防止役)。この女官とちょめちょめ……これだとビアンものになります。
       あ、斎王選定に漏れた、もちろん斎王に身近な女性という手もあるなあ。この場合、両者の心理状態も絡めてサスペンスものにもっていく、という手も。

       まあどちらにしても、そんなに深入りするつもりはありませんし、やろうと思っても無理。日常生活なんて書きようもありませんから、ほとんどエッチシーンだけになるかな。
       ということで、小まめの志摩子のお座敷は、もう少しお預けです。

    • ––––––
      14. Mikiko
    • 2017/03/10 19:46
    • 普段から隠れてごしょごしょ
       斎王は、生娘でなきゃダメなんでないの?

    • ––––––
      15. 別れの一発HQ
    • 2017/03/10 21:23
    •  ↑禊で一発

      >生娘でなきゃ……
       そないなこと、黙ってりゃわかりまへんがな。
       でなきゃあ、皆、承知の助で口をぬぐっときゃいいのです(バチあたりめ)。
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